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【13】化かしあい

「そうそう、昨日のイノウエを見たか? 報道にマイクを向けられただけで、長々と演説をしやがった。すごい迫力だったな……」

 と、ササキが言った。

 イノウエは民政党の党首だ。アサギの父でもある。

「あの人、弁が立ちますからね」

 と、部下のひとりが応じた。

 ここは会議室。ササキは、幹部を集めて打ち合わせを行うところだった。

「クックックック……。これでお望みの支持率とやらが上がるんじゃないのか。東の院の選挙まで1カ月を切ったからな」

 と言って、机に両肘をつくササキ。

「支持率なんて、そう簡単に上がりますかね?」

 と、別の部下。

「さあな……。われわれだけでなく、他の組織も使っていろいろとやっているようだよ」

「今日の打ち合わせというのは、江戸の……」

「そのとおり。簡単に段取りを決めておこうと思ってね。江戸は1回で済ませてしまおうと思う。支持率が上がったら、向こうがいつ裏切ってくるかもしれんからな……」

「どの時点で民政党のつながりを告発するかですね……」

「そのあたりは、抜かりなく準備を進めておいてくれ。やられる前にやらないとだからな……」

「承知しました」

 部下の返事にうなずくと、ササキは他の幹部に念を押すように話を続けた。

「とにかく、今、われわれは利用されている立場だが、いつそれを逆転させるかが重要だ。向こうはどこかで必ず裏切ってくるからな。そして、3大政党の信用が失墜した後に|Coup d'Étatクデタを起こすというのは、みんなが知っているとおりだ」

 と、言って、ササキは黒板の前に立った。

「さて、本題に入ろう……。江戸は、名古屋と違って工事区が各地に分散している。そこで今回は航空機を使って破壊しようと考えている……」

「飛行艇で往復絨毯(じゅうたん)爆撃ですか?」

 部下のひとりが聞いた。

「いや、あの時と同じように無差別に攻撃するわけにはいかない……。既存の都市設備はなるべく使いたいと民政党から要望を受けているからな……。今回は水上戦闘機を使った精密爆撃を行う」

 と、ササキは言って、黒板に図を描き始めた。

「まず、ヌエに襲われる危険性をできるだけ回避するために、離陸後1万メートル近くまで急上昇、そして、爆撃精度を上げるために、目標地点で緩降下爆撃を行う。兵装は250キロ気化爆弾で9機全機を使用。投下地点は作戦直前に通達する」

「機体には降下減速機構が付いていますし、十分急降下に耐えられますが……」

「わかっている。ただ、パイロットは飛行機に乗る機会が少ない。無理はさせたくない。緩降下爆撃だ」

 ササキは、チョークを黒板に置いて、話を続けた。

「事務方は犯行予告の原稿作成を頼む。内容は後で伝える」


 そして後日、一部の報道機関に神の使いの犯行予告が送られた。

 書き出しは10日以内に江戸にある地下都市開発の工事施設を破壊するという予告、次に幕臣党に対する政権批判、最後に廷臣党に対する称賛で締めくくられていた。

 これは、神の使いと廷臣党とのつながりも匂わせる内容にせよと、民政党からの依頼を受けたためだ。

 爆撃が成功した後は、再び民政党が、幕臣党と廷臣党を批判する流れに持っていくことになっている。与党の幕臣党に対しては危機管理体制の甘さとテロに対する対応能力の弱さ、野党第1党の廷臣党に対しては一部党員と神の使いとの関係の疑惑を追及するつもりだ。


 1日目。地下都市化工事の作業は停止。地上の巡回や上空からの偵察など、江戸府内全域、特に工事区を中心に警戒態勢が取られた。しかし、航空機による偵察は頻繁に行うことはできない。ヌエに襲われる確率が高くなるからだ。時として時速100キロで移動し、瞬間最高速度にして時速300キロ以上で急降下できるヌエは、飛行機にとって天敵だ。飛行機は、塩水弾と通常弾、両方の武装で偵察を行った。

 ちなみに、この世界のこの時代、飛行機といえばレシプロエンジンのプロペラ機である。ジェットエンジンやロケットエンジンは発達していない。高高度を飛行できるよう、エンジンにターボチャージャーが付いたものもある。

 2日目も3日目も何も起こらなかった。

 5日目にもなると、ヌエに襲われる哨戒航空機の墜落事故が多発。さらに工事停止による施工会社のいら立ちも現れ始め、マスコミを通して現政権への批判が高まってきた。これを利用して批判の先陣を切ったのは、民政党である。

 また、軍や警備をつかさどる各官庁では、反社会組織の陽動を疑うようになってきた。そういった意見はもともとあったが、今や半数を超えていた。

 襲撃が想定可能な他の場所の警備も強化された。たとえば、帝のいる京都御所周辺とその地下施設。この時代、大君たいくんと呼ばれている将軍の居城、つまり江戸城周辺とその地下施設。また、その他の都市も警備を行うようになった。

 10日目に入っても何も起こらない。関係者のいら立ちと焦りは最高点に達していた。陽動説もいよいよ大勢を占め、夕方になると、陽動を前提とした態勢が取られた。

「最後の1秒まで気を抜くな。日が変わってからだまし討ちということもある」

 江戸城を背にして停車している装輪装甲車。その中にいる警備主任が、そう言って無線を戻すと、息苦しそうにヘルメットを脱いだ。長い髪の毛がふわりと広がる。しかし、その顔には疲労の色がかなり浮かんでいた。

 とはいっても、主任は、立場上士気を下げないよう言っただけで、本人を含め、多くの人は期日内の襲撃はないだろうと思っていた。

 どの現場も気が緩んでいた。


 そんな状況をササキは知る由もないが、全てはほぼ狙い通りに動いていた。

 午後11時。

 次々と始動する飛行機のエンジン音、続いてプロペラが空気を切る音が聞こえてくる。

 暗視装置を装着するパイロット。小型船からサーチライトで合図を送る誘導員。

 無線で離陸の指示を受けると、プロペラの風切り音が轟音に変わる。

 東から顔を出した有明の月が照らし出すのは、墨のような海面、白い波の線。水上戦闘機のフロートが海面に2本の白い線を描き、途切れたかと思うと、1機また1機と夜空に吸い込まれていく。

 ぐんぐんと高度を上げる戦闘機。やがて月明かりに照らされた雲の上まで来ると、緩やかに旋回し、指定の地点に機首を向ける。

 機体は急降下爆撃にも使用できるよう設計されてはいるが、ササキが言ったようにパイロットの練度が足りない。ヌエに襲われるため、操縦訓練ができないのは、無理もないことだった。

 飛行機が指定の地点を目指して一気に降下する。進入角度は浅い。目標を補足したところで気化爆弾を投下した。

 天頂の濃紺、東の空の群青色と月の白。その夜空の配色が突如として崩壊する。

 パッと明るくなり、光が弱まったかと思うと、別の場所で明るくなる。またひとつ、またひとつと、いたる所で光が瞬く。

 その光は、工事現場の建屋付近が爆破された証だ。

 時刻は午後11時30分を回っていた。

『3号機、爆破に成功しました』

「了解」

 ササキに次々と爆破成功の報告が入ってくる。

 午前0時前。

 基地付近の海に次々と飛行機が着陸してきた。帰投中ヌエに追われる機体も何機かあったが、全員無事戻ってくることができたようだ。

 飛行機から建物へと駆け込んでくるパイロットたち。それをやや控えめな拍手で出迎えるササキ。油断なく周囲を警戒する歩哨中の生体甲殻機。

 テレビではすでに爆破の状況が報じられていた。

 明け方、政府与党の幕臣党、第2党の廷臣党、第3党の民政党の談話が報道された。

 予定通り、民政党は与党幕臣党の危機管理体制を非難し、さりげなく廷臣党と反社会組織とのつながりも匂わせた。

 国都京都と経済都市大阪は、一切攻撃を受けていないからだ。

「……私には腹案があります。ですが、選挙前ですし、他党の論戦や公約に利用されてしまうので、今は発表できません。しかし! 必ずや、反社会的暴力行為と、ヌエ問題を解決に導きます! わが党とつながりの深い機関や組織を活用するため、そこに予算を集中的に投入させていただきたい。非常事態であることを国民の皆さんにご理解をいただい。まず、一度託していただきたい! 民政党のまつりごとを見ていただきたいと思っています!」

 民政党党首、イノウエの訴えがテレビから聞こえてくる。

 爆破の状況や各党の談話は、翌朝にも録画が放映された。

「クックックック……。大した自信だな……」

 そう言って、ササキは朝のコーヒーを飲んだ。


 この世界のこの時代においても、日本の立法府は二院制を採用している。ただし、われわれの世界と異なり、ひとつは〈西の院〉として国都京都にあり、もうひとつは〈東の院〉として副都江戸にある。また、西の院の建物は〈評定殿〉、東の院は〈評定所〉とも呼ばれている。

 対外的な首都は帝のいる京都だが、経済活動の中心はもっぱら大坂と江戸だ。この2都市は、江戸時代に発達した運河を保存整備し、われわれの世界のオランダやイギリスの運河のように観光用を兼ねて利用されていることが特徴だ。

 それ以外にも運河を保存している都市はある。たとえば、神の使いが襲撃した名古屋もそのひとつだ。

 一方、京都は、神聖な御座所として厳しい建築規制が課され、われわれの世界よりも、昔ながらの町並みを見ることができる。


 話を選挙に戻そう。

 選挙の結果、民政党は東の院の第1党となることができた。結党以来初のことである。民政党自身の予想をはるかに上回る得票数だった。

 400年以上前からまつりごとを預かっていた江戸幕府の伝統により、江戸にある東の院に優越的権限がある。われわれの世界の〈衆議院の優越〉に近い。

 今や、民政党の議員数は、幕臣党と廷臣党が連立を組んだとしても、それをかろうじて上回る。つまり、事実上の与党になったというわけだ。

 一気に政権交代が実現できるとは、民政党も思っていなかった。


 焦ったのは、神の使いのほうだ。

(準備を急がなくては……。奴らがその気になれば、明日にでも裏切れる……)

 爪をかみ、貧乏ゆすりをしながら、昨日の選挙速報を見ていたササキ。翌日、会議室に幹部を招集しようとしたとき、部下から連絡が入った。

「レガトゥス、〈例のつなぎ〉の方がいらしています」

「連絡なしにいきなりか?」

 ササキの言葉にうなずく部下。

「わかった……」

 気乗りしない態で重い腰を上げた。

(立場の違いを主張しにも来たか?)

 という考えも頭をよぎり、ソファに座り直して部下に指示した。

「キムラとシミズを呼んでくれ。来客には待っていただけ」


 2人を引き連れ応接室に入ったササキ。

 その姿を見て、使いの男はすくっと立って頭を下げた。

 少し拍子抜けしたササキ。

(何を言い出すんだ?)

 だが、油断はしていない。

 男が話しだした。

「このたびは、皆様のお力添えで、念願の政権交代が実現しました。ありがとうございます。イノウエも自らお礼にうかがいたいと希望しておりましたが、報道への対応や政権交代の準備等で忙しく、こちらへ来られないことをわびておりました。落ち着いたら、お礼とご挨拶にうかがうとのことです。どうかご容赦ください」

 と、一気にお礼の言葉を告げる使いの男。

「おめでとうございます」

 と、ササキは、それだけ言って軽く頭を下げると、来賓側のソファに座り直すよう促した。

「……今日のご用件というのは?」

 使いがソファに座るのを確認して、ササキが主賓側のソファに座りながらそう言った。

「次のお仕事のお願いに参りました。評定所を破壊してほしいのです」

 使いが話を切り出した。

「評定所というと東の院?」

「はい。江戸の立法府を破壊することで、一連の破壊行為と廷臣党とのつながりを世間に印象づけたいとのことです」

「そして3カ月後にある西の院の選挙に勝つという筋書きですかな?」

「そのとおりです。いつものように方法はお任せしますが、実施期限だけ希望を聞いていただきたいとのことです」

「期限とは?」

「次の世名評定が開かれる前日までにお願いしたいとのことです。実施日は、前日に近ければ近いほどありがたいとも言っておりました」

「わかりました」

「それと、実施日が決まりましたら、ご一報ください。党首が声明を発表する準備もありますので……。最悪、前日でもかまいません」

「わかりました。準備が整い次第、連絡します」

「それと、これは、イノウエから皆様への伝言ですが、この依頼が終わったら、〈特殊な党員〉として力を貸してほしい、これからもくれぐれもよろしく頼むと……」

 使いの男が頭を下げた。

「こちらこそ、お願いいたします」


 使いの男を見送るササキ。

 これ以上民政党の手足になるつもりは、ハナからない。依頼を快諾したのは、神の使いがクーデターを起こすまでのいい時間稼ぎになると思ったからだ。民政党に今後も協力する意志があると印象づけることができる。


 その日、ササキは幹部を会議室に集めた。

「これがおそらく最後の仕事になるだろう。今回は東の院を襲撃する。一気に決めるぞ」

 ササキが黒板に立つ。

「担当者、書き留めておいてくれ。用意するのは、新型キセナガ2機。武装は、ゴーゴー式と戦車砲、25ミリ機関砲……完全装備だ。戦車砲は初期装填が榴弾、予備弾が徹甲榴弾だ。それとミツバ製キセナガ4機。2機は、ホネクイとホネクイ銃、戦車砲で武装。残り2機は、ホネクイとホネクイ銃、25ミリ機関砲で武装。さらに戦車を2台。通常装備のほか、煙幕弾も装備しておいてくれ。最後に無線偵察機。ヌエにやられる恐れがあるから多めに、5機。これを揚陸艇で新佃島の工事現場跡地に搬入する」

 と、ゆっくりとした口調で話した後、ササキはチョークを手に取った。

「次は、作戦の概要だ。武器を搬入した新佃島から、数寄屋橋通りを直進。正面の地下都市入口を爆破。そのまま突入し、新型キセナガが戦車砲の榴弾で地下都市の評定所を破壊する。必要なのは破壊行為があったという事実だ。見た目で破壊されたことがわかればいい。報道機関が喜ぶような壊し方ができたら、即撤収だ」

 ササキの言う〈新佃島〉とは、われわれの世界で言う佃島から月島の辺りのことだ。この世界のこの時代、石川島・佃島拡張工事という名で開発が行われていたが、ヌエが出現して以来、工事は停止していた。

 工事現場は、各所に工事用の囲いがあり、中は見えない。また、外出すればヌエに襲われる危険性が高い状況では、わざわざ見に来る人もいない。

 基礎工事の跡や、真っ赤にさび付いた鉄骨の骨組み、内装工事前の建物など、工事が中断したままの状態になっている。

 その工事区と数寄屋橋通りを結ぶのが、築地大橋だ。われわれの世界の勝鬨橋かちどきばしとほぼ同じ位置にある。

 さらにその数寄屋橋通りは、われわれの世界の晴海通りとほぼ同じ位置にある。上下6車線の大通りだ。

 通り沿いは、われわれの世界でいう昭和初期の雰囲気が漂う街並みだ。特に、江戸でも、銀座、日本橋、神田、八丁堀付近は旧市街、中でも日本橋や神田は旧町人地とも呼ばれ、昔ながらの雰囲気が残されている。築地付近は、江戸時代、武家屋敷が軒を連ねていたが、幕藩体制の廃止とともに取り壊され、商業地として利用されていた。

 数寄屋橋通りを直進すると江戸城の数寄屋橋御門に突き当たり、そこに地下都市に通ずる大きな入口がある。

 この世界のこの時代の大都市江戸は、われわれの世界の東京ほど巨大ではない。それは、あくまでも副都という位置づけだからである。そのため、われわれの世界の東京とは異なり、至る所に運河が残されている。

 数寄屋橋門入口の警備は厳重だが、ほとんどはヌエに対するものだ。もちろん、反社会的組織の襲撃も想定しているが、頻度が圧倒的に少ないため、あまり重視されていないのが現状だ。そのような事態が発生した場合、迅速に増援を呼べる体制だけはとっている。これが、しばしば民政党の批判の的になっているが、予算が取れない状況だ。


 話を元に戻そう。

 ササキが説明を続けている。

「隊列について説明する。新型キセナガ2機が先鋒。警備を排除してくれ。その次に戦車砲を装備したミツバ製キセナガ2機。先鋒が戦車などの通常兵器に遭遇した場合に、排除してやってくれ。殿しんがりは機関砲を装備したキセナガ2機。橋のたもとに戦車2台を控えておくから、進行中は、前方と側面に集中してくれ。工事跡から目的地まで10分足らず。目標への侵入、破壊まで5分。多く見積もっても所要時間は15分足らずだ。一気に決めてくれ」

「装甲車は使用しないのですか?」

 部下のひとりが質問した。

「車両は使わない。評定所を破壊した後、付近の跳ね橋を一斉に上げて、われわれの逃走経路を封鎖される恐れもある。車両だと立ち往生する恐れがあるが、キセナガなら水路を泳いで渡れる。真っすぐここに帰ってくればいい。新型は、念のため、跳躍して運河を渡ってくれ。性能的にはゆうゆうとできるはずだ」

 そう答えたササキは、チョークを置いて、最後に加えた。

「……そうだ。事務方は、民政党とわれわれとの関係を報道に漏らす資料を用意しておいてくれ。まだわれわれの名前は出すなよ」


 翌々日の夜、石川島・佃島拡張工事の船揚場ふなあげばに数隻の揚陸艇が寄せられた。

「搬入急げ!」

 船のエンジン音に混じって、人の声が聞こえてくる。神の使いが武器や機材を搬入していたのだった。

 内装工事直前でうち捨てられた建物。そこに、ひとつの工事用投光機がぶら下げられている。その下には照らされた数人の人影。簡易テーブルを囲んでいる。

「確認は以上だ。質問は……?」

 と言って、見回すササキ。その手は、地図に手を載せたままだ。投光器の光が皆の顔に陰影をつくっている。その中にアサギの顔もある。

「……大丈夫そうだな。では、検討を祈る」


 午前0時過ぎ、偵察班から無線が入る。

『巡回中のキセナガがヌエと格闘中。それ以外は異常ありません。どうします?』

「警備のキセナガは捨て置け。通りには電柱はない。キセナガは全速前進で移動! 一気に決めろ!」

 ササキの号令を合図に一行が出発する。

 ササキが指示した通り、新型生体甲殻機2機を先頭に、通常の生体甲殻機4機が続く。暗視装置を使用し、ライトは点灯させていない。

 築地大橋を渡って、築地本願寺の前を横切る。われわれの世界と異なり、右側には本堂のある境内、左側にはその他の寺院の境内が見える。

 門前を警備する生体甲殻機2機が、一行の通り過ぎる様子をぼんやりと見ている。

 一行が築地本願寺を通り過ぎたときだった。

〈ドドンッッッッッッ!〉

 先頭を進むアサギ機の眼前が突然2カ所爆発した。

 とっさに体を翻すアサギたちの新型生体甲殻機。

 さらに2カ所路面が爆発する。

 ほかの生体甲殻機4機も身を低くした。

〈パシュッ、パシュッ……〉

 次の瞬間、ミツバ製の生体甲殻機3機が一斉に網に覆われた。うち1機には2重に網がかけられている。

 その場から大きく離れることができた新型生体甲殻機2機は、逃れることができたようだ。身を低くした状態で周囲の状況をうかがう。アサギ機は素早く5×5式散弾拳銃を取り出していた。

〈パシュッ、パシュッ……〉

 再び網が飛んできた。新型生体甲殻機2機がほぼ同時によける。網の出所は建物の陰からだ。ミツバ製の生体甲殻機は4機全て網に覆われてしまった。

『姫! 閃光手投げ弾を……』

 と、キムラ機から無線が入ってきた瞬間だった。

〈ドドンッッッッッッ!〉

 再び2つの砲声が聞こえたかと思うと、道路の反対側にいるキムラ機の頭が吹っ飛んでいた。もう1発は、運良くアサギ機の頭上をかすめた。

 部隊は恐慌状態におちいった。

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