第4話:アルバス派遣
「愛玩動物として扱うのも、なんだかなぁ……」
救うには救うことが成功したアルバスだが、その処遇に困っていた。
活用するにしても、軍事利用するのでは意味が無い。
結局は、研究材料に近い扱いしか出来ず、ただ、一つの事実が判明した事で、活用の術が見出されようとしていた。
と云うのも、負の魔力を吸収し、黄金の魔力へと変換することが可能になったのだ。
とは言え、アルバスは動物園のアイドルとして、ある一定以上の人気を得ていた。
そこに判明した、負の魔力の変換能力。
動物園との協力研究によって判明した事実だ。
ただ、動物園で飼う事にも、一定の意義がある事実でもあった。
来園者が負の魔力に憑かれていた時、その魔力を黄金の魔力に変換するのだ。
これによって、精神を病む患者の減少が見込めた。
でも。でもとガブリエルは思う。
「アルバスの存在価値は、その程度じゃないものの筈なんだ!」
だが、噂を訊きつけて、精神を病んだ患者がアルバスの見学に来ているらしいと云う噂を、ガブリエルは訊き付けた。
何故か、精神を病む者からは、「救いを齎す神獣」として珍重された。
それも無理はあるまい。ただ、アルバスを観ているだけで、精神の病みが回復し、はっきりと楽になることを実感出来るのだから。
その因果関係を解き明かしたかったが、まさか解剖する訳にもいかない。
結局、魔力の変換する現場を確認するしかない。
数日観察しただけで、その事実は確認が取れた。
何故、アルバスがそんな能力を身に付けてしまったのか。
今となっては、その原因の解明も出来はしない。
異形ではあるが、美しい獣。しかも、精神の病を治す。
そんなもの、他の州も欲しがるに決まっていた。
だからと云って、無責任に他のキマイラを創る訳にもいかなかった。
恐らくは、アルバスが『精神支配の術式』から解き放たれた事に、大きな一因があると思われた。
判っていても、試す訳にもいかない。
生命にはある一定の配慮をしなければならなかったし、新たな生命を生み出すには、それに相応する責任を取らなければならない。
全てのキマイラが、アルバスのように上手く飼い慣らせるとも限らないのだ。
だから、アルバスの貸し出し案が何処からか湧いて来た。
ガブリエルは熟慮した。
その結果、ガブリエルが付き添うことを条件に、アルバスの貸し出しに応ずることになった。
真っ先に名乗り出たのは、闇夜州。だが、闇の魔力そのものが負の魔力と見做されかねない事実を前に、最優先とはならなくなった。
似たような理由で、地底州も。天属性の敵対属性であるから、負の魔力と見做される可能性に気付いた。
そうなると、順序を考えた場合、光朝州も難しい。
結果、支払える対価を考慮し、風神州への貸し出しと相成った。
だが、勘違いを招いてはならぬから、一点、重要事項を申し開いた。
即ち、精神的な病みを治すには期待出来るが、風神州の風土病である『風邪』に対しては、恐らく効果が無いであろうことの確認だ。
それでも良い。風神王はそう返答を返して寄越した。
それによって、アルバスを貸し出す順番も決まった。風神州の次は、光朝州。次いで氷皇州、地底州、水帝州、闇夜州、火王州を巡って、天星州に帰って来る。
貸出期間は、およそ各1年。但し、事前に充分に大きく丈夫な檻を用意することを条件とした。
風神州が、約1ヵ月で檻を準備したと云えば、彼の州の本気の度合いが判ると云うものだ。
事前にガブリエルが檻のサイズと強度に問題が無いか、確認した。結果は、OK。即座にアルバスが貸しに出された。
そうして、アルバスの展示が行なわれた際に、居るわ居るわ、負の魔力の持ち主が。
アルバスが求められたのも、問題はあるまいと云う事態だった。
そして黄金の魔力に変換される事で、風神州には優しく心地好い風が吹き、同時に、風邪の蔓延も、何故か減少したのだった。
7年を掛けて各州を廻り、魔力を変換する事で、アルバスの体調に問題が出る事も無し、無事に天星州へと帰って来たのだが、直ぐに風神州からの再度のアルバス貸し出し依頼が。
先延ばしするのも、1年が限界だった。
そうして、ガブリエルはアルバスの専属の研究員となり、各国を廻った。
大した研究結果も出せないまま、ガブリエルはアルバスとどちらが先に死ぬかの問題になりそうだなと考えていた。
そして、ガブリエルはその成果を以て、『名誉王族』となり、『不老の加護』が齎された。
つまり、アルバスが死ぬまでは頼むと云う、天星州からの依頼に等しかった。
天星州としては貸し出しの対価として外貨を得ることが出来るので、上々の策となることが判断されたのだった。
ガブリエルは、それでもそれ以上のアルバスの存在価値を見出そうとしていたが、価値と云う意味では、各州は充分な対価を天星州に支払っていたので、天星州としてはそれだけで、充分な存在価値があると判断していた。
だが、違うのだ。ガブリエルの言いたいことは。
無機物から、有機物を創り、生命を創る。コレは、師匠であるリルーの持論である『魂の循環理論』から外れた生命なのだ。
だが、どれだけアルバスに価値があると宣言しても、それを実証出来ない以上、ガブリエルの主張は通る事は無かった。
こうなると、『不老の加護』を得たガブリエルには、徐々に少しずつ老いてゆくアルバスを視る事は、ただ苦痛でしか無かった。
そして、老いたアルバスに対して、その毛をブラシで梳きながら、ガブリエルは「ごめんよ」と詫びるしか無かった。
元々、無理矢理に作り出された命。その寿命は、然程永くは無かった。
ただ、不思議なことに、魔力の変換を行う度に、アルバスはまるで若返るが如く活力を取り戻していくのだ。
「ああ。君の死は、世界の終わりを告げるが如く訪れるのか……。
ゴメンよ、アルバス。君の本当の存在価値は、俺には見出す事も出来なかった……!
絶対に、皆が思う以上の価値がある筈なのに……!」
ガブリエルには、それを見出せない事が、悔しくて堪らなかった。
絶対に存在する存在価値。それを見出せない事の、何と悔しい事か……。
或いは、存在価値を見出せぬからこその、~『新約魔書』世界一のワーストセラー~なのかも知れない。
ああ、ならば、約束も空約束で終わってしまうかも知れないな。
ならばせめて、上王の引退からの物語を語ろう。




