15.新たな冒険者パーティー
15.新たな冒険者パーティー
「盗人のくせに、よくもまあおめおめと顔を出せたもんだ。ちなみに、あのクエスト挑戦したのか? ああ、悪いこと聞いちゃったな。腰抜けのお前に、そんな大それたことできるわけないもんな。もっとも、あの後申請取り消しちゃったから、挑戦しても無駄だったんだけど」
ベリンジャーは馴れ馴れしく僕の肩に手を回しながら、下卑た笑みを浮かべている。この3日で何があったか知らないが、建前の善人面が崩壊している。まあ、僕の知ったことじゃないけどね。
「何だよ、ノーマン。クラスチェンジしたのか? それじゃなくてもクソ弱いのにレベル1からやり直すとか、魔獣の毒が脳みそに回っちまったんじゃねぇのか? どうせステータスもクソなんだろ? レベル12の戦士であるモランゴ様が評価してやるから、恥ずかしがらずに見せてみろよ」
それまで様子見をしていた冒険者たちが、一斉に笑い声をあげる。それに気をよくしたモランゴが、今度はララとキャンにちょっかいをかけはじめた。
「こりゃまた随分と、綺麗なお嬢ちゃんたちじゃねえか。どうやって誑しこまれたんだか知らねえが、こんなクズ野郎と一緒にいたらアンタらまでクズになっちまうぞ? 悪いことは言わねえから、俺たちのところに来いよ。たっぷりと可愛がってやるぜ?」
「マスター。コイツ殺していいか?」
モランゴは一瞬キョトンとしてから、豪快に笑った。
「いいねぇ。威勢のいい女は嫌いじゃねえ。だがひとつだけ忠告してやろう。冒険者はレベルが全てだ。レベルが低い奴は、高い者に敬意を払わなくちゃならん。だからレベル1のお嬢ちゃんたちは、俺のことをモランゴ様と呼ぶんだ。分かったか?」
ヤバい。ふたりともブチ切れそうになってる。外ならともかく、ギルド内での暴力行為はご法度だ。何かいい方法はないものか……。
「あの、すみません」
「ああ?」
ぞんざいな返事をしながら振り向いたモランゴが、目を見開いてたじろぐ。非難めいた視線をリリアに送ったが、リリアは首を振るばかりだった。
「……失礼しました。何でしょうか、セシル様」
「まだこちらの用件が済んでいませんので、受付が空くまでもう少しお待ちいただけますか?」
「ちっ……分かりましたよ」
渋々といった様子で、モランゴが引き下がる。しかし第一王女に舌打ちするとは、いい度胸してるな。悪い意味で。
「それでは次に、クエストクリアの確認をお願いします。ああ、その前にクエスト参加メンバーの追加を……」
「ちょっと待った」
横槍を入れてきたのは、リリアだった。
「姉さん。まさかその3人を、追加するするつもりじゃないわよね?」
「もちろんそのつもりですけど、何か問題でも?」
「大ありよ。そっちのふたりは知らないけど、ノーマンはレベル4で、役立たずの雑用係だったのよ? クラスチェンジしたからレベルを上げたいんだろうけど、噓のクリアポイントをでっち上げるなんて、いくら王族でも許されない重大な違反行為よ」
「あの、御主人様。クリアポイントって何ですか?」
ララが俺の耳元で囁く。冒険者なんて無縁の暮らしをしてきたララとキャンが知らないのも無理はない。僕はふたりに向けて説明を始めた。
「その前に、まずレベルについて説明しようか。冒険者のレベルは、強さとクリアポイントのふたつで決定されるんだ」
「強さとクリアポイント、ですか?」
「そう。強さはそのクラスに適したステータスやスキルの高さ。そしてクリアポイントは、クエストやダンジョンをクリアしたときに、その難易度や貢献度に応じて獲得できるポイントのことだ」
「つまりレベルアップには、その両方の数値が基準を満たす必要があるってことだな?」
「その通りだよ、キャン。だからいくら強くても、クリアポイントがない僕たちはレベルアップできない。つまりリリアは僕たちが不正にクリアポイントを取得しようとしてるって、難癖をつけてるんだよ」
「なるほど。つまりリリアはクソってことですね」
「そうだな。クソビッチだな」
「その呼び方はよくないな。リリアは僕たちよりレベルが高いんだから、クソビッチ様って呼ばなくちゃ」
ララとキャンがこらえきれずに、クスクスと笑っている。リリアがこっちを睨んだが、僕はそっぽを向いて知らん顔をした。
「ところでリリア。あなたやっぱりバカなのですね」
「なっ、何ですって!」
「冒険者の活動は基本的に自己申告なのですから、それを言い出したら冒険者という職業自体が成り立たなくなってしまいます。そんなことも分からないのだから、バカと言われても仕方ないでしょう?」
「そ、そんなのは詭弁だわ。仮にダンジョン攻略に参加していたからって、大して役には立ってないに決まってるんだし……」
「ラスボスを倒したのはノーマンです。まあ、証人と呼べるのは私だけですから、信じなくても構わないですが……登録できたみたいですね。それではノーマン、ララ、キャンデリーナ。ステータス更新してみて下さい」
僕たちは言われるがまま、ステータスを更新した。
「一気にレベル8になりましたよ、御主人様!」
「なっ……!!」
リヴルの末裔のメンバーはいうに及ばず、そこにいる冒険者のほとんどが驚いていた。僕は復讐を始める絶好の機会だと判断し、練っていた作戦を実行に移した。
「すみません。いっぺんに色々頼んで恐縮ですが、クエストの挑戦申請をお願いできますか?」
「はい、構いませんが……」
「それじゃあ、世界樹の葉採取のクエストを3人分お願いします」
「はあ……」
僕はララとキャンを呼び、それぞれにクエストを受けさせた。フリークエストはレベルを問わず、同時に何人でも受けることができる。おかげでクリアポイントが、三等分にならなくて済む。
「よし、申請完了。それじゃあ、次はクエストクリアの確認をお願いします」
腰に下げた布袋から世界樹の葉をとりだし、ララとキャンに1枚ずつ手渡す。順序が逆になっているが、手続きに問題はないはずだ。
「世界樹の葉が、本物であることを確認しました。クエストクリア、おめでとうございます。それで報酬なのですが、とりあえずおひとり様の分だけしかご用意できないのですが……」
「じゃあ、とりあえずひとり分だけ下さい。それからステータス更新、お願いします」
「かしこまりました」
さっきは元々のレベルが低かったおかげもあって、一気にレベル8までジャンプアップした。さすがに今回はそこまで上がらないだろうが、できればレベル12を超えて欲しいところだ。
「すごいぞ、マスター。もうレベル15だ」
「ふざけるな!」
ベリンジャーはそう叫ぶと、受付に走り寄ってきた。そして僕を押し退け、ステータスの表示を食い入るようにチェックし始めた。
「おいおい冗談じゃないぞ! たったふたつのクエストをクリアしただけでレベル15だって? 俺がレベル20になるまで何年かかったと思ってるんだ!」
「それは貴様に才能がないだけだろう?」
「そうですね。単純に弱っちいだけです」
「なん……だと?」
こめかみに青筋を立てたベリンジャーを、リヴルの末裔のメンバーが必死に止めている。掴みかかってくれたほうが面白かったんだが、十分楽しめたのでよしとしよう。
「皆さんお揃いだから丁度よかった。はい、これ」
「なんだ、これは」
「ベリンジャーが僕に濡れ衣を着せてまで欲しがっていた、金貨500枚だよ。これでチャラにしてくれる約束だったろう? まあ、僕は無実なんだけど、これで君たちが黙ってくれるなら安いもんだよ」
ベリンジャーは身動きが取れそうもないので、金貨の入った袋をモランガの前に差し出す。モランガはかなりためらったが、結局誘惑に負けて受け取った。
「さて。これで用件は全部済んだかな」
「ノーマン。ひとつ提案があるのですが、よろしいですか?」
「何でしょうか?」
「私たち4人で、パーティーを組みませんか?」
その提案は、またもや冒険者たちを驚かせた。セシルは今回みたいな特殊任務で臨時のパーティーを組むとき以外は、基本ソロで活動している。ベリンジャーと同等の実力を持ちながら、レベル18に甘んじているのはそのためだ。そのセシルが急にパーティーを組もうだなんて、何か心境の変化でもあったのだろうか?
「本当に、いいんですか?」
「いいも悪いもありません。私はずっと、ノーマンの側から離れたくないのです。ダメでしょうか?」
「それは一先ず置くとして、パーティーを組むって話は是非ともお願いします」
「じゃあ決まりですね。では登録にあたって、パーティー名はどうしましょうか」
「はーい」
ララが元気よく手を挙げる。僕は目線を送り、先を促した。
「ノーマン&プリンセス、略してNAPっていうのはどうでしょう?」
「うん。いいじゃないか」
「NAP(昼寝)っていうのはいいけど、正式名称は僕の名前がガッツリ入ってて、ちょっと恥ずかしいんだけど……」
「それでは決まりということで」
セシルはそう言うと、登録申請を始めてしまった。なんかちょいちょい無視されるんだけど、君たち本当に僕のこと好きなのかな?
「登録完了しました。ちなみに冒険者パーティー『NAP』様は規定により、Sランクにランキングされます」
「俺たちと同じ、Sランクだと……」
モランゴが呻くようにそう呟く。国内唯一のSランクパーティーという金看板を奪われたわけだから、無理もない反応だろう。
「それでは同じSランクパーティー同士、これからも仲良くしようじゃないか。なあ、モランゴ」
「このクソアマ、ふざけんな!」
「ふざけてなどいないさ。それとクソアマではなく、キャンデリーナ様と呼べ。何しろ私は、貴様よりレベルが高いんだからな。分かったか?」
こめかみに青筋を立て、歯ぎしりをするモランゴ。まあ自分で言ったんだから、ちゃんと守らなきゃねぇ?
「貴様ら覚えてろよ。絶対タダでは済まさんからなっ!」
そんな捨て台詞を背中で聞きながら、僕たちはギルドを後にした。ちょっといじめ過ぎた気がしないでもなかったが、スッキリしたのでよしとしよう。
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