1.Sランクパーティーからの追放
1.Sランクパーティーからの追放
「今日もいい天気だな、ララ」
僕、ノーマン=アーヴィングは、跨っている地龍のララにそう話しかけた。ララはキュルキュルと喉を鳴らしながら、町中に相応しい速度でリズムよく歩いている。
ララを拾ったときは瘦せこけていて、無事に元気を取り戻すのかすら怪しい状態だった。それが今や、大人を2人乗せても余裕で走れるほど元気になり、僕の仕事には欠かせない立派な相棒に成長してくれた。労いの意味も込めて頭を優しく撫でてやると、ララは嬉しそうに目を細めた。
「今日は何だか、いいことがありそうな予感がするよ。そうは思わないかい、ララ?」
ララはまるで言葉が通じているかのように、首を大きく縦に振る。僕は早足になるようララを促し、ギルドへの道を急いだ。
「ノーマン、やってくれたな」
ギルドに着くなり、リーダーのベリンジャーは僕にそう言い放った。
「え? 何のことですか?」
「とぼけるなよ。これに見覚えがないとは言わせないぞ」
ベリンジャーはそう言うと、テーブルの上に首飾りを置いた。確かにその首飾りには見覚えがあった。それは昨日リリアに処分を頼まれて、僕が道具屋に持ち込んだものだ。
だけど買い取り価格は適正だったし、代金も全てリリアに手渡した。手続きに何ら問題はなかったはずだ。ていうか、そもそもどうして売り払ったはずの首飾りがここにあるんだろうか?
「これはお前が昨日リリアから盗み、道具屋に売っ払った首飾りだ」
言っていること自体は理解できているのに、意味が全く分からない。こんな経験は、生まれて初めてだった。
「はい? それは昨日リリア様に頼まれて……」
「はあ? この首飾りは、リヴルノヴァ王家に代々伝わる、由緒正しい品なのよ? 第二王女たるこの私が、手放すはずがないでしょう?」
ますます意味が分からない。確かに王家の紋章は入っていたが、買い取り価格は銅貨5枚の安物だ。由緒正しい品が聞いて呆れる。
「だから言っただろ? いくら雑用係が必要だからって、魔力もない下民をパーティーに入れるべきじゃないって」
モランゴの言う通り、僕には魔力が全くない。いくら剣術や体術に優れていても、魔力のこもっていない攻撃で魔獣を倒すのは難しい。筋骨隆々とした立派な体格が自慢で、単純な魔力量と攻撃力ならベリンジャーをも凌駕するモランゴから見たら、僕なんかヒノキの棒ほどの価値もないのだろう。だがそれとこれとは話が別だ。
「兄さんの言う通りですわ。勇者認定間近と言われている剣豪ベリンジャー様が率いる、誉れ高いSランクパーティー『リヴルの末裔』の面汚しですわ」
モランガの言う通り、ベリンジャーは剣士としては王国内唯一のレベル20到達者だ。近々勇者に認定されるのではないかと噂されているのは事実だし、そんなベリンジャーのために回復魔法を極めつつあるモランガからしたら、僕なんか薬草ほどの価値もないのだろう。
だけど僕だってそんな『リヴルの末裔』の一員になれて嬉しかったし、だからこそこの2年間、いくら分け前が少なくても、どんなにこき使われても我慢してきたのだ。まさか濡れ衣で面汚し呼ばわりされる日が来るとは、夢にも思わなかったけどね。
「それにコイツ、私の胸や足をしょっちゅう盗み見てるのよ」
「リリア様もですか! 私もあのネバつくような、嫌らしい視線には参っていましたの! 全く、気持ち悪いったらありませんわよねっ!!」
これについては弁解の余地はない。だけど僕だって、17歳の健康な男子なのだ。まるで水着か下着のように露出度の高い装備で目の前をうろつかれたら、そりゃあ見ずにはいられない。
「要するにだ。みんなノーマンのような最低のクズ野郎とは、これ以上共に冒険したくはない。そういうことだな」
ベリンジャーの芝居がかった台詞に、他の3人が黙ってうなずく。ここまでくれば、僕にだって察しはつく。
つまりコイツらは、僕をパーティーから追放したいのだ。
「とはいえ、お前も盗っ人のまま追放されたんじゃ、この先苦労するだろう。だからチャンスをやろうじゃないか」
「チャンスねぇ……」
茶番もここまでくれば、いっそ清々しい。僕はこの茶番に最後まで付き合ってやることにした。
「ノーマン。神獣の森に行って、世界樹の葉を取ってこい」
「世界樹の葉って……本気で言ってるの?」
「もちろん本気だとも。で、見事達成できたら、その報酬で盗みの件はチャラにしてやるよ。それにお前には、地龍のララっていう相棒がいるじゃないか。かなりみすぼらしい相棒だが、さみしさくらいは紛らわせてくれるだろうよ」
バカ笑いを始めるリヴルの末裔様御一行を、僕は醒め切った目で眺めた。
このクエストは挑戦者のレベルや人数に制限を設けないフリークエストにもかかわらず、報酬は破格の金貨500枚。つまり事実上攻略不能を宣言している、俗に言う『自殺クエスト』だ。最近じゃ挑戦者すら現れてないこのクエストを、俺ひとりでクリアしてこいと? まったくもってふざけた話だ。
だけど相手は高名な冒険者とお姫様。僕なんかがいくら無実を訴えたところで、誰も信じてはくれないだろう。ベリンジャーよ。勇者なんか目指すより、詐欺師のほうがお似合いなんじゃないか?
「分かった。やるよ」
「ほう。いい心がけだ。じゃあ餞別代りに、俺がクエストの挑戦申請を出してやるよ」
「そりゃあどうも」
いいだろう。僕にだって意地がある。どうせ失うものなど何もないのだから、当たって砕けるのも悪くない。だけどもし万が一このクエストをクリアし、無事に戻ってこれたなら、お前らに然るべき報いを受けさせてやろうじゃないか。そう、復讐だ。
僕はベリンジャーから、クエスト申請済証明書をひったくるように受け取った。そして唯一の味方であるララに跨り、足早にギルドを後にした。
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