34話 耕助の本質
「セシルよ...少しの間、耕助と変わるが良い」「...分かったわ」
『...で、何をするんだい?』
私はリアの言うままに耕助と入れ代わる。幾度か入れ代わっているうちに、どうやらコツを掴んだようだ。今のだって耕助を肉体側に引っ張った後、魂の傷から押し出したような感覚で出来た。
因みに耕助は、私にされるがままのようだった。気のない返事がそれを物語っている。
『単刀直入に聞くかのぅ...耕助よ、お主...自分で自分が何者か...分かるかぇ?』
『自分が...何者?』『そうじゃ。良く思い出してみぃ?』
リアの質問に耕助は戸惑っているようだ。三歳と違い元から自分の中に居たからか、感情以外の思考も朧気だが伝わってくる。だが...
「耕助?リアが聞いてるのはクランディアでの生活で耕助が関わった事よ!」
リアの質問を全く理解していないので仕方なく私からも伝えてみた...が
(駄目だわ!耕助の奴...セシルを意識してない!?)
コレではリアも私の思考が読めない。この事は三歳は理解しているが、耕助は分かってないみたいだ。
リアが気付いて耕助に伝えれば問題ないのだが...
『我や三歳、セシルとの会話を聞いておらんかったのか?』『なんの事だい?』
駄目だ...本気で分かってない。だが、リアの質問からして狙いは明白だ。
『やれやれじゃのう。お主、本気で沙織とやらにしか興味が無いようじゃの』
『それが心残りだったからね。仕方ないんじゃないか?今だって...『分かったからまずはセシルが居る事も理解せい!お主がセシルに意識を向けねば、我はアヤツの声が聞こえん』...それ、僕が大変じゃないか』
どうやらリアは直ぐに気付いてくれたようだ。正直ロリコンだった事なんてどうでも良いから『せめてシスコンって言って!』...だから沙織の事はどうでもいいのよ!?
...ってそんな事も、耕助の大変さも今はどうだって良い。耕助は私の事を知っていても、私は耕助の事をほとんど知らないのだ。
『とりあえず繋がったようじゃの』「リア『分かった』任せるわ」『はぁ...』
リアの応答に感謝しつつ、私が耕助の態度に呆れていると
『分かっておるなら早く答えてみよ』『急かさないでくれよ』
リアからの辛辣な突っ込みが入った。それでも、やっと理解したようね。耕助がクランディアでの事を思いだしたようで
『要するに、僕は残留思念じゃない?って事かな?』『そこまでは言っておらん』
答えたのだが...今のはリアの質問に回答したのではなく、私の疑惑を口にしたのだろう。
『繋がったら繋がったでややこしいの!?』『ソッチが言ったんだろ?!』
二人が不毛な言い争いをしだしたが、私は釣られずに真意だけを伝える努力を始めた。
『スマンの』『...分かったよ』「なら...答えてみて」
二人が謝った後、やっと会話が進みだした。
魂の傷の不快感を敢えて抑えなかった事が、功を奏したみたいね。
『僕自身は、ありのままで居ただけだよ。特に何も考えていなかった...自身の在り方なんてね。そもそも自我が残ってた事も、つい最近知ったばかり...そんな感覚だよ?』
『それは分かっておる。その上で今、自分は何者かを問うておるんじゃよ。逆になぜ自身を封印?出来ていたのかでも構わんぞ?』
『封印...そうだね...気付けば転生していた。最初はそんな感じだったよ。でもね、そこに本能は強烈な存在感を示してきたんだ』
言い淀む耕助に別のアプローチをリアが提示した瞬間、耕助が堰を切ったように語りだす。
生きる事に忠実なまでの本能...食欲、排泄、睡眠欲...
その要求の仕方が...全て、【号泣】の一択。
勿論段階は踏むのだが、泣く事に変わりはない。
そこに前世の絶望感が加わり、気付けば自我を手放していたらしい。厳密には魂の傷から観てはいたと、ただ感覚的には惚けていた感覚だと言う。
『だから、セシルが興奮状態になると僕も少しは起きてしまう...そんな感じだったと思うよ?』
『なるほどのう...たまに感じておったセシル以外の意志はやはり、お主で間違いないの』
それは良いけど...赤ん坊の自分を耕助目線で観せられるのって
『キツイだろう?』「同意を求めないで!?」『難儀じゃのぅ〜』
まぁ...耕助の心境に同意は出来た。だが、今排他的になっている事の説明にはならないと思った瞬間
『そこは分かるけど、同時にリアも分かったんじゃないかい?』
『お主にまで便利な道具扱いされるのは心外じゃの』『そんな事言わないでくれよ』
耕助がリアの利便性を当たり前のように使おうとしてきた。つい最近まで私もそうだったが、今なら違いがハッキリと分かる。確かに私はリアの事を使い勝手が良いとは思っていたが、少なくとも感謝はしていた。リアとの口論の後に、街で美味しいモノを食べさせたりはしていたのだ。
『それは報酬ではないのかぇ?』「感謝の気持ちじゃない?!」『どっちでも同じじゃないか?』
私とリアのじゃれ合いに、耕助が空気の読まなさを発揮する。そう、正にソレを解明する為でもあるのだ。私の意を汲んだリアが、怒涛のように耕助を口撃しだした。
『それじゃよ耕助』『何がだい?』『その当たり前だと言わんばかりの態度じゃよ』
ふぅ...と、一息吐いたリアが『少しの間、聞くが良い』と言って耕助を黙らせる。リアは
先程も言ったが、セシルは事後処理でも我に感謝はしていた。
三歳も切羽詰まって我を利用したが直ぐに反省と謝罪、尊厳まで示してくれた。
その後セシルも三歳に倣った(後悔と反省もした)
これらは人として当たり前の感性ではないか?その性質は魂に刻まれている筈ではないのか...
ここまで話してから、リアは改めて耕助に問いかける。
『耕助よ?お主...我やセシル、その臣下どもに...感謝の念を持ち合わせておらんよな?三歳にたいしてもじゃ...正直、お主からは関心事しか感じられん』
『無関心なのに興味は持つ...矛盾してるのにしっくりくるね。今の僕を表すのにピッタリの言葉だと思うよ』
その答えを聞いて私はハッとした。耕助の態度は、初めて三歳と出かけた日に見た光景と重なるのだ。
『セシルよ、耕助の特性は少し違うぞぇ』「...どういう事?」『僕も聞きたいね』
私の感覚を見たであろうリアが否定し、続けて私に言った言葉...
『我が思うに耕助は、自閉症ではないかと...そう考えておる』
ソレは...私の知らない言葉だった。
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