第158話 覚悟
カルロと話していると、夕食の時間になり、列車が駅に停まった。
俺達は売店で弁当を購入し、俺達の個室で食べる。
「ニーナ、ちょっといいか?」
弁当を食べながらニーナに声をかける。
「はい? 何でしょう?」
「お前ってどれぐらい店に関わっているんだ?」
「ほぼですね。さすがに出かける時や自分で錬金術の仕事をする時は父に任せますが、それ以外は私が経営しています。エルディアに戻って来てから徐々に引き継ぎ始めて、今はそんな感じですね」
まだ若いのにすごいな。
「俺達も店を開くんだが、アドバイスとかないか? イパニーアにいた時に取引先は見繕った方が良いとか色々聞いたんだ」
装飾屋のロロン夫妻に聞いた話だ。
「あー、それは確かにありますね。要は定収入ってやつです。定期的に品物を卸せるので月の収入や支出の目安になるんですよ。ウチで言えば軍だったり、親戚の店ですね」
そんな感じだったな。
「まったく新しい場所で店を開く俺達はそこからか?」
「そうなりますね。でも、レスター先輩もエルシィも腕がありますし、黙ってても向こうから取引をお願いしてくると思いますよ。錬金術師である私達はポーションを作れます。それだけでどこに行っても需要がありますからね」
ポーションは必需品と言ってもいいからな。
「他にはあるか?」
「当然ですけど、ギルドや組合に入ることを忘れてはいけませんよ。どんな町にもありますし、同業に嫌われて、村八分が一番悲惨なんで」
怖いな……
「俺、そういうのが苦手だな」
「エルシィが得意だから大丈夫ですよ。エルシィが甘い声の一つでも出せばそれでオッケーです。不愛想の旦那さんと愛嬌のある奥さんの店は舐められもしないし、嫌われることもない良いバランスだと思います。」
あ、やっぱり不愛想なんだな、俺。
「貴族はどうだ?」
「貴族ですか……ウチにも領主様がいますけど、そんなに付き合いはないですね。よほどの悪徳領主じゃない限り、無視で良いと思いますよ。たまにポーションを作ってくれって頼まれる程度だと思います」
「そんなもんか? 貴族に良い思いがないんだが……」
オフェリア達はスルーしても、イラドではなー……
「レスター先輩達が言っている貴族は王都貴族でしょう。貴族には領地を持っている貴族とそうじゃない宮仕えの貴族がいます。普通の領地貴族は領民に対して、そこまでの無茶はしませんよ。あっても災害などの緊急時に大量にポーションを作ってくれって頼む程度です。当たり前ですが。領地貴族にとっては自分の領地が最も大事であり、それがそのまま自分の評価になります。下手なことをして、人材が流出し、衰退したらそれこそ貴族として死にますからね」
そんなものなのか……
確かに、イラドの王都にいた貴族連中は領地貴族ではないと思う。
「変なトラブルはそこまでないわけか……」
「それこそギルドで確認したら良いと思いますよ。冒険者ギルドも商人ギルドもその辺のことには詳しいですから。あ、町にいる店の人に聞いたらダメですよ。店の人ってその町にずっといる人達ですから他所を知りませんし、比べることができません。そして、店を経営する人は絶対に愚痴を言いますから信用できません。これは私もそうです。いっつも税金を安くしろって思ってますもん」
まあ、そこはな……
「わかった……参考にするわ。助かった」
「いえいえ。頑張ってください。まあ、正直、レスター先輩とエルシィなら上手くやりますよ。こう言ったらなんですが、予想外のことが起きて、失敗しても2人ならいくらでも挽回できます」
「そりゃそうだな。気楽にやれよ」
ニーナの言葉にカルロも頷く。
「それもそうだな」
「先輩がいれば大丈夫ですよー」
その期待に応えるようにするよ。
俺達はその後も話をしながら食事をしていき、この日を終えた。
翌日も特にやることがないので同じように本を読んだり、話をしながら過ごしていく。
そして、列車に乗って3日目の朝。
この日はカルロとニーナが朝からこっちの個室に来ていた。
「今日の午後にはナンスの町に到着するからそこからの動きを決めておこう」
カルロが提案する。
「そうだな。お前らはミュリエル先輩に会うんだろ?」
「ああ。待ち合わせ場所も決めてある。でも、その前に調べないといけない。もし、ミュリエル先輩がすでに捕まっていた場合、俺達も一気に危なくなるからな」
捕まったミュリエル先輩が吐いているということも考えられる。
「可能性がなくはないな」
「ああ。まず、大前提だが、もし、その流れで俺やニーナが捕まったらお前らはそのままゲイツに向かえ。俺達はイラド政府かターリー政府に助けを頼める立場だが、イラドから追われているお前らはそういったものがないし、どう考えても良い方向にはならないだろう。俺達のことは気にしなくていいから迷わず国境を越えろ」
ミュリエル先輩が吐いたとしても俺達のことは知らないからな。
カルロやニーナが吐く前に逃げないといけない。
「カルロ先輩やニーナちゃんは本当に大丈夫なんですか?」
エルシィが聞く。
「俺達はれっきとしたターリー人だ。ミュリエル先輩を助けるのも同じ学校の先輩に頼まれたからということで情状酌量の余地はある。この状況でランスもターリー政府が出した商売許可証を持っている俺達をどうこうしようとは思わないだろう。多分、長い間、拘束されるだろうが、数ヶ月ぐらいで国に帰れると思う」
イラドと同盟を破棄したランスは微妙な関係性の北西のイラド、北のゲイツ、南のイパニーアに囲まれているからな。
この状況で東のターリーと問題を起こしたくないだろう。
「カルロ、ニーナ、悪いが、そうさせてもらう」
そう言うと、2人が頷いた。
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