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俺はこの幼なじみが嫌いだ  作者: 湯上湯冷
1年生編
20/97

夏休み課題

 朝、ニュースから聞こえてきた最高気温37℃というパワーワード。

 加えて、アナウンサーは言っていた。


「不要不急の外出はお控えください」と。


分かりました。あなたが言うなら喜んで自粛します。


 でもまぁ、こんな暑い日に外出するバカなんて、そうそういないと思うけど。


「ふっふっふ、本当に来てやったのだぞ!」


「うん、いらっしゃい」


この人以外。


「ふぅ、暑かったぁ……」


堂々と家にあがり、手を洗い、うがいを終え、先行して階段を上る乙女。気温に関係なく、今日も今日とてハイテンションと。


「今日はビシバシ行くから覚悟するのだぞ!」


 そして、もはや安定のなりきり口調。

 外出が不要不急なら、あゆは不変不動だな。


「そこの人、とりあえず座ろっか」


「うむ、分かったのだぞ!」


 夏休みが始まって早10日。

 今日は俺の部屋にお客さんが来た。


「お主、さっさと数学のワークを開くのだ! あっ、ぞ!」


「はいはい、分かったから」


 俺にしては珍しい、2日連続人と過ごす日程。

 正直、身体は結構疲れてると思う。

ってか、


「ワークどこだっけ? あれ、おっかしいなー。確かに置いた記憶はあるんだけど」


 その証拠にほらっ。

 俺は今、机の上のワークすら見つけられない。


 はぁ。せっかく頑張って立ち上がったというのに、無いってオチだけはご免蒙る。


「んー」


「……ねぇ、柚」


 しばらく探していると、先に丸机で課題を進めていたあゆが俺を呼んだ。


 あっ、なりきり口調終わってる。


「なに?」


 そんなことを思いながら振り返ると、そこには呆れた顔で俺を見るあゆの姿。


「下」


「えっ、下……?」


「もしかしてだけどさ、その《《椅子に踏まれてるやつ》》じゃないよね?」


「ん?」


 そう言われて椅子の下を見ると、確かに何かが下敷きになっている。


「あっ、見っけ」


 そしてそれは紛れもなく、数学のワークだった。


よかったよかった。

多少ホコリを被ってはいるが、この程度フッとすれば……ほら元通り。

でも──。


「あーあ、ちゃんと整理しておかないからそういうことになるんだよ」


 うっ、正論は痛い。


「そ、それにしてもよく分かったね。まさか椅子の下にあるなんて」


「そりゃあね、初めてじゃないし」


・・・えっ?


「中1、中2の夏、これと全く同じ状況でした」


え、笑顔が怖いんですけど……。


「それはもうほんと、すいませんでした」


見せる顔がないとはこのことか。

まぁ、俺の場合上げる顔だけど。


「分かればよろしい。でもこれからはちゃんと、片付ける習慣つけるんだよ。今回は数学のワークだっただけで、家の鍵とかだったら一大事なんだから」


出た。

 たまにあるあゆのお説教タイム。


 ただこういう場合、あゆは大袈裟に褒められると、すぐ調子に乗って話を逸らしてくれる。


 大丈夫。

 失敗したことは1度もない。


「そういうリスクを抑えるために普段から──」


「ほんと、流石は名探偵の娘だね」


一瞬、あゆの身体がぶるっと震えた。


「片付けを……片付けを……ふっふーん、柚くんご名答!」


 はい、釣れました。

 口角が上がり、明らかにご機嫌な様子。

こうなればあとは簡単だ。


「あなたは一体、何者なんですか?」


「よくぞ聞いてくれました!

 私は天乃川あゆは、探・偵ですっ!」


 ほんと、チョロいったらないよね。


「わぁーーーー」


 ポーズを決めるあゆに、俺は拍手を送った。


「いやぁ、どもども。照れますなー」


これぞまさに、学生による学生ための処世術だ。


「……はぁ、楽しかった。

 よーし、張り切って課題やるぞー!」


「おー」


それにしても、これは完全勝利すぎて笑えてくるレベルだな。


 とまぁなんやかんやあって、俺は課題に取り掛かった。


 いつもは夏休み終了ギリギリまで手をつけない俺なのに、今年はこんなに早く取り掛かることになるとは。

 結果として、あゆには感謝しないとな。


「解ける、解けるぞぉぉぉ!」


 まぁ絶対に、直接は言わないけどね。

ところで、数学って難しいな……。


「ねぇあゆ、これどうやって解いた?」


「んー? あっ、1の4?」


「うん」


 しかし、勉強とは不思議だ。

 絶対にやりたくないのに、やり始めたらやり始めたでつい集中してしまう。


「あー、隣行っていい?」


「うん」


机の円に沿って、あゆが隣に来た。


「それはね、たすきがけっていうのを使うんだけど……」


 それに、


「あっ、解けた。ありがと」


「おっ、やっるー!」


 問題が解けると嬉しくて、次の問題につい手を出してしまう。

 ただ、そのせいでまた、お母さんに写真を撮られたんだけど。


「うふふ、柚ったら楽しそうに勉強しちゃって」


 俺の部屋のドアを開け、隙間からスマホを覗かせるお母さん。当然、俺とあゆが気づくことはない。


「あっ、手が勝手に。パシャリと。でもそうね、これは幸せそうにしてる2人が悪いのよ」


 そう密かに呟いた後、お母さんは階段を降りていった。


その日の夜。

あれ、なんかお母さんご機嫌だな。

なんかあったのか?


「なんかあった?」


「んー? べーつにー」


「……そう」


 俺はあゆが嫌いだ。

 勉強嫌いな俺をやる気にさせる、そんなあゆが嫌いだ。

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