第145話 豪華な一泊
作業をしていると、ノックの音が聞こえたので扉を開ける。
すると、さっきの店員がいた。
「夕食をお持ちました」
「感謝する」
店員はワゴンを押し、テーブルまで運んでいく。
そして、3人分の料理を並べてくれたので席についた。
「ワインをお注ぎします」
店員は慣れた手つきでワインのコルクを抜くと、グラスに注いでくれる。
なんか高級レストランに来た気分だ。
「これがギルドからのワインか?」
「はい。お伝えしておきますが、この町の名産でかなり高いワインです」
詫びがすごいな。
「俺達からも伝えるが、ギルドに礼を言っておいてくれ」
「かしこまりました。追加のワインや料理が必要でしたらベルでお呼びください。もちろん、ワイン以外のお酒もありますし、ノンアルコールのジュースもあります。また、空いた食器等はワゴンごと外に置いてくだされば回収いたします。それではごゆっくり」
店員は一礼すると、部屋から出ていった。
「すごいな……」
「おほほ。あなた、乾杯をしましょう」
エルシィにセレブなマダムは無理だな。
「そうだな。乾杯」
「「かんぱーい」」
俺達はグラスを合わせると、ワインを一口飲んだ。
濃厚なぶどうの風味が口に広がっていく。
「うむ。良いワインだな」
「そうですねー。これは芳醇です」
さすがは高級ワイン。
「わかってないくせに……お肉、美味しいです」
ウェンディはすでに肉料理のステーキを食べていた。
「早いな、お前……」
呆れながらもステーキを食べる。
程よい脂身の柔らかい牛肉であり、ソースと合わさって、非常に美味しい。
「美味しいですねー。パンも柔らかくて美味しいですよ。バターがすごく濃厚です」
「ほー……」
エルシィに勧められたのでパンをちぎって食べてみる。
「塩パンか」
たっぷりのバターが練り込まれ、上に少しだけ塩がかかっているパンだ。
わずかな塩味とバターたっぷりのパンが非常に合う。
「ご飯を食べている時が一番幸せですよ」
ウェンディがパンを抱えながら食べ、しみじみとつぶやく。
「お前はそうだろうな」
まあ、楽しそうで何よりだ。
俺達はその後も料理とワインを堪能し、夕食を終えた。
そして、ソファーで各種ポーションを作っていく。
「毒は作らないんですか?」
ふよふよと浮いているウェンディが聞いてきた。
「鮮度だな。薬草やエトナ草なんかは処理をしないと傷みやすいんだ。逆に毒草は1日や2日では品質が落ちないから後にする」
「へー……」
ウェンディが紫色の毒草を手に取る。
「食べてみるか? 毒が効かなそうだし」
ウェンディはアイドルだからトイレに行かないらしいし。
「美味しいんですかね?」
「さあ? でも、毒のあるものって美味しかったりするからな」
フグとか……
「ふむふむ。確かに私に毒は効きませんからね。人形……あ、いや、天使なんで」
人形だからで良いだろ
「え? 本当に食べるの? ウェンディちゃん、いくら食いしん坊でもやめなよ」
作業をしていたエルシィが顔を上げて止める。
「大丈夫ですよ。どれどれ……」
ウェンディは本当に毒草をむしゃむしゃと食べ始めた。
どんだけ食い意地が張った天使なんだろうか?
「どうだ? 美味いか?」
「うーん……味がないですね」
そりゃそうだ。
「美味いかもしれないが、調理しないとダメだろうな。エトナ草で中和してみるか?」
エトナ草を手に取って、ウェンディに渡す。
すると、ウェンディは間髪入れずにエトナ草を食べ始めた。
「こっちは不味いですね。イラドの缶詰を思い出します」
イラドの缶詰を作っている業者に謝れ。
「まあ、良薬は口に苦しっていうし、そういうのは不味いだろうな」
「口直しにワインでも頼もうっと……」
ウェンディはベルを持ち、カランカランと鳴らす。
「それで来るのかね?」
「魔力は感じましたねー……」
作業をしながら待っていると、1分も経たないうちにノックの音が聞こえてきた。
すると、ウェンディが扉の方に向かう。
「はーい、入ってくださーい」
ウェンディが答えると、扉が開き、さっきの店員が姿を見せた。
「何かございましたか?」
「ワインとチーズとジャーキーをください」
酒飲みセットを頼むとはシュールな人形だな……
「かしこまりました。少々、お待ちくださいませ」
店員はウェンディにもまったく動じずに礼をすると、部屋から出ていった。
そして、しばらくすると、再び、ノックの音が部屋に響く。
「俺が受け取るよ」
飛んでいこうとしたウェンディを制すると、扉の方に向かう。
「はい?」
『お客様、ワインとおつまみの方をお持ちしました』
さっきの店員の声だったので扉を開ける。
すると、人数分のグラスとワインにチーズやジャーキー、さらにはフルーツまで置かれたワゴンがあった。
「悪いな」
頼んでないのにフルーツまであるし。
「いえ、いくらでもお申し付けください」
「明日なんだが、湖の方に行こうと思っている。部屋にポーションや薬草を置いておいても良いだろうか?」
持っていくのもあれだし。
「もちろん、問題ありません。ただ、清掃に入りますのでわかりやすい位置にまとめていただけると助かります」
「ガラステーブルの上に置いておこう」
もう置いてあるし、そのままでいい。
「それでしたら問題ありません。そのように係の者に伝えておきます」
「頼む」
「かしこまりました。それでは失礼します」
店員が下がっていったのでワゴンを押し、ソファーまで戻った。
「ほら、ワインとつまみだぞ」
「わーい」
「おー、フルーツまでありますねー。できる宿屋です」
ホントにな。
俺達はその後もワインとおつまみで楽しみながら作業を続けていった。
そして、いい時間となったのでエルシィ、俺の順番で風呂に入る。
「風呂もすげーな」
広々としているし、なんか良い匂いまでしている。
「たまにはこういうのも良いな」
エルシィもウェンディも喜んでくれるし、この宿屋がいくらかは知らないが、たまに利用するくらいなら良いかもしれない。
そう思いながら満喫すると、風呂から上がる。
すると、エルシィがソファーのところで本を読んでいた。
「ウェンディは?」
「寝ましたよー。多分、ベッドのど真ん中を占領してます」
だろうな。
いつものことだ。
「明日もここに泊まるが、明後日はどうする? 何ならもう2、3日いてもギルドも文句は言わないと思うぞ」
エルシィの隣に腰かけながら聞く。
「いやー、当初の予定通りで良いと思いますよー。湖以外に見るところもなさそうです」
「店とかは回らなくていいのか?」
ギルドの受付嬢が勧めていた。
「それならナンスの方が良いですよー。あっちの方が都会っぽいですし、金貨やインゴットを売る際に回ってみましょうよ」
それもそうだな。
「いくらになるかね?」
「楽しみですねー。よし、明日に備えて寝ますか」
「そうするか」
俺達はリビングスペースの灯りを消すと、寝室に行き、すかー、すかーと寝ているウェンディを端に寄せ、就寝した。
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