観測者、リュネア
「すみません。初めてなんですけど・・・・」
言葉を区切った、その瞬間だった!
視界の端に、淡く文字が走る。
【安全確認:実行中】
「・・・・っえ!?」
問い返すより早く、
世界が一瞬、静止したように感じた。
音が・・・、遠くなる。
人の声も、足音も、薄い水の膜を一枚挟んだみたいに曇る。
代わりに、情報だけがはっきりとする。
受付に立つ職員。
後ろに並ぶ冒険者。
周囲の視線。
悪意、虚偽、誘導・・・・どれも大丈夫そうだ。
しかし・・・
<注意:観測対象あり>
「・・・どういう意味?」
心臓がわずかに跳ねる。
元の世界のを反映しているのであれば
そんな項目はない。
「今の、想定外なんだけど・・・・」
私は、動けずにいた。
”動かないほうがいい”と分かってしまっているのだ。
受付の女性が、首を傾げた。
「・・・・どうかされましたか?」
「あっ、いえ・・・、少し考え事をしていただけです」
口は普通に動くようだ。
しかし視界の奥・・・
床に反射した水面が、わずかに揺れた。
さざ波が、円を描いて広がる。
誰も気づいて居ない。
「・・・・・・・、来た」
水面から、光が立ち上がる。
段々と、人の形になっていく。
透き通るような肌に、綺麗な輪郭。
長い髪が、水の流れの様に揺れる。
瞳は深い湖のような色をしていた。
【人物:リュネア】
【※アクアレルの管理を行う水の精霊 / 中々出会えない人物 】
・・・・精霊・・・
私は、説明を読み妙に納得してしまった。
「やっぱり、そういう存在って出てくるよね」
水の精霊は、私をじっと見つめる。
その顔は、驚きよりもどこか、困惑が勝っている表情だ。
「・・・あなた」
声が、直接頭に響く。
澄んでいて、冷たいような、優しいような声。
「なせ、その機能を使えるの?」
「・・・っえ?」
「それは本来、この世界の物には見えないはずだ」
精霊は一歩、近づく。
水が、足元に波紋を作る。
「私はリュネア。水都アクアレルを管理する精霊」
先程目の前に現れた、
説明通りだ。
私は、うんうんと反応を見せる。
「今しがた、あなたが”安全確認”を実行した瞬間・・・・・」
少し間を空け、リュネアははっきと告げた。
「世界の挙動が、一段階変わった」
今までの、会社の支店扱いや
観測対象など・・・・説明が欲しい事が多い。
「・・・・それ、私も詳しく聞きたいです」
正直な気持ちだった。
「目の前に出る、タスクや制限時間・アドバイス機能って・・・
誰が出してくれているのか知りたいです」
リュネアは、一瞬言葉を止める。
そして、ゆっくりと目を伏せた。
「・・・はやり」
小さなため息。
「あなたは、”予定外”ね」
その言葉が、胸に静かに落ちる。
「詳しい話は、此処では出来ないの」
周囲を見渡し、リュネアは続ける。
「でも、この違う世界から来たあなたを、放置も出来ない」
視線が、まっすぐ私に向く。
「あなたは、すでに世界に影響を与えているわ」
目の前に、残りの猶予時間が現れる。
そして、点滅を始める。
「あの・・・、リュネアさんこの時間って見えていますか?」
リュネアは、
少しだけ目を見開き・・・苦笑した。
「はい・・・、しっかりと見えています」
その笑みは、どこか懐かしい顔だった。
そうだ!
残業前の、
同僚の顔に似ているのだ!




