11.今さら分かったこと
その後は、本来忙しいユストスとアルが鉢合わせすることも無く、セイラの方も修道院や孤児院の手伝いで忙しくしていた。
ユストスは相変わらず定期的にやって来たが、ある時、会う時間を作ってほしいと改まって言われた。あの時の謝罪などではなくセイラ自身のことで、伝えたいことがあると言う。
人払いをして彼の話に耳を傾けると、予想もしていなかった事実を告げられた。
セイラは、マーガレットの親友ヴィオレッタの孫だったというのだ。
「調書によるとあなたのお祖父さんも、ご両親も子供を捨てた訳では無いようだ。ただお祖父さんは一人で生まれたばかりの子を育てることが出来ず、人に一時的に預けたらしい。その直後に事故で亡くなってしまったということだった。そこからも色々困難があってあなたも孤児院に行くことになったと」
セイラの祖母は一人娘で、すでにその家門は途絶えていた。当時の調査では彼女が亡くなったことまでしか分かっておらず、子供を産んでいたことまでは調べられなかったらしい。
それまで何の情報も無かった両親のことを知れるだけでなく、祖母の親友に巡り会えるなんて考えたことも無かった。両親が亡くなっていたのは悲しいが、望まれて生まれてきたのだと初めて思えた。
「調べてくださってありがとうございます」
ただ今さらそれが分かっても、両親も祖父母もいない今何かが変わるものではないし、これまで自分の人生は自分で切り開いてきた自負があった。でも家族がいないことで拭えなかった引け目は無くなるかもしれない。
「お祖母様も奇跡のような偶然に喜んでいる。それで…戻ってきてもらえないか。勝手なことを言っているのは分かっている」
「あの時の話はしない約束です」
「あなたの言う通りだ。自分で約束しておきながら、また恥知らずな真似をした」
「あなたのそういう、すぐ間違いを認められるところは好き」
そう言ってセイラはクスリと笑った。
セイラが笑ってくれたことが嬉しくて、好きと言ってくれたことが嬉しくて、思わずセイラを見る。
「でも言い分も聞かずに小切手を渡されて、すごく傷つきました。お金を要求するような女だと思われたなんて」
すぐに現実に引き戻され、ユストスは返す言葉が無い。しかし、みっともなくても簡単には引き下がれない。
「正直に言うと、あんなにすぐに出て行くとは思わなかった。自分で言うのはおこがましいが私は侯爵位の他にいくつか爵位を持っていて、その領地は豊かだ」
「今初めて聞きました」
「そうだと思う。冷静に考えればあなたがそんなことに興味が無いのはすぐに分かるのに」
セイラが黙っているとユストスが言葉を続けた。
「これも呆れずに聞いてほしいんだが、自分では気にしたことが無いが、幼い頃から容姿も褒められるばかりだった。まあこれは貴族相手のお世辞も大いにあると思うが」
「地位や外見で付き合う人を選ぼうと思ったことありません」
実際は生きるのに精一杯で選ぶ余裕も無かったが。
ユストスは実際、こんな境遇だから女性は相手から言い寄られるばかりで、自分から求めたことが無かった。地位や名誉、財産、外見、そのすべてがセイラには通用しないことが分かり、どうすればいいか分からなくなってしまった。王太子の覚えもめでたい有能侯爵も、何も持たない一人の女性の前に形無しであった。
「あの時はとにかく頭に血が上って自分でもチグハグな行動だったと思う。ただ、誤解していたから、あのままお祖母様のところにはいてもらえないから、どこか家を用意しようと…」
「私を愛人にするつもりだったの?」
セイラを愛人になど思いもしなかったユストスは、心底驚きすぐさまそれを否定した。
「とんでもない!とにかくお祖母様の屋敷以外にとにかくいてもらえる場所を用意しなければと。私の屋敷の近くに来てもらうつもりだった」
「私の話も聞かずに」
「その通りだ。あなたを手放したくないということだけを考えていた」
ユストスは出会ったときから尊大で、余裕ぶっていて、でも熱っぽい目でずっとセイラを見ていた。




