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校長先生の秘書  作者: しーもあ
第2部 えにぐまとエニグマ 
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えにぐまとエニグマ②

「持ってきたわよ、真路くんのグラス」

 翌日校長室に入ると、美衣さんは開口一番そういった。

「マジ? すげえうれしいんだけど」

「さっそく飲み物入れてくるけど、何飲む?」

 バカラのロックグラスに合うといえば、もちろん氷山のようなロックアイスを入れたスコッチ・ウィスキーだが、さすがに無理だ。というか飲めない。

「麦茶ロックで」

「OK、麦茶のロックね」

 一分後、美衣さんは琥珀色の液体の入った透明なタンブラーグラスを私の机に置いた。ロックグラスじゃないじゃん。まあ、それはいい。ん? だが待て。何かグラスに書かれている。私はグラスを持ちあげ書かれた文字を見た。

『DAKARA』

「これ……バカラじゃなくてダカラじゃん。ちょっ、なんなの、これ」

「高校生ダカラ、それでいいと思うの。ちょうど家にあったし」

「もっ……楽しみにしてたのに」

「真路くんにバカラは早すぎるって」

「まあ、そりゃそうだけど……。でも、こんな珍品どこで見つけてきたのさ?」

「奈緒以前よくポイントシール集めてたじゃない? それで当たったものの一つ。すっかり忘れてたけど、この前戸棚整理してたら出てきたの。奈緒ってハガキとか出すくせに当たったものほとんど使わないのよね」

「そういえば奈緒、こういうの手当たり次第集めてたっけ。パンまつりのときなんか、シール集めてるから真路もあんぱん食えよゴルァと脅された記憶がある。メロンパンナちゃんが突然ギャングになったみたいだった」

「それはそうと、真路くん昨日頼んだ入力終わった?」

「終わった」

「じゃあ頼みたいことあるの」

「ん? なに?」

「この前、市内の公立高校の生徒がつぶやきサイトでお酒飲んだことを書いたらしく、教育委員会で問題になったの。で、そんな生徒いないとは思うんだけれど、一応ウチでも調べることにしたの。もう先生たちのほうで調べてはいるけれど、SNSには友だちにならないと見られないページあるでしょ? 先生たちと友だちになりたい生徒なんて多くはないからなかなか難しいのよね。わたしが偽名でやることも考えたんだけど、でもそれはわたしのポリシーに反するというか、偽名を使うのは生徒に対する背信行為かなと思って気が乗らないの。そもそもわたし、やるのは匿名掲示板専門だしね。そこで真路くんにSNSをやってもらって、もし悪いことしている生徒を見つけたら教えてほしいの」

「つまりは内偵捜査ってこと?」

「そっ、さすがにドラッグに手を出している生徒はいないと思うから飲酒、喫煙と車やバイクの運転もかな。ウチの学校禁止しているし。バイトも許可制だから無許可と思われる場合には報告して」

「なんか密告者みたいで気乗りしない……」

「仕事よ仕事。割り切っちゃいなよ。真路くんどうせ先生の犬だとバレたところで失う友人とかいなさそうだし」

「言い方ひどくね?」

「ま、全部を全部チクらなくてもいいから。他の先生に見つかる前に真路くんが適切に処理できるのなら、真路くんの判断でやってもかまわないから」

「ん? どういうこと?」

「うまくやれってことよ。それならかえってみんなのためになるでしょ。そのかわり問題になりそうなものや悪質なものはすぐに報告して」

「了解」

 チクリ魔だと気乗りしないが、私が注意すればいいのなら話は変わる。この辺の美衣さんの人心掌握術というか、その気にさせる技術はすごいと思う。さすがに友人いない発言はひどいと思うが。

 だが同時にそんなにおまかせで大丈夫か? と心配にもなる。信頼してくれるのはうれしいが、美衣さんはつねづね私を過大評価しているきらいがある。

 

 美衣さんが出ていったあと、私はさっそく仕事にとりかかった。私はSNSにさほど詳しくないので、まずは本田に教えてもらおうとメールした。

 返事はすぐに来た。

「じゃああとで寮に来いよ。一時間後玄関前待ち合わせでどう?」

 私はオーケーと返信してからノートパソコンを立ち上げた。時間まで勝手のわかるつぶやっきーをやることにした。

 この前つくった、みう@フェイントLOVE♡のアカウントでやるのは偽プロフィール等いろいろ具合が悪いので、いったん削除して新しいのをつくった。

 玉ねぎのイラストアイコンをつかった『オニオンをなぞる』くんの誕生だ。

 このあたりの地域の名産が玉ねぎってことのほか特に意味はない。つまり半信半疑でも、あっちで落ち着いて、こっちでひと休みするわけでもない。

 プロフィールはみうのときと違ってシンプルにした。

『新雪学園高校の一年です。よろしくお願いします』とこれだけだ。

 手始めに新雪学園で検索してみると十数人ひっかかった。意外と少ない。

 本名でなくとも、高校名を書くと何かあったときに本人が特定される確率は飛躍的に上がるし、わざわざ書く必要もないといえばないのだからこんなもんかもしれない。

 新雪の生徒とおぼしき人はすべて読者になり、カギがかかっている人には読者申請した。そのあとで、その人たちの過去のつぶやきを漁っていった。「酒」「ビール」「カクテル」「酎ハイ」「タバコ」「たばこ」「煙草」「車」「クルマ」「バイク」「原付」「原チャリ」「免許」「運転」……これらのキーワードを入れて検索していったが、さすがに該当はなかった。先生たちも同じことをすでにやっているだろうから、まあ当然だろう。

 続いて新雪の生徒の読者一覧を漁り、状況的に新雪の生徒だと思われる人を選別していった。カギがついていない人のものなら会話も読めるので、会話内容や話口調、ハンドルネーム、プロフィールなどから判断していくのだが、この作業は時間がかかった。全学年の名簿をプリントアウトして判明している人には印をつけ、クラスや部活から友人を予測していった。

 

 そうこうしているうちに本田との約束の時間が来たのでパソコンを閉じた。

 下駄箱前で待っていると、廊下から本田が顔を見せた。

「急にminiやりたいだなんてどうしたん? この前は乗り気でなかったのに」

「仕事なんだ」

 私は他言しないようにいってから仕事内容を本田にも教えた。本田の協力なしにこの業務はうまくいかない。

「つまりはスパイみたいものか?」

「うーん、そうだな、まあ風紀委員みたいものじゃないか? 先生に見つかる前に注意したり、法に触れることはしない、書き込まないための抑止力として機能すればいいと思うんだ」

 ちなみに新雪に風紀委員はない。

「ふむ。まあ法に触れることをしなきゃいいだけの話だからな。でも古口は風紀委員ぽくはないわ。とても品行方正には見えんよ?」

「ん、まあ否定はできないな。この前さっそくサボっちまったし」

「ああ、バレー部がらみのときか。うわさは聞いてるよん」

「むっ? ホント本田は地獄耳だな。ヘルイヤーと呼ぼう」

「そんな腰が悪そうな呼び方嫌だわ。OK、わかった、協力するよん。そのかわり古口も何かおいしい情報入ったら教えてくれよな。こういうのは持ちつ持たれつだからな」

 本田は黒ぶちメガネのつるを触った。

「オーケー。話せることは話す。おみやげも持ってきた」

「ほう、さすが物事がわかる男だ。とりあえず寮行くか」

「寮はじめてだ。どう? 住みやすいか?」

「悪くはないよ。みんな個室だし、門限以外の規則も厳しくないし、食堂もまずまず。寮の評判いいから新雪、地方から来る人多いんだわ」

「へえ、結構大きいんだろ?」

「でかい。ウチの寮は五階建てで百人以上住んでる」

 本田の住む白雪寮は学校から歩いて三、四分のところにある。白い大きな建物は寮というよりマンションに見える。

「これ、来客用のスリッパ」

 下駄箱でスリッパに履き替えて廊下を歩くと、上級生らしき人とすれ違った。

「ちっす」と本田はあいさつをした。

向こうも「おう」とかそんな感じだった。

「ずいぶん軽い感じなんだな」

「必要以上に上下関係をつくらないというのがこの寮の方針なんだわ。部活でもないし、いまの時代にもそぐわないってことで。だから先輩たちともわりと気楽に話せるんだわ。いい人多いし」

「ふーん」

 

 三階に上がると薄暗い廊下にドアが並んでいた。ビジネスホテルを思わせる感じだ。各部屋にネームプレートがついていて313号室に『本田悟(ほんださとる)』とあった。

「ここだ。入ってくれ」

 部屋は六畳くらいのすっきりシンプルな感じで、室内もビジネスホテルっぽい。クローゼット、ベッド、机、イス、戸棚、テレビはどれも備え付けのもののようだ。

「まっ普通だろ? ほとんどもとからあったものなんだわ。持ってきたのはふとんとパソコンとゲームくらい。まあそこへ座ってくれ」

 本田は机の上のノートパソコンの電源を入れた。私はバッグを床に置き、いわれた通り円形の折りたたみスツールに座る。

「新雪の生徒がやってるSNSってつぶやっきーとminiのほか何があるんだ?」

「最近はスマホのSNSアプリが一番人気だわ。連絡が取りやすいし、スマホユーザーならそれやるやつが多いな。あとゲーム系のや本名でやるSNS、新雪の生徒がやってるおもなところはこのへんかな。といっても一つしかやっていない人はまれだわ。みんな二つ三つはやってる。ウチら一年生は最近始める人も多いから何やってる? とか何オススメ? とかよく聞かれるわ」

「で、何がオススメなんだ?」

「そりゃ何をやりたいかだわ。スマホ持ってて仲間内でやるならスマホアプリが断然便利だし、ゲームメインならゲームサイト、いまやってることや自分の考えとかを不特定多数に語るんならつぶやっきーかminiってとこかな。本名で登録するサイトは外部の人と交流するにはいいけど、高校生がやるにはリスクが大きいから、これは大学生以上がやるものかなって個人的には思う」

「なるほどね。なら飲酒喫煙自慢をするんなら、やっぱつぶやっきーかminiか?」

「まずはその二つからやってみ。スマホアプリで話すケースも多いと思うけど、匿名で知らない人の書き込みを覗き見るのは難しいからな。でも飲酒とかタバコとかそんなこと書き込むおバカさんが新雪にいるとは思えないわ」

「まあな。だが最近市内の公立高校であったらしいし、絶対ないとは言い切れない以上やるしかないからな。一応仕事だし。つぶやっきーはやり方わかるから、さっき新しいアカウントつくったんだ。オニオンをなぞるって名前で。本田のアカウント名は?」

「だっ……」

「えっ?」

 急に声が小さくなったので聞きとれなかった。

「だっほんだ」

 そういうと本田は顔をそむけた。

 おいっ、恥ずかしいのかよ。

 

 本田がつぶやっきーを開いた。『だっほんだ』の読者は三百人を超えていた。

「三百人以上いるんだ。すげえ」

「中学のときからやってるからな」

「このうち新雪の生徒は何人くらい?」

「まだ三十人くらい。つぶやっきーは同級生とか簡単に検索できないからな。聞いたり調べたりしないとわからないんだわ。いまminiで友だち増やしているから、併せてこっちも増やしていくつもり」

「そうなんだ。じゃあminiやるからやり方教えてくれ」

「OK。じゃあいま古口を招待するわ。使うアドレスは?」

 私は手帳にフリーメールのアドレスを書いた。

「招待状送った。それで始めてくれ」

 本田と席を交代してノートパソコンの前に座った。パソコンは校長室のどこかから持ってきたお下がり品と違って真新しい。

「本田、miniは本名なんだ」

『ホンダサトル』様から招待状が届いています、というメールがきていた。

「本名にはリスクもあるけど、利点もあるんだわ。誰かすぐわかるから安心できるし、リアルで会っても話しやすいとか、友だちを増やすには有効なんだわ」

「ふむ」

「友だちを増やしたいんだろ? なら本名でなくても誰かわかるような名前のほうがいいと思うけどな。けどさ、その風紀委員みたい仕事もこのアカウントでやるわけ?」

「どういうこと?」

「たとえば、みんなで居酒屋に飲みに行きます、という書き込みがあるとするだろ。古口のいまつくるアカウントで、これこれそんなことしちゃいけませんとコメントなりメッセージを送るのか?」

「マズイのか?」

「はじめはともかくすぐにウザがられると思うけど。おもにリアルのほうで」

「まあそうかもな。じゃあどうすればいい?」

「それ専用のアカウントつくればいいんじゃないか。『新雪学園高校風紀委員』みたいなものをさ。汚れ役はそのアカウントでやればいい。それで、中の人が古口だとバレないようにすると」

「なるほど。じゃあそうする。自分のアカウント名はどうしようかな」

「普通にマロでいいんじゃないか」

「それだと公家っぽいんだよな」

「ならマーローがいいんじゃね?」

「バーロー、それだと見た目が子どもみたくなっちまうだろ、服部」

「服部? ああ、なるほど。せやかて工藤、真路って名前マーロウつうのからきてるんやろ? なら本家みたくウをつけて『マーロウ』でええやないか?」

「それは畏(おそ)れ多い」

「ひらがなで『まーろう』てのは?」

「さびれた商店街の和菓子みたいだ」

「注文多いな。ならひらがなの『まーろー』でいいだろ」

「うーん……ま、そうするか。町民も知らない町のゆるキャラみたいだけどな」

 そういうことで私は『まーろー』と本田の提案した『新雪学園風紀委員』という二つのアカウントをつくった。

 このminiというSNSは「友だち」にならないと、日記など見られない項目が多いので友だちを増やしていく必要がある。手始めに本田の友だちを見た。全部で六十二人いた。

「本田の友だちは新雪の人が多いのか?」

「いなかのやつらもいる。新雪がらみは五十人くらいだわ。まずは同窓会ってところをクリックして高校名と入学した年を入れてみ」

 いわれた通り『新雪学園高等学校』『今年入学』と入れると、同級生がずらずら百二十三人も出てきた。

「結構やっているやついるんだな」

 一年生は四十名十クラスなので全部で四百人いる。百二十人ってことは三分の一弱が登録していることになる。

「でも学校登録してないやつもいるし、とりあえず登録だけしたってやつも多いから実際何人がやっているのかはわからないわ」

「友だちを増やすコツは?」

「そうな、友だち申請するタイミングを見極めることかな。いくら同じ学校でもいきなり申請されたら嫌がるというか警戒する人もいるだろ。女子だと特に」

「だろうな」

「でも、自分の友だち数人がすでに古口の友だちになっていたら安心感があるというか、私も友だちになってもいいかなって思うだろ。心理的に。だから友だちになりやすい人から徐々に輪を広げていくと成功しやすいと思うわ。古口って将棋好きなんだろ?」

「好きだな」

「将棋でいうところの手順だ」

「なるほど。つまり申請順を考えろということか」

「そう。まず初手として俺の友だちリストにある小林ってやつに友だち申請してみ。同じ寮で新聞部員だ。あとでいっておくわ」

 

 ここで私はクラス名簿を出した。

「何それ、名簿? いいな」

「小林は何組?」

「E組」

 E組の欄にはたしかに小林脩(こばやししゅう)という生徒がいて部活欄に新聞部、備考欄に白雪寮と書いてある。名簿は随時更新され、それが学内LANで見られるようになっている。

「名簿いいな、みせてくれ」

 本田に渡すと、食い入るように見始めた。

「出身中学に部活まで書いてあるのか、すげえわ」

「それがおみやげだ。本田なら欲しがると思って持ってきた。内密にな」

 電話番号や住所、親の職業まで入っている名簿もあるのだが、さすがにそれはまずいのでクラス、番号、名前、出身中学、部活だけのものをあげた。このくらいなら調べれば簡単にわかることなので問題ないだろう。やはり物事を頼むにはそれなりの報酬は必要だ。

「おおマジ? いいのか? うれしいわ。これで誰が何部だかすぐわかるし、交友関係も把握しやすいわ」

 私はいわれた通り「本田と同じクラスの古口です。よろしく」と書いて小林に友だち申請を送った。

「あと小林と友だちになれば、山上さんっていう新聞部の一年女子もきっと友だちになってくれると思う。そんな感じに順を踏んでいくといい。古口の知り合いでやっている人いないのか? 中学時代の同級生とか」

「聞いたことないな。あとで調べてみる」

「次はコミュニティだな。まずはこの前俺がつくった新雪の現一年生のコミュだ。参加者は順調に増えているし、いろいろと情報交換もしていくつもりだから、ここはまめに見るようにしてくれ。あとは新雪学園高校って学校全体のコミュにも入ったほうがいい。これで新雪の生徒だってわかるし、友だちもつくりやすい。ただここはOBOGがメインだから、現役はさほど多くない。ほかは趣味があれば関連するコミュに入ったらいい。本が好きなんだとか映画が好きなんだとか、見ている人にもわかるから話すきっかけになる」

「なるほど。あとで入っておく」

「最後は日記とコメントだな。日記はなんか面白いことでもあったら書けばいいけど、書く際にはできるだけコメントが書きやすい内容のほうがいいかな。たとえばマニアックな本の感想やハードボイルド云々よりは、体育祭はいつだとか数学の宿題がなんちゃらとか高校近くのラーメン屋の味噌ラーメンうまいとかのほうが新雪の人はからみやすいだろ」

「あんまり書く気はないのだが。そう頑張ってやりたいわけでもないし」

「ま、書いていない人も多いし、無理して書くことはないけどな。ただ友だちを増やすのならほかの人にコメントしたり、はじめによろしくとメッセージを送ったりはしたほうがいい。無言で友だち申請しまくりって何だか気持ち悪いだろ」

「それはそうだ。心得た」

 

 扉をノックする音が聞こえた。

「おーい本田、食堂行こうよ」

「あ、もう夕食の時間か。寮は食堂で食べるんだわ」

 本田が扉を開けると、背が低めの坊っちゃん系男子が立っていた。

「これがさっきいっていた新聞部の小林。で、こっちは同じクラスの古口」

「古口です。よろしく。さっきminiで友だち申請させてもらった」

「E組の小林です。こちらこそよろしく。友だち申請ありがと。あとでOKしておくよ。じゃあ本田、食堂先に行ってるよ」

「おす」

「では、私はここでおいとまする。今日はありがとな」

「うす、わからないことあればまた聞いてくれ」

「な、本田」

「うん?」

「今度将棋やろうぜ。できるんだろ?」

「お、いいぜ。古口強そうだな」

「いや、実はそうでもない」

 実際下手の横好きだった。というか親父が亡くなってからリアルで対戦したことがなかった。だから先ほど本田が将棋のことを話したとき一緒に指したいという気持ちがわいた。


 夜、自宅でminiの続きをやると、友だち申請していた人のうち小林をはじめ何人かが承認してくれ、友だちが四人に増えていた。順調な滑り出しだ。続いて本田のいっていた新聞部の山上さんや「気軽に友だち申請してください」とプロフィールに書いてある人、同じ中学で新雪にきているやつら数人に友だち申請をした。

 そういえば奈緒もminiやってたかもと、同級生を調べていくと『なお』というのがいた。プロフィールを見てもそれっぽいし、アイコンも奈緒の好きな『えにぐま』というクマのぬいぐるみだから間違いない。

『えにぐま』とはどこかの町のゆるキャラらしいが、そのメランコリックな表情と愛嬌のなさがなぜかネット上でウケて爆発的な人気となり、いまではゆるキャラの代表格となった。ごくごく一部にはナチスドイツの暗号を彷彿(ほうふつ)させるネーミングはどうなのか、との批判もあったようだが、そもそも日本で暗号のエニグマを知っている人なんて至極わずかだし、人気の渦に批判の声はすっかり飲みこまれてしまった。

 私は奈緒にメッセージを添えて友だち申請を送った。

「トゥットゥルー♪ まろしぃだよ☆」

 コミュニティはどれにしようかな? とあれこれ調べて『レイモンド・チャンドラー』『ギムレット愛好会』と将棋の『高橋道雄九段ファン倶楽部』の三つに入った。やはり自分の好きなものに引き寄せられてしまう。

 ただアニメ関係のコミュは自重しておいた。私ハードボイルドですからそういうのはちょっと困ります。いやホントマジで。アリス・カータレットちゃんprpr

 とかなんとかやっているうちに奈緒からメッセージがきた。

「まろしぃって誰やねん? 笑 真路もmini始めたんだ。急にどうしたの?」

「SNSに悪いことしたと書いている生徒いないか調べてと美衣さんに頼まれたから始めてみた。まあでもとりあえずは普通にやるつもり。ちなみに新雪学園風紀委員ってアカウントもつくったからそっちの友だちにもなってくれ。奈緒、風紀委員って顔しているからぴったり」

 どうせ隠していても、あとから美衣さんに聞くだろうし正直に書いた。

「誰が風紀委員顔だって? 怒 ま、仕方ないから友だちにはなってあげる。そのかわり私が日記書いたらコメントしてね。まるごとバナナの差し入れくらい気のきいたコメント待ってるから♪」

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