第108話 楽しそう
歩いていくと西門のすぐ近くに受付みたいなのが見え、家族連れはそこに並んでいた。
「あれが乗馬やら演習の受付か?」
オフェリアに聞く。
「ええ。あそこで受付して、担当の騎士と演習場なり、馬がいるところに連れていきます」
ちゃんと人を付けるわけだ。
まあ、子供もいるし、軍の施設に人が入ったらマズいしな。
「オフェリアさん、あの受付の女性も騎士様なんですか?」
エルシィが聞く。
受付には3人の人間がおり、そのうち1人は若い女性なのだ。
「帯剣していますからおそらくそうでしょうね」
確かに腰に剣が見えるな。
「女性でも騎士になれるんですか?」
「もちろんですよ。力と勇気を認められたんでしょう。まあ、剣術を始めとする武術では男性に勝てないと思いますが、魔法がありますからね」
どんなムキムキな男でもエルシィのエアカッターでお陀仏になっちゃうしな。
「エルシィさんも騎士になれるかもしれませんよ」
エルシィの腕の中にいるウェンディが見上げる。
「私がどんなに強くても無理だと思う」
そう思う。
俺が騎士になれるかどうかを決める立場の人間なら絶対におすすめしない。
俺達は家族連れの後ろに並び、順番を待つ。
そして、少しずつ前の人達がいなくなると、俺達の番になった。
「こんにちは。乗馬体験でしょうか?」
女性の騎士は笑顔で挨拶をし、用件を聞いてくる。
その笑顔はさわやかで好感度が非常に高いと思う。
やはりイメージアップのためだろう。
「外国からの観光客なんですけど、馬に乗りたいと……」
オフェリアが説明をし、隣にいる俺を見てきたのでさらに隣にいるエルシィを見る。
すると、エルシィがウェンディを見下ろした。
「乗りたいでーす」
ウェンディが片手を上げた。
「まあ! 可愛い! 可愛い……え? しゃべった?」
女性騎士は満面の笑みだったが、すぐに怪訝な顔で両隣の男性騎士を交互に見る。
「しゃべったな……」
「俺も聞こえたし、手を上げているように見えるな……」
2人の男性騎士も怪訝な顔になった。
「この子は使い魔なんですー。可愛いですよねー。ウェンディって言うんです」
「ウェンディでーす」
エルシィとウェンディが満面の笑顔で誤魔化す。
「そ、そうね。可愛いわ……使い魔ってこんなんだっけ?」
「俺は魔術師じゃないからわからん」
「俺もだ……」
魔術師でもわからないと思うな。
「そ、そっか……えーっと、ウェンディちゃんはお馬さんに乗りたいのかなー?」
女性騎士が子供に話すみたいに笑顔で聞く。
若干、引きつっているが。
「乗りたいでーす」
「じゃあ……乗れる、かな?」
置くって表現の方が合っている気がするな。
「大丈夫だろ。むしろ暴れる子供よりも荷物と認識してくれるかもしれないから馬も大人しいままだ」
人形だもんな。
しゃべるし、飛ぶけど。
「それもそうね。えーっと、じゃあ……」
女性騎士が後ろに控えていた騎士達を見るが、全員、一斉に視線を逸らした。
得体の知れない人形に関わりたくないのかもしれない。
「……私か。じゃあ、こっちね」
女性騎士が笑顔を絶やさずに馬具を持ち、促してきたので一緒に門を抜ける。
「おー……綺麗ですねー」
「馬がいっぱいです!」
門を抜けた先は広々とした草原であり、風になびく緑の絨毯がどこまでも続いていた。
左の方には軍の施設であろう、基地が見えており、右の方には簡単な木柵に囲まれた放牧地がある。
放牧地には数十頭の馬達があちこちにおり、歩いたり、草を食べていたりした。
そして、中には子供を背に乗せてゆっくり歩く馬もおり、楽しそうにしている家族が見える。
「風が気持ちいいな」
遠くから吹き抜けてくる風がちょっと暑い気温の中では心地良い。
「ですねー。どの馬ですかね?」
「ウェンディ、どれがいい?」
一応、聞いてみる。
「白馬が良いです」
お前が白馬に乗るでいいのか?
まあいいや。
「すみません。ウチの子が白馬が良いと言っているんで……」
女性騎士にお願いする。
「いえいえ。葦毛は人気ですからね。少々、お待ちください」
女性騎士は笑顔でそう言うと、柵の中に入り、奥にいる白馬のもとに向かった。
そのまましばらく待っていると、女性騎士が手綱を引き、白馬と共にこちらに戻ってくる。
白馬は大人しく女性騎士についてきており、気性が荒いという風には見えなかった。
「その馬か?」
「ええ。大人しい子ですし、大丈夫でしょう」
ふーん……
「なあ、今更だけど、こいつら、軍馬だろ? いいのか?」
「元軍馬ですよ。ここにいるのは年を取って引退した馬です。引退後はここで余生を楽しみながらこうやって子供達と遊んでいるんですよ」
女性騎士はそう言って、白馬の首筋を撫でる。
「なるほどな…………馬って近くで見ると大きいな」
前世で他人の恋路を邪魔する者に対して馬に蹴られて死んじまえってあったが、こんなでかいのに蹴られたら本当に死にそうだ。
「大人しい馬だから大丈夫ですよ。それでどうしましょう? 使い魔ちゃんが乗るって言ってましたが、鐙には届きませんよね?」
鐙というのは乗馬の際に足を置く馬具だ。
30センチ程度の人形のウェンディは当然、足が届かない。
「ウェンディ、いけるか?」
「大丈夫です」
ウェンディは頷くと、エルシィの腕の中からふよふよと飛び上がり、白馬に飛んでいく。
「と、飛ぶんだ……」
「まあ! パタパタとしている羽が可愛らしいですね」
女性騎士とオフェリアが驚いていると、ウェンディが白馬の鞍に降り立った。
「馬の上に人形が乗っているだけだな」
「そう見えますね」
それ以外の感想が出てこないわ。
「騎士さん、手綱をください」
「え? あ、うん、どうぞ」
女性騎士がウェンディに手綱を渡す。
「さあ、ファルシオン、行きますよー」
ウェンディがそう言うと、白馬がゆっくり歩きだした。
「おー……」
「ちゃんと歩くんですね」
すごいぞ、ファルシオン。
「これで私も騎士です。さあ、ファルシオン、敵を蹴散らしましょう」
お前、天使だろ。
「ファルシオンじゃなくて、サカリアスなんだけど……」
名前、違うんかい……
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