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後編

「は? フジバヤシさんが抜ける!?」


 ど、どどどどど、どーなってるの!?

 無事に神鎧手に入ったんだろ?

 成功に導いた立役者たるフジバヤシさんがなんで抜けるの!?


 二人きりで話したいというフジバヤシさんから衝撃の一言が俺にもたらされた。そら混乱もするよ。


「申し訳ござらん。されど拙者ではあのパーティを耐え切ることは不可能でござる。あのような者たちを纏められる貴殿が凄いと感じているでござるよ。みてくだされたった数日ではござるがこれこの通り」


 そうして取られた頭巾の下からはいくつかの円。たった数日でいくつもの円形脱毛症をおつくりになられたらしい。


「まるで吸い込まれるように罠に向かっていく姫殿と騎士殿。勇者殿の目を盗んで拙者に嫌味をぶちまける聖女殿。用意していた兵糧丸まで食べつくす魔法使い殿。どんな時でも色事だけは忘れぬ勇者殿。いくら身分が上の雇い主とはいえあのままあそこにいたら拙者は狂い死ぬでござる」


 おーまいがっ。耐え忍ぶ者と書いて忍者。そのなかでも特級の使い手である彼にそこまで言わせるのか。


「貴殿にはまっこと申し訳ないでござる。無論、拙者にも責があるゆえこちらを貴殿に進呈しよう。拙者の持つ技術を纏めた巻物でござる。本来なら次代のシノビに託すものであったが貴殿の助けになるならば本望でござるよ」


 ちくしょう! どうしていい奴だけが離脱していくんだ。


 世の無常に涙しながらフジバヤシさんの背中を見送った。







 それから巻物を片手に必死こいて修練する。その間、あのアホ共を放置するわけにもいかないので宿に泊まれなくなるぞと脅しをかけ素材狩りに行かせた。


 幸いにして今まで我流でやってきた下地がうまく馴染んだおかげで一週間ほどで最低限のスキルなどを習得できたんだ。索敵のスキルは一定範囲の獲物を感覚的に感じたり隠密のスキルで今まで以上に敵を強襲しやすくなった。俺は一体どこへ向かっているのかと疑問に思うがそれでも生き残るためだから仕方ない。火力は後ろのやつらに丸投げだ。



 やっと合流できた俺が見たのは前以上にわがまま放題にになったパーティの面々だったけれども。

 なんとか習得してきたことに対する労いもなければ尊大な態度も変わらない。


 やっと冒険に戻ったのだが俺が離脱する前よりも待遇は悪化する。


 下着すら洗わなくなった女性陣は見ないで洗えという無茶な注文をするもんだから目隠ししたままでも洗濯が出来るという特技が身についた。


 そんな時に下着がなくなりましたと騒ぎ立てる聖女(極悪)。


 知らんがな。散々俺だとわめき散らしたが後々勇者の部屋で脱ぎっぱなしだったことが判明。無論、謝罪はない。




「スキルを習得して強くなったんだろう?」



 そう言って俺を稽古と言う名の折檻に誘うのは女騎士。スカウトのスキルだと言ってるだろうが。筋肉ズと違って教えるでもなくただ俺へと打ち込み満足すれば去っていく。

 何度となく無理矢理連れ出され切り傷擦り傷打撲が日常茶飯事になっていた。



「ヤトカ、ヤトカ。鳥獲って来たから調理して」


 女魔法使いのメリア。まぁ、この子はいいか。調理が苦手なのは自覚しているから獲物持込で依頼しにくるだけまだいい。口いっぱいに頬張っているところを見れば俺の荒んだ心も少しは癒されているし。

 ついつい頭を撫でてしまうのだが嫌がられてはいないから平気か?



 勇者と姫さんは知らん。今日もどっかにしけこんでいる。もはや何を言っても無駄だと達観しはじめた。






 遅々として進まぬ魔王への道。


 それでも少しは進んでいると思っていた。


 そしてあと一つ山を越えれば魔王の領域ってところで立ち寄った町でそれはおきた。


「ああ、今日からこの子を連れて行くから」


 勇者が連れてきたのは武器屋の娘。確かに鍛えてはいるようだがなんで今この時に?

 その娘のほうは頬を染めて勇者の腕に絡まりついているんだ。やったか、またやったのか!?


 俺は説得した。置いていけと。


 いつもは敵視している三馬鹿娘もこのときばかりは俺を援護する。単にライバルが増えるのを嫌っただけかもしれないが。

 メリアは……何かを書いている?




 そうした説得もあいつには通じず。むしろ俺を見て顔をしかめている。





 そして




 ついに俺の堪忍袋の緒が切れる瞬間が訪れた。それはやつが放った一言。



「ヤトカは僕のなんだからさちょっと黙って。もういいでしょ?」



 そうかそうか。人としても見てなかったか。幼馴染としてという細い線がまさに切れた瞬間だった。

 ああ、もういいや。こんなパーティどうにでもなれだ。



「そうか。それがお前の本心か」



 いつもと違いこれが最後だといわんばかりの鋭い視線を向ける。



「もう勇者おまえのお守りなんざ金輪際御免だ。今日を以ってこのパーティを離脱させてもらう」



「「「「なっ!?」」」」



 唖然とする面々。事態を飲み込めていない武器屋の娘。そしてちょっと何を考えているか読めないマイペースなメリア。



「な、あなた。勇者様のお慈悲で今までパーティに居る事を許してもらっていましたのになんて口の利き方ですの!?」


 姫さんが今更そんな事を言う。



「そうだそうだ。下賤な身で勇者様と姫様や我らの傍にいられただけでも感謝すべきところなのに恩義を感じることなくそのような暴言を吐くなど言語道断だ」


 女騎士が恥ずかしげもなくそう言う。



「まったくこれだから勇者様以外の男は汚らしいんです。自分の事ばかりで!」


 お前が言うなという言葉を平気で吐く聖女(外道)。



 先ほどまで連携して勇者に懇願していたはずなのに矛先を変えて甲高い声で俺を非難面々。


「さいですか。そんな風に思っているなら尚更いなくなっても問題ないでしょう? あとは好きにしてくださいな。俺の知ったことじゃないんでね」


 五月蝿い面子を無視して自分の荷物だけを背中に担ぎ部屋をでようとする。


「ヤトカ、すぐに旅立つの?」


 メリアがそう聞いてくるもんで右手を振りさよならの合図として返す。


「ああ、俺個人の荷物はこれだけだからな。そんじゃあばよ」


 そうして俺は宿から一人旅立った。











 ヤトカが出て行った後、勇者はなぜかベッドに座り込み他の面子は紛糾している。だがメリアだけはいそいそと荷造りを始めていた。やがて気付いた女騎士がメリアへ疑問を投げかける。


「うん? 君はどうして荷造りなんてしているんだ?」


「ん、私がこのパーティにいたのはヤトカに恩返しするため。ヤトカがいないならこのパーティにいる意味がない」


「なんだと! やつはともかく君の火力が抜けるのは困る」


「あなたたちは自分勝手すぎる。ヤトカがどれだけこのパーティのために苦労していたのかまったく分かっていない」


 思い当たる節があるのか勇者や姫は押し黙る。聖女と女騎士は理解できないような顔をしている。


「あなたたちのやってきた所業は定期報告でお城へ送ってあるから。そのうち何らかの結果がでるはず。その時を楽しみにしてて」


 絶句する一同。メリアが窓を開けると緩やかな風が部屋へ舞い込んだ。



「じゃ、さよなら」



 すいーっとほうきに乗って空へと飛んでいくメリア。



 その姿を見てしばしポカーンと空を見上げていたがやがてヤトカが抜けたときよりも激しく紛糾するのであった。











 青空の下、町をでたヤトカは一人歩いていた。その表情は明るく憑き物が落ちたかのようである。


「さーて、これからどーすっかなー。とりあえず懐を暖めたいし魔物でも狩って売りさばこうかね」


 そんな事を考えていたら俺のすぐ脇になにかが降り立った。



「……来ちゃった」


「おおおい。お前、いいのか!?」


「いいのいいの。私はヤトカへの恩返しと食事のためについていくから」


「因みに比率は?」


「3:7?」


「食い気7割!? っていうか恩返しって俺はお前さんになにもしてないぜ?」


 そうヤトカには思い当たる節がないのである。

 メリアはそれも想定内と言わんばかりの涼しい顔。


「お爺ちゃんから聞いた。ヤトカがいなければもっと酷い目にあってたって。私はお爺ちゃんっ子なのでお爺ちゃんの恩は私の恩」


 なんともいえぬヤトカ。それは自身の精神の安定のためにやっていたことなので感謝されると微妙な感覚なのだ。



「まぁいいか、お前さんなら色々と一緒にやってくれるだろうし」



「やるやる。さしあたってデリシャスビーフを狩ろう。ステーキステーキ」



「デリシャスビーフは食材名な。オリクズバッファローだから」



 辺りから気配を察知し索敵を試みれば範囲内に群れが居る事を確認する。



「んー、数匹からの群れがいるな。一匹は食べる分としてあとは解体して売るぞ?」



 ぐっとサムズアップして俺にいい笑顔を見せるメリア。



「いえす、我目標を殲滅せり」



「あのバカ騎士みたいな真似すんな。寝かせてから一撃で屠るぞ」


「いえっさ」


 張り詰めた空気もないなんともゆるーい感じだがヤトカとメリアの冒険が産声を上げたのだった。














 これは後日、筋肉の、いや戦士のおっさんから聞いた話だ。


 俺が離脱して1年後、水面下で秘密裏に進められていた会談により魔国と平和条約が締結された。

 実のところ勇者の派遣は強硬派(王は日和見)の独断で穏健派を無理矢理押さえ込んでの派遣だったらしい。

 ところが爺さんとメリアの定期報告(実は穏健派から依頼されていた)により勇者一行の所業が暴露されたことで強硬派の力が削げたのも大きい。なんでも強硬派は国庫から少なくない金額を対魔王資金としていたが多くを着服。そこからいくらかを勇者のもとへ流していたようだ。やつらは俺の知らないところでそれを使って贅沢三昧。メリアもそれに誘われたらしくそこから足がついたわけだ。


 かくして穏健派筆頭である第二王子による巻き返しが成功し王は引退、第二王子が王座へとついた。


 それからあいつらがどうなったかだが。


 勇者は行方知れずになっている。最後の記録はどこぞのマフィアの妾に入れ込んだとかなんとか。


 聖女は神殿に戻るも勇者とずっぽしやらかしていたため不貞となり俗世へ還俗することに。今ではどこぞの安宿で身売りをしているとかいないとか。


 女騎士は勇者と旅をする前から騎士団の資金を横領していたらしく騎士資格を剥奪の上、国外追放になった。勇者のためだったんだと最後までがなりたてていたらしい。


 姫さんは……城に戻るも勇者の子を孕んでいたことが発覚。男の子を産んだらしいのだが秘密裏に始末されるところだった。だが何者かに奪われその後は行方知れずだとか。怖い怖い。本人は王位継承権を捨てて生涯を修道院で過ごすつもりのようだ。



 俺とメリアはなんだかんだで結婚し魔法使いの爺さんのところへ住み着くことになった。メリアの両親にも爺さんにも温かく迎えられ残りの人生はここに骨を埋めていいと思っている。









 それから……





「父ちゃん! 今日は剣術を教えてくれるはずだろ!!」


「ああ、今行くよ」


「ちゃんと父ちゃんが言ったとおり毎日素振りしてるんだ。父ちゃんみたく村を護れる強い戦士になるんだぜ」


「そうかそうか。でもな、そう思うなら女の子を泣かせちゃ駄目だぞ」


「うぐっ、アリアが言ったの?」


「いくら可愛い子がいたからって一緒にいる子を放っておいてじっと見つめたりしてちゃいかん」


「ごめんなさい」


「まあ、少しならいいんだ。父ちゃんはな。気が多くて破滅してしまったやつを知っているからさ。お前がアリアのことを好きなら他の子には目もくれないくらいの心構えでいなさい」


「う、うん、分かった! アリアが他のやつを好きだって話をしているの考えたらすごく悲しくなる」


「だろう? 父ちゃんも母ちゃん一筋だからな。男は女の尻に敷かれるくらいで丁度いいのさ。よし、それじゃやるとするか」


「うん!!」


 木剣を振り汗を流す親子。まだ幼いながら一生懸命木剣を振るう男の子が父の姿を真似している。そしてにこやかに微笑みながら言うのだ。


「あんな、俺、アリアも好きだけど父ちゃんも母ちゃんも大好きだ」


「ははっ、親を泣かせるようなことを言うない」


 ちょっとだけ目尻を押さえる父親は昔を思い出し子供を抱きかかえる。





 俺もお前らが大切だよ。


 全てを捨て去る覚悟が出来てからが本番だ。

 そう思いながら息子へと剣を教える。

 あいつのような過ちを犯さないように。

 勇者のお守りなんざ御免だと言ったが今のこの子は戦士と魔法使いの子だからな。

 だから面倒を見ましょう、末永く。

 補足


 ヤトカ

 本作の主人公。

 戦闘系の技能は普通の兵士に毛が生えたくらい。スカウト系の技能は一流にもう少しというところで特に気配を消すのが得意。実は農業や内政官としてはいずれ歴史に名を残せるほどの可能性を秘めていた。そんな素敵な可能性を勇者に全部刈り取られてしまった可哀想な人。その分、パーティを抜けた後はメリアやその家族と幸せにすごす。田舎に引っ込んでからもおっさんズとの連絡はとっていたようでこの二人が姫さんの息子を匿って欲しいと頼んできたとき紆余曲折あるも家族として受け入れた(元々子供好き)。晩年は娘とその子が結婚。孫にも恵まれる。最後は皆に見守られながら大往生した。



 メリア

 お爺ちゃんっ子として育ちそのお爺ちゃんに優しくしてくれていたヤトカに恩返しをしたく勇者パーティに参加する。同時に第二王子からの潜入捜査のような任務も受けていた。魔法使いとしての実力は一流で魔力の配分や相手の弱点をつくことが非常に上手かった。ヤトカとの間に一女を儲ける。ヤトカ一筋であり彼が逝った次の日に追いかけるように亡くなった。


 アリア

 名前だけ出てきた二人の娘。顔立ちはメリアそっくりで魔法の才能も溢れんばかり。加えて父からスカウトの心得や料理を学ぶ。後に万能の魔女などという二つ名がつく。18歳で結婚。夫婦で迷宮などを駆け巡った。二男一女に恵まれた。



 息子

 名前が出てこなかった二人の義理の息子。血縁上は勇者と姫さんの息子。

 ヤトカの教育により苦労を知り他人を思いやれる男に成長する。10歳にしてヤトカの剣の腕前をあっさりと超え冒険者として名を馳せる。産みの親だと明かさない約束で姫さんと一度だけ会った事もある。後に英雄と呼ばれることになるのだが「俺の中での英雄は母ちゃんの尻に敷かれていたけど父ちゃんだけだ」と話していたらしい。アリアと結婚し色々と歴史に名を刻むも晩年は家族と静かな余生をすごした。



 勇者

 なんでもできるがなんにもできない人。ヤトカにとっては全ての諸悪の根源。勇者がいなければヤトカは辺鄙な村でのファーマーライフが待っていたはずである。ヤトカには歪んだ独占欲を向けておりずっと縛り付けていた。女性陣のヤトカに対する態度を改めなかったのはそうすれば傷ついたヤトカが自分の元へと来ると思っていたから。メリアのことは最終的にヤトカを奪う敵と認識していた。男が好きというわけではなくヤトカは別枠。ヤトカが去った後、魔王を倒しにいきましょうという姫たちと残りの行程を進んでいたが突如失踪。表舞台に立つことはもうなかった。

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