09.ユストスとマーガレットの謝罪
実はユストスは、彼女の居場所を早い段階で把握していた。女性がいきなり身を寄せられる場所は限られる。渡した小切手が振り出された銀行の場所から、その周辺の修道院にあたりをつけていた。
そうして、セイラの無事を確認すると、彼女に声をかけることはせず、後ろ髪を引かれながら祖母の屋敷に戻ったのだった。
セイラを心配するマーガレットに黙っておく訳にはいかず、彼女の無事を伝えた。
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セイラがアルとの再会を喜び、新しい暮らしにも慣れ始めた頃、ユストスが突然修道院を訪れた。
「またあなたを訪ねて来る人がありました。あなたが望んでそのような状況を招いているのでは無いことは分かります。後悔の無いようになさい」
ここに来た当初は自分のことで精一杯だったが、そう言う院長の、ベールから少しだけ見える頭髪には白髪ひとつ混じっていない。化粧も一切していないが目鼻立ちは整っていて、彼女自身も望まざる流れに巻き込まれて来たのかも知れないと、何となくセイラは思った。
院長の取り成しもあり、短い時間ならと教会の片隅で静かに再会を果たした。
「どうしてここが」
「……こういった施設を探したんだ。そんなことより無事でよかった」
セイラの無事は確認していたものの、いざ彼女を目の前にして抱き締めたい衝動をユストスは必死で抑えた。自分を誤解して金を渡した男になど触れられたくないだろう。何よりこれ以上彼女に拒絶されることを恐れた。
一呼吸置くとユストスはまずは謝罪したが、セイラにはまだどうしてもそれを受け入れることは出来なかった。
「行き場の無い可哀想な人間ならいいように扱えると思っただけでしょう。残念だけどよくある話です」
(貴族男性との未来を夢見るほど甘い人間ではないつもりだけど、それでももう少しくらい夢を見せてほしかった。)
「違うんだ」
そう言って咄嗟にセイラの腕を掴んで引き止めようとする。
「離して!」
反射的にユストスが手を離した隙に、セイラは教会の奥の方へ逃げて行って、それきりその日は会えなかった。
弁明が叶わなかったユストスは翌日もやって来たが、セイラは『もう謝罪は聞いたから』と言って会うことは無かった。
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それからと言うもの、ユストスはセイラが心配になるくらい頻繁に顔を出した。ここと王都はそれなりの距離がある。
「お暇じゃ無いことは知ってるんですよ?こんなにしょっちゅういらしたら政務に差し支えます」
初めは会うのを拒否していたセイラだが、あまりの頻度に一度だけと時間を作り、その後は修道院と孤児院の雑務をこなすことを条件に面会を許した。
ただし、あの時のことはこれ以上話さないという約束だった。どんな事情があろうと、関係を持った直後に金を叩きつけた事実は変わらない。どんな言い訳も聞く気は無かった。
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しかし、ユストスのことはともかく、マーガレットのことはずっと気がかりだった。親しくしていたメイドにマーガレットの回復とユストスの不在のタイミングを手紙で教えてもらい、こっそりと見舞うことにした。
見舞いと言ってもマーガレットはすっかり元気になっていて、セイラはそれを心から喜んだ。あの時はいくつかの出来事が重なって、無理をしてしまっていたようだ。
起き上がって椅子に座れるようになっていたマーガレットを見て思わず涙がこみ上げる。
「マーガレット様。勝手をして申し訳ありません」
「ああセイラあなたが何を謝るの。本当にごめんなさい。私達はあなたに酷いことを」
「私は大丈夫です。それよりもマーガレット様の具合が一番悪い時にお側に付いていられなくて申し訳ありません」
「ユストスから大体の事情は聞きました。詳しい事情を話していなかったから、あなたのことを誤解させてしまったのね。もう、あの子から話は聞いた?」
ユストスがセイラに会いに来ていることは、マーガレットも承知しているのだろう。
「いいえ。聞く気にはなれなくて」
「そう。あの子をかばうつもりなど無いのだけど、元はと言えば私の行動が原因なの。聞いてもらえる?」
「はい」
「私の親友は、かつて平民の男性と恋に落ちて出奔してしまったの。ご両親は手を尽くして探されたけど、見つかった時にはもう亡くなっていて…だから、もし彼女があのままいてくれたら、いつかあなたみたいな孫娘が生まれていたのかもって夢を見てしまって」
「そうだったのですね。そんな風に思っていただけたなんて光栄です」
「それで、私の財産をあなたに残したいと思って、無断であなたのことも調べさせてもらったの。その書類の一部をユストスが見てしまったみたい。私の勝手な都合にあなたを巻き込んで、結果的にあなたを傷つけてしまった。本当にごめんなさい」
そう言って泣き崩れるマーガレットにセイラは駆け寄った。
「いいえ、いいえ、マーガレット様。このお屋敷で過ごした2年は夢のような時間でした。私におばあさまがいたのならこんな感じかなって。家族の夢を見せていただきました。本当にありがとうございました」
しばらくの間、修道院での生活などの話をしてあっという間に屋敷を退出する時間となった。
「ねえセイラ、こんなことを言うのはあつまかましいのだけど、戻って来るつもりは無い? 修道女になるつもりではないんでしょう?」
「それは…」
確かに修道院に世話にはなっているが、いっときのことだとセイラも考えていた。修道院の仕事や子供達の世話をして過ごしているが、セイラ以上に保護が必要な者はいくらでもいる。
「ごめんなさい。まだ落ち着かないわね。でももし帰ってきてくれるならユストスは屋敷には近付かせない。屋敷のみんなも待っているからいつでも声をかけて欲しいわ」




