第29話 香織を連れて
境界から物置小屋に帰ると辺りは真っ暗だった。オルターではないので光輪は使えない。
照明も今はLEDランタンしかないが、いずれは業者に頼んで電気を引こうと考えていた。最寄りの電柱が大分離れているので結構な金額を取られるだろうが――、月収600万の俺に怖いものはないのだ!ふははは。
俺は通話アプリで香織と通話した。
オルターでリルを日本円に換金したこと。一日20万円までしか下ろせないこと。アメリカ人の友達が出来たこと。
――そして、エノキがピンチなこと。
「うそ……エノキ捕まってるの!?絶対助けに行くー!タイチももちろんそうでしょ?」
香織は俺と同じように、すぐにエノキを助けに行こうと言ってくれた。やはり今のエノキの状況は放っておけないようだ。
「おう、もちろん。それと、お前にもデヴォンシャーとオルターバンクの場所とか教えときたい。明日早朝に集まろう」
「分かった。じゃまた明日ね!」
香織は最後にそう言って通話を終わらせた。
――しかし俺はここで一つの不安が頭をよぎった。
「王都ってどうやって行けば良いんだ?」
なんか根本的なところを見逃してたような気する……。
あ、そうだ!
ここで俺はシャロのことを思い出し、アプリをダウンロードした。何?……「ワッツ?」ふーん。
アメリカではこのアプリが主に使われているらしい。
俺はアカウントを新規登録しシャロの電話番号を自分のスマホに登録した。そしたらそのアプリでも自動的にメッセージや通話が出来るらしい。
「おっすタイチだ。アカウント登録したぞ。ところで王都ってどうやって行けばいいの?」
そうメッセージを送信した後、俺は自分の武器である真鉄を物置小屋に置いてカブに乗って家まで帰った。
家に帰って家族と普通に夕食をとった後すぐ部屋へ入りシャロから返事が来ていないか確かめる。すると一件のメッセージが届いていた。しかし――。
「Hi.Taiti. There's a border in Devonshire Warehouse No. 3, so go from……」
「うわっ、そうか向こうは英語だ……」
俺はその内容を全てコピーし翻訳にかけた。
「こんにちは、タイティ。デボンシャー第3倉庫に国境があるので、そこから大きな農園へ向かいます。 そしてそこから見える大きな街が王都だ」
おお、凄い!これなら英語分からん俺でもイケる!
この国境ってのは多分境界の事だろうな。
「なるほど、デヴォンシャーの第3倉庫から巨大な農場に行ってそこから見える大きい街か……おーけー!」
よし、お礼を言っておこう。俺でも簡単な英語なら書けるのだ。
「Thank you. Good night.(ありがとうおやすみ)」
現代のハイテク技術に感謝し、俺は風呂に入って即就寝した。
翌早朝、俺は香織の家まで走っていった。そしたらなんと香織は準備万端という感じで軽トラの前でラジオ体操的な動きをしていた。あいつは何をしててもかわいい。俺はニンマリとした。
「やる気満々じゃん」
そう声をかけると香織は「当然!」とガッツポーズを見せた。
香織はパーカーにショートパンツとニーソという無難な服装だ、しかし俺は魔法少女姿が早く見たいぞ。
香織を助手席に乗せ、軽トラのエンジンをかけ小屋へと出発したとき俺はふと思い出して財布から金を出した。
「そういえば借金半分返すよ。はい20万円」
「あ、うん……おっけー。でも無理しなくていいよ。必要な買い物する分は残しといてね」
……神のような気づかい。俺にヘコムカード作らせたのと同じ奴とは思えないな。
「随分やさしいな。香織」
「だって、そのせいで小屋作りに支障が出ちゃったらそっちの方が私やだもん」
「なるほど、確かに。まあともかくこれで残りの借金は20万円。でもオルターバンクに貯金が120万円……変な話だよなこれ?」
香織の方を向いてちょっと呆れるような言い方をした。香織はそれを聞いてなんか真剣な顔をしている。
「なんだっけ、オルターバンク?……それっていきなり破綻したりしないよね?」
「え!!?銀行って破綻すんの?」
俺はびっくりした。
「するよ!銀行が資金運用に失敗してキャッシュがなくなって顧客が預貯金を引き出せなくなったら普通に破綻でしょ?こっちの世界じゃ政府が介入するはずだから一気に預貯金が0になるなんてないと思うけど……オルターバンクはオルターでどんな経営をしてるの?そもそも日本円とか現代のお金は誰がどこから調達してるの?」
「……あ、ごめん頭痛くなってきた。その辺はウェイバーに聞いてくれ。ってか銀行が何してるとか俺全く興味ねーし。金引き出せればそれでいいわ」
俺は頭に手を当て苦笑いした。
香織は「ふーっ」とため息をついた。
「ま、確かに分からないこと考えてもしょうがないね。それよりエノキが心配だね」
その時俺の頭にはいたずらっぽいエノキの笑顔が思い出されていた。
「……アイツ何やったんだろな?」
――などと色々話してる内に小屋に到着した。
「終わったら言うから……じゃ」
と香織が物置小屋に入っていく。例の魔法少女っぽい服に着替えるらしい。よしいいぞ!
俺はざっと住居小屋の周りを見回す。
「この辺の地面の土を囲いの中に入れて、その上にトイレを設置して……」
などと、この先の小屋の設備について色々と考えていた。
「いいよー」
と物置小屋から声がした。俺はダッシュで小屋へ駆け込んだ。
久しぶりにその姿を見たがやはり素晴らしい。それは女児向けアニメの魔法使いの格好というより、深夜アニメの魔法使いのそれであって非常に俺好みだ。
自然と俺の顔はだらしなく緩んだ。
香織はやはりまだちょっと恥ずかしそうな仕草をしながら俺を見て言った。
「なにニヤついてんの?もー!」
「いやー、やっぱそれだわー」
拍手で称賛を送る俺。香織は「先行くよ」とクローゼットの中に手を入れオルターへと消えていった。
さて俺もゆこう。
オルターに来た俺達はいつものようにバロルへと向かう道の途中で、香織はちょっと風魔法を練習させてほしいとお願いしてきた。もちろん俺はつきあう事にした。
香織の足元に白い魔法陣が描かれる。
白い魔法陣……そういえばウェイバーが俺と戦った時に使ってたのも『風』魔法で白い魔法陣だった気がする。そうか!多分白い魔法陣は『風』魔法なんだな。
「強風!」
ゴオオオ……。
香織がそう言うと辺りに文字通り強風が吹き出した。
「こっからが問題なのよね」
俺と香織は道の真ん中に隣同士で突っ立っている。
「強風」のせいで踏ん張って立っているのがやっとだ。そこから香織はもっと風の範囲を狭めようとしているらしい。
ゴゴオオォオォオ――!
そのときまで広い範囲で吹いていた風がまとまって俺と香織に集中してきた。次第に俺達は風の力に抗えないようになって自然と足を前に踏み出していった。
「おおおっ!」
「ひいっ!」
「おい香織!……この状態で走れば相当早いぞ!」
「う、うん……じゃあ走ろっか!」
ダッ!
「おおお!速いっ……マジで速い!!」
体感的に、今までで一番のスピードだ!うひょーっ。
――横を見るとすぐ後ろに香織も走ってついてきてる。
よーし、これならバロルにはすぐ着くな!
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