第109話 可愛い
ウェンディは楽しそうに白馬に乗って、その辺をゆったりと歩かせている。
「本当に大人しい馬なんだな」
「馬も大人になれば落ち着きますから……大人というかお爺さんですけど」
孫と戯れるお爺ちゃんか。
「ウェンディ、楽しいか?」
馬を歩かせているウェンディに聞く。
「楽しいですよ。馬に乗る機会なんてないですからね。皆さんもどうです?」
ウェンディがそう聞くと、エルシィ、女性騎士、オフェリアが一斉に俺を見てくる。
「俺か?」
やはり馬は男が乗るものなんだろうか?
「御二人は乗れないでしょう」
「ええ。私は遠慮します」
「先輩、私達は馬に跨げないんです」
あ、そうか。
オフェリアは長いスカートだし、エルシィはローブだ。
馬に跨ると捲れてしまう。
「落とされないか?」
「よほど暴れない限り、大丈夫ですよ。大人しい馬ですから」
じゃあまあ、乗ってみるか……
ウェンディが言うようにこんな機会はないからな。
「ウェンディ、乗ってみるわ」
「はーい。サカリアス、あっちですよ」
ウェンディが手綱を引き、サカリアスをこちらに誘導させる。
すると、サカリアスがゆっくりとこちらにやってきた。
「上手いもんだな」
「大事なのは心を通わせることですよ」
嘘くさいが、こいつ、天使だしな。
サカリアスがこちらにやってくると、女性騎士が手綱を取り、ウェンディがふよふよと飛んだ。
「心を通わせるのは長年の相棒だったりですが、アドバイスをしますと、過剰に怖がってはいけません。本当に大人しい馬だから大丈夫ですよ。最悪は私がどうにかしますのでご安心を」
女性騎士は慣れているようで優しい笑みを浮かべて安心させてくる。
「どうすればいいんだ?」
サカリアスに近づき、首筋を撫でながら聞く。
「左手で手綱とたてがみを掴み、鐙に左足をかけてください。それで一気に乗ってください」
言われたとおりに手綱とたてがみを掴む。
「痛くないのか?」
「大丈夫ですよ。馬は強いので」
そんなもんかと思いつつ、左足を鐙にかける。
揺れているため、安定感がないなと思ったが、そのまま勢いよく右足で地面を蹴り、馬に乗った。
不安定で揺れたが、女性騎士が背中を抑え、支えてくれる。
「大丈夫か?」
「はい。そのままの体勢でまずは慣れましょう。大人しい馬でしょ?」
サカリアスは暴れる気配もないし、落ち着いている。
「ああ。結構高いんだな」
当然だが、立っている時よりも視野が高く、広大な草原がよく見える気がする。
「すぐに慣れますよ。では、ちょっと歩きましょう。私が引きますのでそのままの体勢でいてください」
「わかった」
頷くと、女性騎士がサカリアスを引き、歩いていく。
すると、当然、動くのだが、かなり揺れるし、体勢を保つのが少し難しい。
とはいえ、ゆっくりだし、落ちることはないなと思える安心感があった。
「結構いけるもんだな」
「馬は怖がりさえしなければ大丈夫ですよ。では、手を放しますのでそのまま進んでみてください」
女性騎士はそう言って、手を放したが、そのまま一緒に進んでいく。
「おー、すごいな」
結構楽しいぞ、これ。
「せんぱーい、かっこいいですー。王子様みたいでーす」
「悪そうな王子様ですね」
ウェンディ、うっさい。
「これ、どうやって曲がるんだ?」
一緒に歩いている女性騎士に聞く。
「体重を曲がりたい方向に傾けてください。それだけで大丈夫です」
そう言われたので右に重心を傾けてみた。
すると、サカリアスが斜め右に進んでいく。
「おー、すげー」
これは興奮するな。
はしゃいでいたウェンディの気持ちがわかる。
それに心を通わせると言った意味もちょっとわかった。
「では、このままぐるっと一周回ってみましょうか」
そのままの体勢でゆっくりとその辺を回っていく。
ここまで来ると、馬に乗っているという恐怖心は完全になくなっていたし、サカリアスとの一体感が生まれてきているような気がした。
そして、そのままぐるっと一周すると、待っているエルシィ達のもとに戻ってくる。
「では、降りましょうか。乗る時と同じように手綱とたてがみを掴み、さらには右手で鞍を掴んで降りてください」
「わかった」
言われたとおりに手綱、たてがみ、鞍を掴んで一気に降りる。
その間もサカリアスはまったく暴れずに大人しいままだった。
「乗馬は以上ですね。せっかくなので首筋を撫でてあげてください」
女性騎士がそう言うのでサカリアスの首筋を撫でてやる。
心なしか気持ちよさそうにしているし、つぶらな瞳が可愛らしい。
「おー……可愛いな」
馬ってこんなに可愛いんだな。
別に動物を可愛いと思ったことがないのだが、なんか惹かれるものがある。
やはり心が通ったのかもしれない。
「先輩、どうでした?」
エルシィが聞いてくる。
「すごく良かったな。馬が欲しいと思った」
「馬ですか……まあ、商品を運ぶための馬車と思えばありかもしれませんが……」
いや、ないと思う。
俺達は魔法のカバンを持っているし、そんな大荷物を運ぶような仕事はしない。
もし、あったとしても商人に仲介を頼むだろう。
「それくらい良かったってことだ」
良い体験だった。
俺でもそう思うのだから子供は喜ぶだろうな。
「では、次に餌やり体験でもしますか?」
サカリアスから馬具を外した女性騎士が聞いてくる。
「そうだな。せっかくだし」
「やりたいでーす」
「私もー」
ウェンディとエルシィも賛成のようだ。
「では、あちらに参りましょう……行っていいよ」
女性騎士がサカリアスの背中を軽く叩く。
すると、サカリアスが草原を軽快に走っていった。
俺達はそんなサカリアスの後ろ姿を眺める。
「エルシィ、ちょっとポニテにしてみ」
「先輩……そんなに気に入ったんですね……」
うん。
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