第二十話 意表! モンスターの召喚、ユーヤのモンスターに、相手は動揺する。そして試合開始、いきなり飛び出すノアとミオが、戦場を制圧する。
「そ、それでは――若干トラブルはありましたが、いよいよレイドをスタートしたいと思います。
――ドラゴン、召喚!」
実況者の呼びかけとともに、フィールド中央に光が凝集する。
「類別ノーブルドラゴン、体躯は中――ごくごく普通の種類のドラゴンだ!」
前回のドラゴンレイドに比べて一回り大きいドラゴンが、競技場に現出した。
「尾撃、翼撃、ファイアブレスなどを特異とする、標準的なドラゴンです。性格は比較的温厚、ただ警戒心が強く、近くに来た者を容赦なく攻撃するとのことです」
召喚されたドラゴンは、勿論幻影である。
しかし、その迫力や威容は、本物と比べても遜色はない。
「続きまして、両召喚士、モンスターの召喚をお願いいたします」
実況の指示に従い、両チームの召喚士が前に出る。
テンプルバルキリーの召喚士は、急遽変更となった、アヤソフィア。
「召喚くらいできてよ……ほいっ!」
剣の一振りで召喚陣を空中に描き出す。
虹色の光が湧き上がって、四体の人影が姿を現した。
鎧を纏った、女騎士達。
背中に天使の様な翼を広げて、秀麗な面立ちをアヤソフィアに向ける。
「●バルキリー×4」
スクリーンに映し出された文字に、観客席がどよめく。
「いつもと変わらない、バルキリーの編成だ!」
――アヤソフィアは、バルキリーの編成プラス、ニコル・ライオットの姫騎士二人の編成。
決まり切った手順。
正攻法を公言するアヤソフィア、自分の代わりにバルキリーを入れただけの、普段通りの編成。
「それでは、ドンジリーズのユーヤさん、召喚お願いいたします!」
ユーヤは前髪を払って、予備動作も詠唱もなしで召喚陣を生み出す。
観客席も、相手チームも固唾を飲んだ。
一体、ユーヤはどのような召喚魔法を使う?
一体、いかなるモンスターで、テンプルバルキリーに抗する?
――先般アヤソフィア達の予測したとおり、大火力のモンスターか。
――以前のメンバーの穴を埋める、戦士、僧侶の編成か。
果たして、どんな秘策があるのか。
「――召喚!」
光が凝集する。
爆発的な閃光の中、ゆっくりと姿を現すものがある。
スクリーンに映し出された文字に、観客達がどよめいた。
「●バルキリー×2」
「こ、これは……!」
アヤソフィアが唇を噛む。
「まさかのバルキリー重ね! バルキリーの運用に関しても、アヤソフィアより自分の方が優れているという自身の現れでしょうか?」
実況者が吠える。
* * *
「ま、まさか……」
ニコルが顔色を変える。
「いや、そんなはずはない……ありえない」
唇を震わせ、ライオットが言う。
他人に聞かせるというより、自らに言い聞かせる様な様子だ。
「大丈夫。いつも通りにやればいいんだろ……いつも通りに」
ライオットの言葉に、ニコルが頷く。
「ええ、いつも通りにすればいい。ライオット、くれぐれもいつも通りに」
「――わかってるさ」
気を取り直したライオット、剣を構えた。
* * *
「いつも通り……そう、いつも通りで大丈夫」
動揺を押し隠したアヤソフィア、自信を取り戻し、一同に手を振ってアピールする。
* * *
「まさかの、掟破りのバルキリー召喚!
果たして、これはユーヤ選手の挑発なのか!」
沸き返る観客席。
スクリーンが、残り時間30ミーン(分)の表示を出した。
フィールドは障害物が少しある程度の、基本的には見晴らしの良い競技場だ。
――それでは、レイドスタート!
実況者が叫んだ。
「どおりゃああああああ!」
開始とともに、動き出した影。
テンプルバルキリーチーム(以下TVと呼称)のバルキリーは、まっしぐらにフィールドの敵陣地に向かい飛翔する。
右、中央、左と、それぞれにラインを押し上げる。
決まり切った手順。
――その間隙を突く、二つの影。
「いくよっ、ミオ!」
「はい、ノア!」
バルキリー達にひけを取らぬ、いやそれに倍する速度で、フィールドを恐ろしい勢いで駆ける二人がいた。
盗賊のノア。
魔法戦士のミオ。
縦横無尽に走り回る。
ジグザグの軌跡が、フィールドに刻まれる。
「な、何!」
奇襲に瞠目するTVの一同。
敵バルキリーの前で切り返し、中央でいきなり加速してドラゴンめがけて急襲。
「いきなり、ドラゴンを狙うつもり?」
「馬鹿な、無謀だ!」
慌ててカバーに入るニコル。
「どりゃりゃやりゃ!」
かまわず頭から突撃するノア。
そのまま衝突する――。
「さいならっ!」
とみるや、ノアはニコルの前で姿を翻し、一目散に自軍へと戻る。
追撃するバルキリーは、ミオの弓とリヒャルトの遠距離魔導弾に牽制され、容易に手が出せない。
「いったい、何を考えているんだ、あいつらは?」
ライオットが声を出す。
「慌てるな――我々はいつも通り、ドラゴンを」
「うらあああああ――――!!!」
あろうことか、自分に倍する戦力を持つテンプルバルキリー二人に突っ込むノア。
臨戦態勢をとる二人。
「舐めてるのか!」
「容赦しないわよっ!」
「ばーか、戦うわけないじゃんー!」
相手がこちらを確認したと見るや、いきなり姿を翻すノア。
「さようなら!」
慌てて走り去るノアを、フォローするミオ。
* * *
「――おっと、これはどういうことだ?
ドンジリーズのミオ選手とノア選手、突如意味不明な動き!
敵を襲うでもなく、ドラゴンを狙うでもなく……。
一体どういうつもりだ?」
実況者も、判断しかねた様子だ。
(一体、なんなんだ、ドンジリーズは……)
(何考えてるんだ……)
(オイオイ、いきなりバルキリー相手に訳のわからない動きかよ、死ぬわアイツ)
観客席から、そんな声が聞こえ始める。
「いや、そんなことはないぞ」
そのとき、観客席のエントランスに飄然と現れた男。
「機動力勝負の相手に、さらなる機動力によって相手を封殺する手段は、古来から用いられている」
機動力で優位をとり、相手の不意を突く戦法。
近代戦においては、技術力などを背景にして「電撃戦」などの形で発展する。
そうした軍隊をたたき潰す方法は、これも決まり切っている。
さらなる機動力による、相手の能力の封殺。
さらに、敵ユニット同士の連携の妨害、連絡線の寸断。
「でも、相手はバルキリーテンプルだぞ」
「さらには、あの盗賊の身体能力!!」
スクリーンに、盗賊ノアの顔が大写しになる。
「どれほど鍛えあげたのか、あの魔法戦士と二人であれほどフィールドを駆け回っても、息一つ切らさない。
見事だ。感動的だ」
しきりに感動する解説男の出現に、場内が唖然となる。
男の正体を知るものはいない。
男が沿海市の出身で、ユーヤたちとただならぬ縁のある者だと、知るものも当然いない。
謎の男、かつてドンジリーズを召喚した沿海市の召喚士レオは、新たな力を手にしたドンジリーズを満足げに見つめ、深く頷いた。
* * *
「よしっ、と!」
スクリーンに映し出されたミオが、快活な笑顔を見せた。
バギネタは、本当はやらなくても良かったんですが、面白かったので入れちゃいました。
お気を悪くなさらず、笑って頂ければ嬉しいです!