一夫多妻制婚姻のお願いと揺らぐ絆
「良二さん……。どうかお願いです。
香織さんと私と、一夫多妻制を利用した婚姻関係を結んでは頂けないでしょうか?
恩人の香織さんを救ってあげたいのです」
目の前の最愛の妻が、綺麗な銀髪を揺らして俺の前に深々と頭を下げて来るのを、俺は信じられない気持ちで見守った。
「な、何を……言ってるんだ?さくらはっ……?! 悪い冗談は……よしてくれよっ……」
喘ぐようにそう言うと、さくらは俺を濡れた青い瞳で見上げて首を横に振った。
「冗談ではありません。一夫多妻制の法案も、あれから少し条件が緩和されましたし、恐らく私達なら審査は通っ……」
「そういう事じゃないだろっ!!」
「……!」
思わず、声を荒げる俺に、さくらは肩をビクッと震わせた。
「そんな事出来るわけがないだろうっ!
俺が伴侶に選んだのは君だ。
君のお父さんにも、君ただ一人を誰より優先して守ると誓ったんだ。
大体スミレはどうするっ?
母以外の妻がいる事で、周りの人からどんな風に噂されるか、どんな思いをするか分からないのかっ!?」
「良二さん……。お父様は……ちゃんと話せば分かってくれると思いますし、
今は、一夫多妻制も条件が緩和されて、制度を利用する人が以前より増えました。以前より世間的な偏見はなくなって来ています。
それに、RJ㈱では今、『どんな家庭でも偏見のなく、こどもの健全な育成を』という方針で、学校事業を立ち上げています。設立予定の学校にスミレちゃんを入れさせて貰えれば理不尽な思いをする事は少ないかと……」
「それだけじゃない! 俺の気持ちだって、香織の気持ちだってある」
「良二さんは、やはり、今でも香織さんを許せませんか……?」
哀しそうに聞いてくるさくらに俺は首を横に振った。
「そうじゃない。今では、彼女が白鳥へ
行ってしまったのは、自分にも原因がある事だったと納得しているし、もう、彼女に対する恨みはない。
けど、そう思えたのは、君が側にいてくれて、心を癒してくれたからなんだよ……。
それなのに、わだかまりがなくなったからといって、香織を第二の妻として迎え入れるなんて出来るわけがないだろうっ」
「どうしても、無理ですか……?」
縋るように俺を見てくる彼女にきっぱりと俺は言い放つ。
「ああ! いくら君の頼みでも、それだけは叶えてあげられない……!
かお……瀬川さんも、白鳥の一夫多妻制家庭からやっと離れられたのに、今度は元カレと一夫多妻制の婚姻をするなんて望まないだろう。
今は家族も支えてくれているみたいだし、俺達が余計な事をしなければ、彼女もいつかは前に進める時が来るよ。
君は優しいから、色々と悩んで考えてくれたんだろうけど、それは誰も幸せになれない道だと思うよ」
「……。わ、分かり……ました……。無神経なお願いをしてしまって……ご、ごめんなさいっ。」
涙を流して謝るさくらに、感情のままに彼女を責めてしまった事に罪悪感を覚え、胸が痛んだ。
「いや……。キツい言い方をしてしまって悪かった……」
さくらにこんなお願いをさせる程、思い詰めさせたのは、多分、俺だ……。
香織の安否が分からない時に口走ってしまった言葉を取り消せたらどんなにいいか……。
過去の自分を殴ってやりたい気持ちだった。




