19.前途多難の勅命クエスト
19.前途多難の勅命クエスト
「ピエッタ=ピルリット二等書記官です。最初に言っておきますが、私はあなたが大嫌いです。それはさておき、短い間ですがよろしくお願いします」
同行者は出会い頭にそう言い放ってから、深々と一礼した。それからララとキャンに友好的な挨拶をしてから、セシルの前に立った。
「愛しています。セシルお姉様」
「私もだよ、ピピ」
そしてふたりはしばし見つめ合い、濃厚なくちづけを交わした。なるほど、そういうことね。
「あのー、一応ハッキリさせたいので聞くんですが、ふたりは恋人同士なんですか?」
なおも続くふたりの世界に堂々と割り込んで、ララがそうたずねる。君のそういうところ、マジで尊敬するよ。
「うーん、私はそう思ってるんだけど……」
「とんでもございません! 私のような下賤な民草がお姉様の恋人だなんて、恐れ多くもおこがましい! 私の夢はお姉様の性奴隷として、死ぬまでお傍にいさせていただくことなのですからっ!!」
「とまあ学生時代からこの調子でね。まあそこが可愛いんだけど」
「だったら望み通り、奴隷契約を結んでやったらどうだ? 素っ裸にして首輪をつけて町中を散歩させれば、きっと喜ぶんじゃないか?」
「キャンデリーナさんもそう思いますか? 私もお姉様に幾度となくそうお願いしているのですが、なかなか色よい返事がもらえないのです!」
「いや、冗談のつもりだったんだが……なんかごめん」
それにしても黒髪ポニテにメガネ、という真面目そうな外見とのギャップがハンパない女性だ。
だけどこの若さで二等書記官ということは、きっと外見通り優秀な人材でもあるんだろう。しかも厳しく僕を評価するには、うってつけだ。この人選をした人物もまた優秀なんだろうが、友達にはなりたくないタイプだな。
「さて、プライベートは一旦置くとして、そろそろ出発しようか」
「そうですね。それでは改めてよろしくお願いします」
ピエッタはそう言うと、冷め切った目で僕を睨んだ。やれやれ、困ったもんだ。
王国領の西に向かうこと約1日。たどり着いた先にあったのは、広大な敷地を誇る大豪邸だった。
「ここは?」
「霊峰ヒエイの管理を任されている、パルピーノ公爵邸です。現地に向かう前に、挨拶をと思いまして」
ピエッタはそう答えながら、魔法を用いた呼び鈴を鳴らす。きっと来客の応対専門の使用人がいるのだろう。こういう贅沢な人と魔法の使い方は、いかにも貴族らしい。
「なるほどね。ちなみにセシルは面識があるの?」
「元々王都に住まわれていたから、良く存じ上げているよ。表の顔も、裏の顔もね」
「それはどういう……」
僕の質問を遮るように、巨大な門扉が開いていく。その向こうには執事とメイド数人が、最敬礼で僕たちを待ち構えていた。
「セシル様並びに冒険者パーティー『NAP』の皆様、お待ちしておりました。どうぞ中へ」
通された応接室で待っていたのは、車椅子に座ったやせぎすの老人だった。老人はセシルを見るなり相好を崩し、深々と一礼した。
「お久しぶりです。セシル様。このような有様で出迎えることもままならず、誠に申し訳ございません」
「とんでもございません、パルピーノ公爵。こちらこそ急な訪問を快く受け入れて下さり、感謝致します」
「なんのなんの。それにしてもお綺麗になられましたな。王妃もお綺麗な方だが、セシル様の野性味ある美しさは、やはり王に似たのですかな」
「相変わらずお上手ですね。それはそうと今回の勅命クエストに選ばれた、私のパーティーメンバーを紹介させてください」
セシルはそう言うと、僕たちをひとりひとり丁寧に紹介してくれた。パルピーノ公爵はいちいち大げさに表情を作りながら、何度も大きく頷いた。
「申し遅れました。私はフェイオ=パルピーノ。この地の領主を仰せつかっております。まあ、言うなれば都落ちですな」
「そんなことはございません。地方をつつがなく治めることは、国にとって欠くことのできない重要な任務ですから」
「確かに先王の時代より裏方に徹してきた私めに過分な領地と爵位を与えてくださり、老いぼれてなお霊峰の管理という重職を任せていただけるというのは、身に余る光栄というものですな。少し冗談が過ぎてしまったようです。心よりお詫び申し上げます」
うやうやしく頭を下げるパルピーノ公爵を、セシルは冷ややかな目で眺めている。
僕から見た公爵は、田舎で半隠居生活を送ってる人の好さそうなおじいちゃんだ。かと言って僕の知ってるセシルは、意味もなく人に冷たくするような女性じゃない。過去に何か因縁めいたものがあったのか、単に主義主張が相容れないだけなのか、それとも……。
「それでは早速現地に赴こうと思いますので、私共はこれで失礼いたします」
「もうすぐ日も暮れます。長旅の疲れもありましょうし、今日のところはこちらでお休みになられてはいかがですかな?」
「お気遣い感謝致します。ですが暗くなってから確認したいこともございますので」
「そうですか。ではせめて案内だけでもさせてはいただけませんか」
「前回の視察に同行したピルリット書記官がおりますので、気持ちだけ有難くいただいておきます」
「……分かりました。それではくれぐれもお気をつけて」
「ありがとうございます。それではこれで」
パルピーノ邸を出た後、最初に口を開いたのはピエッタだった。
「どう思われましたか、お姉様」
「判断が難しいわね。心証は限りなく黒に近いけど、そう簡単に尻尾を掴ませてはくれないだろうしね」
「そうなのか? そんなに悪い人には見えなかったけど……」
「あの好々爺然とした顔に騙されてはいけないわ、ノーマン。彼はああ見えて、汚れ仕事でここまでのし上がってきた曲者よ。あのにこやかな顔の裏には、どれほどの醜い感情が渦巻いているか分かったものじゃないわ」
「そこまで言うってことは、それなりに根拠があるってことなのかな?」
「その冷酷非情なやり方について、お父様と言い争いをしていたのは事実よ。それに信用できる情報筋からも、お父様を逆恨みして反乱を目論んでいるという話を聞いている。お父様はハッキリ仰らなかったけど、今回のクエストは彼の悪事を白日の下に晒すのが目的だと私は考えているわ」
そう聞かされる前と後では、公爵の印象や言動の意味がまるで違ってしまう。しかし例えセシルの言うことであったとしても、本当に頭から信じてしまっていいものなのだろうか?
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