第31話 ジャンタン
「え!?」
銀行の床にいきなり現れた魔法陣に、俺達は驚き警戒しつつ男の発言を待った。
緑……?緑の魔法陣って何魔法だ?確か――『風』は白、『土』はオレンジ、『火』は赤、『水』はそのまま水色だったから……。
――え?まさか『雷』!?え?ここで!?……いやでも俺も香織もこの人とは初対面だし当然何の恨みもない、いきなり雷魔法で攻撃される理由なんてどこにもないハズだ。
「おい、ちょっと待っとけ。金おろしてくる」
その男は魔法陣を描いたまま俺達にそう言って受付カウンターへと向かっていく。
「こんにちはー!今日も一日元気に頑張りましょー!」
いつものお姉さんの言葉をフル無視しATMを操作する男。
その間も魔法陣の模様はより細かく描かれていった。一種のアートみたいだった。
「ね、ねえ太一……あの人大丈夫なの?いきなり変な魔法とか使ってこないでしょうね?」
香織はかなり警戒しているようだ。俺もさっきまではそうだった。
しかし、考えてみればいきなりそんなことをしてくるような危険人物がこのオルターバンクで口座を作りお金を引き出せるはずがない。
ウェイバー達の言葉が正しければそういう輩は最初に『調査』された段階でオルターから排除されるハズだ。
しばらくするとその男は俺達の所に帰ってきた。
そして両手を軽く前に出すと一瞬俺の頭がピクン!とした。それから一瞬間をおいてから男はこういった。
「お前があの光の能力者の佐々木太一か!?んで隣の女が石田香織だな?おう、合ってるよな!?」
お、その通り!
俺はすぐに思った。これが脳を覗かれるってヤツか……。たしか『読心』っていったかな?色々自己紹介とかの手間が省けてラッキーだな。
男はさっきまでのダルそうな感じから一転し、妙に興奮したような話し方でこう続けた。
「お前ら考え方も偏ってないしメンタルも安定しててなかなかいい感じじゃねーか、おう!あ、俺はジャンタンってんだ。もちろん境界人な。ウェイバーさんの補佐役をしてる。王都へ行くつもりなら俺が第三倉庫まで案内してやるぞ!」
やった。この人いい人じゃん。
「サンキュージャンタン。ここじゃスマホも使えないしウェイバーに連絡も取れないから困ってたんだ」
俺は現状での最大の問題点をジャンタンに話した。もしかしたら良い解決方法を知ってるかも知れないという予想もあった。
「あー、お前らここ来てまだ一週間ぐらいだったな。どっちかこういう科学魔法使えるヤツいねーか?」
床に出来た緑の魔法陣を指差し、俺と香織を交互に見るジャンタン。あ、この緑の魔法陣って科学魔法の色なんだ。へー!
恐る恐る手を上げながら香織がジャンタンに向かってこう言った。
「あ、私、風魔法しか使えません。こっちの太一は魔法全く出来ません」
ジャンタンは眉をひそめ険しい顔をして頭を掻いた。
「あー、あのな……マジでここじゃ科学魔法使えたほうが良いぞ。でねえと今みたいに連絡はとれねえし他にも色々仕事がやりずらくなる」
それを聞いて確かに!と俺は思った。
一方香織はやや遠慮がちにではあるがしっかりと自分の意見を伝えた。
「あのー、もしかしてさっき私達の心を読み取ってたんですか?できれば止めてほしい……です」
「ああっ!?」
でかい声で香織に向かって威圧するジャンタン。眉間にしわを寄せたその顔は輩のお手本のようだ。
ちょっとうつむきジャンタンから目を逸らす香織。
「おいお前、香織……だっけ?言っとくぞ。そんなプライバシーの保護みてえな地球の常識はこのオルターにゃ存在しねえからよ。心読まれたくなきゃさっさと科学魔法を覚えてブロックするなり自分でしろ。やり方は教えてやっからよ」
イラつきながら輩口調で香織にそう説明するジャンタン。なるほど科学魔法の使い手同士だとブロック出来るわか!
「……」
香織は俯いたままだった。
言葉は乱暴だがジャンタンは間違ったことは言ってないような気がした。
「科学魔法はエノキを助けに行った後で覚えれば良いんじゃね?とりあえず一旦王都に行きたい。案内頼むよジャンタン」
「おう」
俺達はそう言って銀行から出てきた。香織は俺にくっつくようにあとに付いてくる。どうやらジャンタンが怖いらしい。
ジャンタンも肩で風を切るような歩き方で銀行から外に出てきた。その時はもうジャンタンの足元から魔法陣は消えていた。
そして俺達はジャンタンを先頭に第三倉庫まで歩いていく。どうやら5分ほど歩いた所にあるらしい。
「ホントは王都まで案内してやりたいところだけどなー。今日はウェイバーさんが会合に出席してっから、俺がここの警備役でデヴォンシャーにいとかないとダメだ」
なるほど、この人は境界人のNo.2みたいな感じなのかな?まあ確かに見た目からして強そうだな。
「ウェイバーは今どこに行ってんの?」
俺は普通に質問した。
「魔法協会。まあそれも王都ソリオンにあるんだけどな。そこで老害ジジイ共と色々交渉中だ。あいつら訳分からんこと言ってきやがって……マジ意味わかんねー。クソッ……」
途中からジャンタンの話は独り言のようになっていった。
「――あ、お前らもしウェイバーさんに会えたら科学魔法教えてくれって頼んでみろよ。多分喜んで教えてくれるぞあの人は」
ここで香織が科学魔法についての疑問をぶつけた。
「科学魔法で心を読んだらどれくらいまで相手のこと分かるんですか?その人の人生とか考え方まで分かるの?ちょっと怖い……」
ジャンタンは悩まし気な顔をして、手を横に振って否定する。
「あー、そんな深い所まで分かんねーよ。……でも読める記憶は詠唱時間に比例するぞ。さっき銀行でお前らの脳をスキャンした時は入念に2分ぐらい詠唱してたけどよ――読めた記憶は、お前らがオルターバンクで金をおろしてからの記憶しかねえ。あ、悪い、そんとき預金残高見ちまったわ。もちろんわざとじゃねーから……すまねーな」
「……まあ別にいいよ。盗んだりされなければね」
ジャンタンは続けた。
「それと感情については科学魔法を使ったその時点での相手の感情がそのまま魔法使用者に流れ込む感じだ。俺、最初にお前らにあった時テンション低かったろ?で、科学魔法を使ってお前らの脳を読んでからちょっと元気な感じで話してるだろ?それはお前らのポジティブな感情が俺に流れたからだ」
あーなるほど、いや、便利だなー。じゃあ上機嫌なヤツに使い続けてたら常に幸せになれるのか……まるでドラッグじゃん。
その時俺は、バロルのギルドでミシェルや謎の魔道士っぽい人が言っていた事を思い出した。
「あ、俺達ももしかしたらその魔法協会ってとこに行く用が出来るかも知れない。エノキが捕まってるのって確か魔法協会だったような気がするし」
俺がそう言うとジャンタンは真剣な顔で忠告してきた。
「おい、魔法協会の奴らには気をつけろ。アイツら何か怪しい」
「怪しいって何が?」
俺は素直に聞いた。
「んー……、ハッキリとは言えねーが何か重大なことを隠してるような感じなんだよ。今までウェイバーさんが何回か魔王討伐の際一緒に魔王を捕獲しようって話を持ちかけたんだけどな。よそ者が余計なことすんなって全部断ってきやがった。あげくにゃ境界人の助けなんぞいらん、境界を消すぞ!とまで言ってきやがる。頭おかしいだろ!?」
それを聞いて俺も確かに妙な話だと思った。
魔王によって被害を受けるのはオルターの住民達であって、俺達境界人は一緒にその魔王を捕獲しましょうって話だからそんな拒否する理由はないはずなんだけどな。
境界人の強さはオルターの魔法使いなら皆知ってるハズだし……。
「――ってかお前らの言うエノキってエウラリアってやつじゃね―か?」
ジャンタンは突如エノキのことを言及してきた。あれ、エノキを知ってるのか?
「んー……あいつエウラリアって名前だったっけ?香織」
俺は隣の香織に聞いてみた。
「えー、ごめんちょっと覚えてない」
最初に俺がノリでつけた名前だが、本名の方も覚えとかないと色々マズイかもな。
ジャンタンは真剣な顔で俺達に頼んできた。
「もしソイツが最近魔法協会に拘束されたエウラリアだとしたら、救出して是非こちら側に引き込んでくれ!ヤツの魔法は相当な戦力になるぞ」
「もちろん助け出します!」
香織は拳を胸に当て、なぜか自信満々でジャンタンにハッキリとそう宣言した。
ジャンタンはおどけながらも満面の笑みで、
「うおっ!おまっ……やる気満々じゃねえか香織よ。頼んだぜ!」
と香織に拳を突き出しエールを送る。香織さっきまで怖がってたのに順応性高いなー。
――そうやって色々話している内にたどり着いたのはまるでドーム球場の様な巨大な倉庫だった。
倉庫の看板には『No.3』と書かれていた。
よし、行くぞ!
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