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破章:暴食と小さな幸福-2

 


 無我夢中で走っていたクートゥ。しかし彼女は無自覚に、そして本能的に故郷である魔族の国へと舵を切り、そして図らずも里帰りをしてしまったのです。


 しかし、いざ到着して目の前に広がっていたのは惨劇。


 巻き上がった粉塵で灰色に染まった空から鎧を身に纏った天族が槍や魔法を放ち、地上で逃げ惑う魔族を次々と屠っていく。


 そんな目を覆いたくなる故郷の景色に、クートゥは項垂れ、再び膝をつきます。


『ま゛に゛あ゛わ゛な゛がっだ……。お゛ぞ、がっだ……』


 自分は何故帰って来たのか、という疑問など彼女には最早どうだっていい。


 ただ国や友に背中を押されて出立したにも関わらず、成果を持ち帰るどころか帰る事も憚られるような事態に陥ってしまった事。


 そして何よりに英雄になれなかったせいで故郷が燃え、仲間が死に、魔族が敗北寸前まで追い込まれているという残酷な現実を前に、クートゥは打ち(ひし)がれてしまいました。


『どゔずれ゛ば……どゔずれ゛____』


 ぐぎゅるるるる……。


 しかし、そんな彼女にお構いなく、空腹は襲ってきます。


 それどころか先程の場所に居た時よりも空腹感は強くなっていたのです。


『ぐぞっ……な゛ん゛でぇぇ……』


 彼女は知りません。いや、知らないフリをしているのです。


 その空腹は、〝血〟の匂いを嗅いでから強くなっていたのだと……。


『ぐぞっ……ぐぞっ! ぐぞぉぉっ!!』


 クートゥは何度も何度も鳴って止まぬ自身の腹を殴ります。


 どうかこの痛みで紛れてくれ、と願いながら、彼女は何度も何度も何度も何度も、殴ります。


 ですがそれでも彼女の空腹感はそんな痛みすら飲み込んでしまうように止むことはなく、絶え間なくクートゥを苛みました。


『あ゛ぁぁ……あ゛あ゛ぁぁぁぁ……』


 思わず嘆きの唸り声を漏らすクートゥ。


 と、その時でした。


『チクショウっ! やらせるかっ!!』


『……あ゛ぁ?』


 クートゥは聞き馴染みのある声が聞こえ、ふと項垂れていた顔を上げます。


 するとそこには出立前に神殿の剣の事を教えてくれた同僚であり友のダロスが居るではありませんか。


『ダロ゛ズっ!!』


 どうやらダロスは二人の天族から追い回されているようで、上空からの槍攻撃に彼は悪戦苦闘していました。


 ダロスは強い剣士です。しかし上空という優位性を取られ、尚且つ二人掛かりである事、更に彼自身が既に怪我と疲労で困窮しており、このまま放っておけばいずれ必ず彼は二人の天族によって亡き者にされてしまうでしょう。


『ダロ゛ズっ、だめ゛……だめ゛っ!!』


 クートゥは気が付けば飛び出していました。


 何十年と苦楽を共にした友人を目の前で見殺しには出来なかったのです。


 彼女は自身の姿が化け物である事も忘れ、空中で優越感に浸っている二人の天族に向け跳び上がり、その鋭く歪んだ爪を振り下ろしました。


 決着は一瞬。


 まるで泥人形を潰し割るように鎧ごと二人の天族を真っ二つに切り裂きました。


 クートゥは、地面に着地すると自身の力が本当に英雄級になっていると実感し、血に濡れた両手の爪をまじまじと見下ろします。


『わ゛だじ……。っ! ダロ゛ズっ!!』


 いくら助けたからといってあのまま怪我を放っておけば大事に至る可能性があります。


 それを心配したクートゥは友である彼に振り返ろうとしました。


 しかし。


『がはっ!?』


 彼女の胸から、刃が飛び出します。


 クートゥはゆっくり振り返ると、そこには彼女の背後で剣を背中へと突き立てる、助けた筈のダロスの姿があったのです。


どんどん悲惨になっていく(笑顔)

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