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あいどるwakaba 全ての紳士たちへと贈るR15の輝き  作者: 鈴木 厳流彩


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1章一節


1節


 控え室のドアが閉まった瞬間、若葉は細く息を吐いた。


 薄いピンクのオフショルダー衣装は、何度も直したせいですでに少し形が崩れていた。肩口から覗く肌へ冷房の風が触れるたび、そこだけを誰かに指さされているようで落ち着かない。鏡の前なら気にも留めない程度のずれなのに、この部屋では布一枚の位置までが、自分を守る境界のように思えた。


 スタッフから言われたのは、ただの一言。


「今日のクライアントはVIPだから、丁寧にね。」


 それだけで、若葉はここへ送り出された。


 ソファには、すでに男が座っていた。ジャケットを脱ぎ、ネクタイを緩めた姿のまま、部屋へ入ってきた若葉を黙って見つめている。その視線が肩から胸元へ、それから腰のあたりまでゆっくり落ちていくのがわかり、若葉は考えるより先に膝を揃えた。


「……若葉ちゃん、だよね。今日はよろしく。」


「はい……。よろしくお願いします。」


 声が、自分でもわかるほど掠れていた。


 隣へ腰掛けると、クッションがわずかに沈んだ。


 その傾きだけで二人の距離が縮まり、若葉は壁際の時計へ一度だけ目をやった。秒針は何も知らない顔で進んでいる。


「緊張してる?」


「……少し、だけ。」


 男は軽い調子で笑った。その何気ない笑顔が、怒鳴られるよりもかえって逃げ道を塞いでくるように思えて、若葉も曖昧に口元を動かした。


 やがて腰へ腕を回され、身体がゆっくりと引き寄せられる。重心を崩した背中がソファへ沈み、それに合わせて衣装の肩口もさらにずれた。露わになった肌へ近い息が触れ、反射的に布を戻しかけた指が、途中で止まる。


 直していいのか、少し離れていいのか、それともここでは何もせず受け入れることが「丁寧」という意味なのか。


 所属する事務所だけではない。親、学校、友達。

 その誰からも、そこまでは教われなかった。


「んっ……。」


 触れられた瞬間、喉の奥から小さな音が零れる。


 それが自分の声だとわかるまで、ほんの一拍遅れた。

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