第150話 適当兄妹
カルロとニーナ兄妹と共に町に戻ってくると、銀月の宿に向かって歩いていく。
「ニーナちゃん達はどこに泊まってるのー?」
エルシィがニーナに聞く。
「飲食が多い通りがあるところの普通の宿屋……って、この辺ね」
俺達は西門から銀月の宿屋に向かっているので飲食街を通っている。
「お兄さんと同じ部屋?」
「同じ部屋。ここまでずっとね。嫌よー」
ニーナが首を横に振った。
「言っておくが、俺だって嫌だからな」
カルロが眉をひそめる。
「こんな感じでケンカが多発してる。あーあ、私も彼氏か旦那と出かけたかったなー」
「俺も彼女か嫁さんと出かけたかったわ」
「ふっ、彼女いないじゃん」
「お前……全部、自分に返ってきてるぞ」
ホント、仲の良い兄妹だわ。
俺達は相変わらず、明るい兄妹と共に飲食街を抜け、十字路を左に曲がった。
「あそこが銀月の宿だな」
「あそこが……」
「よく買い出しとかで他所の町に行く私には外観だけで高級さがわかりますね」
そういやニーナはよく出かけるんだったな。
前も最初はターリーの玄関口と呼ばれるヤークの町で再会したし。
もしかして、今回も同じように買い出しだろうか?
多分、違うだろうなと思いながら歩いていき、宿屋の前に着くと中に入る。
すると、昨日と同じ若い男の店員がこちらにやってきた。
「おかえりなさいませ」
店員が綺麗な礼をする。
「ああ。実は湖で旧友の2人と再会したんで一緒に夕食を食べることになったんだが、2人分を追加することは可能だろうか?」
「もちろんでございます。夕食はいつになさいますか? すぐにでも用意は可能です」
マジで貴族になった気分だな。
毎日、こんなんだったらそりゃあんな傲慢にもなるわ。
「どうする? 俺はもう食べられるが」
後ろの3人プラス1に聞く。
「私もおなかが空きましたー」
「私もです。お昼は携帯食料でしたから」
「俺もだな」
「食べましょう」
3人プラス1が頷いた。
「もう食べるから用意を頼む」
店員に頼む。
「かしこまりました。30分程度でお持ちします。ワインはどうしましょうか?」
「それも頼む」
「それでは、一緒にお持ちします」
「頼む」
頷くと、階段を上がっていき、5階までやってきた。
そして、扉を開け、部屋に入る。
「「ほー……」」
カルロとニーナは部屋に入ると、リビングルームを歩き回り、きょろきょろと見渡していった。
「すごいな、おい!」
カルロが興奮している。
「俺もそう思う」
すごい。
ただただすごい。
「兄さん! さっきまでいた湖が見えるよ!」
「お、ホントだ!」
ニーナとカルロは興奮しながら窓の外を見る。
すると、ニーナがカルロに触れるくらいに近づいた。
「先輩、綺麗ですねー……」
なんかニーナが間延びした高い声を出した。
「お前の方が綺麗さ、ふっ……」
誰の真似だ?
「ニーナちゃん?」
エルシィが冷たい声を出す。
「似てない?」
「全然、似てない」
確かにあまり似てなかったな。
「ちなみに、カルロは?」
「お前の真似」
「1つも似てないどころか、俺はそんなこと言わんぞ」
「……それはそれでどうなんだ?」
こいつはそういうことを言うんだな……
「ほっとけ。それよりも座れ」
「ちょっと興奮してしまったな」
「すごいもんね」
気持ちはわかるな。
俺達も部屋中を回ったし。
俺達はソファーに座り、夕食を待つことにした。
「さて、夕食まで少し時間があるし、大事なことは先に話しておくか」
「兄さんに任せるわ」
カルロとニーナが頷き合う。
「何だ?」
「まずはお前らに謝らないといけないことがある。俺とニーナはターリー生まれ、ターリー育ちの生粋のターリー人だが、イラドと繋がりがある」
繋がり……
「それはイラドに留学していたとかそういうことではなくてか?」
「ああ。俺達はターリー人だが、ターリーの情報をイラドに報告している」
報告……
「お前ら、密偵か?」
「ああ。簡単に言えばそうなる」
マジかよ……
「俺達に謝るとは?」
「もちろん、そのことを言わなかったことだ。というか、言う必要がないと思っていた。でも、びっくりしたぜ。お前らがエルディアを去った後、魔法学校の先輩だったミュリエル先輩が来て、お前らが来てないか聞いてきたからな」
ミュリエル先輩……俺とカルロの代の2個上の先輩である。
貴族ではないが、とても優秀な錬金術師だと評判だった人物であり、俺でも知っているくらいの人だ。
「そこで俺達が追われていることを聞いたか?」
「ああ。理由まではミュリエル先輩も知らないようだったが、お前ら、何したんだよ……」
やはり上の方はエリクサーのことを言ってないか。
モノがモノだから慎重になっているんだな。
「貴族ばかりの宮廷錬金術師で色々あっただけだ。はっきり言えば上手くいかなかった」
「まあ、その辺だろうな。それでエルシィと国を出て、他国でアトリエを開こうと思ったんだな?」
「そんなところだ。ミュリエル先輩に伝えたか?」
大事なのはそこ。
こいつらは俺達がイパニーアに行ったことを知っている。
「伝えねーよ。そもそも俺達はそんなに真面目な密偵じゃないんだ。イラドもエルディアの町はターリーの重要拠点だから念のため程度で俺達を密偵として雇っているだけだ。さすがにイラドとターリーは繋がりもないし、遠いからそこまで重視していないんだよ。適当に町の様子を教えたら金がもらえるからやってるだけ」
その程度か……
「ターリーとイラドの間にはゲイツがあるからな」
敵国であるゲイツの先にある国なんて重要度は低い。
「それ。重視していない国の密偵なんてそんなもんだ。卒業の前にお偉いさんに声をかけられたんだよ」
国を売っている意識が薄そうだな。
「ミュリエル先輩には来てないと伝えたわけか?」
「ああ。ミュリエル先輩もめんどくさそうだったぜ。あの人も貴族に苦労した口だしな」
皆、そうか。
「助かった」
「当たり前だろ。どうせ、貴族が悪いんだろうし、くだらないことだろ」
貴族(部長)が悪いのはそうだが、実は全然、くだらないことじゃなかったりする。
エリクサーだもん。
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