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18.謁見の間にて


18.謁見の間にて



 僕たちが謁見の間に通されたのは、翌日の昼過ぎだった。身支度を整え、だだっ広い謁見の間の中央で平伏し、王の登場を待つ。

『お父様……王は気さくな方だから、そんなに緊張しなくてもいいよ』とセシルは言うが、それを鵜吞みにするほど楽天家でもない。セシルがパーティーメンバーとしてこちら側にいてくれるのがせめてもの救いだけど、逆に王女を誑かした不埒者と取られる可能性だってある。ヤバイ。益々不安になってきた。


「面を上げよ」


 威厳のある声が、謁見の間に響き渡る。顔を上げるとそこには、肖像画で見知った王の姿があった。


「これからここで起こることは、全て国家機密である。他言は無用じゃ。よいな」


「「「「はい、かしこまりました」」」」


「うむ。じゃあ本題に入る前に、鬱陶しいものは取っ払おうとしようか」


 王はそう言うと、見るからに由緒ありそうな王冠を外し、ビロードのマントを脱ぎ、立派な髭を剝ぎ取った。そこに現れたのは威厳に満ちた国王ではなく、近所に住んでそうなオッサンだった。セシルさん、これは気さくというレベルの話ではないんじゃないかな?


「王よ。あなたは確かに優秀な為政者だが、どうにも自覚が足らん。しっかり立場をわきまえてもらわんと、下の者に示しがつきませんぞ」


 王の後ろで傅いていたふたりのうちのひとり、鎧を着こんだ壮年の男が苦言を呈する。


「ミゲルよ。お前の立場も分かるが、大事な話をコスプレしたままでできるかよ」


「王の正装を、コスプレ呼ばわりしないでいただきたい!」


 ミゲルと呼ばれた鎧の男は、怒りで顔を真っ赤にする。それを見ていたもうひとりの側近、上等な僧衣をきた中年の男がクスクスと笑う。


「笑うな、シューゴ!」


「すまんすまん。だがこういうざっくばらんなところが、王の魅力でもある。普段はちゃんとしてくれているんだから、大目に見てもいいんじゃないか?」


「お前がそうやって甘やかすから……」


 鎧の男は大きなため息をついてから、セシルを除く僕たち3人を睨みつけた。


「いいか、お前ら。ここで見聞きしたことは、絶対に外で喋ってはならん。これは命令だ。分かったな?」


「おいおい。大事な次期勇者候補とそのパートナーを脅すなよ」


「まったくだ。立場をわきまえてないのは、どっちなんだか」


 そんなやり取りが尚も続いている。いい歳したオッサン3人がいちゃついてるのを見せつけられ、僕たちは呆気に取られっ放しだった。


「お父様。そろそろ本題に入りませんか?」


 セシルのひと言で、3人は言い争いをピタリとやめた。


「恥ずかしい所を見せてしまったな。まあ、ついでだから、このふたりを紹介しておこう。こっちの厳つくて見るからに融通が利かなそうなのが、国軍最高司令官のクレイトン将軍」


「何だその紹介の仕方は……まあいい。ミゲル=クレイトンだ。さっきはすまなかったな」


「で、こっちの常に笑顔で見るからに腹黒そうなのが、聖教会トップのレナード教皇だ」


「皆さん初めまして。シューゴ=レナードです。以後お見知りおきを」


「そして俺はトゥバロン=レアル=リヴルノヴァ。この国の王だ」


 僕たちもそれぞれに自己紹介をしてから、再び平伏した。すると正面から、誰かが近づいてくる気配がある。僅かに顔を上げる。すると王が側近を制止し、ひとりで壇上から降りてくるのが見えた。そして僕たちのすぐ近くまでやってきて、毛足の長い絨毯の上に胡坐をかいた。


「君たちも楽にするといい。箝口令を敷いたんだから、不敬を咎められることもない。そうだな、クレイトン将軍」


 クレイトン将軍は苦虫を嚙み潰したような顔をしたが、特に否定もしなかった。それならばと僕も絨毯に尻をつけ、王に倣って胡坐をかく。ララとキャンは僕にくっつくようにして、横座りの姿勢をとった。


「ところでノーマン君」


「はい、何でしょうか」


「君はセシルの誘いを断ったそうだね」


 勇者認定や恋獣使いの話かと思いきや、いきなりぶっ込んできやがった。そう来るんだったら、僕もそれなりの対応をしようじゃないか。


「断らないほうが、よかったですか?」


「そこがまあ複雑でな。セシルは女の子に好かれるし、当人もそれを楽しんでいる。王としてはさっさと政略結婚でもさせて、無理にでも世継ぎを産ませたい。しかし親としては、可愛い娘の意思を尊重したい。と、そこに現れたのが君だ。王としては相手が勇者なら文句どころか、是非にとお願いしたいくらいだ。しかし親としては、女連れの恋獣使いなんざ願い下げだ。思うに任せないってのが、素直な気持ちだな」


 何とも正直な王様だ。あまりに正直過ぎて、裏があるんじゃないかと疑いたくなる。しかしクレイトン将軍の苦り切った顔を見る限り、どうも計算じゃないみたいだ。


「世継ぎなら、リリア様に産ませればいいじゃないですか。ベリンジャーだって勇者候補のひとりなんですから、内情はどうあれ格好はつくでしょう?」


「痛い所を突くね。まあ、君も知っての通り、あの子たちは己の欲望に囚われ過ぎている。 あれが王と王妃になったら、この国はおしまいだ。だが現状では、その選択肢を排除できない。だからこそ、君にかかる期待は大きいわけだ」


「それは僕が、勇者に選ばれたって意味ですか?」


「いや、そうではない。その資質は認めるが、まだ足りないものが多いからな。勇者認定を受けるには、ベリンジャーより勇者に相応しいと証明することが最低条件になる」


 その言葉を聞いて、僕はちょっと安心した。セシルの言動から王の判断力を怪しんでいたが、どうやら杞憂だったようだ。


「そのためには、何が必要なんでしょうか?」


「レベルと実績。あとは好感度だな」


 レベルと実績が足りないのは素直に認めるが、好感度ってどういうことだ? 国民的な人気者にでもなれっていうんだろうか。


「そこで君たちには、勅命クエストを受けてもらいたい」


「勅命クエスト、ですか?」


 勅命クエストとは読んで字のごとく、王の指名でのみ受けられる特別なクエストだ。当然制約や難易度が高いが、その分もらえるクリアポイントも桁違いだ。


「本来なら闇に葬りたい案件なんだが、もうその段階は過ぎてしまった。適任者も現れたことだし、あえて大っぴらにすべきだと判断した」


「話が見えないのですが……」


「詳しいことはセシルに伝えてあるから、後で聞いてくれ。それから今回に限り、同行者をつける。あとで紹介するからよろしく頼む」


「お目付け役ってことですか」


「そんな顔をするな。確かにそういった側面もあるが、クエストの一部始終を報告する役割も担っているんだ。君がことの顛末を細大漏らさず報告書にまとめて提出してくれるなら、同行者の件はなかったことにしてもいいが……」


「同行者、大歓迎です」


 それじゃなくても無理難題を押しつけられてる感満載のクエストなのに、面倒なデスクワークまでやらされたんじゃ、たまったもんじゃない。


「それじゃ、決まりだな。では早速出発してもらいたい」


「これからすぐに、ですか?」


「心配しなくても、準備は全て整えてある」


 さすがは王様。かなり強引だし、手回しがいい。しかも愛嬌たっぷりの人柄のせいか、押しつけがましさや鬱陶しさを感じさせない。これも立派な王の資質なんだろうが、部下になったら知らず知らずのうちにこき使われそうで怖い。


「分かりました。それで、目的地は?」


 王は表情を引き締め、背筋を伸ばす。そして謁見の間全体に響き渡る声でこう言った。


「霊峰ヒエイ。神獣の種族がひとつ、霊鳥族の住む神域だ」

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