一夫多妻制婚姻のススメ《後編》
「石藤くんっ……!!」
「……!!||||」
「お父さんっ!」
「香織さんのお父様っ!」
香織の父は信じられないという表情で俺につかつかと歩み寄り、香織とさくらが驚いた声を上げる中、俺の両肩に掴みかかった。
殴られるのは、香織父の方だったかと俺が覚悟して、痛みに備えて奥歯を噛み締めたが……。
「石藤くんっ……。香織をよろしく頼むっ!!」
「へっ」
体に痛みを感じる事はなく、代わりにガッシリと肩にかけられた手に、香織父の全体重を感じ、ちょっとよろけながら、俺は素っ頓狂な声を上げた。
「あ、あの、瀬川さんのお父さん、今の
話を聞いておられて、そうおっしゃってるんですよね?」
一応俺が確認すると、香織父は力強く頷いた。
「ああ。形式的にだが、香織を第二の妻として迎えてくれるという事だろう?
ぜひ、幸せにしてやってくれ」
「……!!」
「お父さんっ?!」
「香織さんのお父様……!」
香織父の言葉に目を俺は見開き、さくらと香織は驚きの声を上げた。
「自分で言っておいてなんですが、白鳥の一夫多妻制婚で、大変な思いをした瀬川さんに、今度は俺が一夫多妻制婚を持ちかける事に、お怒りにならないんですか?」
あの厳格だった香織父からまさかの許しが出て、戸惑いながら俺が聞くと、彼は迷いのない瞳で肯定した。
「ああ。私にはそんな事を反対する資格なんてない。
そもそも、香織が苦しんでいる時に誰にも頼れなくなってしまったのは、私のせいなんだ。
白鳥と初めて会った時、口先だけの男だという印象を受けた私は、彼と付き合うなら、幸せにはなれないだろうと正直に言ってしまった。
それ以来、香織は、意固地になって私に相談する事はなくなった。
自分でも不幸になると分かっていて道を引き返す事が出来なかったのは、あの時の私の言葉を認めたくなかったからだろう。
そして……、わ、私には、今の香織を、救ってやることもっ、出来ないっ」
「お、お父さんっ……」
声を震わせる香織父を前に、香織も涙を浮かべていた。
「君は……、白鳥と違って誠実な男だ。
どういう形であれ、今よりは香織を幸せにしてくれるものと信じている。
どうか、この子をよろしくお願いします」
「瀬川さんのお父さん……。」
「お、お父さん、やめてよぉ!」
俺の前に深々と頭を下げる香織父に、香織が金切り声を上げた。
「勝手に話を進めないでっ!
良二くんにあんなひどい事をした私が、妻として守られるなんて、そんな事、許されるべきじゃないっ!」
「か、香織っ……」
ブンブンと首を振り、泣き叫ぶ香織に香織父が辛そうに顔を歪め、俺が途方に暮れていると、さくらが香織の前に進み出た。
「香織さん……」
「さくらちゃんっ。ごめんなさいっ。私のせいで、あなたの家庭にこんな迷惑をっ……」
「いいえ、香織さん。迷惑なんかとんでもないです。
あの時香織さんが助けてくれてからこそ、今の私の幸せがあるんですから。
私も良二さんも、自分の気持ちを正直に話し合った結果、今こういう提案しています。
何かをするべきとか、するべきじゃないとかでなく、香織さんの本当の気持ちが聞きたいです。
香織さん、私達と一緒に生きて行くのは嫌ですか?私達が香織さんを助けたいと思うのは、迷惑ですか?」
「っ……。さくらちゃんっ……! っく……」
優しく呼びかけ、手を差し伸べるさくらに、香織はしゃくり上げた。
「そんな事ないっ……! けどっ……。
助けてなんて言えないっ。どんな形でもいいから、良二くんの側にいたいなんて、言えないっ! 言えないよぉっ! わああぁっ……!」
さくらの手を両手で握り締め、堪えていたものが決壊したように香織は激しく泣きじゃくった。
「言えたじゃないですか。よーく分かりますよ。私も同じ気持ちでしたから……」
「ああぁっ……。うわあぁっ……」
そんな香織の背を、もう片方の手でさすりながら、さくらは涙を一筋零しながら微笑んだ。
「良二さん。こっちに来て下さい」
「お、おうっ」
二人の様子を為す術もなく見ていた俺は、さくらに呼ばれて、緊張気味に側に寄った。
「香織さんが泣いています。慰めてあげてあげて下さい」
「えっと……。ど、どうすれば……?」
さくらに言われ、駄目な俺はオロオロするばかりだったが、賢い妻はそんな俺ににっこり笑いかけ、取るべき行動を教えてくれた。
「ヨシヨシして差し上げればいいんですよ?」
「ヨ、ヨシヨシだって……?」
「そうです!」
「うっ、ううっ……」
俺は、そんなんで慰めになるだろうかと半信半疑だったが、勧められるまま、泣いている香織の頭に恐る恐る手を近づけ……。
「ヨ、ヨシヨシ……」
「っ……!!///」
ぎこちなく香織の頭を撫でてみると、香織はビクッと肩を揺らして……。
「うっわあぁん!! わああぁーんっっ!!」
「おわっ?! さ、さくらっ! 余計に泣いたんだがっ?!」
より、激しく号泣し出した香織に俺が焦っていると、さくらは動じず、大きく頷いた。
「いいんです。ここは、泣かせてあげて下さい! 手は止めずに!
そして、ついでに私もヨシヨシしてあげて下さい♡」
「ええ?」
「ヨ、ヨシヨシ……」
「うわあぁ〜ん! ああ〜ん!!」
「ヨシヨシ……」
「いいです。その調子ですよぉ、良二さん♡」
俺は右手で香織を、左手でさくらを撫でながら、何だコレ?と俺が首を捻っていると、香織の父が鼻をすすり、目元を拭っているのが視界の端に映った。
*あとがき*
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