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「それで、何で唐突に家来たんだよ。東京土産なんて買ってないから、それ目当てなら帰れよ」
剛史と知遥に罪は無いとわかっていても、ついついつっけんどんな態度になってしまう。
「えーつれないなあ。土産なんて目的の十パーセントほどだって」
期待はしてたのかよ! そこまでハッキリと言われてしまうと、イマイチ憎めない。
「あの、央芽が忘れてそうだから私が買っておいたよ。剛史さんと知遥さんのお土産はこれ。あっあとこっちは真知の分」
そして買ってあるのかよ!
「私まで!? そんな、気遣わなくてよかったのに。ただでさえ大変だってのに……」
いや、むしろ大変だったからだろう。追い詰められた時ほど、余所行きの大人びた外面が顕著になる。というか、気を張れば張るほどなのだろう。本来の俺の前だけで見せる性格は正反対だから、無理をしているのが痛いほど伝わってくる。そういえば、母さんの告白以来一度も芽依の涙を見ていない。
「大変って、何があったんだ!? 喧嘩……じゃないよな。でも何か二人とも様子が変だな。それでだ、央芽よ。俺たちは二人に借りもあることだし、何か力になれることがあれば言うんだぞ。っていうか頼れ」
「えっいつの間にかアタシもひとまとめにされてる!? まあ異論は無いけど」
二人の優しさが心に沁みる。裏表が全然無い二人だからこそ、本心からの言葉だというのが痛いほど伝わってくる。そうだな。この二人になら打ち明けてもいいかもしれない。芽依を見やると、小さく縦に首を振った。
「じゃあ、話すよ。ええっと、」
「その前にちょーっと待った!」
せっかく打ち明けようと思った出鼻を、あっさりと挫かれてしまった。コイツの間の悪さを舐めてた。呆れて知遥を見やると、なんと剛史を止めるどころか、一緒に身を乗り出してきた。
「えっと、これから大事な話なんだろうけど、その前にハッキリさせてね」
知遥の表情は、彼女にしてはうるさくない――つまりは真面目な顔をしていた。
「何だよ、二人して――」
「「その女の子は一体何者なの!?」」
二人の声が重なった。四つの目が向かった先にいたのは、真知。そうか、真知とは初対面だったな。
「そうか、悪い悪い。こちらは芽依の妹の真知。真知、コイツらは俺の大学の友達で、剛史と知遥。……真知?」
真知の見開かれた目は、俺の隣――剛史に固定されていた。
「そっかそっかあ。芽依ちゃんに妹が。姉妹揃って可愛いなあ」
「剛史、中学生相手は流石に犯罪臭が――」
「女子高生たぶらかしてる奴に言われたくねえよ」
「うっ……」
「とまあ、冗談はこれくらいにして」
あ、脱線してる自覚はあったのね。
「央芽と芽依ちゃんは東京で何があったんだ? そして、この感じだと真知ちゃんも無関係ってわけじゃなさそうだな」
全く。普段はおちゃらけているか寝ぼけているかなのに、肝心なところは冴え渡ってるんだから。敵わないな。
俺は、全てを二人に話した。俺たち三人の関係、俺たち二人の見えない道筋について。剛史と知遥は、目を見開いたり身を乗り出したりと動きがうるさかったが、口を挟むことなく静かに聞いていた。
「まあ、そんなとこ。にわかには信じられないだろうけど……っていうか俺も未だに信じきれないんだけど」
「そうか……」
一人で喋ってしまったけど、芽依はどんな顔をしているだろうか。昨日から今まで、何を思い、何を考えているのだろう。やっぱり、知りたいけど知るのが怖い。目を合わせられない俺と芽依を交互に見やった剛史は、「よし!」と掛け声をあげて立ち上がった。
「今から皆で少し出掛けよう。端からそのつもりで来たことだし」
「は!?」という叫び声が四つ重なったが、剛史は臆することなく続ける。
「どうせ昨日からずっと悩んで悩んで、それでも答えが出なくて苦しんでるんだろ? 今日一日悩んだからって答えなんて出やしないぞ。だったら一度気分転換して、頭と心をリセットするに限るさ。出せるもん出し切って、そうして最後に残ったもんが純粋な答えなんだ。安心しろ、目的地は前々から央芽が行きたがってたアレだ」
「アレ……だって!?」
決してアレに釣られたわけではないが、確かに剛史の言うことも一理あるような気がする。俺は俺で、自分の気持ちを整理しきれていない。だからこそ、余計に芽依の気持ちを訊くのが怖かったのかもしれない。固まりきっていない答えを出せないままに拒絶された時、形容できないぐちゃぐちゃの欠片しか残らないような気がして。
「確かにタケや和久君向けな場所だけど、我々一般人も楽しめる観光地だし、芽依ちゃんも、せっかくだから真知ちゃんも。一緒に行かない? というか来て。私じゃテンションの振り切れた男二人は面倒見きれない」
「おい、ハルに面倒を見られた試しは無いのだが」
呆れ顔の知遥が、冷たい目で剛史を睨む。俺も同じような顔をしていたと思う。
「だーれーが毎朝起こしたりノートを取ったりしているのかお忘れだというのかあこの男はっ!」
「全くだ」
二人の喧嘩中は、俺が知遥の代わりに全てやったのだ。知遥が毎日どれくらい苦労しているのかは、身に染みて知っている。
「ふふふふふっ。剛史さんって、期待を裏切らないですね」
ハッとして振り返ると、芽依が口元を抑えて笑っていた。芽依の笑顔を見れたことが嬉しい反面、俺でなく剛史に引き出されたことが少し妬ましい。
「だろお。ってあれ、それ誉めてる?」
「どう考えても誉めてないわっ!」
こんな時でも夫婦漫才は健在で何よりだ。
「真知。アイツがああなったらもう止められん。初対面で戸惑うだろうけど、一緒に行くぞ」
流れについていけずに呆然としている真知にそっと声を掛けると、真知の肩がビクンと跳ねた。
「初対面――うん。……あっゴメン央君。わかってるよ。準備しなきゃ!」
「真知?」
様子のおかしい真知を訝しく思うものの、深く考える間も無く俺たちは剛史の車に引きずり込まれた。




