病室の会話
翌日の放課後。
三人は学校を出て、黒田の母親がいる病院へ向かっていた。
「……病院って、なんか緊張するね」
紗季がぽつりと言った。
「そうだな....悠真の母さんだと特にな」
蓮も前を向いたまま答える。
「黒田のお母さん、やっぱり黒田の事聞きたいのかな」
理央が言った。
「分からない。でもわざわざ俺を呼ぶくらいだから、そうだと思う。」
三人の間に、しばらく沈黙が流れた。
夕方の道を歩く。
車の音や、通り過ぎる人の声。
学校にいたときと変わらない日常の音。
「……そういえば」
蓮が口を開いた。
「俺、悠真とは中学の頃から一緒だったんだ」
「それは知ってるけど」
紗季が首を傾げる。
「中学では、同じサッカー部だった」
「初耳なんだけど」
理央は少し驚いた顔をする。
蓮は少し笑った。
「まあ、わざわざ話すことでもなかったしな」
「でも意外。蓮ってサッカーやってたんだ」
「悠真の方が上手かったけどな」
蓮は少し遠くを見る。
「放課後になると、ほとんど毎日一緒にグラウンドにいたよ」
「……へえ」
紗季が質問をする。
「高校では?」
「悠真が辞めたから、俺も辞めた」
蓮の声が少しだけ落ちた。
「……どうして?」
紗季が聞く。
「お母さんのことがあったんだと思う」
蓮は少し間を置いた。
「体調が悪くなって、病院に行くことも増えたらしい」
「そうだったんだ……」
紗季が小さく呟く。
「それから悠真、急に真面目になったんだよ」
蓮は苦笑する。
「中学の頃なんて、練習終わったら俺とくだらない話ばっかしてたのに。高校に入ってからは委員会とか勉強とか、ちゃんとやるようになって」
「責任感が強かったんだね」
理央が言った。
「たぶんな」
蓮は前を向いた。
「……自分がしっかりしなきゃって思ったんじゃないかな」
その言葉のあと、三人はしばらく黙って歩いた。
やがて、道路の向こうに病院の建物が見えてくる。
白い壁。
大きな窓。
人の出入りはあるのに、学校とは違う静けさがあった。
蓮はその建物を見上げる。
「……行こう」
三人は病院へ向かって歩き出した。
*
病院の自動ドアが開く。
三人は中へ入った。
外の暑さとは違い、院内は少し肌寒かった。
消毒液の匂い。
遠くから聞こえる機械音。
廊下を歩く人たちの足音。
「黒田のお母さん、どこにいるんだろ」
紗季が周囲を見回す。
「受付で聞いてくる。」
理央が言った。
蓮が受付へ向かい、名前を伝える。
少し待つと、看護師がこちらへ歩いてきた。
「佐伯さんたちですね?」
「はい」
「こちらへどうぞ」
三人は案内され、病室の前まで来た。
看護師が扉を軽く叩く。
「黒田さん、お友達が来られましたよ」
「……はい」
中から、女性の声が聞こえた。
扉が開く。
ベッドの上に、一人の女性が座っていた。
悠真にどことなく似ていて真面目そうな雰囲気だった。
少し痩せていて、疲れているような顔をしている。
それでも、三人を見ると柔らかく微笑んだ。
「……あなたが、佐伯くん?」
「はい」
蓮が頭を下げる。
「初めまして」
「初めまして。悠真から聞いてるわ」
「……俺のことを?」
「ええ」
女性は少し笑った。
「よく話してたもの」
その言葉に、蓮は少し驚いた。
「そうなんですか」
「学校のこととか、友達のこととか」
母親は三人を見る。
「あなたたちも、悠真の友達なのよね?」
「はい」
紗季が答える。
「私、水野紗季です」
「神谷理央です」
「そう……」
母親は二人にも優しく笑いかけた。
「悠真がいつもお世話になってたみたいね」
「いえ……こちらこそ」
紗季が少し緊張しながら答える。
少しの沈黙。
誰も本題を切り出せなかった。
悠真がいなくなったこと。
あの日、何があったのか。
けれど、目の前にいる母親を見ると、簡単には口にできなかった。
そんな空気を察したのか、母親が口を開いた。




