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光の戦士 ~殺人犯と同じチート能力を持ってますが悪用しません~  作者: 池田大陸


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第68話 地獄 ②

完結まで毎日投稿します。

 

「うぐあっあっ……!」


 読心を始めるとウェイバーはすぐさま地面に伏して吐きそうな姿勢になった。それと同時に目からは大量の涙が溢れている。

 だから言っただろ。それどころじゃないって……。


「くっ……た、確かにこりゃーキツイな……だが太一。ぐ……それ、でも……俺達は仕事をしなければならないっ。戦わなきゃならねえんだ!」


 俺にはウェイバーのメンタルの強さがよく分からない……ああそうか。


「あんたは嫁さんが何人かいるからそんな余裕があるんだ。俺には、アイツしか……香織しかいない。……いつも前向きで、こんな俺に付いてきてくれて、俺を真剣に心配してくれて……そ、そんな、そんなあいつを俺は!……ゔっ……」


 俺は今まで香織と一緒に行動してきた記憶を思い出す。その度に涙が溢れて止まらない。もうずっとそんな感じだ。ホント勘弁してくれ……。


「タイチ!」


 大きな声でそう叫んで俺の前に立ったのはエノキだった。

 エノキにしては悩ましげな、らしくない顔だ。


「カオリが死んだって……ホント?」


 エノキは静かに問いかける。いつもの覇気に満ちた声は鳴りを潜め、か細い声になっていた。


 俺は喉を詰まらせながらなんとか状況を伝えた。エノキは俺に近づいて俺の顔を見上げる。俺もエノキの顔を見る。


「タイチ……ウ、ウチは、お前の事密かに凄いと思ってたんだぞ。戦わないってどういう事!?戦うのをやめる?はあ!?意味分かんないじゃん。敵を討ちに行くって言えよバカッ!このままやられっぱなしで良いのかよ!?なあ、タイチってば!!」


 エノキの言葉は途中から興奮で大声に変わり、俺はいつの間にか胸ぐらを掴まれていた。ああ……これはエノキなりに俺の事を心配してくれてるんだな……と分かって感謝したが、今の俺の絶望はその程度で消えるものではなかった。


「今から誰かと戦ったところで……香織は帰ってこない。俺はもう、何も、したくない。このまま消えてしまいたい――」


 ――パチン。


 エノキに平手打ちされた。

 俺は驚きながらエノキの顔を見る。


 お、おい……なんだよ?エノキ、お前に涙は似合わないぞ……。お前がそんなだとこっちまで悲しくなるじゃないか……おい、泣くなよ、エノキ。

 エノキは俺から顔をそらし背を向け、最後に一瞬ちらっと俺を振り向き、それからどこかへ駆け出していった。


「太一!」


 呆然と立ち竦む俺に声をかけたのはジャンタンだった。


「……辛えよな。今、もしかしたら人生で一番辛いかも知れねーな。今までお前見てて思ったよ……オメーは心が真っ直ぐすぎるんだ、猪みてーにまっすぐにしか進めねーんだ!だから、ひとたび壁に当たっちまったらその痛みもとんでもなくデケーんだ!……でも俺ァそんなお前が好きだったぜ?……太一。お前にどうしろとか俺は言えねーけどよ。……俺は待ってる。………………待ってっからよォ!!」


 その腹の底から出したようなジャンタンの言葉に俺は少しだけ癒やされた。


 それから3人はデヴォンシャーからどこかへ飛び立っていった。仕事か?……まあどうでもいいか。


 再びデヴォンシャーに足を踏み入れる俺。フラフラと行く宛もなくデヴォンシャーをさまよう。さっきのウェイバーの言葉じゃないけどとにかく歩こう、何も考えず身体を動かそう。そう思った。


 しばらく歩いて食堂の前まで来ると、クロエが建物の前に立っていた。


「あ、タイチさん。え……!」


 クロエは俺の死んだような目を見て、ゆるい笑顔から驚きへとその表情を一転させた。自分の顔を見ていないけれど相当ひどいものらしい。


 クロエの顔をじっと見ている俺。不思議な感覚に陥ってきた。


「……香……織……」


 俺は聞こえるか聞こえないか分からないような声を出しクロエに近づいていく。藁にもすがるような気持ちで香織にもう一度触れたいと思ってクロエに近づいていく。まるで追い詰めるかのように。

 おかしいな。今の俺、まともじゃないぞ。クロエの顔は確かに香織と似てるけど別人だぞ?何をするつもりだ?何をして欲しいんだクロエに?やめろよ?おい佐々木太一――。


 頭の一部ではそういったまともな考えができていたにも関わらず俺は壁際にクロエを追い詰める。クロエは俺の異常性を感じ取ったのか珍しく眉を吊り上げ警戒の表情を見せている。

 クロエにゆっくり手を伸ばす。

 俺はただ、その手を握り返して欲しいだけだった。しかしそこでクロエがとった行動は意外なものだった。それは……。



 ――『飛びつき腕ひしぎ十字固め』――である。



 なぜこんな技を……?


 ドドッ……。


 俺は仰向けに倒され、右腕はクロエの股から脚にかけて挟み込まれるように固められ、一見動かすことが出来ないように見える――普通の人間同士なら……。


 技を極めながらクロエは言った。


「私は誰かの代わりでは……ない、ので!……」


 は?誰か……誰かって誰だ!?――決まってる。


「香織だよなあああ!」


 俺はクロエの太ももで顔を圧迫されながらもはっきりとその名を口にする!

 そしてクロエに捉えられ伸ばされた右腕を徐々に曲げてゆく。


 本来ならこの腕十字が決まれば曲げられるはずがない右腕なのだが、境界人の俺とオルター人のしかも女魔道士のクロエとでは筋力や骨格の差がありすぎた。


 ぐぐぐぐっ……。


「い、痛っ……ああっ!」


 バッ!!


 たまらずクロエは俺の手を放した!

 クロエから解き放された俺の右腕は勢いよく空を切り、俺はその勢いのまま立ち上がった。

 そして地面に横たわったままのクロエの前に無表情で立つ。怯えた表情で手を胸の前で交差し身体を守ろうとするクロエ。

 その時、俺はクロエの目から涙が流れ落ちるのを見てしまった。


「私には……あなたの心を癒す事はでません……ごめんなさい」


 その姿を見て俺は愕然とした。


『――俺は一体何をやっているんだ』


「ごめんクロエ」


 頭を下げボソッとそう言うと俺はペロド村に繋がる境界のある部屋へと走った。


 ペロド村。ここにも香織との思い出がある。

 初めて手を繋いで俺は慌ててたっけ……?そういう香織との記憶を思い返すとまた猛烈な悲しみに襲われる。


 もう何も思い出したくない。

 俺はずっと下を向いて小屋に繋がる境界まで走って行った。


 出来るだけ何も考えずひたすら走った。無心、無関心……心なんて無くなればいいのに――。そう思いながら。


 そしていつもの境界に飛び込むと、そこはやはり物置小屋だった。境界を隠すように設置したクローゼット。二人で運んだんだよな、俺が途中まで一人で運んでたら途中からアイツも手伝ってくれたっけ……。

 どうしても過去の思い出が呼び起こされ、それが俺の心をさらに暗鬱とさせるのだった。



 ――そしてしばらく時間が経った。

 するとここで、それまでは悲しみに支配されているだけだった俺の頭に、今度は香織の死をどうするかという極めて現実的な難題が浮かび上がった。


 香織は今日は友達の家に泊まると親に言っていたらしい。でも明日も実家に帰らなかったら、香織の親は確実に異変に気付くだろう。


 ……最終的には警察から事情聴取されるような気がする。いっその事オルターの事も洗いざらい話す――いや、そんな事しても意味がないしこれ以上ウェイバー達に迷惑はかけたくない。何より、コレから先何をしようと香織と話すことも触れることも……死に体さえも見る事は叶わないのだ。

 そういえばまだ香織が生きていた頃、ウェイバーに聞いた事があった。


 ――「魔法で死んだ人間が生き返る事ってある?」

 ウェイバーは首を横に振った。

「ない。オルターにおいても、人間に限らず死んだ生物が都合よく生き返ることは絶対にない。あと、SFとかでよくあるような時間が巻き戻る――といった魔法も絶対にない。だからお前ら……死ぬなよ」


 その会話を思い出し、俺の心はさら暗い底の底まで落ちて行った。


「うっ、うっ……」


「ぅわあああああああああああああああっ」

 俺は小屋の床に伏してひたすら泣き続けた。






 ――それから5日経った。その間俺は一度も実家に帰らなかった。もし香織の事を聞かれたらと思うと怖かったからだ。

 スマホには親からのメールや着信、知らない番号からの着信が大量にあった。それを見て震える手でスマホの電源を切った。

 金は財布にオルターバンクで下ろした20万円があったのでしばらく食うものには困らなかった。

 俺はオルターから群馬に帰ってきてからオルターにはもう行っていない。100万円下ろし損ねた事になるがそれどころじゃない。またオルターに行く気力などあるはずがなかった。


 もう全てが嫌になっていた。このまま生きていても辛いだけだ。

 死のうかと思ったが両親やオルター関係の皆の顔を思い浮かべると出来なかった。単純に怖くもあった。


 ――今は全てを忘れたい。


 俺の足は()()に向かっていた。


forbidden lover

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