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あの教室には、五人しかいない  作者: 飛べない夜鷹/渡辺はるき
第三章

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19/19

あの教室には、五人しかいない


「まだ学校来れるんだ」

女が指を指して笑う。


「今日はどうする?こいつ。」


「粗方やったからなー。今日はこいつの家族使うか」


男がそう発言しても俯いたまま何も言い返せなかった。

何を言っても、また笑われる。

反論すれば、余計に面白がられる。

だから、ただ耐えるしかなかった。

聞きたくもない言葉が、頭の中に何度も響く。

悔しい。

苦しい。

どうして自分だけ。

そう思っても、口には出せなかった。

固く拳を握る。


もう、嫌だ。


胸の奥に溜まっていた悲哀の感情が、少しずつ形を変えていく。

怖い。

逃げたい。

──────違う。

殺す。

頭の中で、その言葉だけが何度も繰り返される。

殺してやる。

こいつらを。

一人ずつ、必ず......。


___________________________________________


その日の夜。

蓮はベッドに横になりながら、今日一日のことを思い返していた。

朝のこと。

悠真との取っ組み合い。

昼休みの会話。

そして、放課後の図書室。

頭の中で何度も同じ場面が繰り返される。

「……」

蓮は天井を見つめる。

やっぱり、気づかれていたのか。

俺たち三人が悠真に対して警戒していることを。

もし、それが本当にバレたら───。

考えれば考えるほど、眠気が遠のいていく。

そのとき。

ピロン。

隣に置いていたスマホから、着信音が鳴った。

「……ん?」

蓮は身体を起こす。

画面を見ると、LINEの通知が表示されていた。

グループが作成されています。

「……グループ?」

蓮は画面を開いた。

グループ名は、【学校の真相を明かす!私たちは最強探偵団】だった。

なんとも紗季が考えたんだろうなと思う陳腐なグループ名に思わず口元が緩んだ。

メンバーを見る。

俺。

紗季。

理央。

すぐにメッセージが届く。


『.....このダサいグループ名はなんとかならないの?』

と発言したのはまさかの紗季だった。

すると、理央が、

『.....明日のことなんだけど』

とスルーした。

『理央って意外と命名するのとか苦手なの?』


『うるさい』


『私がぴったりなグループ名考えてあげる』


蓮は画面を見つめる。


【あの教室には、五人しかいない】


『これどう?』


『蓮、最初の私のグループ名の方がいいよね?』


『こっちの方がいい』


『は?どこが』


『また5人になれたらいいなって思って....』


『そうだな』

少し間があった後に、

『もうしんみりするのはお終いね。本題に入ろう。』

と理央が会話の流れを戻す。

『問題は黒田』


『これ以上、悠真を避けてたら逆に怪しまれるよね。』


『今日もかなり不自然だったと私は思う。』


蓮は昨日からのことを思い返す。

確かに。

自分たちは悠真を警戒しすぎている。

少しでも態度を変えれば、悠真本人に気づかれる可能性がある。


『だから明日は、誰か一人が黒田と普通に話しておいてその間に、残りの人が先生に白石のことを聞く』


蓮は短く文を打ち込む。


『先生に?』


すぐに理央から返事が来る。


『うん』

『白石が休んでいる理由を、先生がどう説明するのか確認したい。そのついでに住所も教えて貰うようにする。』


蓮はスマホを握り直す。

確かに、それしかない。

白石がいないことを、クラスの誰も不思議に思っていない。

だったら。

先生がどう認識しているのかを確かめる必要がある。


『じゃあ明日はそれで』


少し間が空いてから、理央が送る。


『今日はもう遅いから。続きは明日にしよう』


『そうだね。おやすみ』


『おやすみ』


蓮も画面を見つめる。

しばらく迷ってから、短く打ち込んだ。


『おやすみ』


スマホを伏せる。

部屋が静かになる。

蓮は再びベッドに横になった。

明日はどうなるのか。

白石は、クラスにいないのか。

そして。

悠真は、自分たちのことをどう思っているのか。

考え始めると、また眠れなくなりそうだった。

蓮は目を閉じる。

そして翌朝。

目覚まし時計の音で、目を覚ました。

「……朝か」

蓮は重い身体を起こした。

昨日は結局あまり眠れなかった。

「……考えすぎだ」

そう呟いて、蓮はベッドから立ち上がった。


*


学校へ向かう道を歩きながら、蓮は昨夜のLINEを思い返していた。

今日は、白石がクラスにいるかを確認する。

もし今日もいなければ、先生に聞く。

その間、悠真を一人にしない。

今までなら当たり前だったことが、今は一つ一つ慎重になっていた。

昇降口に着く。

靴を履き替えていると、後ろから声がした。

「蓮」

振り返る。

紗季だった。

「おはよう」

「おはよ」

紗季は蓮の顔を見るなり、少しだけ眉を寄せた。


「寝てない?」


「……まあ、ちょっと」


「私も」


紗季が苦笑する。

そのとき、理央も昇降口へ入ってきた。


「おはよう」


「おはよ、理央」


三人は自然と顔を見合わせる。

誰も、昨日のことを口にはしなかった。

周りには他の生徒もいる。

ここで余計な話をするわけにはいかない。

三人はそのまま教室へ向かった。


*


二年三組。

教室の扉を開ける。

いつもと変わらない光景だった。

生徒たちが友達と話している。

机に鞄を置く音。

笑い声。

朝の教室。

蓮は自分の席へ向かいながら、何気なく後ろを見た。

白石の席。

やはり座っていない。

「……」

紗季もそれに気づいたらしい。

一瞬だけ蓮を見る。

理央も、何も言わずに白石の席を見つめていた。

やっぱり。

今日もいない。

それなのに――。

誰も気にしていない。

白石の席が空いていることを、不自然だと思っている様子がない。

まるで、最初からそこには誰もいなかったかのように。

「おはよう、蓮」

突然、声をかけられた。

「……おう」

悠真だった。

昨日と何も変わらない顔で、蓮の横を通り過ぎていく。

蓮はその背中を目で追った。

───こいつは、何も知らない。

少なくとも、そう見える。

そのとき。

「おーい、席つけー」

担任が教室へ入ってきた。

生徒たちが一斉に席へ戻る。

蓮も自分の席に座った。

担任は出席簿を開く。

「じゃあ、朝のホームルーム始めるぞ」

呼ばれるはずの名前を待つ。

しかし。

担任は出席簿をめくった。

「……」

一瞬、間があった。

蓮は息を止める。

先生が顔を上げる。

「今日は……」

その瞬間。

先生は出席簿に目を落とした。


「全員来てるな」


「……え?」


蓮の口から、小さな声が漏れた。

白石の名前を呼ばなかった。

最初から、その名前が出席簿に存在していないかのように。

蓮は周りを見る。

紗季も、理央も同じ表情をしていた。

三人とも、何も言えない。

そして、何事もなかったように前を向く。

昨夜、決めた。

今日は先生に白石の事を聞く。

けれど─────

今の出席確認を聞いて、蓮の中に一つの嫌な予感が生まれていた。

もしかしたら。

もう遅かったのかもしれない。

チャイムが鳴る。

朝のホームルームが終わった。

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