ノエル 4 布告
ヴァロ・ライネとの交渉を終えたイチカは、長旅と舌戦で疲れが出たのか、帰りのプライベートジェットの中では熟睡していた。
年相応の可愛らしい寝顔を見てノエルが思わず笑みを零すと、対面に座るタカヒトに告げられた。
「なあ、ノエル? 今はイチカ様の目を狙うライバル同士じゃないけれど……恋敵にはなるわけだから、覚悟しろよ?」
……恋敵とは一体、どういうことだろう? いや、もちろん単語の意味自体は理解しているけれど。
ぽかんとするノエルに向かって、ケイも手を上げた。
「はい! ちょうどいいし、オレもタカヒトに便乗して宣戦布告させてもらいまーす! イチカ様は誰にも渡すつもりはないから、よろしく!」
にこやかに言われたところで、混乱は深まるばかりだ。ふたりがイチカに対して特別な感情を抱いていたのは気づいていたけれど、ノエルが首を傾げる最大の理由がある。
「……え? 恋敵だとか宣戦布告だとか、おふたりは今もイチカ様に恋心を寄せている……ということですか? し、しかしながら、イチカ様はその、私を想って瞳の色が変わったんですよ?」
「まあ、一時はそうだったのかもしれないけどさ、人の心なんて変わりやすいじゃん? 一度色が変われば元に戻らないらしいし、金色の瞳は今もノエルのことを好きって指標にはならないでしょ」
「ケイの言う通りだ。今はもうノエルではなく僕の方が気になっているかもしれないし、アピールしない理由はない」
たった一度瞳の色を変えたくらいのアドバンテージなんて関係ない、ということか。
ようやく現状を理解したノエルは、小さく息を吐いた。どこまでもしたたかで、どこまでも油断ならない同僚だ。
だけどそんな彼らのことを、嫌いになる理由もない。
ノエルは上品に微笑んで、正々堂々と勝負を仕掛けてきた好敵手たちに、力強く宣言した。
「絶対に負けません。私だって、イチカ様のことが大好きですから」
彼女を取り巻く騒々しい日々の中に、さらにややこしい戦争要素が追加されたらしい。
イチノセ家での波乱は、まだまだ続きそうだ。 (了)




