乙女の最強伝説は続く。
これで(第一章の)最終話です。続くかどうかは飲み会のノリで決まります。
「先に送り返せば良いのに」
「目を離したら何をするか判らないよ」
いるだけ邪魔な物体と化した新顔氏(なにしろ護衛としての能力が足りない上に、余計な真似ばかりしたがる)だが、何かしでかされても困ると言う事で、ガイさんの目が届く所に置いてあるらしい。
そしてガイさんはラディの護衛。
つまり、新顔氏はラディの見聞きできる範囲にいると言う事だった。
とても鬱陶しい。
来たついでだから、とラディは一緒に家庭菜園の草むしりに駆り出されてるんだが、居るだけの新顔氏はもちろん、畑の面倒を見る役には立っていなかった。
「そこ、作物の根っこを踏まない」
『下郎の分際で指図する気か!』
俺の回答はもちろん、物理だった。
ありていに言うなら、作物を守るために新顔氏に蹴りを食らわせて畝の合間に這いつくばらせた。
「ここで肥料になって貰うのが、一番かもなあ」
作物を傷めず役に立つ。最高じゃないだろうか。
「生で埋めても臭いだけでしょ、ちゃんと発酵させてから埋めなさい」
「ミソノさん、ポイントはそこじゃないと思う」
「使い道がないんだから良いのよ。肥料にもならないなんて、ほんと~に役に立たないわね、この男」
警備中のガイさんが、姉の言葉に肩を振るわせて笑っていた。
姉が酷いのはデフォルトです。気にしないでください。
「ところで、なんであんなの押しつけられたの?」
無駄にメンタルの強い新顔氏が起きあがろうとするのをスコップで殴って沈黙させた姉が、ストレートに聞いた。
いやまあ新顔氏は種族的にも頑丈だから死にはしないと思うが、角スコップの平で側頭部を叩くとは容赦がない。
「兄に付けるわけにいかないし、父や母にはもっと付けられないからです」
ラディの家族はご両親である魔王夫妻と、後継ぎであるお兄さん、それに妹さんだ。御両親とお兄さんに何かあったら大騒動になるし、妹さんは未婚女性だから、問題の多い独身男なんてそばにおけるはずがない。
「そこじゃなくて、この未熟者がなんで近衛なんてやってるのって話」
「親の七光りで押し込んできました」
あ、はっきり言った。
「どこの馬鹿が親?」
「ガイダステン公爵の孫です、これ」
「あ~、ガイダステン公爵っていうと、あのダメ息子が二人ほどいる」
「姉さん、知り合い?」
そう聞きながら、とりあえず邪魔なんで本気で埋めたい新顔氏の襟首を掴んで引きずり、畑の外に放り出しだ。
「知り合いたくなかった知り合いね~、息子はアホそのものだったわ。公爵は渋いイケオジなのに」
「姉さんジジ専だったのか……」
「ジジ専言うな」
「薄い本のネタに使うなよ?」
「ちっ、それを知られたからには生かして返さん」
「ちょっとまて俺はスコップで殴られたら死ぬからね?!」
ふざけてスコップを振りかざした姉に、『薄い本』のなんたるかまで学んでしまった魔王子殿下がくすくす笑っていた。
笑い方まで上品なのは、さすが殿下と呼ばれるだけはある。
「ミソノさんの『薄い本』でダメージを与えたいなら、ご自由にどうぞ?」
ちょっとまて外道すぎやしませんかね魔王子殿下。
「よっしゃ。彼は総受けにして、刷り上がったら一冊進呈してしんぜよう」
えぐい、えぐすぎる。止める義理は無いけど。
「まあどのみち、あっちでも流通させるけどね。淑女がたに新作をお贈りしなくてはいけないのですよグフフフフ」
とりあえず、姉の悪役じみた笑いが様になっていたのはどうかと思いました。まる。
家に帰ると創作意欲に燃える姉は自室に引っ込んでマンガのネームを切り始め、俺とラディは久々にゲームで対戦。叔父さんと親父とガイさんは武術談義をしていて、簀巻きが一つ居間に転がっている。お袋は一人で何か買い出しに行った。
そんな夏の午後を過ごしたあと、夕食を摂ってから、お袋が嬉々として買いこんできた花火をする。
ラディのためと言ってたが、半分以上はお袋がやりたかったからに違いない。
「平和だねえ」
しみじみ言ってたラディは予定通り、2日の滞在で帰国した。
そして姉の描いた漫画は冬のコミケで完売し、あちらの同好の士にも大好評であった、と姉が満足げに語ったのは、その半年後の事だった。
……宮廷中にばらまかれたら、もうおムコに行けない(違