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婚約破棄のその後  作者: pipi
4/10

マナー講師は心に思う






私は、エミリーと申します。


マナー講師として、貴族の御令嬢を対象に、淑女であるべき行動やしぐさ、口調などのマナーについて指導しております。

とても光栄なことに、アレン王子の婚約者様にも指導をしておりますわ。


そう、半年前からスカーレット・ハワード伯爵令嬢の指導を行っております。


王子の新しい婚約者となった、スカーレット様。



……どうしても私の頭によぎるのは、マリンダ・アーネスト様。

彼女もまた、婚約者となっていた当時、指導をしておりました。


マリンダ様は幼い頃から婚約者とされておりましたから、長い間指導をしておりました。

いえ、正確に言うと、早い段階で指導は終了致しました。私から教えるべきことを短い期間で全て吸収して下さったのですから。

しかしながら、その後も私と話をしたいとおっしゃって下さり、定期的に会う機会があったのです。



スカーレット様とマリンダ様について、言及することなどありません。


淑女のマナーの講師として、私は私個人の意見を言っていいはずがありませんもの。心で思うのみ。



…………。


………………。



そう、これは心に留めておかなければならないのです。




ーーーアレン王子は本当に惜しいことを…。


婚約破棄を知った時、まずそう思った。


今現在、スカーレット様は大層努力をなさっていらっしゃる。

だからこそ、比べるのは良くない。そう思っていても、ついマリンダ様のアーネスト公爵家としての気品と自信に溢れるものと比べてしまうと………。



まさか、王子が一目惚れをして、その相手であるスカーレット様と結婚したいと言い出さなければ。



マリンダ様ほど将来の王妃に相応しい御令嬢はいらっしゃらないのに。

スカーレット様は今だけではなく、これからも大変でしょう。


私のマナーレッスンが終わったからと言って、それで終わりではないのだから。いえ、始まりに過ぎないのでしょう。

王妃として、マナー以外にも勉強しなければいけないことは山ほどあるのだから。


私のマナーレッスンなど初歩中の初歩にすぎない。


マリンダ様が長年をかけて身につけてきたものを、短期間で身に付けなければならないなんて。



なにより、スカーレット様は、これから長い間マリンダ様と比較され続けるでしょう。

特に、外交面。マリンダ様は人脈がとても広い方。今現在、パーティー時、身の振る舞いさえも自信がないスカーレット様は、とても苦労されることでしょう。

真面目で努力家でいらっしゃるスカーレット様でも、いつかは比較されることに耐えられなくなるかもしれない。



王子が、婚約破棄をしなければ………。

こんなことは残酷だけれど、スカーレット様は王子に出会わなかった方が、もしかしたら良かったのかもしれない。

もし、出会ったとしても、せめて側室にするという選択をしていれば。



………駄目ね、こんな考えは。


半年後に行われる王子の結婚式に、少し不安を感じてしまっているから、こんな後ろ向きなことを考えてしまった。


結婚するとはいえ、すぐに即位が行われる訳ではない。

王の即位までの数年間の間に、将来の王妃としての地位を固めればいいのだ。




けれど。


マリンダ様ではなく、スカーレット様に変わったことで、歪みが確実に一つは出来てしまった。


それは、先日の出来事である。

パティシエ大会の初代優勝者であるトニックという有名なパティシエが、王子の結婚式のケーキを作ることを拒んだのである。


トニックは、我が王都でも有数のパティシエ。彼が作る美しいケーキは隣国の女王も気に入っているほど。

そのトニックは、恐れ多くも、王家の結婚式のケーキを作るという名誉な仕事を拒んだのだ。


理由は、やはり、マリンダ様であった。


マリンダ様がきっかけでパティシエ大会は開催されるようになったのだから。

勿論、彼が初代優勝者となったのは実力からである。しかしながら、マリンダ様によって、トニックの実力を発揮できる場がつくられたことも事実。

結果、彼は優勝し、一躍有名なパティシエとなった。


トニックにとって、マリンダ様は実力を見せられる場をつくってくれた人物に他ならない。

そのマリンダ様を婚約破棄した王子のために、作りたくないのだろう。


通常ならば名誉ある仕事を断るなどあり得ない。しかし、王はトニックを処罰しなかった。


隣国にも知れ渡っている有名なパティシエを、仕事を断られたからと言って下手に処罰をすると、嫌がらせか嫌みの一つでも言われると判断したからだろう。最悪、外交にも差し支える。

それに、王都に住む者にとっても、トニックというパティシエを失った場合、王家への不信感が集まりかねない。


トニックは何も処罰を受けず、そのまま城を後にした。

結婚式のケーキは別のパティシエに依頼することとなった。




その出来事がスカーレット様のお耳に入ってしまい、その日、スカーレット様は大層落ち込んでいらっしゃった。


トニックからすれば、別にスカーレット様を恨んでいる訳ではないと思うのだが、スカーレット様は自分が不甲斐ないからだと考えてしまっていた。


………なんて、辛いことか。

人の噂は広まってしまう。

トニックが王家の結婚式用のケーキを拒否したことは、裏でこそこそと囁かれることだろう。

意地の悪い人達は、ここぞとばかりにスカーレット様を良くないように言うだろう。






王子は、マリンダ様を我儘な御令嬢だとおっしゃっていたが、私にはそう思えない。

たしかに、ご自分の意見を誰に対しても怖れることなく発言される方であったため、人から見れば我儘と見えるかもしれません。

けれど、王妃として、そんな我儘さもある意味、必要な能力と言える。


マリンダ様の発言がきっかけでパティシエ大会を開催したということを、王子は「我儘」だと一言でまとめていた。


けれど、これは言葉一つで新しい物事を起こさせる、広い人脈とカリスマ性がないと為し得ない出来事だと私は思っている。



……そして、そのような御令嬢を王妃に出来なかった損失が、いつか出てきてしまうかもしれない。

今回のような小さな損失で済めばいいのだけれど。


スカーレット様の将来を考えれば考える程、茨の道であるとしか私は思えなかった。






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