2.神獣の森と、ララの覚醒
2.神獣の森と、ララの覚醒
ララの背に乗り、北へ走ること約2時間。僕たちはリヴルノヴァ王国とクアトリア王国の国境に位置する、神獣の森に到着した。
「これが神獣の森か。何だかそれっぽいね」
広大な敷地を誇る神獣の森は、その名の通り神獣と呼ばれる理性を持った動物たちが住む森だ。彼らは神の使いとして扱われるだけあって温厚な性格で、魔獣と違って人を襲うことはまずない。
だけどその力は絶大で、ひとたび彼らの逆鱗に触れれば一瞬で世界を滅ぼすと言われている。人々は畏敬の念をもって彼らを崇め、住みよい環境を提供することで、共存共栄を図っている。らしい。
「まあ、実際に出会ったことは一度もないから、本当のところは分からないんだけどね」
それもそのはずで、彼らは神獣の森をはじめとした、特別保護区域にのみ生息している。特別保護区域は神域でもあるので、一般人の立ち入りは固く禁止されている。だからほとんどの人間は、一度も神獣に出会うことなく一生を終える。
そう。屈強な冒険者になって、特別なクエストでも受けない限りは。
「さて、そろそろ行くとするか。と、その前に」
僕は勢い良く、ララの背中から飛び降りた。積んであった荷物を下ろし、手綱と鞍を外す。不思議そうに首をかしげるララ。僕はララの長い首に手を回し、そっと抱き寄せた。僕の頬にひんやりとした肌が触れ、何とも言えず心地よい。
「ここでお別れだ、ララ。今までありがとう」
ララはまるで驚いたかのように目を見開くと、長い首を捻じ曲げてその顔を僕に近づけた。僕は自分に言い聞かせるように、喋り始める。
「いいか、ララ。このクエストは過去に屈強な冒険者が幾度となく挑戦し、誰一人として帰ってこなかったと言われている超危険な代物なんだ。まあ、そりゃそうだよな。世界樹といえば、神獣の森の御神木だ。その御神木の葉っぱをむしり取ろうとする輩がいたら、神獣の怒りに触れないわけがないからね。お前は僕の大事な相棒だ。そんなお前を僕の勝手な都合に付き合わせて、危険な目に遭わせるわけにはいかない。なあに、心配はいらないさ。僕はこれといった攻撃スキルはないが、逃げ足には自信があるんだ。僕ひとりだったら神獣の目を盗んで、世界樹の葉をかすめ取るくらいわけないさ」
矛盾しているのは百も承知だ。だけどせめて自分だけでも自分を信じてやらなくちゃ、足が前に進まない。
「じゃあな、ララ。元気で暮らせよ」
名残惜しさと共にララから身を離し、僕は神獣の森へと歩き始める。すると何者かが僕の襟首を掴み、ひょいと宙に放り上げた。上昇。無重力。そして落下。着地点は、ララの背中の上だった。どうやらララが僕の襟首を咥え、空中に投げ上げたらしい。
「何やってんだよ。僕はお前のためを思って……」
僕の言葉を遮るように、ララが俺を睨みつける。その怒りと悲しみが入り混じった顔を見て、僕はようやく自分の間違いに気づいた。
「そうだよな。苦楽を分かち合うのが、本当の相棒だよな。ごめん、ララ。僕が間違ってたよ」
そう言ってから頭を撫でると、ララは鼻を鳴らしてから誇らしげに胸を反らせた。頼もしい相棒がいるっていうのは、こんなにも心強いものなんだな。
「何だか本当にうまく行く気がしてきたよ。よし、じゃあ行くとするか」
ララはクエェェェッと一声叫んでから、神獣の森めがけて走り始めた。
しかし現実はそう甘くはなかった。
「どうして森に入るなり、シルバーファングの群れが待ち構えてるんだよっ!!」
物語にもよく登場するほど有名な、神獣シルバーファング。その毛並みは銀色に輝き、その姿は獰猛な狼を思わせる。遠目で眺める分には神秘的で美しい生き物なのかもしれないが、追われている身としてはそれどころではなかった。
「ふう……何とかやり過ごしたけど、あいつら姿形からいって嗅覚が鋭そうだからな。地の利だってあいつらにあるし、そもそもが多勢に無勢。状況は圧倒的に不利だな」
僕は地面に降り立ち、腰に下げた剣の柄に手を置いた。できれば神獣を傷つけるような罰当たりはしたくないが、背に腹は代えられない。もっとも、僕の攻撃が通る可能性は、限りなくゼロに近いんだが……。
そんなことを考えていた刹那、急に辺りが暗くなった。見上げるとそこには、飛び上がった2頭のシルバーファング。しまった! 間に合わないっ!!
しかしその爪と牙餌食となったのは僕ではなく、ララだった。
「ララああぁぁぁっっ!!!」
ララは僕を庇い、まともに攻撃を食らった。その滑らかな皮膚は爪で引き裂かれ、首の一部が無残に食いちぎられた。迸る鮮血。ララは力なくその場に倒れ伏した。僕はシルバーファングの存在を無視して、瀕死の相棒に駆け寄った。
「ララっ!! 大丈夫かっ!!」
首は半分千切れかけ、腹からは内臓が飛び出している。大丈夫ではないのは明白だったが、そう叫ばずにはいられなかった。
「大丈夫だよ、ララ。僕が絶対にお前を助ける。お前だけは、絶対に死なせないっ!!!」
僕は心の底からそう叫んだ。
すると僕の中から、不思議な力があふれ始めた。
力は全身を覆って光り輝き、襲ってきたシルバーファングの攻撃を跳ね返す。
僕はその力を、傷口からララに流し込んだ。
するとみるみるうちに傷は塞がり、ララの全身が輝き始める。
黄金に輝くドラゴンが、僕の目の前に現れる。
さすがのシルバーファングも、驚きを隠せない
ドラゴンが大地を震わせるほどの雄叫びをあげる。
シルバーファングは恐れをなしたのか、その場から走り去っていった。
あまりの急展開に啞然とする僕を、ドラゴンがじっと見つめている。
「君は……本当にララなのかい?」
『そうですよ、御主人様』
「えっ! ちょっ……しゃべっ……ええっっ!!」
『これは念話です。この姿ではうまくしゃべれないので、御主人様の脳に直接話しかけています』
「ちょっと待った。理解が全く追いつかないんだが、そもそも君は一体何者なんだ?」
『それを説明するには、さらに御主人様を驚かせることになってしまうのですが……よろしいですか?』
「心配しなくても大丈夫だよ。今更サプライズが1つ2つ増えたところで、大差ないから」
『分かりました。それでは……』
ララはそう言うと、その姿を変化させた。元の地龍ではなく、全裸の美少女に。もう驚くまいと思っていた僕だったが、開いた口が塞がらなかった。ララはそんな僕に勢い良く抱きつき、思いっきり地面に押し倒してくれた。
「初めまして、ご主人様。これがララの本当の姿です」
僕を組み伏せたまま、にっこりと微笑むララ。組み伏せられたまま、大きく揺れる生乳に見とれる僕。聞きたかったこと全てがどこかに吹き飛んでしまったが、とりあえず今はこの幸せを堪能するとしよう。
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