第9話_いつでも味方
キスをしたとき、梨央はひどく緊張していた。
手を繋いだときも、二人で夜景を見たときも。
付き合っていたころ、
梨央の異様とも言える緊張した様子に
俺は違和感を憶えたのだった。
だが今回のことで分かった。
梨央は、嫌だったのだ。
デート代やプレゼントを買わせるだけのつもりの相手に、せまられたのだから。
つまり俺とのキスとかイヤ過ぎてそんな反応になったのだろう。
うわ
かなり傷つくな。
俺は今夜の飲み会で、
梨央とまたヨリを戻す可能性もあるのではないか。
なんて、少し考えていた。
俺のことがまだ、好きで
それで、
「4人で飲もう」
なんて言ってきたのではないか。
正直言って、そんな考えがあった。
しかし違った。
梨央たちは、「俺の会社の人間を紹介して欲しい」
とまで言っていた。
未練のある相手に、そんなことを言うはずがない。
ほんと馬鹿みたいだ。
彼女のことを「男性経験が少ない」なんて思い込んでいた。
それどころか、彼女は経験豊富で、
俺のことをキモいとか思っていたんだろう。
傷つくなぁ。
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つらつらと考えごとをしながら、
駅まで歩いていると、
「上原さん、僕のことは無視ですか」
後ろから山野井の声が聞こえた。
山野井。
まだついてきていたのか。
「俺は梨央にダマされてたってことでいいんだよな?」
立ち止まって、振り返り山野井を見上げた。
「梨央は俺のことが、
最初から最後まで好きなわけじゃなかった」
「上原さんを傷つけるなんて」
山野井の表情は薄暗くて、よく見えなかった。
「いや。傷ついているというか笑えてきた。
自分がマヌケで。お前も笑っていいし」
言い終わらないうちに、山野井が俺の腕を乱暴に引っ張った。
俺は山野井の方に倒れかかった。
山野井は俺をぎゅっと抱きしめた。
そして
「上原さん、ずっとこうしていたい。
満員電車でも今も。やばいです。クセになる」
と言いだした。
「すみません、こんなときに
こんなこと言って」
山野井は、慌ててそう付け足した。
俺は山野井の抱擁から逃れようと身をよじった。
「誰かに見られるし、やめろって」
山野井は細いくせに、筋肉質だった。
「山野井、離せ」
あらためて命令すると
山野井は腕の力をゆるめた。
一歩後ずさりしてヤツから離れる。
「上原さんを苦しめるやつは許しません。
僕はいつでも上原さんの味方です」
その言葉を聞いて
俺は山野井の腕の中に自ら飛び込みそうな
自分に気がついた。
山野井に慰めて欲しい。
心の奥底ではそう思っていた。
俺はおかしい。
どうかしている。
心が弱っているせいに違いない。
「女子大生には、もうこりごりだなぁ」
やっとそれだけ言うと、山野井に背を向けた。
俺は山野井と一刻も早く距離を取りたくて、駅へと急いだ。
心が弱っているときに好きなだけ甘やかしてくれる山野井は危険な存在だった。
もしこれ以上一緒にいたら、
どうなるかわかったものじゃなかった。
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アパートに帰ると
梨央からメッセージが来たのだった。
「蓮さん。信じてもらえないと思うけど
蓮さんが好きなのは本当です」
「お願いです。
もう一度、二人きりで会って
説明させてください」
そんなメッセージだった。
俺はそのメッセージに返信はしなかった。
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それから数日後。
俺は人生最大のピンチを迎えていた。
意識が朦朧としている。
男が俺に馬乗りになる。
俺の頬に触った。
「やめ......」
男が俺にキスをしてきた。
何度も、しつこかった。
噛みちぎってやろうと思ったが
薬のせいで力が入らない。
なにもできない。
「お嬢さんには脅すだけでいいって言われたけど。
あんた可愛いな」
そんなことを言いながら、触ってきた。
気持ち悪い。
最悪だ。
意識が遠のく。
しかし男は、俺を何度か平手打ちし
気を失わないようにコントロールした。
男は俺のネクタイを外し、
ワイシャツを引きちぎるように脱がせはじめた。
2万円のワイシャツが。
どうしてこんな目に。
山野井、山野井は......?




