第二十一話 鍛錬! ひたすら走り続けるノア、影で死にもの狂いの訓練をしていた。窮したテンプルバルキリー、しかしアヤソフィアは動かず。局面の変化が迫る。
「やりますね、ノアちゃん!」
観客席のレミィが、ユーヤに弾んだ声を上げた。
「はじめ、ユーヤ様が『アヤソフィアに勝るくらいの敏捷性を持て』ってノアちゃんに言ったとき、正直『出来るわけない!』と思いましたけど……凄いですね、他のバルキリーに負けてないどころか、むしろ勝ってる!」
「ああ」
頷くユーヤ。
アヤソフィア率いるテンプルバルキリー(TV)とのバトルが決まり、ノアがドンジリーズに残ると決めた際、ユーヤはノアに一つの条件を出した。
『ひたすら敏捷を上げて、格上のバルキリーに比べても負けないようにしろ』
バルキリーはモンスター名だが、クラス名としても用いられる。
「はぐれメ○ル」が、職業としても使われる、某国民的RPGと同じ理屈だ。
モンスターであれ、クラス名であれ、バルキリーといえば、敏捷性が売り物の連中。
まして、レベル的には、現在のノアよりもアヤソフィアは数段格上である。
それでも、ノアはそのユーヤの要求を受けた。
それからの数日、ノアは日々あちこち駆け巡り、ひたすらトレーニングに励んだ。
一刻もたゆむことのない鍛錬。
一緒に付き合っていたミオが気遣うほどののめり込み。
圧倒的に非常識な訓練が、ノアの超絶の移動を可能にしたのだ。
「ノアちゃん、そんな無理しなくても良いと思うの」
気遣って、ミオが声をかける。
「もともとノアちゃん、グラスランナーだから脚は速いし、今だって十分、バルキリーに負けないくらいの速度が出せるよ」
「足りない」
息を切らしながら、ノアが答える。
「足りない? 何が」
「あのユーヤって人、何か考えてる」
歩みを止めることなく、短い言葉でノアは答える。
「よくわからない、けど、かなりの事をあたしに要求してくるはずなんだ。
――あたしは、それに、答え、なければ、ならない」
決然と吐き出された、それは決意の言葉だった。
「ノアちゃん」
胸を打たれるミオ。
「あたしは、みんなにおくれてるんだ。
……あたしがドラゴンにやられてひっくり返っている時、ミオやみんなは、死に物狂いでドラゴンレイドして、自分自身の限界を突き破った。
だから、ミオ達の仲間に入ろうとするなら、あたしもミオと同じくらい苦しまなきゃいけない」
「……」
「ドラゴンにはじき飛ばされそうになったケインや、恐怖の中で自分の力を信じたミオと、同じ事をしなきゃいけなんだ」
「……」
そんなふうに。
そんなふうに、考えていたなんて。
この小さな体の、いつも陽気な草原妖精の、決然とした言葉に、ミオは心がふるえる思いだった。
(勝ちたい)
そんな思いが、自然にわき上がってきた。
(アヤソフィア様に――テンプルバルキリーに、勝ちたい)
気弱で、自分に自信のない少女。
彼女が、胸に抱いた、不遜とも言える夢。
ミオの懸命にトレーニングする姿を視界の隅にとどめながら、彼女はそっとその思いを心の隅にしまい込んだ。
* * *
「うららららあああーー!!!」
そして、今。
ドラゴンレイドにおいて、ミオは駆けていた。
「何なんだ一体!」
いらだって、声を荒げるライオット。
二人はドラゴンに攻撃を仕掛けながらも、翻弄される自軍のバルキリーや、時折つっこむ敵方のユニットに気を取られ、集中できない。
「ただただ走るばっかりで、一体何がしたい!」
「此方の攪乱でしょうね」
ニコルが冷静に呟いた。
バルキリーは機動力に優れたユニット。
であるのだが、一面に秀でているというのは、また一面において劣っているということ。
純粋な攻撃型ユニットとして見れば、バルキリーは意外なほど用途が狭い。
単純な肉弾攻撃力、火力としては戦士系のユニットに劣る。
魔道などの遠距離攻撃にでは魔術師系のユニットに及ばぬ。
回復特化に仕上げることも可能だが、ミオのような覚醒からの超回復を狙うのでない限り、やはり本職に負ける。
単に機動力のみの、使い手の難しいユニットになりがちなのだ。
機動力に主眼を置いた戦略で、アヤソフィアのTVはバルキリーの利点ばかりを生かして勝利してきた。
「だが、相手のほうが機動力で優位となると」
加えて、敵軍の二体のバルキリー。
此方のバルキリーが、盗賊や援護する魔法戦士の間隙を突いて飛びだそうとすると、二体連続で攻撃を仕掛けてくる。
かならず一対二で当たる、その戦法が徹底。
さらには、前線に出ることはないが、じわりとラインを押し上げてくるオークや、魔道弾を撃つばかりのデュラハンが援護に回るので、攻撃をしきれない。
「埒があかないっ!」
姫騎士ライオットが、ニコルに声をかける。「ニコル、あたしも攻撃に回っていいかい?」
「――アヤソフィア様は、正攻法をお望みだ。下手に動かないほうがいい」
「チッ!」
いらだつライオットに、悠然とニコルが声をかける。
「大丈夫だ。長引くならば、絶対的に此方が優位――」
* * *
そう、なんと言ってもTVはSクラス。
しょせん、一勝を挙げたばかりの、へっぽこ連中のドンジリーズとは、格が違うのだ。
まともにぶつかり合えば、TVの一体だけでドンジリーズ全体を制圧することも可能だ。
時間が長引くほど、テンプルバルキリーが優位。
「最初は驚かされたけど……」
腕組みをして、じっとにらみつけるのはテンプルバルキリー側ベンチのアヤソフィア。
「このままではこちらが押し切るわよ。
どうするの、ユーヤ、次の手をお出しなさい……」
不敵な笑みが、アヤソフィアの美しい顔をゆがめた。
「ぜんぶ、たたきつぶす」




