第131話 大作戦
部屋の中は10畳以上はあり、少し広めでベッドが2つにテーブルなんかもある。
「良い部屋だな」
オフェリアも文句は言わないだろう。
「ちょっと準備しますねー」
エルシィがそう言って、ベッドの方に行ったので窓の方に行き、カーテンを少し開いてそっと覗いてみる。
「誰かいます?」
ウェンディがふよふよと浮きながら聞いてきた。
「いや……ついてきている人間はいないと思う」
カーテンを閉め、エルシィの方を見ると、魔法のカバンからキャスター付きの大型のカバンを取り出していた。
「それ、まだ持ってたんだな」
とっくの昔に処分したと思ったわ。
「普段使わない私物を入れるのに使ってたんですよー」
エルシィは大型のカバンから置物や小物なんかを出し、魔法のカバンに入れていく。
「あまり見たくないカバンだな」
トラウマ級のカバンだ。
「そう思ったから普段は出してないんですよー」
そうだったのか……
「お前は優しいな」
「愛ですよー」
ありがとよ。
エルシィに感謝していると、ノックの音が部屋に響いた。
「開いてるぞ」
そう答えると、扉が開き、フリオとオフェリアが部屋に入ってくる。
「まあ、かけろよ」
テーブルを勧めると、2人が席についたので俺とエルシィも座る。
なお、ウェンディはその辺をふよふよと飛んでおり、オフェリアがそれを目で追っていた。
「詳しい話を聞かせてください」
フリオが早速、本題に入った。
「エルシィ、頼む」
「はい。駅に行ったら改札の前に数人の兵士がいたんです。私がその前を通ったら持っている紙と見比べてきましたね」
「オフェリアの手配が回っているということでしょうか?」
「受付に行って、話を聞いたら若い金髪の女性を探しているとのことでした。身長160センチ程度の痩せ型だそうです」
150センチ程度しかないエルシィじゃないわな。
「私、ですかね?」
オフェリアは身長160センチ程度の痩せ型で金髪の若い女性だ。
「おそらくは……」
「どういうことでしょう? すでに反乱は起きていると思いますが、それでどうして私が指名手配になるのでしょうか?」
そこだわな。
「理由はいくつか考えられる。どこからか漏れたか、まったく別人を探しているかなどだ」
正直、身長160センチ程度の痩せ型で金髪の若い女性ってそこそこいる。
珍しい特徴じゃないのだ。
「どう思われますか?」
「それの検討は不要だと思っている。大事なのはあそこを突破する方法だ」
「確かにそれもそうですね。ここを抜けさえすれば国外ですから逃亡は成功です」
それでもう戻らないのだからなんでこうなったのかは考えなくていいのだ。
「方法は2つある」
「聞きましょう」
「1つは特徴を変えること。兵士達が探しているのが痩せ型で金髪の若い女性ならそうじゃなくすればいい。髪型や色を変えたり、服の中に布を仕込んで体型を変えるという方法もある」
要は髪を切る、染める、詰め物をする、だ。
「私は反対です」
フリオが異を唱えた。
「なんでだ?」
同意だが、意見を聞いてみる。
「それは簡単に誤魔化せることだからです。そんなものは向こうもわかっていることです」
「俺もそう思う。問題は身長を誤魔化せないことだ」
兵士がエルシィをスルーしたのは銀髪だからじゃない。
身長が明らかに低いからだ。
「靴を細工して、身長を高くするのはどうですか?」
オフェリアが意見を言う。
「それが一番危ない」
すぐにフリオが却下した。
「何故です?」
「歩き方に不自然が生じるからね。軍人はそういうのを見破るのが上手いから逆に目立つんだよ」
へー……
「そうですか……では、特徴を変えるのは難しそうですね。いっそ男装するのはどうでしょう?」
「声をかけられたらどうするんだ?」
しゃべったら一発で女性ってわかる。
「それもそうですね……では、どうしますか?」
オフェリアに聞かれたのでエルシィを見た。
すると、エルシィが立ち上がってベッドの方に行く。
「今はまだ、反乱が起きてすぐだし、軍部も半信半疑なんじゃないかと思っている」
「私もそう思います」
オフェリアが頷いた。
「だから行くならここ数日中しかない。これを過ぎると警備がさらに厳重になる」
「ですね……あの、それは何ですか?」
オフェリアがエルシィが持ってきた大型のカバンを指差す。
「お前は俺達がイラドに追われていることを知っているな?」
アデリナが知っているならオフェリアも知っているはずだ。
「ええ。そう聞いています。理由はよくわかりませんがね」
「イラドは貴族社会でな……そこで庶民の宮廷錬金術師だった俺は貴族と色々あったんだ。それでそういう生活に嫌気がさして、エルシィと共に逃げ出したんだよ」
ということにしておく。
もちろん、エリクサーのことを言うわけがない。
「なるほど……それで店を開こうと思ったんですね」
オフェリアが納得したように頷く。
「ああ。新婚旅行で各地を回りながら永住の地を探しているんだ」
「ロマンチックで良いですね」
「お前らもそうするんだろ?」
そう言ってただろ。
「そういえば、そうですね……ロマンチックなんでしょうか?」
「知らん。当人はそう思わないものじゃないか? 話を続けるぞ。俺達がイラドから逃げる時に使った方法を教えてやる。俺がこの中に入った」
大型のカバンを指差す。
「この中に?」
「ああ。飛空艇で逃げたんだが、この中に入ってエルシィに運んでもらった。そこから2日間、カバンの中に入って寒い飛空艇の貨物室の中で過ごした」
「そ、それを私にやれと?」
オフェリアが心底嫌そうな顔になった。
「さすがにそこまでのことにはならない。飛空艇とは違い、列車ならこのくらいの大きさのカバンなら持ち込める。列車の乗り降りの際だけカバンに入ればいい。あとは個室で過ごせばバレることはない」
俺の時とは違う。
何よりもオフェリアがあの環境で体力と精神力が持つとは思えない。
「この中にですか……」
オフェリアはやっぱり嫌そうだ。
「ほんの少しだけだ。具体的にはこの宿を出てから列車の個室に入るまで」
「フリオはどう思いますか?」
「変装よりかは良いかと……しかし、カバンの中身をチェックされる可能性がありますよ」
確かにその通りだ。
「エルシィ、いけるか?」
「明日ならいけます。さっき駅の中は待っている人で溢れていました。明日はさらに増えるでしょう。まだ情報が錯綜している今なら混乱に乗じて押し通せます」
エルシィがはっきりと頷いた。
「オフェリア、ここまで来た以上、時間的にも引き返すわけにはいかない。エルシィさんが言うように今がチャンスだと思う」
「わかりました。では、その作戦でいきましょう」
フリオの言葉にオフェリアは覚悟を決めたようで深く頷く。
「エルシィ、出発時間は?」
「朝の10時、昼の1時、夕方の4時です。混むのは朝だと思います」
今日、乗れなかった人が明日の朝に集まるからな。
「よし。オフェリア、フリオ、明日の9時半に駅に行こう」
「わかりました。では、この後は待機ですね」
オフェリアが頷く。
「ああ。念のため、オフェリアは食事以外では部屋から出ないでくれ」
「わかっています」
「私は出発の準備を整えながら様子を見てきましょう」
フリオがそう言って立ち上がった。
「任せます。私はちょっとそれに入る練習をしておきます」
オフェリアがカバンを指差す。
「では、そういうことで。夕方には戻りますので」
フリオはそう言うと、部屋から出ていった。
お読み頂き、ありがとうございます。
この作品を『おもしろかった!』、『続きが気になる!』と思ってくださった方はブックマーク登録や↓の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』に評価して下さると執筆の励みになります。
よろしくお願いします!




