13話 魔術
『魔術』それは変革の時以降全人類に知れ渡った太古から存在していた技術であり、今世界で最も注目されている技術だ。
アビスにも満ちているエーテルをエネルギー源とし、過程した真理を術式に変換しエーテルを術式に流す事で起こす事象の総称である。
「渦巻け」葉山のその一言がトリガーとなり大気の流れが変わる。彼の言葉を風は遂行しようと渦を巻き始める。
風速を段々と上げて成長していく葉山の周りに発生した小さな風の渦を完成させまいと脚を前に出すが、本能が小さな台風に入る事を否定する。
何故なら風に巻き上げた土や小石、雑草が高速で回転する事によって近づくだけで危険な防壁が張られているからだ。
「ど、どうしようかな」
灰は、何とかしようと葉山の周りを渦巻く小さな台風が完成する様をじっくり観察するが、ちっとも見えない解決の糸口に焦る。
しかし、灰が二の足を踏んでいる間に威力を高めた葉山の魔術は完成してしまう。葉山は腰を落とし左足を後ろに引きダッシュの姿勢をとる。
「いくぞ」
「マジかよ?!」
充分な威力に達したのか風を纏った葉山は灰に向かって正面から突っ込む。葉山の風は走りながらも砂利を巻き込んで更に破壊力を上げていく。
常人なら当たっただけで大怪我しそうな小台風を灰は慌てて横に飛んで逃れる。通り過ぎていく葉山を目で追うと彼が通った地面の表面が風によって攫われ軽く削られている。
肉体の位階が違うとも魔術はその差を容易に埋める。そんな言葉が世界にはある事は知識として知っていても、体験するのとでは理解度が違う。
灰はその威力に息を呑みつつその説を身をもって実感する。
「…ゴグッ、当たったら今の俺でもヤベェな」
「ハッ、まだまだいくぞ」
だが、今のは小手調べだと言いたげな葉山は2度目のアタックを開始する。攻防一体の風の渦を解決する策が全く浮かばない灰は逃げ回る事しか出来ない。
「あぶっ?!、うおっ?!、やべぇ?!」
「チッ、すばしっこい奴だ。ならこれを喰らえ」
葉山の攻撃を避け続けられるのは一重に位階の違いからだ。魔術の威力が高くとも葉山の位階は第1位階であり、使ってる魔術の性質上、自身の周辺にしか留めて置けない為、本人の移動速度に左右される。
その結果、灰はこの身体能力の差を上手く使い幾度もの葉山のアタックを紙一重で交わし続ける事を可能としているのである。
灰に思わず舌打をした葉山はこのままアタックし続けても直撃させるのは難しいと判断し風の流れを一部変え、巻き込んだ砂利を渦で加速させて打ち出す。
「こ、これもやべぇぇ?!」
反応するのも難しいスピードで自身の右頬を浅く切って行った砂利を飛ばす風の攻撃に、今までにない脅威を感じた灰は、動かぬ的にならない様に走り出す。
そこからとてつもない数の砂利が灰の数瞬前まで走っていた場所を打ち抜く。「やばいやばいやばい」
叫びながら葉山の魔術を破る方法を考える
(なんだこれ、マジで弱点見つけないと嬲り殺される?!なにか、なにかないのか?!あの台風みたいな術を破る方法は…台風?、台風の中にいてなんであいつは無事なんだ?あっそっか、台風の目の中は安全なのか?!理科で習った気もするし一か八かやってやる!!)
思いつきだが、取り敢えず作戦を決めた灰は加速し、河川敷の坂を登り高所を獲る。小台風の真上に跳躍し、右足を振り上げる。
「くらえぇぇぇ!!」
「確かにこの術の穴は真上だ。だがな来ると分かってれば幾らでもやりようはあるのさ、『集まれ』」
灰の右の踵落としと小台風の形状を凝縮させ左の手のひらに集めた葉山の術が、ぶつかる直前に待ったを掛ける少女の声が両者の耳に入る。
「喧嘩はダメェェェーーーーーー!!」
「ニコちゃん?!」
「あん?!」
『ゴン!!』
葉山は少女の事を知っているのか、明らかな動揺を表し動きが止まる。灰も少女の声で戦意の様なものが、一瞬で失せた事に驚くが、空中であった事と振り下ろした足を止める事は出来なかった。
結果としては、灰の勢いを止めきれなかった踵落としが葉山の頭に炸裂し、彼の頭にゴンという鈍い音を鳴らす。
「グフゥッ?!」
「ぎゃーおにちゃーーーーーーーん?!」
「やべぇーーーーーーやっちまったか?!どどどどうしよう?!」
「お兄ちゃんに何すんのよこの人殺しーーーーーー」
「うぁぁぁぁ救急車、救急車を呼べぇ?!」
「てか、あんた誰?!私のお兄ちゃんはツッパリ卒業してるのに、なんでお兄ちゃんは又喧嘩してるの?!」
「えっ、そ、それは、ってそれより大丈夫か?おい!!俺を人殺しにさせないでくれぇ?!」
途中で止めようとして、威力こそ落ちたが紛れもなく第2位階の踵落としを頭部に食らった葉山は、白目を剥き誰が見ても意識はない。葉山一に、ニコと呼ばれたセーラー服の少女と灰は慌てふためく。
そんなギャーギャー騒ぐ2人を呆れた顔で眺める凛。彼女は煽るだけ煽って1人安全圏で一部始終を河川敷の上で眺めていたのだ。
「ふむ、ご家族へ誤解を解きにいくか」
凛はそう言って事態を終息させる為階段を階段を降り始めた。




