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後編

 生馬くんと一緒に僕の家に向かう。 生馬くんとは家の方角全然違うけど。 電車賃とか僕が出すべき?


「えっと生馬くん電車賃」

「二駅だろ? 別にいいよ」

「でも僕の為に来てくれるのに悪いかなって」

「なんだよ友達の家に遊びに行くのに、金払ってもらう奴なんていねえよ」

「そ、そう?」

「そういうところ律儀だよねぇ、お前ってさ」

「律儀というか小心者というか」

「あー小心者かぁ……そっちかもな」

「ひどいな生馬くんは」


 でもこういうのズバズバ言ってくれるところが、生馬くんらしいっていうか。 なんかやっぱりお兄ちゃんって感じなんだよね。 電車に乗って少し経ったときに、生馬くんが首を傾げて何かを考えだした。 どうしたんだろう? 何か気になる事でもあったのかな?


「どうしたの?」

「ああいや……気のせいかな?」

「何が?」

「うん、まあとりあえずお前は気にするな」

「ええ、そんな言い方されたら余計に気になるよぉ」

「まだ俺の勘違いって事もあるからさ、もし違ったら言うから」

「そう? じゃあ後で聞かせて」


 二駅なんてあっという間。 電車を降りて駅前ロータリーへ出る。 ここからは歩いて10分くらい。


「とりあえずコンビニ寄って何かジュースとか買っていく?」

「いやスーパーだろ、金勿体ない」

「さすが幼馴染さんと一緒に、買い物してるだけの事はあるね」

「こういうところで切り詰めておかないと、後で苦労するのはお前だからな」

「はい……気を付けます」


 スーパーに入ってお菓子コーナーへ。 ポテチ! ポテチが食べたい! あときのこ。


「お前きのこ派なのな」

「えっ? 普通でしょ?」

「やめよう……これは戦争になる」

「生馬くんたけのこ派なんだ……」

「ああ、那奈がきのこ派でな……一度大喧嘩した事があるんだ」

「すごいくだらない理由だね」

「もうあんな喧嘩はごめんだ」


 ジュースも選ばなきゃ。 剣崎さんに渡すジュースも今買っちゃう? でも温くなるからダメかな。 学校行く途中のコンビニで買おう。


「ところでな結城」

「なに? 生馬くん。 あっ! このジュース初めて見る」

「剣崎さんって家この辺なのか?」

「えー? 知らないけど、違うんじゃない?」

「結城、今から言う事で決して驚くなよ? あと、きょろきょろするな」

「何? 怪談とか? 怖い話は苦手だから止めてよね」

「うーん、ある意味怖いかもしれない」

「えーやだなぁ」

「剣崎さんが、俺達の後付けてる」


 えっ?! 何? 付けてるってどういう事? 剣崎さんって、あの剣崎さんだよね? 一瞬パニくったけどきょろきょろしちゃダメって言われてたので、そのままフリーズする。


「み、見間違いとかじゃなくて?」

「あんな美人がゴロゴロ居てたまるか」

「え? でもなんで? うちの方に用事があるとか? それかやっぱり家が近所なのかな?」

「わからんけど偶々方向が一緒ってだけなら、あんなにじっと見ないと思う」

「……見てたの?」

「ああお前をな」


 やっぱり僕を見てたのは気のせいじゃなかったのか。 でもどうして? え? 後つけてきてるって……ストーキング? いやいやだってあの剣崎さんだよ? なんで僕を?


「とにかく気が付いてない振りしとけ」

「う、うん」


 ジュースを選んで買おうとしたら、2リットルのにしろって怒られた。 仕方がないので2リットルのジュースとポテチ、きのこたけのこのセットを買ってスーパーを出る。


「まだ剣崎さん、付いてきてる?」

「いやわからん、振り返ったらバレるし」

「ど、どうするの?」

「どうするって言ったって、このままお前の家に行くしかないだろ」

「それでいいのかな?」

「わからん、わからんけど仕方ない」

「そんな!」

「俺は尾行の撒き方なんて知らんからな」

「そりゃそうだけど……」


 後ろが凄い気になる。 いや剣崎さんが何かするとは思えないけど。 やっぱり誰かに付けられてるって思うと気になるよ。 


「何か心当たりあるか?」

「えっとね、今日首に黒子がって話したでしょ?」

「ああ、そういえば」

「実は最近、剣崎さんにずっと見られてる気がしてたんだよね」

「それで黒子に毛か……随分と変わった考え方だな」

「だってあの剣崎さんだよ? 僕なんかに興味もつと思わないし」

「まあなぁ……でも今日の剣崎さんの行動考えると」

「う、うん」

「剣崎さん、お前の事好きなんだな」

「そ、そうなのかな?」


 たしかにそう考えたらしっくりくるけど。 でも剣崎さんだよ? ええ?! どうしよう? それは無茶苦茶嬉しいけど…… でも後付けてくるっていうのは。


「ど、どうしよう?」

「俺に訊くのか? いやあの剣崎さんだぞ? 付き合えばいいんじゃないか?」

「で、でも後付けてくるのは」

「たしかにそれはちょっと怖いな」

「だよね」


 とりあえず話ながら歩いてるうちに、家に着いてしまった。 家まで付いてきてるとかは無いのかな? 大丈夫かな?


「ただいま」

「お邪魔します」

「あらお帰りなさい。来島くんも来たの? こんにちわ」

「こんにちわ」

「今からカレー作るのよ。よかったら食べて行って」

「いいんですか? すいません」

「お家に連絡しておいてね」

「はい! それじゃあえっと部屋に」

「お菓子とかジュースは?」

「買ってきたから大丈夫だよ。コップ持ってくね」

「ごゆっくりね」


 母さん居るなら、後で服買うお金貰わないと。 生馬くんもご飯食べてくなら、その時に援護射撃してもらおう。


「なんかカレーまで御馳走になっちゃうなんて悪いな。 俺カレー超好物なんだよ」

「うちのカレー辛いよ?」

「マジか! 大丈夫! 辛いの全然いけるわ!」

「なら良かった」

「さてそれじゃあ」

「うん、服選ばないと!」

「いやいや! もっと大事な話があっただろ?」


 大事な話? なんだっけ? 


「えっと?」

「お前は鳥か! とりあえず電話するぞ」

「ああ、お家にご飯いらないって言わないとね」

「ちげーわ! いやそれもそうだけど、剣崎さんの事だよ」

「あっ! そうだった! 剣崎さん!」

「とりあえず剣崎さんの中学とか知ってる奴居れば、家がどの辺かとか分かるだろ」

「そ、そうだね」

「一年の時一緒だった奴とかなら、自己紹介で中学どこ出身とか聞いてるはずだろ」

「まずは一年の時、クラスが一緒の子を探さないと」

「剣崎さん一年の時何組よ?」

「Aじゃなかった?」

「Aか……誰か居たかな?」


 一年の時A組の知り合い……誰だろう? うーん? でもこれ電話してなんて聞けばいいのかな? 剣崎さんに付けられた事は言っちゃまずいだろうし。


「ねえ、なんて訊くの?」

「あん? だから剣崎さんの中学がどこだったか」

「なんでそんな事、訊くんだって話になったら?」

「ああ、うーんそうか」

「困ったね」

「とりあえず親に電話だけ先にするわ」


 生馬くんは親御さんに電話をしている。 生馬くん電話しながらうろうろする人なんだなぁ。 僕もそうだけど。 電話が終わって、生馬くんは僕の前に座る。


「おい、解決したぞ」

「何が?」

「剣崎さんの家が、近くなのかどうかだ」

「え? 親御さんが知り合いだったの?」

「いやそうじゃなくてな、窓の外を見ろよ。そっとだぞ?」


 窓の外をそっと覗いてみたら……家の門の前に、剣崎さんが立っていた。


「家が近所とか関係ない。彼女は間違いなく、俺達を付けてたんだ」


 剣崎さんが俺達を付けていた。 えっとそれで? どうすればいいんだろう?


「どどどどうしよう?」

「落ち着け」

「わかった! それでどうする? 上がってもらう?」

「いやそれ正しいのか? なんか俺達を見たら逃げそうな気もするけどな」

「そ、そっか」

「とにかく今までの情報を整理しよう」

「う、うん」

「剣崎さんはお前の事が好きだと思われる。 いつもお前の事を見ていた。 今日急に、一緒に昼飯を食った。 その後、家まで付けてきた」

「あと、ゴミ捨て手伝ってくれたよ」

「ああそうか。まあとにかく、お前に好意を持ってるのは間違いないだろう」

「そうだね……剣崎さんが僕を」

「まあ好きだからって、家まで付けてくるのは俺は怖いって思うけどな」

「今までにも、付けてきてた事あったのかな?」

「いや、今までに付けてきてたなら家知ってるはずだし、もっと離れてこっそり来ればいいんじゃないか?」

「じゃあ今日が初めて?」

「多分な」

「でもなんで」


 ピンポーン♪ インターフォンが鳴った。 お母さんが応対に出たみたいだ。


「マジかよ」

「ええっ?!」


「あらあら、こんな可愛らしいお嬢さんがお友達だなんて」

「はい、それで今日一緒に勉強会しようって事になってて」

「あらあらまあまあ、そうだったの? 二階に上がってすぐの部屋だから、どうぞ入って! ええっと」

「剣崎です。剣崎莉々と申します」

「まあ莉々ちゃん? 可愛らしいお名前ね! 良かったらカレー作ってるから、一緒に食べていって頂戴! あっカロリーとか気になるかしら?」

「いえ是非御馳走にならせてください。それではお邪魔します」

「どうぞどうぞ!」


 下でのお母さんとの会話は、全部聞こえてきちゃったけど……約束なんてしてないよ! 何!? どうしよう!


「すげえな……部屋までくるぞ」

「どどどどどどどうしよう」

「いや流石に俺も、どうすればいいかわかんねえわ」


 コンコンッ♪ 部屋のドアがノックされた。 いやこれは入ってもらわなきゃダメだよね? 生馬くんと顔を見合わすと、生馬くんが頷いたので返事をして入ってもらう。


「どうぞ」


 そーっとドアを開けて中を覗く剣崎さん。 勝手に家に来たのに、部屋に入るのは流石に気が引けるのかな? なんかちょっと笑える。


「お、お邪魔します」

「えっと、こんにちは?」

「時間的には、こんばんはか?」

「夕方ってどっちが正しいの?」


 なんでこんな会話してるんだろう? やっぱり混乱してるよね僕たちも。 とりあえず僕はベッドに腰かけて、生馬くんは勉強机の椅子に座ってもらう。 剣崎さんにはクッションを渡して座ってもらえばいいかな。


「あっこれ使って」

「……ありがとう」

「ええっと、どうしようか?」

「勉強会する?」

「いやそんな約束してないからね!」

「……そうだね、ごめんなさい」

「ああいや、責めてる訳じゃなくて」

「とにかく、この状況を整理させてくれ!」


 うん、一回落ち着いて整理した方がいいよね。 剣崎さんは渡したクッションを抱きかかえて座ってる。 あー俯いちゃってるし、どうしたらいいんだろう?


「えっと剣崎さんが、俺達の後を付けてたのは気が付いてたんだ」


 剣崎さんは、びっくりして顔を上げる。 まあ僕は気が付いてなかったんだけどさ。


「それでまあ、なんでだろう?って話してたところだったんだけど」

「……うん」

「剣崎さんは、結城の事が好きって事で良いのかな?」


 剣崎さんはびくっとした後、クッションをギュッと抱きしめる。 意を決した様に顔を上げて、僕の顔を見つめてくる。 


「うん、結城くんの事好き……だよ」

「えっと、ありがとう」

「うん……」


 また俯く剣崎さん。 僕も顔が熱い。 告白! 僕告白されちゃったよ! しかもあの剣崎さんに! ええっとどうするべきなのかな? どうすればいいのかわからない。 とりあえず生馬くんの顔を見ると、なんか呆れた顔してる。 


「えっと最近剣崎さんが、僕の事見てる気がしたんだけど」

「あっ、うん……見てた」

「そ、そっか」

「だめ、だった?」

「いやあの、ダメではなくて、その、光栄っていうかその、なんて言えばいいの? 生馬くん!」

「俺に訊くなよ」


 とにかくこの状況は、なんだかわからない。 僕の部屋で、僕の事好きな剣崎さんが部屋に居て、生馬くんも居て。 告白、告白されて。 それでこれからどうするの?


「ええっとそれで、なんで後付けたのか訊いてもいいかな?」

「あのっ、映画……女の子と映画行くって聞いて、なんか居ても立ってもいられなくなって」

「ああうん、それはどうもごめんなさい?」


 謝っちゃったけど、合ってる? 僕はなんて言うべきなの!? 生馬くん! 助けて!


「ああえっと、後を付けたのは今日が初めてなんだよね?」

「えっと、うん、家まで来たのは初めて」

「家まで!?」

「ちょっと待て! 家までじゃないところまでは付けてたって事か?! それは怖いぞ!」

「わ、私もそう思ったけど、我慢できなくて。もっとずっと見てたかったから、テニス部も辞めて少しでも一緒に居たくて」

「テニス部辞めたの、僕のせいなの!?」

「おい! なんか俺は鳥肌が立ってきた」


 ぼ、僕も少し怖い……かな。 嬉しいって気持ちも、勿論あるんだけど。 


「い、いつから僕の事好きだったの?」

「一年の文化祭で、結城くんのクラスに行った時に」

「女装メイド喫茶か!?」

「うん、あの時の結城くんが凄く可愛くて一目惚れで」

「なんだろう、僕すごい複雑な気持ちだよ」

「あの時からずっと結城くんの事が頭から離れなくなっちゃって、テニスも集中できないし、結城くんに少しでも会いたくて部活辞めちゃったの」

「まあ好きな理由も、好きだって気持ちも良く分かったけどな」

「嬉しい様な、悲しい様な」


 僕の事が好きで、他の子と仲良くなるのが嫌だから、つい家まで付けてきちゃった。 そして家に勝手に上がりこんできた。 うーん? 理由とか考えたら有りなの? 無しなの?


「ええっと、ど、どうしよう?」

「とりあえず……剣崎はどうしたいんだ?」

「私は! 映画には行かないで欲しい。ううん、映画には私と行って欲しい!」

「まあ女の子紹介するっていうのは、確かに俺のお節介だったのかもしれないけどな」


 生馬くんは、チラッと僕の顔を見る。 


「それでどうする? 結城はどうしたいんだ?」

「ぼ、僕は……」


 ええっと生馬くん達と映画に行かずに、剣崎さんと付き合う? ううーん? 剣崎さんはみんなの憧れで、僕だって今日みたいな事がなければ多分喜んで付き合ってたよね。 うんそれは間違いないと思う。 でも今日の剣崎さんは……うーん。

「ちょっと考えさせてもらってもいい?」

「まあそうか、そうだな」

「ちょ、ちょっとってどれくらい?」

「ええっと」

「あ、明日?」

「いやあの」

「明後日?!」


 ど、どうしよう。 必死すぎてホントに怖い。  い、生馬くん! どうすればいいの? ああそんな目で見てないで助けて! 


「よしじゃあ、結城! お前の気持ちも整理してみようか?」


 頼りになります! 生馬くん! お願いします!!


「結城が剣崎と付き合えないって、思ってる理由はなんだ?」

「……ちょっと重いかなって」

「……重い」


 ああ剣崎さん、手を付いてそんなに落ち込まないで。 orzってリアルで見たの初めてだ。


「じゃあもし今回俺が余計なお節介やかずに、剣崎さんに告白されてたとしたらどうだ? 付き合ったか?」

「うーん? そうだったら後は付けられて無いから? でも実際は家までは付けてなかったけど、後は付けてたんだよね? あれ?」

「そういうのも、知らなかったと仮定して」

「……まあそれは付き合ったと思うよ。だって剣崎さんすごい美人だし」


 剣崎さんが顔を上げて、ものすごく嬉しそうに頷く。 なんか犬っぽい? ちょっと可愛い。


「それで付き合った後に、少し重いかも?って思った場合はどうだ?」

「うーん? それはまあ大丈夫なのかな? それだけ好きだって思って貰えるのは、嬉しいって思うかも」

「だったら今少し重いかも?って思ってても大丈夫なんじゃないか?」

「そうなのかな?」

「まあ重いところは、直してもらえば問題ないだろ?」

「直せるの?」


 剣崎さんを見たら、すっごい首をブンブン縦に振ってる。 もうそれヘッドバンギングだよ。 髪の毛すっごい事になってるから。 歌舞伎みたい。


「よしじゃあ俺は、那奈に映画の件断るから」

「いいの?」

「まあ他の男友達、連れてけば問題ないだろ」

「な、なんかごめんね」

「いやこっちこそ、二人の邪魔しちゃったからな」

「えっとそれじゃあ……剣崎さん僕たち付き合おっか?」

「うん! よろしくお願いします!」


 剣崎さんは満面の笑みで答えた。 なんかこっちまで嬉しくなるね。 こんな美人と付き合えるのに、なんか冷静な自分が物凄く可笑しい。 


「しかしまあ……服選ぶ必要なくなったなぁ」

「そっか、最初はそれが目的だったよね」


 生馬くんはラインで幼馴染さんとやりとりしながら話す。 誰か代わりの人、ちゃんと見つかるかな?


「じゃあ来島くんは、そろそろ帰ったら?」

「なんだよ付き合う事になったら、俺は邪魔者扱いか? 酷いぞ剣崎さん」

「だって二人っきりになれる、チャンスなんだもの」

「いや俺はカレー食ってから帰るから」

「カレーなんて、どこかお店で食べればいいじゃない!」

「いやいや人ん家のカレー、しかも激辛と聞いたら食わずにはいられない」

「うちのカレーは美味しいよ」

「今度私が、もっと美味しいカレー作ってあげるね♪ 愛情たっぷりの」

「付き合ったばっかりでこの感じはちょっと危険だな」

「何が危険なのよ!」

「結城、やっぱり考え直した方がいいかもしれないぞ」

「大丈夫だからね! 愛斗くん!」


 本当に大丈夫なのかな? でもまあすっごく可愛くて、僕の事が大好きな彼女が出来たんだから……きっと良かったんだろう。 


「カレー出来たわよぉ!」


 お母さんが声を掛けてきた。 友達と、彼女と家でカレーを食べる。 昨日まではこんな事、想像もしてなかったのに。 


「おお! 良い匂いだ! お母さん頂きます!」

「いただきます♪ お義母様」

「なんだろう? 今なんかニュアンスが違ったような?」

「いいから、あんたもさっさと食べなさい!」

「はい、頂きます!」


 我が家のカレーはとっても辛くて、そして美味しかった。 いつもよりも美味しく感じたのは、やっぱりみんなが居たからなのかな?


「じゃあ莉々ちゃんと来島くん、お家まで送っていくわよ」

「あれ? 母さん出かけるの?」

「うん、呑み会だから」

「呑み会なのに車で出かけちゃダメでしょ!?」

「大丈夫よ、ちゃんと運転代行使うから」

「それお父さんの事だよね?」

「そのまま二人でデートしてくるから、あんた留守番頼むわよ」

「何時頃に帰るの?」

「まあ朝までには、帰ってくるわよ」

「……僕、歳の離れた弟とか妹は欲しくないからね」

「あっはっは! あんたもそんな事言う歳になったのねぇ。」


 まったくもう。 仲が良いのはありがたいけどさ。


「それじゃあお願いします」

「あっ! 私は家近いから大丈夫です!」

「あら莉々ちゃん近所なの?」

「はい♪ 歩いてすぐのところですので」

「あらぁ? 中学は違ったわよね? こんな可愛い子居たら覚えてるはずなのに?」

「ええ、最近引っ越してきたんですよ!」

「そうなの? じゃあご近所さん同士、うちの息子をよろしく頼むわね」

「はい、お義母様♪」

「なんだよ剣崎さん、ほんとに近所だったのか! そんじゃあ帰るか! またな!」

「来島くん、愛斗くん、またね!」


 一人っきりになっちゃった。 なんかさっきまで騒がしかったのに、急に一人になると寂しいな。 でも彼女かぁ。 剣崎さんと付き合うんだなぁ。 あっ! ライン交換するの忘れた! まあ来週でいいか。 ……ってあれ? 鞄? これ剣崎さんのだよね? 忘れてったのかな?


 ピンポーン♪ あれ? 誰かきたぞ? 急いで階段を下りて、玄関のドアを開けるとそこに居たのは……。


「はーい、ってあれ? 剣崎さん?」

「ごめんね! 愛斗くん! 鞄忘れちゃったの」

「僕も今気が付いて、どうしようかと思ってたところだったんだ」

「うん、ちょっとお邪魔するね!」

「あっ! いいよ取ってくるから!」

「ううん! ほらラインの交換もするの忘れてたし」

「そ、そう? じゃあどうぞ」

「お邪魔しまーす♪」


 剣崎さんは、靴を脱いでさっさと二階に上がっていく。 なんかスキップぎみ? 嬉しそうだな。 まあ僕も付き合えて嬉しいからな。


「鞄そこにあったでしょ?」

「うん、今スマフォ出すね!」

「あ、うん! じゃあ僕も」


 剣崎さんとラインの交換をした。 これで二人で彼氏彼女っぽい会話とかしちゃうのか。 なんかニヤける。 ヤバいね。 


「そうだ! 愛斗くん! これ!」

「えっ? 何?」


 剣崎さんが差し出したのは、映画のチケット。 これってさっき言ってたやつだ。


「映画のチケット? じゃあお金えっと」

「ううん! 今回は私が出すから!」

「それは悪いよ」

「じゃあ映画の後に、ご飯奢って♪」

「う、うん分かった」


 ああこれって彼氏彼女っぽい? 


「えっとそれじゃあ剣崎さん、そろそろ遅いし」

「あっ! 映画いつ行く? 来週だと来島くん達と鉢合わせちゃうかもしれないし」

「じゃあ来週の日曜日とか?」

「えー、今週は?」

「ああうん、じゃあ今週の日曜日」

「明後日、楽しみだね♪」

「そうだね、じゃあそろそろ」

「ねえ! デートで着ていく服選ぼう!」

「えっ? でも」

「なに? 私の為にはカッコよくしたくないの?」


 ちょっと拗ねた感じで、僕の顔を覗きこむ。 そういう訳じゃないけど。 もう時間遅いし、いくら近所だって夜道の一人歩きは危ないのに。


「わ、わかった、じゃあ服選んだら送っていくよ」

「愛斗くん優しい♪ 大好き♪」


 大好きとか照れる。 なんでこんなに可愛い子が、こんなに可愛い事言っちゃうの? ヤバい。 すごいヤバい。 とりあえずクローゼットから、服を取り出して並べてみる。 どうなんだろう? やっぱりダサいって思われちゃうのかな?


「これ可愛い!」

「あ、うん可愛い系より、カッコいいのを」

「愛斗くんは可愛い方が似合うよ!」


 そうだった。 この場合はどうしたらいいんだろう? 彼女が可愛いのが好きなんだから、可愛い服がいいのかな? うん、そうだよね。 ここは剣崎さんに任せるべきかな。

「じゃあ剣崎さんにお任せするよ」

「私の事は、莉々って呼んでね?」

「う、うん莉々さん」

「呼び捨てで良いから!」

「莉々」

「愛斗くん♪」

 

 うわああああ、名前呼び捨てとか超恥ずかしい! 僕のキャラじゃないよ!


「愛斗くんは男の(おとこのこ)って服が良いと思うの」

「え? 男の子って服でいいんだ?」


 なんか意外だったけど、男の子っぽい服あるかな? あれ? 男の子って子供っぽいって意味なのかな?


「ねえ愛斗くん、スウェットとか部屋着ってある?」

「うん、スウェットあるよ!」


 スウェットかぁ。 そういう恰好でもいいんだ! 僕はスウェットを取り出して、ベッドに並べる。


「うん、じゃあスウェット借りるね!」

「えっ?」


 借りるってどういう事? あれ? 剣崎さん、スウェット持って部屋出てっちゃったよ? えっ? どうして? しばらく待ったら、剣崎さんが僕のスウェットを着て戻ってきた。 あれ?


「お待たせ♪」

「う、うん? なんでスウェット着てるの?」

「うふふふ♪ それはね、じゃーん!」


 剣崎さんが、脱いだ制服を突き出す。 え? 何? どういう事?


「愛斗くん……制服着てみようか?」

「え? 何? え?」

「大丈夫! 絶対可愛いから!」

「ちょちょちょちょっと待って! え? 僕が剣崎さんの制服着るの?」

「うん! 絶対似合うから!」

「いやちょっと、それはどうかな?」

「愛斗くん! セーラー服は男の憧れだよ!」

「いや絶対なんか違うよおおおお!」


 今日、僕には彼女が出来ました。 でも僕の彼女はちょっと普通じゃありません。 これから僕は、いったいどうなっちゃうの? 

これにて完結 もっと彼らで続き書けそうだけど、とりあえず。


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