第33話 いざ王城へ
64話まで完成。しばらく毎日投稿します。
マウロはガックリと肩を落とし、ロダンの『考える人』のようなポーズをとった。
どうやら彼の頭の中で描いていた前提が崩れたらしい。
真剣な顔でマウロはつぶやく。
「……マズイぞ。リア(エノキ)が囚われているのは地下なのに、どうやって侵入すればいいんだ?」
あれ?俺はてっきりマウロがその土魔法とかで地下牢まで導いてくれると思ったのだが……。
「もう僕が穴を掘るしかないのか……いやしかしそれだと……」
ブツブツとまた悩ましげな独り言を繰り返すマウロだったが、何を悩んでいるのか俺達にはよく分からない。
「ねえ、最初にエノキを助けに行った時はどこから侵入したの?」
悩めるマウロに向かって香織が質問した。
「え、普通に王城の正門からだけど?」
マウロはさも当然かのようにそう答えてきた。いや、どゆこと?
「せ、正門ってなんだよ!?もしかして強行突破しようとしたのか?俺、城のことよく知らないけど無謀だと思うぞ?」
「もちろん魔法で姿を隠してから行ったよ。でなきゃ正門に立った時点で普通に捕まるよね?」
ここで俺は思い出した。姿を隠す魔法……それってもしかして……。
「マウロ。もしかしてそれ、境界に使ってるのと同じ『ハイド』ってヤツ?」
そう、今まで境界は『ハイド』と呼ばれる科学魔法により他者から認識できない様になっていた。それをマウロは自分自身に使った……という事だろうか?
「ああ、科学魔法の存在は知ってるんだね。ちなみに今ここで使うとこうなる――」
マウロがそう言い終わるとマウロの足元に緑の魔法陣が出来て、その瞬間からマウロの存在感が薄れた。
「あれ?マウロどこ行った?」
不思議だ。俺は目の前のマウロを見ているハズなのにマウロがどこにいるか分からないという不思議な状態になった。
確かマウロはさっきまで俺の横にいて、色々話していたような気がしたが。俺はマウロのことを思い出そうとしても徐々に記憶の輪郭がぼやけてくるのだった。
「わー……なんか存在が消えたみたい……え?ってゆーか今ここにマウロいるよね?分かんなくなってきた。ちょっと!出てきてよー」
香織も困惑している。こりゃ正面から堂々と入れるワケだ。
『今のがハイドさ』
突如頭の中に声がした。バロルのギルドで聞いた声だ。それと同時にマウロは姿を現した!――たった今ハイドを解除したようだ。しかしまだマウロの足元の緑の魔法陣は消えていない。
『そしてこれが「通信」タイチには以前コレで脳内に語りかけたよね?』
ああ、ギルド内でミシェルに絡まれていた光景を思い出すぜ。
『ちなみに科学魔法使い同士だと遠距離でも相手の脳波に同調して会話もできるのさ』
ウェイバーがデヴォンシャーで見せたアレか!まるでスマホだな。
「すごーい!全然口動いてない……テレパシーみたいだね!凄ーい」
初々しい感想を笑顔で話す香織。ああーかわいい。俺はニヤニヤが止まらなかった。
そしてマウロの足元から魔法陣が消え、マウロは『通信』を止めて話し始めた。
「ふぅー……即席で今考えた作戦を話していいかい?」
「おう!頼むぜ」
「本来は君達の土魔法で地下室まで穴を掘ってもらい、穴が地下室に到達した時点で僕が皆に広域ハイドをかけ姿を隠す。そして君達に守衛を倒してもらい僕がエウラリアを救出する――という予定だった」
「うん」
「しかし君達は土魔法を使えない。使えないものは仕方ない、では僕が地下室まで穴を掘ろう。しかし、おそらく途中で僕の魔力は底をつき、君達に広域ハイドはかけられないと思う」
「あ、やっぱ限界ってあるんだな。なんかイメージ的に魔法ってずっと使ってても大丈夫なもんかと思ってた」
マウロは両手を広げ、エノキそっくりな腹立たしい顔つきになって説明を始めた。
「はっ、タイチ……君は分かってないねえー。そういうのはレベル1とかの軽い魔法の場合さ。城の地下室まで100メートル程のトンネルを掘るとなるとレベル3、硬い岩でもあった場合は4程度の土魔法を継続して使う必要がある。それに掘った穴はそのまま逃走ルートにするから、すぐ崩落しないよう土壁をある程度の硬さに固めつつ掘った土を穴の外へ排出する作業も並行してやらないといけない。正直モンスター相手に巨大な土壁や岩盤をバンバン出してる方が大分楽だよ」
……聞いてるだけでも大変な作業な気がしてきた。
「やっぱ本気で魔法覚えなきゃダメだな。俺もお前も」
俺は隣の香織に確認するようにそう話した。
「そだねー、エノキを救出したら私全属性の魔法具を買って覚えてみる!――太一も絶対そうした方が良いよ」
魔法に対して香織は俺よりやる気がありそうだった。
「おう!俺も魔法デビューだ!」
マウロは薄く笑ってさっきの説明を続けた。
「地下牢に着いて数分間、僕は戦力にならないかもしれない。すまないが後は君達が頑張って守衛を倒してくれ。まあ君達境界人なら戦闘に関しては心配していない。ただ厄介なのが一人いてね、僕が最初に侵入した時もそいつにハイドを見破られて兵士を呼ばれてしまったんだ。それに対しては、また後で対策を練ろう」
そこまで聞いて俺はやる気が出てきた、早く戦いたい。
「よーしやってやるぞ!なあ香織!」
「うん!エノキは絶対救出しようね!」
俺達の決意を聞いたマウロは安心したような微笑みを浮かべた。
「ありがとう。本来無関係な君達を巻き込んでしまって……」
「いいって、気にすんな」
俺は快く答えた。
「エノキは親友だからね!」
香織も後に続いた。
そして最後にマウロがこう言った。
「……地下牢で君達にハイドがかけられない以上、エウラリアを助けた後は恐らく君達もお尋ね者になり王宮に追われる立場になるだろう……本当にすまない」
「……」
「……」
俺と香織は急に真顔になった。
「お、おう。まあ、そう、だよな……」
「……エノキは親友だから……ね……」
俺も香織もさっきまでとは違い明らかにトーンダウンしている。
俺達はオルターで悪役になるという想定を全くしていなかった。でも確かにそうなるかー。
ここで俺は一つ思いついた。
「そうだ、アレだ!変装しよう。なあマウロ、お前お面とかそういうの持ってない?」
「おお!そう言えば……。何で気付かなかったんだろ?もちろん、色々持ってるよ。僕も追われる身だからね」
快く衣装やお面を差し出してくれたマウロはこうも言った。
「名前も仮名で呼んだ方が良いね」
俺もそうだなと思いパッと思いついた名前を各々に伝えた。
「じゃ香織がレタス、俺がキャベツ、マウロはなすび……でいいか?」
そう言うと二人はとても微妙な顔をしていた。最初は香織に突っ込まれた。
「エノキのときもそうだけど、なんでアンタいっつも野菜なの?」
「いや、なんとなく……理由はないけど」
「そういうあからさまな偽名より普通に王都にいそうな名前のほうが無難じゃないか?ダニエル、モーリス、アンナで良いと思うが」
マウロにもそう言って否定される。
「あ、もうそれでいいっす……」
俺は軽くへこんだ。しかし三秒で回復した。
で、早速俺達三人は変装してみた。第三者から見たらどう見ても大道芸人にしか見えない格好だ。俺の鉄パイプも花びらのついたステッキに偽装してある。
「よーし!じゃあ今度こそ行くぜ!」
――そして俺達は王城の裏手の森までやってきた。この森は正門とは丁度逆の位置にあるようだ。
一度正面からマウロに侵入されていたるめ、正門には強そうな魔道士をはじめ警備兵が多くいた。しかしその分裏手の森に対する警備が手薄になっていたようで、地べたに座り込んでいる警備兵が一人いるだけだった。好都合だぜ。
そして一応俺達はマウロに広域のハイドをかけてもらっているのでここで見つかる事はない。
「しっかしこの服装は動きにくいな」
俺は自分のTシャツの上から羽織った服をヒラヒラさせながらそう文句を言った。
「しょうがないよ太一……じゃなくてモーリス。ねえマウロ……ダニエル。太鼓とか笛とかここに置いて良いよね?」
仮名に戸惑いつつマウロにそう尋ねる香織。
「いいよアンナ、ここで各々の持ち物は全部置いておこう。それから、一旦城から見えない場所を探そう」
そう言うとマウロはキョロキョロと周りを見渡し「これだ!」と小さく叫んで俺と香織を呼んだ。
それは森の中のちょっと盛り上がった小山だった。どうやらこの小山の裏から穴を掘るらしい。
そして三人がそこに集まった時点でマウロの足元の緑の魔法陣が消えた。
「この小山の裏なら城から姿は一切見えない。一旦休憩させてくれ」
そう言うとマウロはふーっと大きな息をはいて目を閉じた。マウロは隠れ家からここまでずっとハイドを使い続けていたため、やや疲労感を感じたようだ。
その時、小山を眺めながら俺はちょっとしたことを思いついた。
「俺の光輪でもトンネル掘れないかな?」
その時、マウロの目が輝いた。
「おお、モーリス。そうだよ君の光輪を見たかったんだ。ちょっとやってみてくれっ!」
マウロは興味津々という顔で俺の光の能力に期待している。
よし、ここは大いに見せつけてやるか!
「はっ」
フオンッ……。
俺は目の前にタイヤぐらいの大きさの光の輪を出現させた。
「おお……すばらしい……」
マウロはうっとりとそれに見入っていた。うーん、なんか皆その反応だな。
俺はその光輪のサイズや形状を変形させていく。
それは直径2メートル、奥行き20センチほどの円筒形のものだが、リングの厚さは2ミリと極薄だ!ちょうど前にやった小屋作りに使う木材加工のため、山に生えていた木の枝を切り払った光輪と同じ形状だった。ただ大きさは前の時よりかなり大きい。
それからリングの先端を鋭く刃状にし、土に刺さりやすくした、これも前のときと一緒だ。
香織とマウロの視線もその光に釘付けだった。
「よし、加工は完璧だ。いくぜ!」
「はっ!!」
サクッ――!!
全力で小山に向かって放たれた光輪は地味な音と共に土中に刺さり込んでいき、見えなくなった。
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