第132話 まさかの2人きりの夜
「では、ちょっと入ってみますね」
フリオがいなくなると、オフェリアが立ち上がり、カバンに触れる。
「先輩でも入れましたからオフェリアさんなら大丈夫ですよ」
めちゃくちゃ狭かったけどな。
「ちょっと怖いですね……」
オフェリアはそう言いつつ、カバンを開け、中に入ると、膝を抱えるように腰を下ろした。
「じゃあ、閉めますよー」
「お願いします」
オフェリアが頷くと、エルシィがカバンを閉めていく。
そして、完全に閉め終えると、カバンの中からバンバンと叩く音が聞こえてきた。
『すみません。開けてください』
その声を聞いたエルシィがカバンを開ける。
「どうでした?」
「想像以上に怖いです。しかも、これが動くんですよね?」
運ばないといけないから当然だ。
「そうなりますね」
動くと、あちこちにぶつかるから結構、痛かったりする。
「オフェリア、当たり前だが、声を出すのも不用意に動くのもダメだぞ。怪しまれた時点でアウトなんだ」
「わかっています。わかっていますが……すみません。何分、経験がないもので」
あるわけがない。
俺以外にな。
「どうする?」
エルシィに聞く。
「いっそ寝てもらいますか?」
あー、それが良いかも。
「オフェリア、俺達は睡眠薬も作れる。それで寝ておくっていうのはどうだ? 気付いたら脱出に成功して、列車のベッドの上だ」
「良いかもしれませんね……動いたり、声を出したりしないか不安ですし、正直、寝てたらすべて終わっているというのも魅力的です」
ウェンディが言うには緊張状態らしいからな。
まあ、人生がかかっているから仕方がないが。
「じゃあ、それで行こう。早速、作るわ」
テーブルに戻ると、睡眠薬を作り始める。
幸い、手持ちの材料だけでできるので特に買い物をすることもなかった。
そして、そのままウェンディを含めた4人で過ごしていると、夕方くらいにフリオが戻ってくる。
「どうでした?」
テーブルについてお茶を飲んでいるオフェリアが聞く。
「駅で検問をしている兵士達を見てきたよ。まずだけど、昼にエルシィさんが言っていた特徴の女性を止めていた。やはり兵士達が探しているのはオフェリアと見て、間違いないと思う」
「そうですか……第一王子ですかね? あ、いや、そこはいいです。検問はどんな感じでしたか?」
「女性は別室に連れていかれたのでどんな検査をされたのかはわからない。とはいえ、女性兵士による身体検査だと思う」
さすがに分けるわな。
「それをされると私はマズいですかね?」
「おそらくは……しかし、そういう女性じゃない者は割かしスムーズだったよ。特に夕方になると、徐々に人が増えだして、不満を言う商人も多かったし、騒動になりそうな空気だったんだ」
商人は不満を言うだろうな。
時は金なりって言うし。
「なら結構。当初の予定通りに行きましょう」
「わかった」
俺達は方針が決まったので下に降り、夕食を食べると、各々の部屋に戻り、ゆっくりと過ごしていく。
「エルシィ、本当にいけるか?」
「大丈夫ですよ。私に任せてください」
エルシィは自信満々だ。
まあ、そういうのが得意な人間だ。
俺達はその後も部屋で過ごしていき、順番に風呂に入ると、時刻は夜の11時を回った。
「さて……エルシィ、俺はちょっと確認してくる」
ベッドの上でウェンディと遊んでいるエルシィに告げる。
「わかりました。私も気になりますのでお願いします」
「何ですか?」
ウェンディがエルシィを見上げる。
「教えてあげる。えーっとね……」
エルシィがウェンディに話し始めたので部屋を出ると、隣の6号室に向かう。
そして、扉をノックした。
『……はい?』
フリオの声だ。
「レスターだ。ちょっといいか?」
そう聞くと、扉がゆっくり開き、フリオが顔を見せる。
「……どうしました?」
フリオは小声だ。
「……オフェリアは?」
「……もう休まれております」
そうか……
「……作戦実行の前の夜だし、男同士で飲まないか?」
「…………ちょっと待ってください」
フリオはそう言って、扉を閉めた。
そのまま待っていると、扉が開き、フリオが出てくる。
「行きましょうか」
「ああ。下でいいだろ?」
「はい」
俺達は下に降りると、受付のおばさんにワインを頼んで食堂に入る。
食堂は誰もいなかったので一番奥のテーブル席についた。
そのまま待っていると、おばさんがワインとグラスを持ってきてくれたので乾杯をし、ワインを一口飲む。
「美味いな」
「ええ。よく考えたら久しぶりな気がします」
「普段は飲まないのか?」
「オフェリアは下戸でして、飲みにくいんですよ」
気を遣う男だわ。
良いことなんだけど、過剰すぎる気もする。
「そうか……たまには飲めよ」
「そうします……それで話があるのでは?」
まあ、用件もなく、俺が誘うとは思わないわな。
「お前の意思を確認したくてな……」
「どういうことでしょう?」
「俺達の仕事はオフェリアを連れて、国を出ること。だが、お前の意思を聞いていない」
「もちろん、私も出ますよ」
フリオがはっきりと頷く。
「本当か?」
「ええ」
「オフェリアの情報を漏らしたのはお前だろ」
そう告げてもフリオは表情を変えない。
「何故、そう思ったんですか?」
「違うって否定しろよ」
「ここで即座に否定する方が怪しいですよ」
フリオが苦笑いを浮かべた。
「それもそうか……じゃあ、言おう。俺もエルシィもこの依頼に1つの大きな疑問を持っていた」
「言えばいいじゃないですか」
「お前の意思がわからなかったからだ」
だから聞かない方が良いと判断した。
「そうですか……その疑問とは?」
「オフェリアを国から出したいのはわかる。しかし、それがなんでこのルートなんだ? どう考えても南のペインからの海路が一番早いし、確実だろ。それこそ反乱が起きる前に国から出られる」
誰しもが思うことだ。
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