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八国史〜『新約魔書』世界一のワーストセラー〜  作者: 月詠 夜光
〜風の章〜

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第1話:突然の旅立ち

「クッ……!旅に出たい衝動が止められない……!」


 アイヲエルはそう云って、とりあえず虎の子の貯金の金貨7枚だけを懐に入れて、外套(がいとう)を纏って旅立とうとしていた。


「おい、アイヲエル!何処へ行く!」


「旅へ!」


 剣や魔法の師匠であり、家庭教師として王族に相応しい教育を施す役目を背負ったヴィジー・セレスティアルが、風神国の王子──正式な呼称は神子──であるアイヲエル・ウィンドに投げ掛けた問いに、返された言葉は最低限の短いものであった。


「旅へ……っつったって、お前の立場でそう易々と旅になぞ出せられるか!

 許可が下りるまで待てと云ったろう!

 ……ったく、この三日坊主め!」


 そう言いながらも、ヴィジーはアイヲエルの後を追った。


「あら。アイヲエル殿下。どちらへお出掛けで?」


 外套を着ているのを見て、アイヲエルの婚約者である、光朝国の王女、ミアイ・ライトが王宮の廊下で声を掛けた。


「旅だ、旅!」


 重要なことなので、二度繰り返したアイヲエル。対するミアイの反応は。


「まぁ!ワタクシを置いて行くおつもり!?

 許しませんわよ!ワタクシも行きますわ!」


 そう言って、準備をしに行こうとするミアイにヴィジーが声を掛けた。


「ミアイ嬢、それはマズい。光朝国の許可が必要だ。

 適宜、連絡を入れるから、追って参れ!」


「アイヲエル殿下は、風神国の許可を得られたのですか?!」


「否、衝動的に旅に出るつもりらしい。

 こうなったら、儂でも止められん!

 だが、身の安全を考えたら、儂が付いて行かん訳にもいかぬ!」


 全く。アイヲエルは王座に就くつもりがあるのか無いのか、判らないとミアイは思う。


「許可が下りたら、光朝国で待ち構えよ。必ず、儂が導く。

 あ奴は満足するまで旅をせんと、落ち着かん性分らしい。

 幼い頃から、二言目には『旅に出る~!』と騒いでいたからな!」


「殿下には、私を婚約者だと認めるおつもりがあるのでいらっしゃいましょうか?」


「判らん!だが、満足したら、王宮に戻って、大人しく風神王の座を継ぐだろうよ」


「全く。ワタクシには、紅茶一杯も気楽に飲める、この豊かな国の王宮から旅に出たいと思う、殿下の気持ちが理解出来ませんわ!」


「豊か過ぎた、のだろう。

 それに、風神王の座を継ぐ勉強として、この旅はあ奴にとって無駄にはならない勉強になるだろうよ」


 天星国の元国王だったヴィジー・セレスティアルがそう断言した。ならば、ミアイのする事は一つだろう。


「必ず、光朝国にお導き下さいよ?

 他の場所での合流なんて、光朝国王(父上)が許す筈など御座いませんからね?」


「約束しよう!」


 そうやり取りすると、ヴィジーは急ぎアイヲエルを追った。


 果たしてアイヲエルは、王宮を出る一歩手前で立ち止まっていた。


「待て、アイヲエル!」


「『行くな』と云うなら、俺は逃げますよ、師匠?」


「せめて、儂だけでも連れていけ!」


「それでしたら、一緒に参りましょうか!」


 アイヲエルは、遂に王宮から外に踏み出る一歩を踏み出した。一歩踏み出したら、その先は速い。二歩、三歩と王宮から遠ざかってゆく。


「遂に逃げ出しおったな!

 本来なら、儂はお前を捕まえねばならぬ」


「師匠も判っているんでしょう?──俺が、王座を継ぐには余りにも経験不足だと云うことを」


「だからと云って、何故旅に出る必要がある?

 そもそもが、お前が三日坊主で何事も三日でコツを掴んでは投げ出してを繰り返したのが原因ではないか!」


「……俺の学びたい、王となる為の勉強とは、あんなことでは無い!

 もっと、人々に近い目線を!下々の民からの学びが俺には必要なんだ!」


「……どうせ、旅も三日で投げ出すだろうさ!」


「いいえ、師匠!この旅は、三日でなんて終わらせませんよ?

 と云うか、話すにしても歩きながらにしましょう!」


 アイヲエルは、王都の舗装された道を歩みながら、ヴィジーに声を掛けた。


「この道一つを取ってもそうだ!

 やはり、道の一つぐらいは極めておきたい。──出来れば、上端まで極めてしまいたいですね!」


「上端……。その結果が、冗談を極めることにならないことを願うがな!」


「──そうか。そんな手もあったのか。

 でも、冗談を極めるのも中々難しいのではありませんか?」


「ああ、そうだろうな。

 逆に、下端を極めたら、上端に通じる場合もあるのだがな!」


「成る程……。つまり、上端を極めると、下端にも通じる、と云うことですか!」


「ああ。道を極めるとは、そのような行いである。

 極道と云う、恐ろしき道であるぞ?」


 その言葉に、アイヲエルは苦笑いをした。


「極道は嫌だなぁ……。何か、イメージが悪い。

 そもそも、極道は本当に道を極めているのか……?」


「それを目指す、程度の意味であろう。

 で?どのような方法で上端を目指す?」


「それが判らないから旅に出るんですよ。

 あ、今晩は王都の安宿に泊まりますよ!覚悟しておいて下さい!」


「莫迦者!お前を安宿になんぞ泊めさせてなるものか!

 王都の高級宿に泊まって、一晩頭を冷やせ!

 帰るならば、直ぐ帰るぞ!」


「暫く帰りません、ってば。

 そんなに俺を王宮に帰したいんですか?」


「当たり前だ!

 道を極めるならば、座学を極めても良かったろうに。

 ──で?当面の目的地は?」


「最終的に八ヵ国を全て廻るとして……先ずは、真っ直ぐ南、氷皇国を目指しますよ!」


「氷皇国って……防寒着が必要になるぞ?

 そんな薄っぺらい外套じゃ、氷皇国の寒さは凌げない。

 つうか、お前の外套のセンスは、実用的とは程遠過ぎる!」


 アイヲエルは、注文する時に「カッコいい、斬新なデザインで!」とオーダーメイドしたその外套を見廻した。カッコいいのかも知れないが、ちょっと……否、かなり奇抜だ。


「参ったなぁ……。護衛用の奴隷も買おうと思っていたのに、その防寒着までもかぁ……。

 これは、ちょっとご入用だなぁ……。

 ここは、迷宮(ラビリンス)にでも入って、防寒着の素材集めから始めた方が良いかな?」


「莫迦者!迷宮に入っている時点で、お主に迷いがある証拠じゃ!」


「師匠は、いつも固いことを仰いますよね」


「当たり前の事を言ったまでじゃ、莫迦者!」


 アイヲエルは眉間(みけん)(しわ)を寄せてしまった。


「その、『莫迦者』って言うの、止めて貰えませんか?」


「お主が賢者にでもなったら改めてやろう!」


「つまり、叡智(えいち)でも得よ、と」


「曲解するなよ?」


「判っています、って」


 本当に判っているのだろうか?とヴィジーは不安に思った。


 実際のところ、アイヲエルは習った範囲外の叡智については、まるで気が付いてはいなかった。

 せいぜいが、『全ての数には意味があること』『数の意味は人によって違うこと』『基本性理論』『絶対理論』程度。どれも、ヴィジーから教わったことだ。


 どれも、本来ならば自分で気付かなければならない事だ。だが、知り遅れるよりは100万倍マシだと云う理由で、アイヲエルには直に教え込まれた。


 特に、『絶対理論』は『禁呪』とされる『空間破壊呪』の理解には大いに必要で、それが故に、他の国では成功していない、『自国の属性』における『禁呪』の行使の仕方をアイヲエルは学んだ。だが、それ故に行使可能な可能性を持ったまま、正しく『禁呪』として行使を実行する愚は犯さない。


 そう、『風の空間破壊呪』は行使可能な『禁呪』であるけれど、他の国の属性では行使不可能なのが『禁呪』たる『空間破壊呪』なのだ。

 但し、実際には空間を破壊することは無い。過去の魔法の天才が、『八属性全てを行使した空間破壊呪』を一度だけ行使し、それによって生じた空間の亀裂に逃げ込んだと云う逸話があるが、お陰で、他の七ヵ国中六ヵ国は自国の属性の『空間破壊呪』の行使の実験を行い──それが故に貧しいのだ。


 『風神国』の他に唯一、自国の属性の『空間破壊呪』の『実現不可能性』を証明し、それが故に『禁呪』の試し打ちを行なうことを辞め、豊かになったのがヴィジーの祖国『天星国』なのだ。しかも、その証明を行った当人がヴィジーであり、優秀な後継者に国を継がせる為に100年間王座に在位した『鬼王』であり、実子を三人、看取っている。

 結局は十男を以てようやくその優秀性を見出され、現王となっている。


 だが、子を看取るのは王座を継いだ者の宿命なのだ。王座を継いだ者は『超越者』として不老長寿になるが為、王座に就き損ねた子を看取らねばならない。


「では、アイヲエル。見定める『叡智』の欠片ぐらいには気づいているのであろうな?」


「それが、さーっぱり」


「……この野郎め……!」


 そう簡単に叡智に触れるのは出来ない、難しいことなのだ。

 少なくとも、『七つの大罪』に触れた頭の悪い者には、出来そうもない。

 それが、唯一神の定めたルールが故に。


 だが、アイヲエルは多神教信者だった。

 創造神も、唯一神とは別に信仰していた。


 ただ、どれだけの叡智を得ても、世界の作り手には背けない。

 世界の作り手の気付いていない叡智になぞ、気付くことはほぼ不可能なのだ。その宿命には逆らえない。


 もしも、アイヲエルが独自に叡智に気付けるのであれば、気付いてみるがいい。

 その時にはきっと、創造神にも叡智が授けられる事であろう。

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