第8話_彼女たちの正体は?
「郁也くん、ひどいこと言うなぁ」
山野井が目を細めならが言う。
「俺たちが、香苗ちゃんと梨央ちゃんを
ホテルに連れ込むかと思ったって?」
山野井の表情を見て、俺は悟った。
こいつ怒ってる。
山野井は自分の仕事をきちんとしないヤツや
考えが甘い同僚に対して、
こんな風に目を細くすることがあった。
そして、山野井は相手をコテンパンに論破するのだ。
山野井は、ミーティングで準備不足の相手が
涙目になるほど攻め立てることもあった。
ヤツは、普段は明るくてチャラいけど
怒り出すと怖い。
そして意外にふてぶてしいところがあるのだった。
そんなことも知らずに郁也くんは
「いや。だって、変な薬とか出回ってるって聞くし」
と言い出した。
「薬!?」
俺と山野井は声を揃えて聞き返す。
「そうです。体のいうことが効かなくなる薬。
それをアルコールに混ぜて、眠らせるとか」
「郁也くん、あのね。それってもう犯罪だよね?」
山野井はため息をついた。
「俺たちは間違ってもそんな馬鹿げたことしない」
「でもやっぱ心配で。湯川と白鳥は大事な仲間ですし」
俺は気になっていたことを聞いた。
「俺たちはそんなつもりないけど。
梨央と香苗さん。前にそういう目にあったって本当?
もしそれが本当なら、
郁也くんが心配するのも無理ないっていうか」
梨央と香苗さんは、ふたりで顔を見合わせていた。
言いづらい内容かもしれない。
でも知りたかった。
彼女たちは、たびたび、社会人と遊んでいるのではないか?
そんな疑惑が、俺の頭に浮かんでいたのだ。
香苗さんが口を開いた。
「別の街コンに参加したときに知り合った人に......」
梨央も言う。
「ホテルの最上階でパーティしてるって言うから」
「それで?大丈夫だったの?そのとき......」
山野井が恐る恐る二人に聞く。
「はい。なんとか逃げ出しました」
「そんな事があったのに、よくまた
街コンに参加して、しかも社会人の俺らに声かけたよね」
山野井がさらに、追求する。
「年上の彼氏に憧れてて
それに明さんと蓮さん、素敵だったから」
梨央と香苗さんはしょんぼりした様子で答えた。
郁也くんは角切りステーキを頬張りながら
「いや、こいつら金目当てですって」
と、とんでもないことを言い出したのだった。
「ちょっと!郁也!何言ってんのよ」
香苗さんが慌てている。
山野井が目を細める。
「うーん、マジで?
パパ活、とまではいかないけど、
ちょっと金があって食事代くらい出せる
社会人と遊ぼうって感じだった?」
「そうっすよ。たぶんまぁ
こいつらそのうち、パパ活も始めるでしょ。
その前に、止めてやってくださいよ」
郁也くんがそんなことを言う。
そうなのか。
梨央は、金目当てで俺とデートしていたのか?
もちろん「お小遣い」みたいなものを
渡したことは、一度もなかったけど。
食事代はすべて、俺が払っていたのは事実だった。
そうだ。
付き合い始めて少し経ったころ
「欲しい」
と言うから、ブランドのアクセサリーをいくつか買ってあげたと思う。
財布やカバンも買ったよな。
しかも買ったあと、使っているのを見たことがなかった。
転売したのかもしれない。
ブランドものなので良い値段で売れるのではないか。
地味でウブなふりをして、俺をダマしていたのか?
本当の正体は、化粧が濃くて露出度の高い服を着る
遊び慣れた女子大生。
俺は、まんまとダマサれた馬鹿な男。
「そろそろ帰るわ」
俺は、金をテーブルにおいて、席を立った。
怒りはなかった。
ただ気分が悪くなってきていた。
真面目で素直でおとなしい彼女。
経験が少ない彼女を、重荷に感じて
自分から別れてしまったことを、ずっと気に病んでいたのに。
確かに俺も、ドタキャンしたりして
良い彼氏ではなかったけど。
梨央のほうは、完全に「自分を偽って」いたわけだよな。
俺に本性を隠していたんだ。
ショックだった。
席を立った俺を見て、
山野井も
「僕も帰ります」
といって立ち上がった。
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「上原さん」
山野井が後ろから声をかけてくる。
俺は無視をして、歩き続けた。
「上原さん」
山野井が俺の腕をつかむ。
「大丈夫ですか?」
22時過ぎ。
駅に向かう道は人通りも少なく、薄暗かった。




