マウの告解(マウ視点)
二年振りです、お待たせしました。
ラスト以外はマウの語り形式になっています。
露骨な描写はありませんが、最後にマウがソマリに襲われる描写があるので苦手な方はすっ飛ばしてください。
あのですね、まず第一に。
本当に、ほんっとーにですね、神様……じゃなくて、ソマリお嬢様に誓ってですね。
あ、しつこい? 「そんなに念を押さなくても大丈夫よ」?
それじゃあ、言いますけど。
私、本当にお嬢様とあの時、庭で会うまでの記憶がないんです。
……え、「それにしてはあのたくさんの知識は何なんだ?」
本当にそうですよね!
私も分からないんですよ!
まるで、ググル先生に聞いたみたいに突然知識が頭の中にポンって出てくるんです。
……あ、え? ああ……ググル先生は妖精さん、ですかね? うん、なんかそんな感じです。
人間じゃないんで、妬かないでくださいよ。
え、ぁ? 妬いてない? 「いいから話を続けなさい」?
すいません、続けるんで服脱がせないでください。
第一印象は『可愛いなぁ』でしたかね。その貴族特有の喋り方も、貴族だなんて知らなかったんで大人っぽくみせたいのかなーとか思ってましたし。
いや、まあ、すぐに隷属の首輪とか言うから怖い子だなって思いましたけど。
でもね、ちょっと安心したんです。
……え? いやいやいや!
別に被虐趣味はないです! 緊縛とか断固拒否ですからね!?
っていうか何でそんなこと……お・か・あ・さ・ま!!
もう、話戻しますけども。
怖かったんですよ。いや、お嬢様じゃなくて。
自分の真っ白な頭の中を探ってみたら自分のことなんてひとつもないのに、人や世界を簡単に壊せる知識がたっくさん出てきたんですよ?
化け物じゃないですか。
あいにく私は心根は小市民ですからね……人や世界を壊すよりもお嬢様に美味しい物を食べさせたり、楽しいことを体験することに魔法も使いたいですし。
だから怖かったんですよ。何もない自分が、何でも出来ることが。
頭の中もね、化け物だったらもっと楽だったかもしれませんね。
でもそうしたら、ソマリお嬢様とこんな風にラブコメしてなかったでしょうけどね。
あ、それでですね。首輪なんですけど。
まあ、着けられてすぐ『あ、これ外せるわ』とは思ってたんですけど。
外せたんですけどね、ソマリお嬢様言ってくれたじゃないですか。
『記憶もない、不可能を可能にする魔術をホイホイ見せるバカなお前は、この庭から出たら簡単に食い物にされてしまう』『家族に紹介するには危害を加えないと示さなければ会わせられない』って。
それを聞いて『あ、この子、言い方は高飛車だけど守ってくれるんだ』って。
この首輪は守ってくれる為のものか。
って、分かったらすごく安心出来て。
真っ白な自分に、まずお嬢様が書き込まれたんですよ。
……あー、お嬢様めっちゃ照れてる。可愛いなぁ。
だから照れ隠しに服脱がそうとするのやめてくださいって。
ええ、まあ、それでですね。
しばらく様子を見ても、お嬢様は私があげた蒼い薔薇を嬉しそうに見る割に、何もねだらなかったじゃないですか。
逆に私にいろんな教育を受けさせてくれましたし。
いや、まあ、歴史以外必要ないって言うか、私がお嬢様に教える側でしたけど。
『駄猫のくせに』って目で見るのやめてくれません? って、「駄猫じゃない」ってひどいじゃないですか!
ああ、もうまた脱線した。
ええとですね、ですから私に良くしてくれるお嬢様にですね。恩返ししたくて色々しました。
悲しい時には、少しでもその傷が癒えるように甘い金平糖の雨を降らせて。
辛い時には、少しでも気持ちが上向くように自転車をこいで夕日を見に行って。
お嬢様が大切に思っているから、領民の生活が少しでも良くなるように異世界の知識を喚び出して。
ソマリ様がちょっとでも楽しくなれるように、楽になれるように、笑えるように。
私なりにやれることを探しました。
……あのね、それでね。
そうしている内にね、気付いたんだ。
ソマリ様の瞳が、面白そうな猫を拾った瞳から徐々に変わっていったのは。
どんどんね、そのおっきくて綺麗なつり目に、熱が灯っていったのは分かってたんだ。
君が私に恋をしていったのは、知っていたんだ。
……うん、嬉しくないわけないんだけどね。
好意を向けられるくすぐったさと同時に、申し訳なさが生まれてね。
だって考えてもみてよ。私はなんにもわからない、なんでもできる化け物だよ。
お嬢様には物珍しいペットに見えてたかもしれないけど、私にとっての自分の評価なんてそんなもので。
たぶんこれはお嬢様以外の人の評価と早々変わらないと思うんだよね。
だからね、そんなね、そんな奴が。
お嬢様に好かれるなんてあっちゃいけないと思ってたんだよ。
……うん、『思ってた』だから。ソマリ様、過去形だから。
だから服脱がして既成事実をすぐ作ろうとしないでくださいってば。
まだ話は終わってませんって。
すぐシリアスからエロに持ってこうとするのやめてくださいって。
一生懸命考えたんですよ、私だって。
めちゃくちゃ悩みましたよ。
でもね、でも、それでね、あの。
キムリック様、おとうさまに言われたんですよ。
『学園にはお前を連れては行けないよ。もちろん、ソマリが王家に嫁いだ後も一緒にはいられない』って。
ああ、そうだよなぁ。当然だよなぁ。
って、わかってたけど目をそらしてたことを突きつけられたんですよね。
このまま、なあなあの状態でぬるま湯みたいな楽しさの中にずっとはいられないんだよなぁって。
あのね、それでね、その。
ずっとね、あの、ソマリさまとずっと一緒にいられないのはやだなぁって。
飼い主とペットでも、どんな関係でもいいから、ずっとソマリさまと一緒にいたいなあって。
思ったから、キムリック様に相談したんです。
『どうしたらソマリさまとずっと一緒にいられますか』って。
そうしたら、キムリック様が一枚の地図をくれて。
『ここで全力を出しなさい。この場所でお前の全力を示してきなさい』
って、言われて。
もしそこで認められたら、お嬢様と一緒にいられる可能性ができるんですって。
あの、だから、そのぉ……大変心苦しいんですけど、あのぉ……
告白の返事、待ってくれませんか?
あのっ、そこで認められたら、改めてお嬢様を貰いに来ますから!
キムリック様にも、あのいけ好かない王子にも、反対されないようにしますから!
だから、それまで、待ってください。
……え? 期間?
あ、三年ですね、はい。
ちょうどお嬢様が学園にいる期間と同じです。
どうせ会えないし、時間は有効利用した方がいいかなって。
卒業と同時にお嬢様も成人しますし、それまでになんとかしたいなあって。
ん? え? 『生殺し』? 『何年待ったと思ってる』?
えっ、いやっ、あのっ!
まって! まって、お嬢様!
じゅんばん! 順番守って!
まってまって! ちょ、ぜんぜん振りほどけない!
まっ……ぁっ……!
「お、お嬢様ぁぁあああああ! だめですってばぁあぁああああああ!」
私の下で藻掻く猫の爪などひどく可愛いもので。
「嫌よ。目の前に美味しそうな御馳走があると言うのに、食べずに皿を下げさせるほどスノーシュー家の人間は愚かではないわ」
「ひっ!?」
「安心なさい。優しくできるように努力はするわよ」
「せめて保障くらいしてくださいよぉ!」
私の下で鳴く猫の声は私をいつまでも燃え上がらせた。
お読みいただきありがとうございました。