2話
竜騎士となるにはクルツクルフ防衛本部の入団試験に合格しなければならない。独学でドラゴンを従えることが違法行為に当たるわけではないが、ドラゴンの維持飼育には多額の費用を要する。個人で持つのは困難だ。
黒竜軍の出現以来、最も有効な兵力である竜騎士は増強される傾向にある。とはいえ終わらない戦に若い竜騎士は散っていき、新兵の供給は追い付かず現状人類の戦力は1000騎ほどに留まっている。
黒竜の総数は『希望的推測』で100000を越えるとされている。100倍の戦力差であることから、人類が如何に窮地に立っているかが判るだろう。
しかし絶望的な状況ながら戦線が硬直状態であること、危険な専門職故に高報酬であること、そして何より竜騎士が古来より若者の憧れであることから、志願する者は常に多く志望倍率は極めて高い。
「まずはともあれ勉強です」
机にかじり付き白紙のノートに実験結果を纏めるイリス。
自衛官時代からの習慣であるトレーニングはまだ行えない。4歳となったイリスだが、同年代の子供より心なしか体が小さいので自粛しているのだ。
彼女の祖父ランスはドワーフだ。郊外の国営大工房の大頭を勤めているのだが、イリスは具体的にどのような仕事をしているのかは知らない。
つまりイリスはドワーフのクォーターであり、この異種族の血が身長を伸び悩ませているのだ。
「すまぬな、お前の身長では騎士として苦労するかもしれん」
休日なので家にいた祖父ランスは、騎士を志す孫娘に謝る。ドワーフは物作りに長けているが戦闘は不得手とされており、戦場に出る者は少ないのだ。
「何を仰るのです、小柄で筋肉質……パイロットとして理想的な体格ではないですか」
「そ、そうか? ……ぱいろっと?」
尤も、イリスはドワーフの血をハンディキャップだとは考えていなかった。昔からパイロットに適した人物とは背が低く体格のいい者であるとされていたからだ。
激しい空中起動では体に地上の何倍もの重圧がかかる。それを受けきるのに、低身長筋肉質なのは理想的といえた。
「しかし、手足が長い方が得物を振り回し易いのだぞ?」
「空中で接近戦をしよう、という発想が信じがたいです……」
「魔法専門の騎士となるのか? しかし、数の多い黒竜相手に魔法だけで対抗するのは苦しいのだ」
それはイリスも承知している。
額面だけならば、そして理屈の上であらばイリスもおおよそ魔法を理解してきた。この技術に限界があることもまた、同じく。
「限界を越える為に、だからこそ魔法を理解したいのです」
イリスは何事も試してみなければ気が済まない性格だった。
「まあ、魔法も確かに騎士団試験の重要な要素だからの。ところでイリスはどのくらいまで学んだのだ?」
「とりあえず、この本の魔法はここまで習得習得しました」
何気無く訊いたランスはぎょっと驚く。
イリスが持つ学術書の厚さは、実に5センチはあった。イリスが示したのはそのかなり後半だ。
「第三級魔法……ここまで習得したというのか?」
「はい。ここまでは全てです」
魔法全集。学習用ではなく研究者用のこの本は、本来習得の為の技能書ではない。
魔法のイメージを構築する為の細かなアドバイスやテクニックが書かれておらず、既に習得している者が確認の為に使うような部類だ。その代わり、危険指定されている非公開魔法以外はほぼ網羅されている。
「丸暗記ですし、時間を掛ければさして難しくはなかったです」
子供特有の暇にかまけ、ひたすら学習に時間を充てた結果である。
「近所のお友達と遊んだりはしないのか?」
「いえ、円滑に交遊関係を築いていますよ」
子供に合わせ簡単な言葉遣いをするランスに対し、大人びた言葉遣いをするイリス。客観的に見ればチグハグな関係であろう。
「ですが時間は有限です。家事を任されているわけでもない以上、勉学に開いた時間を充てなければ皆さんに申し訳ありません」
「お主本当に子供か?」
魔法の基礎知識として、魔法規模は第一級から第十級まで存在する。
数字が減るほど威力が増し、比例して呪文も長くなるのだ。
全てで数百にも及ぶ魔法、イリスは子供の暇にかまけ遂には大半を暗記してしまっていた。
勉強以外にやることがないほど、この世界には娯楽がなかったともいえる。
「まあ、丸暗記ならあるいは……実際に使用出来るわけではなかろう?」
「いえ、制御も第三級まで出来ますが」
ランスはむせた。
魔法の行使はただ呪文を暗唱すればいい、というものではない。制御のイメージを正しく行わなければ魔法は暴走するのだ。
特に第五級以上の魔法はイメージが困難であり、落ち着いた状況でも発動は難しいとされている。
彼女の魔法技量は、自己申告の通りならば既に正規騎士を遥かに越えている。ランスが驚くのは当然だった。
「じ、実演は出来るかね?」
「まだ魔力が乏しいので何度も使えるわけではありませんが」
庭に出て魔法を使用する。
「穿て天球、貫け夕雲。我は地に伏せる敵。風の侵略者、その爪牙の餌食とせよ。ニードルランダー!」
第五級魔法ニードルランダー。地面より土の杭を伸ばし、敵を貫く魔法だ。
攻撃対象が単体なので杭も一本のみ。これ以上大規模な魔法では周囲の家に被害が及ぶと判断し、土系統対空魔法を選択したのだ。
だが第五級の威力は荒ましく、杭は数十メートルの高さまで伸び突き刺さる。飛行系の魔獣にも通用する、数少ない土魔法であった。
呆然と魔法を見上げていたランスは、我に返り呼吸を整える。
「……なるほど、確かにしっかりと発動しておる」
縮んで平らな地面に還っていく杭。イリスが別の魔法を使い、元に戻した。
「魔法のイメージは精神の未熟な子供には難しいはずじゃが、うぅむ」
唸るランス。イメージが固まらないままに使用された魔法は、効果こそ発動するも出鱈目に作用する。到底使い物にはならないのだ。
イリスは少しだけ後ろめたさから視線を逸らす。
彼女の中身は立派な成人だ。これくらいは当然、転生を経験した人間ならば誰でも可能……イリスはそう考えていた。
厳密には少し違う。イリスのイメージは異世界人とは違い、詳細かつ具体的なのだ。
魔法の詠唱はイメージを精霊に伝える為の言葉。人が精霊に祈りを捧げることで、奇跡を起こす。
大精霊が信仰されるこの世界において、精霊は目上の存在。つまり、人々は無意識に『頼んで』しまうのだ。
精霊は人と同じ目線で思考する存在ではない。『敵を燃やして下さい』と願っても、『敵? なにそれ。取り合えず目の前の辺りかな?』と意思疏通が図れていないのだ。
イリスは部下に指示するが如く、細かにバイトをこき使うつもりでイメージを伝えている。
精霊をいまいち信じていないイリスだからこそ、魔力を純粋な力と認識し制御出来た。
勘違いしてはいけないのは、精霊という存在は実在することだ。しかしその在り方は人とは異なり、指図されたところで気を害するようなものではない。そんな感覚すらない。
更にいえば、イリスが不可思議な現象を明確にイメージ出来たのは彼女がかつてテレビや映画などで様々な光景を目にしていたから、というのもあるだろう。
日本人にとって、魔法は非現実的でありながらとても身近なものだった。一度『魔法は有る』のだと理解してしまえば、後は呼吸するかのようにイメージ出来たのである。
「イリス、今幾つじゃ?」
「4つです」
「4歳……この歳でこれほど、か。末恐ろしいのう」
じゃが、とランスは続ける。
「これで満足してはならんぞ。お主の詠唱速度はお粗末なものじゃ、本物の騎士とは鍛え抜いた滑舌で一息にて詠唱を終えるもの。今の速度では実戦には使えぬ」
老いたドワーフは、長い人生で才能に溺れ能力を見失う子供を多く見てきた。孫娘の将来を案じ、ランスは敢えて厳しい言葉を選ぶ。
しかしそれは杞憂であろう、彼女の中身は立派な成人なのだから。
「はい、勿論です。でもどうも、早口言葉は苦手で」
「ははは、そういうものじゃ」
ランスは年相応の壁にぶつかるイリスに胸を撫で下ろした。万能の人間とは、一種恐怖の対象となりかねないのである。
「なので、詠唱を短くする方法を考えました」
ランスは少し泣きたくなった。
戦闘用魔法の使用に関し障害となるのは、主に詠唱或いは魔法陣の手間である。
激しい戦闘中に詠唱を唱えることは容易ではない。ましてや相手より先んじようと早口言葉で詠唱しなければならないのだ。上級騎士ともなれば、通常の3倍近い速度で詠唱出来るとされる。
イリスは、知識を深めることに重点を置いたが故にこの技量が明確に不足している。
「速読詠唱の訓練も当然行っていますが、その、詠唱を短く短縮出来ないかと思い立ったのです」
「で、出来るわけなかろう。多くの賢者が挑み、失敗した試みじゃぞ」
正確には戦闘用に無駄を削り、必要最低限の発声数まで絞りこんだものこそ現在知られる呪文なのだ。
これ以上どこを削ろうと意味が欠落し、正常な発動がしなくなる。故に、ランスは不可能と断じた。
イリスが言い淀んだのは、その発見のきっかけが短縮詠唱の実験などではなく、ただの好奇心だったからだ。
彼女は詠唱を覚えた後、気まぐれにそれを日本語に翻訳して唱えてみたのである。
成功するはずもない、と適当に実施してみた魔法はまさかの成功。魔法詠唱に言語が関係ないことが判明した。
そうなれば次にすることは決まっている。イリスが使用出来るもう一つの言語、英語でも同様の実験を行ったのだ。
日本語、英語共に魔法の発動は成功。詠唱者が意味を理解し言語と認識していれば、精霊はその意図を汲み取るのである。
だがそれだけでは、敵対する者にどのような魔法を詠唱しているのかを隠す暗号化程度の意味しかない。
そこで、イリスは同じ意味の言葉でも言語によって詠唱時間が異なることに注目し、人工言語を製作した。
人工言語と仰々しい言い回しをしたところで、つまりは既存の言語を簡略化したものだ。言語学者でもないイリスにはゼロからオリジナルの言語を製作することなど出来るはずがない。
異世界語、日本語、英語……知る限りの発音数を多く内包することで、複雑な音ながら明確な意味を伝えることの出来る人工の言語を製作したのである。
「この詠唱に特化した言語を、高速詠唱用人工言語と名付けました」
「し、信じられん……単語を削るのではなく、別の言葉を使うことで詠唱時間を短くするなど」
「これも実演しましょうか?」
「……頼む」
気負った様子もなく、朗々と呪文を紡ぐイリス。
「『 』『 』『 』『 』『 』、ニードルランダーッ」
ランスの耳には、その言語は到底意味のあるものとは思えなかった。抑揚や感情さえ乗っていればまだ言葉として感じ取れたかもしれないが、早く話すことだけを念頭に置いた高速詠唱用人工言語は無機質な音にしか聞こえない。
しかし魔法は正しく発動し、先程と遜色ない土矛が天を突き刺す。失敗しか浮かばぬ経過と完璧な結果のギャップにランスは目眩を覚え、そしてイリスの両肩を掴んだ。
「お、お爺様?」
「イリス。この技法を、紙に書いて纏めなさい」
「ええと。論文にしろと?」
論文にするということは誰かが読むということだ。面倒なことになった、と渋るイリス。
「黒竜軍の脅威は土の国に確実に迫っておる。有用な技術は、国営大工房の大頭として見逃すわけにはいかん。勿論イリスに迷惑は掛けん」
高速詠唱用人工言語を使用した場合、詠唱発声数は異世界語の場合の3分の1にまで減少する。3倍速の速読詠唱が熟練魔法使いの限界とされていることを考えれば、尋常ではない発動速度だった。
責任ある立場として成さねばならない一線と、可愛い孫娘の今後を憂いた考慮。ランスは板挟みとなりつつも、この新技術を捨て置くことは出来ないと判断した。
クルツクルフ城の会議室。外客を招く絢爛な一室ではなく、身内同士の話し合いが繰り返される実用一辺倒な大部屋だ。
ここでは今、ローブを羽織った者達が十数名集まっていた。
年齢も性別も不揃いな彼等は、俗に宮廷魔導士と呼ばれる魔法のプロフェッショナル達である。
幼少より優れた才能を発揮し、国家にその実力を認められた一流の魔法使い。彼等は日頃より切羽詰まった国税より資金を得て、黒竜軍への対抗策や魔法の改良・開発などを多岐に渡って行っている。
その実力は間違いなく最高峰。だが、明確な成果は出せてはいない。
彼等が無能なのではなく、『そういうもの』なのだ。新魔法が開発されるのは100年に一度、新理論の発見など1000年に一度。技術の進歩が100年で世界を変えることを知る地球人と違い、何千年も同じような文明レベルが続いてきた異世界では戦争すら気長に行われる。
この感覚からすれば、黒竜軍出現以降の2か国の消滅などまさに激動の時代といえよう。
しかしながら、世界が大きく変わろうと魔法が大きく変わることはなかった。この世界の人間が持つ発想は全てが試され、技術として完成しきっていたのだ。
それでも尚更なる発展を望み、切り詰めた余裕を費やすことが許された者達。だからこそ、その胸には確かな自負と誇りが刻まれていた。
「高速詠唱用人工言語……よもや、このような物が届けられるとは」
彼等の常識を根本から揺るがす、革新的な論文が持ち込まれるまでは。
「詠唱時間を3分の1にまで短縮する技法だと? 一音節短くするだけでも魔法学の歴史に名が残るほどの偉業だというのに、どうなっている……」
「論文の信憑性は? 実際に誰か試したのですか?」
「私が先程。第十級魔法ですが、確かに発動しました。ただ……」
「どうしたのかね?」
実験を行った若い女性魔法使いは、困惑した表情で報告する。
「論文3枚目の概要に、『詠唱文の意味を理解した上で発声すれば』とありますよね? どうやらこれが曲者のようです」
まったく新しい発想ながら即座に問題点を把握出来るあたり、やはりここに集まった面子は優秀だった。
「言葉の意味を理解していることなど、今までの考え方では当然過ぎて注目されていませんでした。ですが、この論文の作者……軽銀殿は単語や文法を把握していなければ精霊様に意思が通らないことを指摘しています」
軽銀。イリスが偽名として選んだのは、前世で最も近しい金属の日本語名であった。
近年でこそカーボンやチタンといった新素材が台頭しているものの、長らく航空機の構造材として採用されてきた金属……アルミニウム合金である。
「つまり、耳で聞いて高速詠唱用人工言語の発音を覚えたところで魔法は発動しないのです」
即ち、高速詠唱用人工言語を使用するには前提として、その魔法を通常言語で習得しなければならないことになる。詠唱時間こそ短縮しているものの、内容は一気に複雑化しているのだ。
「よって、私はこの技法を現行最高難易度の高等技能と考えます。万人に利用可能な、即戦力となる技能とは言い難いでしょう」
それでも高速詠唱用人工言語の重要性は揺るぎはしない。習得困難であれど、習得してしまえば圧倒的高速詠唱が可能となるのだから。
「何者なのだ、この軽銀殿とは。ランス殿のお知り合いという話だが」
論文を宮廷魔導士達に回したランスだが、その筆者が4歳児であることは伝えていない。どうしても色眼鏡がかかるであろうという判断であり、孫の生活が一変しかねないことを考慮すれば今後もイリスの正体を伝えるのは極限定的に留めたいところだった。
事実論文の筆者が4歳であることを知っていれば、この場の賢者達は論文をまともに読みもしなかったかもしれない。
「……一度、軽銀殿を呼びましょう」
中年女性の宮廷魔導士が提案する。
「この場にいる誰もが同意見でしょう、こんな新概念を持ち込んだ人間を見てみたい。それから、この『劇薬』の扱いを考えても遅くはないのでは」
劇薬呼ばわりされた高速詠唱用人工言語であったが、その評価はあながちおかしなものでもない。あるいは魔法についての既存の考え方を全否定するかもしれないこの論文は、『世界は実は球体である』という戯れ言に匹敵する取り扱い注意項目であった。
「それは出来ない。ランス殿の意向だ、軽銀殿の正体は可能な限り秘匿する約束となっている」
「しかし……」
「可能な限り、だ。私だけでも会えないか、ランス殿に掛け合ってみよう」
彼、アンドリュース大臣はランスと面識がある。なぜ軽銀なる者を出せないのか、聞き出す必要があると考えていた。
「嗚呼、面倒なことになってきました」
呟き、頭を抱えるのは細い金髪を揺らす少女イリス。
「私は竜騎士になりたいのです。魔法なんて手段なのです。偉い人にはそれが解らないのです」
イリスの目標が宮廷魔導士であれば、この件は大きなチャンスとなったであろう。しかし竜騎士になる、という目標の前では寄り道でしかない。
若い……というより幼いイリスにはまだ多く時間がある、寄り道の一つや二つは問題ではない。イリスが危惧しているのは一重に『しがらみ』であった。
悪目立ちは面倒事を呼ぶ。彼女の人生設計は始まったばかりであり、その一歩目であった魔法研究の段階でいきなり脇道へ逸れたことに意気消沈していた。
「大丈夫じゃイリス、今日は魔法大臣との対談じゃ。あちらは一人、それにわしもついておる」
「お爺様がいるのに対談というのでしょうか?」
論文についての説明に来てほしい、と登城の要請が来て数日。祖父と話し合ったイリスは、結局城へ向かうことに同意した。
ランスは孫娘を全力で庇う心積もりであったが、あくまで話すのはイリス。
彼女が僅か4歳であることを考慮すれば些か配慮に足りないが、イリスは祖父が自分を信用している証である、と考え直しこれから始まる話し合いに気合いを入れ直した。
街中をしばし歩くと、いつも見上げるだけだった巨大な城が目の前に現れる。
「わしじゃ、通るぞ」
「はっ!」
顔パスで門兵の横を通過する祖父に、国営大工房工房長の地位を垣間見るイリス。普段のランスはイリスにとって普通のお爺ちゃんだが、外では多くの弟子に慕われる偉大な職人なのだ。
堀を越える跳ね橋を渡り、イリスは初めての場内を見物する。
「ここがお城ですか。なるほど、雰囲気がありますね」
暗澹たる気分であったイリスも、機嫌を少し持ち直す。城下町から見上げるだけだった王城、その内部に彼女の旺盛な好奇心は大いに疼いた。
「さて、どこの会議室だったかな?」
「おはようございますランス様。少々宜しいでしょうか?」
すかさず二人に近付くメイド。イリスはコスプレでしか現存しない職業の衣服に、密かに感動を覚えた。
「どうしたのだ?」
「アンドリュース様は急用が入り、ただいま外出中なのです。申し訳ございませんが、1刻ほどお待ち頂けますか?」
「む……仕方がないのう。一度家に帰るのも面倒じゃし、どこかで時間を潰そうか」
振り返って孫娘の意見を求めるランス。しかしそこには誰もいなかった。
「……イリス!? イリス、どこいったー!?」
ランスは失念していた、彼女の奔放な性格を。
自衛隊生活に慣れ、規律を守ることも苦に思わない程度には忍耐強いイリス。しかし、その本質はどこまでも飛んでいく風のような性格なのである。
「なるほど、なるほど。ここからあっちに繋がって、あの尖塔から空を見張っているわけですね。華美な建築物だと思っていましたが、むしろ堅実剛健といっていい」
きょろきょろくるくると回りつつ、辺りを観察するイリス。
廊下を抜けた彼女は一旦通り過ぎ、数歩後退して中庭に目を向けた。
「あれは竜騎士……の見習い、でしょうか?」
イリスとそう変わらない歳の少女が、必死に暴れるドラゴンの背にしがみ付いていた。
はて、と首を傾げるイリス。騎士志望の少年少女が訓練するのはクルツクルフ防衛本部と相場が決まっている。王城内で若い騎士候補を見かけるのは不自然だった。
中庭の真ん中に居座るのは中々に立派なドラゴンだ。しかし彼は少女を乗せて空を飛ぶつもりはないらしく、巨体を揺すりこそすれ翼は動かそうともしない。
「お、大人しく、してくだ、ひゃっ!」
ドラゴンは少女に気を許しておらず、遂には振り落とす。
弾みで数メートル宙を舞った少女。やってしまった、と焦るドラゴン。
危険と判断したイリスは、慣れない速読詠唱と高速詠唱用人工言語の併用を選択し魔法を行使した。
「『 』『 』エアローブッ!」
第九級魔法エアローブ。不可視のクッションを形成する、落下の危険と隣り合わせな竜騎士にとっては定番な魔法だ。
早口言葉による2倍速、呪文短縮による3倍速によって詠唱時間は6分の1。速度が幸いし、少女は軟着地し尻餅を着いた。
「ううっ、どうして受け入れてくれないのでしょう……」
竜は振り落とした少女に一瞬申し訳なさそうな視線を向けるも、すぐにそっぽを向き首を伏せる。
そんな様子には気付かず、再度竜によじ登ろうとする少女。
「止めなさい、危ないですよ」
堪らずイリスは声を掛けた。魔法で受け入れたからいいものの、竜の筋力では少女を誤って傷付けかねない。
少女はイリスにようやく気付き、互いに硬直した。
少女が硬直したのは突然声を掛けられ驚いたからだが、イリスがフリーズしたのは少女の容姿に見惚れたからだ。
深海のような蒼い髪、ルビーと見紛う紅の瞳。
如何なる西洋人形よりも整った容姿はおよそ生物とは思えず、イリスは絵画の前に立つ錯覚すら覚えた。
イリスはこれほど美しい人物を見たのは初めてだった。息を飲み、なぜか赤面してしまう。
「……初めまして。イリスと申します」
自己紹介するイリス。美しい女性のお近づきになりたい、という男性だった頃の心理が作用したのだ。
しかしイリスは今や女性。落胆とも安堵とも取れる複雑な心境で、本来の忠告に戻る。
「その子はどうやら、貴女を背に乗せるつもりはないようです。それ以上は怪我をするだけです」
イリスはドラゴンをどうにも信用出来ないが、彼等が知能を持ち愛嬌のある人懐っこい生物だと知っている。目の前のドラゴンには温厚な知性が感じられ、意地悪で搭乗を拒否しているわけではないと考えたのだ。
不毛で徒労な努力は続けるべきではない。中身が成人のイリスはそう判断するも、生憎眼前の少女は年相応の子供であり。
「でもっ! 私は竜騎士になるのです!」
少女が年齢の割にとても聡明であることは言葉端から充分窺えたが、理性と感情が釣り合っていないこともまた明白だった。
「そして水の国を取り戻さねばっ……」
「水の国?」
なるほど、とイリスは察する。この少女は、現在黒竜軍との主戦場となっている水の国の出身者なのだと。
水の国は今、戦線の緩衝地帯として一般人の立ち入れない領域と化している。軍人や彼等の生活を支える為に雇われた極小数の一般人が駐屯するばかりであり、元々住んでいた民間人はほぼ全てが土の国に避難している。
ドラゴンという航空戦力を中心とした敵に、塹壕や戦線はあまり意味を為さない。散在的に黒竜は出現し、それを逐次迎撃するしかないのだ。
よって、この少女も故郷を追われ逃げてきた、所謂難民だと推測された。
珍しい話ではない。この世界は今戦争中であり、難民は城外にいくらでもいた。
その難民が職を求め、軍人となることもやはり珍しくはないのである。
しかし、とイリスはごちる。
少女は整った容姿もそうだが、身なりもしっかりとした洋服に身を包んでいる。とても生活に苦慮しているようには見えない。
そもそも難民の生活拠点は町を囲む城壁の外、所謂『城外』に限定される。クルツクルフに限らず土の国の町は魔獣避けの城壁を有しているが、難民によってキャパシティを越えたことで城壁の外までその生活圏を広げざるを得なかったのだ。
元より城内に住んでいた市民に、難民の為に土地を譲り魔獣襲撃の危険がつきまとう城外で暮らせ、などとは当然言えない。よって、難民の大半は例外を除き城外に住んでいた。
少数ながら例外、城内で暮らす難民もいる。自由経済が機能している以上は難民にも元々裕福な者や逃げた先でチャンスを掴み富を築いた者、そして特殊な技能を持っており一次産業職に馴染まなかった者はいる。そういった者は城内での生活を許されていた。
目の前の少女もまた、そういった裕福な難民の身内なのだろう。イリスにもすぐにそこまで行き着いた。
「あの……?」
考え込んでしまっていたイリスを、少女は怪訝そうに覗き込む。
「ああ、すいません。少し見とれていました、貴女の美しさに」
誤魔化す為に適当なことを言いつつ、イリスは自分に関係のないことだと割り切る。彼女が何者であれ、やれることなどないのだ。
「う、美しい、だなんて」
赤面ししどろもどろに狼狽える少女。話が進まない気がしたイリスは共通の話題を見い出し、雑談を試みる。
「貴女も竜騎士を目指しているのですか?」
「『貴女も』?」
「私もなのです。竜騎士を目指して、日夜鍛練は欠かしていません」
少女は目を丸く見開き、呟く。
「まあ、女の子が竜騎士を目指すなんて珍しいですね」
自分のことを棚に上げるな、とイリスは内心つっこんだ。
「アイギス……という名に心当たりはありますか?」
「ほう、奇縁ですね。イリスとアイギスとは。少し響きが似ている」
蒼髪の少女はそっと胸を撫で下ろした。イリスは少女のことを知らないと確信したのだ。
「でも、その、この名前は偽名です。いえ偽名ではなく、赤の他人です。私とは無関係なので忘れて下さい」
「は、はぁ」
「私のことは適当に呼んで下さい」
「構いませんが、適当といわれても」
イリスとしても、ほとんど自身と同じ名前を呼ぶのは違和感があったので有り難かった。……アイギスが彼女の名前であるのなら、だが。
「ええと、そうですね。どうしましょう?」
悩み始めたので、イリスは提案する。
アイギス。地球にも似た発音の単語が存在し、それを語源とした単語はとある兵器の総称となっている。そこから幾つかの名を連想した。
「タイコンデルガというのは?」
「長いかと」
「コンゴウなら?」
「変わった響きですね」
「ズムウォルト」
「女の子の名前とは……」
「アタゴ」
「もう名前ではなくなっています」
「ア、アーレイ……?」
「あっ、それ素敵です」
やっとピンと来る名前に反応した少女、改めアーレイ。
実は男性名なのだが、異世界語だからいいかとイリスも気にしないことにした。
「深くは聞きませんが、この子は誰のドラゴンなのです?」
「私のドラゴンです。水竜のアキレウスといいます」
個人でドラゴンを持つ者は珍しい。とはいえ聞かないと断った以上、深追いはしない。
「水竜、水中戦も可能なドラゴンでしたか」
この世界には4つの国家があったように、ドラゴンも火水風土、そして黒竜の計5種類が存在する。
火竜。火の国に生息したとされる、最も一般人がイメージするのに近いドラゴンだ。
気性が荒く獰猛ながら、それ故に戦闘に向いており、火炎魔法以上の強力なブレスを吹ける。
風竜。風の精霊に愛され、速度に優れたドラゴン。
スピードに長けているとはいえ独力では戦闘能力は低く、竜騎士なしでは有効打に欠ける。よって、敵数の多い魔獣戦には向いていない。
しかし対人戦、即ち竜騎士対竜騎士の巴戦においては有利な位置をキープ出来ることから最良とされ、火竜と並んで戦闘に向いたドラゴンともされる。
ここまでが、一般論に戦闘向きとされる2種だ。両国とも滅んでいるので、生き残りは数えるほどしかいない。
水竜。水の国に生息する、水を操ることが得意なドラゴンだ。
イリスが指摘した通り水中戦が可能であり、また、無から水を発生させることが出来る。
水不足や有事の際には重宝されるも、ドラゴンとしては戦闘能力に優れているわけでもない。とはいえ水中行動が可能なので、土竜よりは戦いに向いていると定義されているドラゴンだ。
そして、土の国に生息する土竜。
現状人類が最も多く飼育するドラゴンであり、最も戦闘に向いていない種族。
骨格や鱗が丈夫で防御に優れるも、それは体重が比較的重いことを示している。一対一では他の3種族に明確に劣り、勝利は難しい。
また、得意魔法は炎のブレスでも高速飛行でも水を産み出すことでもなく、物を仕舞うこと。
容量制限がなく、無制限に非生物を自身の魔導血界領域に格納することが可能。
旅商人に重宝されたことから、『荷馬車』とすら揶揄された最弱のドラゴンだ。
およそ、今から戦闘に向いた火竜や風竜を増やすことは困難。よって、人類はこの土竜を主戦力として黒竜軍に対抗しなければならない。
「珍しいですね、水竜は貴重だと聞いていますが」
水の国より撤退し生き延びた水竜はそれなりにいる。イリスとて初めて見るわけでもないが、気になる程度には興味を持った。
「ええと、そうですね。父から受け継いだドラゴンなのです」
深入りしないまま雑談するのも難しいのだな、とイリスは困ってしまう。
「おや、これは……まさか魔陣刻巻物?」
少女の腰部ホルダーに挿された紙の筒。イリスは目敏くそれに気付く。
魔陣刻巻物とは攻撃魔法の魔法陣を描いた巻物のことだ。ほどき広げ、紙面を敵に向けて魔力を注げば魔法が発動する。呪文不要、イメージ不要と普通に魔法発動するよりも手早く高度な魔法を使用出来るという利点がある。
イリスからすれば広げる動作が面倒であったり、一回使用すれば燃えて消失してしまうことから高価であったりなど使い勝手が悪く改良の余地があるように思えたものの、この世界の魔法歴史からすれば革新的な大発明であった。
「いえ、これはただの紙です。魔陣刻巻物を破ってしまったら勿体無いですから」
戦場で持ち歩く以上は、身に付けることに慣れていなければならない。
しかし高価な魔陣刻巻物、描かれた魔法陣が傷付けば大きな損失だ。なので竜騎士は訓練として、適当な紙を丸めて持ち歩くのである。
「なるほど、勉強になります」
父親が騎士団長ながら、イリスの自主訓練は独学の域を出ない。ルバートは娘が竜騎士を志していることを知っているものの、自主性を重んじて現段階では好きにやらせることにしているのだ。
そのせいか、イリスの知識は部分的に妙に欠落していた。魔陣刻巻物の件など竜騎士志望なら誰もが知っていておかしくない知識だというのに。
もっともそれが高速詠唱用人工言語の開発に繋がったのだから、彼の判断はあながち間違っていたわけではないといえよう。
「ではこれは知っていますか?」
イリスをまだ憧れだけで竜騎士を目指す同年代の子供だと認識し、アーレイは少しだけ胸を張って杖を見せる。彼女はしっかりとした指導を受けられる立場なので、正規騎士に関する知識はそこらの子供より上なのだ。
「はい、杖ですね。イメージを省略する道具でしたか」
それは知っていたのか、と落胆するアーレイ。知識を自慢したかったのである。
そんな心境を察したイリスは、気を利かせ訊ねる。
「こんなにしっかりした杖を見るのは初めてです。どうやって使うのか、教えて頂けませんか?」
「えっ? あ、はい!」
喜色を浮かべ杖を掲げるアーレイ。
イリスの評した通り、彼女の杖は装飾が施された見事なものであった。決して華美ではなく、実戦用として軽量に作られつつも美しいそれはまさに宝杖といえよう。
「ええとですね、杖というのは特殊な魔法陣が刻まれた『剣』です。この魔法陣には魔法のイメージを補助する役割があり、杖の切っ先に向かって軌道修正されます」
「杖を前後逆に持っていれば自分に飛んでくる、ということですね」
「そ、そうですね」
素っ頓狂なイリスの発想に戸惑うアーレイ。剣の刃の方を握ったらどうなるか、という提案だ。明らかに色々とずれていた。
イリスが抱く杖の認識は『銃』だった。しっかり手で握り狙いを定めれば、イメージがおぼろげでも魔法は直進する。口頭詠唱が訓練を要する『弓矢』であれば、威力が変わらず扱いやすい杖を『銃』と認識するのは間違いではない。
一見利点しかないように聞こえるが、イメージをしっかりと行える魔法使いならばどんな体勢でもどのような位置関係でも魔法を誘導し敵に当てることが出来る。あくまで杖は『補助具』なのだ。
興味津々に杖を様々な角度から観察するイリスに、アーレイは思わず後退する。
「つ、使ってみますか?」
「是非」
イリスは杖を受け取り、『前後逆』に構える。
「何をしているのです!」
「あ、すいません。つい」
「つい!?」
実際に試してみたくなる、イリスの悪癖だった。
「前に、空に向けて下さい!」
「了解しました」
再度、今度は上空に切っ先を向け構えるイリス。
「走れ紅炎、ファイレア!」
細く燃える矢が空を疾走する。が、途中に小刻みに震え、進路を不規則に変えた。
「あら、おかしいですね。真っ直ぐ飛ぶはずなのに、杖に刻まれた魔法陣が壊れたのかしら?」
首を傾げるアーレイ。
「曲がるイメージで放ったのですが、直進しようとする補正と干渉して出鱈目に飛んでしまうようですね」
アーレイは呆れた。この人は普通にやってみることが出来ないのか、と。
「貴女は、まるで風のように好きに立ち振る舞う人なのですね」
「そうでしょうか? 普通ですよ」
「きっと、貴女は何人にも縛られずに飛んでいくのでしょう」
「アーレイは自由生きたいのですか?」
はたと無意識の吐露から我に返り、アーレイは頭を振る。
「違うのです。私は、黒竜軍を撃退し祖国を取り戻さねばならないのです。本当なら私一人でも水の国を取り戻しに行かなければなりません」
イリスはアキレウスの顔を見上げる。困り顔の彼に、イリスはなぜ彼がアーレイの搭乗を拒否するのかを察した。
「よっと」
ひょい、とアキレウスに飛び乗るイリス。暴れる様子もない水竜に、アーレイは愕然と口を開きっぱなしにする。
「ど、どうしてです? 私は乗せてくれることもないのに!」
「当然でしょう、私は『乗った』だけですから」
アキレウスはアーレイの無謀と等しい覚悟を理解していた。むざむざと死地へ向かう人間を背に乗せる趣味は、彼にはないのだ。
ドラゴンは頭のいい生物だ。個体差はあるが、アキレウスの瞳は顕著に明確な理性を湛えている。
「アーレイ、アキレウスの優しさを信じて下さい」
理屈で無謀、無駄死にするだけと諭しても無駄であろう。そう考え、イリスはアーレイが信頼すべき彼をだしにすることにした。
「時にドラゴンは気絶した竜騎士を背負ったまま撤退することもあると聞きます。ドラゴンとの絆もまた、竜騎士の強さなのです」
「アキレウスを信じる、ですか」
「彼は死地を恐れているわけではない。全ての力を尽くせないことこそを、恐れているのです」
完全な憶測。間違っていたらすまないなと思いつつ、しかしアキレウスは瞼を閉じたまま反応はしなかった。
「でも、やっぱり私は、きっと貴女が羨ましい。私は一度も、自分で空を飛んだことはありません」
イリスと同じく、誰かの握る手綱に頼ってドラゴンに乗ることはあった。しかし、自ら向かう進路を選んだことはない。
アーレイは現4歳、それは当然なこと。しかしアーレイはイリスの瞳に、今まで見てきた竜騎士と同じ色を見たのだ。
空に手を届かせた者特有の、風の先を見据えるような雰囲気を。
アーレイは、イリスに刻まれたパイロットとしての魂を直感的に感じ取っていた。
「当然です。自分の意思で飛べない者に、翼なんてありません」
救いを求めるようなアーレイの言葉を、イリスはにべもなく切り捨てる。
「自分の力で飛ぶ。それが、どれだけ難しいことか解りますか?」
困惑するアーレイ。ただ、どうやら自分がイリスの大切な部分に触れてしまったことは解った。
別段イリスは怒っていない。ただ、空に昇るということに対する決意が桁近いなだけだ。
地球において空を飛ぶ方法は色々ある。
金を払えば旅客機には乗れる。もう少し払えば小型機で遊覧飛行だって出来る。
だが、それは人類の叡知に乗っているだけ。他者の努力に頼っているだけ。
イリスが求めたのはそんなものではなかった。空の全てを欲し、全てを学ばんとした。
100年の航空機の歴史。それを知り、そして操縦幹を握るのは生半可なことではない。
しかし、それでもイリスは一度も歩みを止めることなどしなかったのだ。
最初から空を飛べる生物の背に乗り、よく判らないまま飛ぼうなどイリスからすれば片腹痛い話だろう。
だが、とも考える。
空を飛ぶことは難しくはない。イリスはそうとも思っていた。
「アーレイ」
「はい?」
「デートしましょう」
「へっ? ……ふえぇ!?」
唐突な同性からのお誘いに、アーレイの顔は瞬時に沸騰した。
謎の少女アーレイとの契りを結ぶ経緯は割愛し、場面は数時間後に移る。
場所は城の一室。先方は一方的に呼び出した後ろめたさも手伝い、ランスの提案通り変に格式ばった部屋ではなく小さな応接間を手配した。
結果としてそれは正解だったのだろう、とスティレット・アンドリュース大臣は内心溜め息を吐く。
「お主が、あの論文を書いた者……で宜しいのだな?」
「はい。初めまして、魔法大臣様」
国家の各部門を支える長、それが大臣職だ。中でも魔法に関する業務を纏めるこの男こそ、スティレット・アンドリュースであった。
国王フラン・ベルジェ・アーヴェルアにも進言する権限を有する、人類有数の権力者。しかし彼とて、目の前でのほほんと紅茶を啜るイリスに頭を抱えたい気分だった。
魔法開発者を呼んだはずが子供が入室してきたという事態に、困惑する以外になく。
ちょこんと椅子に座り足をブラブラさせるイリスは、物怖じもせず返答する。
「私の名はイリス・ブライトウィルと申します。この度は魔導の道を切り開く賢人様とお話する場を設けて頂き、とても光栄です」
「う、うむ。わしはスティレット・アンドリュース。魔法大臣を勤めておる」
容姿は完全な4歳児なのに、口調態度は成人のそれ。そのギャップに妙な迫力を感じるも、気圧されて堪るかと気合いを入れるスティレット。
「ランス殿、彼女の素性を隠したい理由というのは……」
「見ての通りですじゃ。なまじ……我が孫ながら出鱈目なのでのう。扱いは慎重に行いたいと考えたのじゃ」
「なるほど、劇薬だ」
「あの、先程から辛辣な言葉が飛び交っているようですが」
『出鱈目』や『劇薬』といった単語の数々に、半目となるイリス。
それを涼しい顔で無視し、スティレットはテーブルに論文を置く。
「イリス……いや、ここは軽銀殿と呼ぼう。君の発案である高速詠唱用人工言語の確立、見事だ」
「ありがとうございます、スティレット様」
恭しく頭を下げるイリス。スピアの教育は特に礼儀作法について厳しく、イリスはこの世界の作法についてはそれなりに詳しかった。
「正直、この技術は既存の魔法技術と比べ飛躍し過ぎている。なぜこのような発想に至ったのだ、他にも何か発見しているのではないか?」
スティレットが求めたのは完成された技術ではなく、基礎技術だ。目先の戦力を求めるだけならば高速詠唱用人工言語も充分な成果といえるが、更なる発展を求めるならば基礎は不可欠といえる。
イリスがなぜ高速詠唱用人工言語に至れたか、スティレットはそれが気になって仕方がなかったのだ。
「他にも、と言いましても。精霊について様々な検証を行いましたが、それだけですよ?」
「検証、とは? 書物では得られない事柄かね?」
「いえ。大半の実験は既に行われているようでしたが、信憑性の怪しいデータも多かったので」
「ような気がする」や「なんとなく解った」では話にならない。明確な数値とし、充分な情報を集めてこそ資料として役に立つ。
学術とは、元来そういうものだ。
「例えばこのグラフをご覧下さい。特定の魔法の威力と飛距離は比例するものである、というのが定説ですよね」
「うむ。この表でも、この法則を肯定しているようだが?」
「そうでしょうか? 僅かに、距離が遠くなるほど威力が落ちていませんか?」
イリスの指摘通り、グラフは完全な直線ではなく僅かな下降する曲線を描いていた。
「誤差ではないか?」
「違います。何度も繰り返し実験した結果です、明らかに外的要因が作用しています。そこで、様々な条件を変化させて対称実験を行いました」
次々と実験結果を羅列していくイリス。平均値を求め信憑性の高い資料を得るには二桁三桁のデータが必要となる。
気の遠くなるような作業に、流石のスティレットも呆れるしかなかった。
「ここまでしたのか……そこまでして、何か得られたのか?」
「はい。どうやら、他の精霊が魔法に作用していると結論付けました」
期待していなかった結論、しかしスティレットは聞き逃すわけにもいかない。
「精霊様が既に成立した魔法に干渉するだと? そんな事例、聞いたことがないぞ」
「はい、魔法を普通に使っていても誤差で済まされる範疇です。個人で魔法を発動する限りは何ら影響はないでしょう」
ですが、とイリスは続ける。
「規模が大きくなれば話は別です。かつて、大規模な魔法陣を構築することで高出力な魔法を発動する、という実験が行われましたよね?」
「よく知っているものだ。しかし、魔法は発動しなかった。あまりに巨大な人の身に余る力を振るうことを、大精霊様が諌めたからとされている」
「違います」
イリスは断言する。
「魔法陣の規模が大きすぎて、外部からの精霊の影響を受けてしまうのです。それが魔法陣の原理を阻害し、発動を失敗させた。それだけです」
時の賢者が苦心し出した結論を、あっさりと否定するイリス。
「ならば解決法も自ずと見えてきます」
イリスが鞄から取り出すのは、更に数枚の論文。スティレットはそれを受け取り、唖然とした。
「魔法陣の出力を上げ外部からの影響をはね除けるか、精霊をシャットダウンする術式を魔法陣に組み込むか。私の好みは後者ですね、前者はただの力業で根本的解決になってませんし」
紙に描かれていたのは、かつての実験で使用された大規模魔法陣……それに保護術式を組み込んだ、複雑怪奇な模様だった。
あまりに緻密で一種芸術的なそれに、スティレットも眉間の皺を深く刻む。
「随分と複雑化するものだ、これではまるで別物ではないか」
「単純に巨大化させてなんとかなるなら、世話ないのです」
大きさを変えようと物理法則が変わるわけではない。アリを摘まんで放り投げても地面に着地するだけだが、人が高層ビルから落下すれば死を免れない。大きくすればそれでいい、で済むことなどほとんどないのだ。
「……この新説についての検証は、こちらでしっかりと行おう。名義は軽銀で構わないのか?」
「はい、お願いします」
スティレットは大きく息を吐いた。
「……なるほど、君の見る世界は独特だ。だが、それ故に見えるものもあるのだろう」
あまりに愛らしく幼い劇薬、しかし捨て置くことは出来ない。スティレットもランスと同じくそう結論付ける。
「君は将来、宮廷魔導士になるのかね?」
自身を落ち着かせる為に紅茶を啜りつつ問うスティレット。
「私は竜騎士になるつもりです」
噎せ、紅茶を溢した。
訊きつつ、その実研究職に進むものと思い込んでいたのだ。
「こ、これほどの技術を構築して、騎士になるだと? いかん、学者になりなさい!」
「ですが、これも竜騎士になるための研究です。他意はありません」
頭痛を堪えるように頭を抑え、スティレットは説得を試みる。
「……いいか、最前線で戦う者達の手前こんなことは言いたくないが、今の時代竜騎士は優良職とは言い難い。対黒竜軍戦術も成熟し戦死率も低下しているが、それでも未だ新兵が長生き出来る世界ではないのだ」
地上戦力と同じく、航空戦力も消耗戦の概念は存在する。どれだけ有利な戦況であろうと、誰かが必ず死ぬのだ。
一兵卒であればいい。しかし、イリスのような逸材は替えがきかない。まして、小柄で細身な彼女が成人したところで過酷な戦場を生き延びられるとはスティレットにはとても見えなかった。
「戦術も成熟、ですか……」
指摘するつもりはないが、イリスにはとても現在運用されている戦術論が優れているとは思えない。同高度からの巴戦を挑んでいる時点で、騎士道を捨てきれてなどいない。
それを口にする予定はない。実戦を知らぬ小娘の言葉など、実績こそが物を言う軍事では一笑されるだけなのは明らかだ。
「なにか?」
「いえ」
「ふむ。とかく……国を守ろうというのなれば、それこそこの地で魔導学を極めるべきだ。みすみす最前線に行っても何も変わりなどしないぞ」
先に記したこの世界の常識からすれば、イリスは1000年に一度発見されるような新理論を既に複数発見している。本人に自覚こそないが、充分な偉業であった。
「君の新理論、これは魔法の歴史を数百年加速させるものだ。これらの成果を研究すれば、人類は黒竜軍に対抗する手段を得られるかもしれん! そして、これらの理論にもっとも精通しているのは間違いなく君なのだ!」
次第に白熱し、一気に捲し立てるスティレットに驚きつつも、イリスは違和感を覚える。
「それはつまり、今回提出した理論に人生を費やせ。と仰っているように聞こえますが」
「そうだ! 勿論対価は充分用意しよう!」
言い切るスティレットだが、イリスを束縛し可能性を狭めよう、などという意思は欠片もない。
日本より貧しく切迫したこの世界では、潤滑な資金源を有する研究機関もほとんど存在しない。才能を存分に活かせる環境を得られるのは、極一部の人間のみだ。
この状況は世間一般の魔法使いにとって、占有一隅のチャンス。なんとしても逃がしてはならない絶好の機会といえる。
イリスとてそれも理解しているが、だからといって安易に肯定するわけにはいかない。面倒事に巻き込まれたくはない指針は変わらない上に、スティレットの勘違いも訂正せねばならなかったから。
「え、と。そんな面白くない理論じゃなくて、まだ色々作っているのですが」
イリスにとっては今さっき提出した理論など、ただの交渉カードの一枚でしかなく。
さして研究の価値もない、という訂正を。
「……なん、だと?」
愕然とした面持ちでイリスを見つめるスティレット。
「君は、いや、何を? 君のいう『面白いもの』とはなんだ」
新理論すら「面白くない」の一言で使い捨てる少女。常人とは違う次元で世界を俯瞰する存在。
そういった人間を、スティレットは額面上で知っている。歴史の上でのみ知っている。
「これです」
イリスが鞄より取り出したのは、不格好な鉄細工であった。
L字形の飾り気のない機械。そもそも機械という概念に乏しい異世界人には、それが何に使用される道具なのか検討も付かない。
しかし地球人ならば、ほぼ全ての者がこれをこのように呼ぶだろう。
拳銃。手の平に収まる程度の、最小の火器。
「これ、は?」
「魔法陣の一種、でしょうか」
既存の魔法陣や魔陣刻巻物とはあまりに異なる外見。しかし、イリスはそれを魔法の道具であると告げる。
「ただし、この魔法陣は使用しても燃え上がって使用不能にはなったりはしません。何度でも使えます」
スティレットは数瞬、呼吸を忘れる。
「何度でも、だと」
「はい。何度でも、です」
それは、魔法の基礎中の基礎を根本より否定する言葉。
魔法陣の使い回しは出来ない。一度の詠唱では一回の魔法しか発動しない。
精霊に意思を送る為の対価として、それらは例外なく回収される。
何度でも使用可能な魔法陣など、有り得ないのだ。
「片手で保持して魔力を込め、指先の動き一つで作動する魔法陣だとお考え下さい」
「それだけか。それだけで、この道具は使えるのか」
「はい、それだけです」
スティレットは直感的に、その拳銃を握る。
知識のない者が武器に触れるのは危険だが、拳銃に込められた魔法はデモンストレーション用の最小の火魔法。さほど威力もないことから、イリスはスティレットを止めなかった。
人体工学に則ったグリップは当然のように手の平に吸い付き、人差し指はトリガーへと添えられる。
震える手で拳銃を石造りの壁、火の点いていないランプへと向ける。
およそ適当な狙い。しかし、引いた人差し指の操作に愚直に従い、火の魔法は放たれた。
小さな炎は壁にぶつかり、ランプに火を灯す。それをスティレットは呆然と見つめるしかない。
「なんだ、これは」
丸めた紙を両手で開き、敵に紙面を向ける。それが最も手軽に攻撃魔法を放つ技術、魔陣刻巻物だ。
だがそんな玩具とは別格の扱いやすさを、スティレットはただ一度で理解させられる。
あまりに革新的であり、あまりに先進的。
素人ですら熟練騎士より早く魔法を放てるこの道具に、スティレットは人生最大級の戦慄を覚えた。
「ありえん、ありえんっ」
彼の背筋を冷たい汗が流れる。
我を忘れ、スティレットは立ち上がり拳銃を開いた窓へと向ける。
出鱈目に幾度も引かれる引き金。その度、第十級魔法が窓の外へと吸い込まれていく。
「ありえんっ、ありえんっ、ありえぬっ!」
魔力が尽きるまで撃ち続けたスティレットは、やがて肩で息をして椅子に崩れ落ちるように座った。
長年に渡って研究に打ち込んだ矜持が、学者としての誇りが理知的な思考を走らせる。
この少女は何者なのか。なぜこんな物を作れたのか。
結論は、あまりに簡単に行き着いた。
「……そうか、理解したぞランス殿」
「スティレット、様?」
困惑するイリスに対し、ランスはスティレットに同情的な目を向ける。
彼が孫娘に抱いたショックもまた、彼と大差なかった。
国営大工房の長として、孫に頼まれて製作した「それ」の価値は充分過ぎるほど承知している。
「これは、取り扱い注意だ」
学問の常識を駆逐し、定説を否定し、理論を破綻させる。
根本より革命を起こしながら、当の本人は涼しい顔で自由に世界を躍り続ける存在。
それを、歴史家はこう呼ぶ。
鬼才。全ての分野に名を轟かす、人の姿をしたナニカ。
「……焦らし上手のようだな、もう少し早く現れればいいものを」
「はぁ……?」
魔法大臣として、この誕生が人類の半数を失ってからであったことを惜しむ。
もしイリスが50年早く生まれていれば、人類はここまで窮地に追いやられなかったかもしれない。無意味としりつつ、スティレットはそんなifを想像した。
一人、イリスだけが困惑し続けるしかなかった。
「この拳銃……ではなく装置の名は工学輪唱杖といいます」
工学輪唱杖をスティレットより受け取りつつ、イリスは別の書類を取り出す。
「ことの始まりは高速詠唱用人工言語の制作中でした。ほぼ完成したこの言語を眺めていて、私は方向性を致命的に間違えていることに気付いたのです」
混乱が鎮火したスティレットは、若干血走った目で書類に目を通す。
書類は工学輪唱杖の設計図であった。朧気ながらも構造を把握したスティレットだが、その機構の必要性は未だ理解出来ない。
「方向性とは? 君の言語、別段目的を間違えているようには思えないが」
呪文の改良とは威力増加か詠唱時間短縮、そのどちらかと相場が決まっている。
手段こそ前代未聞だが、改良方針としては正統派。単純な呪文短縮技術だ。
しかしイリスは、自分の間違いにすぐに気付いた。
「高速詠唱用人工言語は表記する場合、通常言語より遥かに多くの記号を必要とします」
日本語、英語、異世界語を統合した結果、記号数は数百に達している。欠陥品といって差し支えない複雑な人工言語だった。
「ですがこれでは誤作動は免れません。真に必要なのは、多少長くなってもシンプルな魔法言語だったのです」
「なるほどシンプルなのは大切だ。どれほど単純化しようというのだ?」
「1と0の2つだけで表記可能な言語です」
「極端過ぎるわっ!」
地球には多くの言語が存在し、それを記す為の記号数はそれぞれ異なる。
日本語はおよそ50。英語は26。多いものもあれば、少ないものもある。
極論すれば、2つの記号だけでも言語と成立するのだ。
「そのような言語があったとして、発声時間は増えるばかりではないか」
「はい。ですが、二進法には二進法の利点があります」
トントンとメイドの置いたコップを指先で叩くイリス。そのリズムは不規則かつリズミカルであり、法則性が見受けられる。
流行の音楽か歌か。ランスは孫を注意しようとして、そのリズムの意図に気付いてやめる。
「利点?」
「はい、簡単にいえば……」
トンッ、と一段と大きく鳴る指先。
「……声を使用せず、魔法を発動出来ることです」
コップの水が浮かび上がり、破裂。四方八方周囲に飛び散った。
びしょ濡れになるイリス。魔法の選択を間違えたと、少し後悔する。
「何をした、今」
「二進法言語は指先の音でも発音可能です。この場合の詠唱対価は、指を動かすカロリーということなのでしょう」
これに至れば、次にやることは一つしかない。
詠唱の自動化。魔法詠唱を二進法言語に翻訳したものを、カラクリに読み上げさせる。
その手段としてイリスが選んだのは、オルゴールであった。
「工学輪唱杖はつまるところ、詠唱を刻んだオルゴールです。他の再生方法も模索しましたが、現状これが一番手軽でしょう」
イリスが考案した工学輪唱杖の作動原理は幾つもある。設計図段階ではレコード方式からスピーカー方式まで、様々な手段を模索したのだ。
生粋の技術者でこそないが、イリスとてかつてはエリートパイロット。簡単な鉛電池ならば容易に製作する自信があった。原始的なオーディオ装置を拵えること程度、けっして不可能ではない。
とはいえ、兵器には性能だけではなく信頼性も求められるもの。複雑なオーディオよりオルゴールの方が遥かに原始的で壊れにくく、そちらを選択するのは当然のことだった。
「オルゴールか。職人なら同じ物を製作出来るのか?」
「音色の質は重要ではありません。素人を集めた工場で作る大量生産品でも問題ないでしょう」
オルゴールの歴史は古く、それは異世界であっても変わらない。このレベルの機械ならば、この異世界にも世界にも存在するのだ。
イリスが祖父に製作を依頼したのは、拳銃の形をしたオルゴール。それもシリンダーの回転を一瞬で終えてしまう、特殊なオルゴールだ。オルゴールという装置はむしろゆっくりと定速でシリンダーを回すことこそ難しく、工学輪唱杖はむしろ機能を省き簡単な構造になっているといえる。
「コウジョウ? タイリョウセイサン?」
大量生産という考え方が生まれたのは産業革命以降だ。中世の文明レベルに留まっているこの世界においては、非効率的な職人による技術継承が主な工業の形態として定着している。
工場という概念を理解出来ずに首を傾げるスティレットだが、それを無視しイリスの説明は続く。
「時間的にはすぐ終わる音ですが、この一瞬に二進法言語による詠唱が圧縮されているのです」
「解せんな。対価、対価は何を支払っている。いや、そうか」
魔法が一詠唱につき一回しか使えない理由、対価。あたかもそれを無視しているかのような立ち振舞いだが、スティレットとて魔法大臣。答えには即座に行き着いた。
「ぜんまいの手間、ですね」
スティレットはいよいよ、笑いが堪えきれなくなってきた。
「くく、ははは。もういい。自分の非才など歯牙にかける必要もない」
彼が見出だしたのは希望。この新兵器の利用価値は、戦争の形を激変させるだろう。
今まで磨いてきた魔法使いの技巧、技術。それらは全て徒労と化した。
工学輪唱杖は熟練魔法使いと同等以上の兵士を、僅かな訓練で大量に徴兵出来る。まさしく革命であった。
実をいえば、この変革は地球において銃の誕生でも似た状況が発生している。
弓矢を扱うには数年がかりの厳しい訓練を必要とする。しかし銃は、数週間の訓練で最低限の戦力として数えることが可能となるのだ。
これは、有事には人類が全て戦闘員となれることを意味していた。
「革命だ、魔法技術の革命だ! 今、魔導の歴史が変わったぞ!」
興奮するスティレットに、イリスも満足そうに頷いて話を纏める。
「これが、私の目的としている戦闘システムの『基礎理論』となります」
結局、スティレットは泡を吹いて卒倒した。




