第38話 小学生、護衛 〜9〜
「――ようやく消えたか」
一般人がいなくなると、クアールはつぶやいた。
そして刀を構える。
俺を殺す気だ。
俺も一般人がいなくなったから、好き勝手やれる。
今は出し惜しみなくエネルギーを使うしかない。
じゃなきゃ俺も死ぬ。
「風操!」
エネルギーを放出する。
すると目の前にあったパソコンや机、椅子が『風』によって浮かび、一斉にクアールのところに向かった。
クアールはパソコンを刀で切ると、自らを『煙』にして他のものは躱す。
煙が集まってヒトの形に戻ると、すぐに俺に斬りかかってきた。
俺はそれを刀で防ぐけど、クアールは何回も斬り掛かってくる。
こんなに近いと刀は扱いにくい。
ナイフに持ち替えたかった。
ナイフのほうが軽いし、次の攻撃に素早く移れる。
ただ腰からナイフを抜く時間がなかった。
いっそ、一世風靡でここを吹き飛ばすか……?
そうすればクアールは俺から離れる。
その隙にナイフを抜けばいい。
あの技はかなりのエネルギーを使うけど、やるしかない……!
俺はエネルギーを込める。
これを放出すれば――!
「――溶射雫球」
聞こえる天菜の声。
クアールも聞こえたのか、俺と刀を交えると振り向いた。
そこには天菜がいた。
天菜は掌をこちらに向けている。
いや、なにか発射されてる……?
見ると、水でできた球体のようなものだった。
それはクアールに当たる。
するとその球体は爆散した。
けれど、俺にはかからなかった。
クアールが盾になってくれたから。
「なっ……! なんだこれは……!」
クアールは苦しそうに言うと、俺から距離を取った。
俺も距離を取って、刀を握りながらナイフを抜く。
「なにをした……!」
「敵に教えるわけないじゃん」
天菜はそう言うと俺の隣まで来た。
だけど刀を抜いてない。
殴り合いでもするかのように天菜は構えてるだけだ。
こいつ……刀を持ったクアールと素手で戦う気か……?
「私を殺せば能力が解除されるかもよ? だったら私を最初に殺したほうがいいかもね。まだ続くでしょ? 痛み。その反応、今まで感じたことないみたいだね。その不快な感じ」
天菜は本当になにをした……?
味方である俺もわからない……。
大丈夫かな? 俺、もうクアールに触れないほうがいいかな……?
もしかしたら俺も喰らっちゃうかもしれないよね? クアールに触れたら。
「――油断しちゃダメだって」
突然、クアールの後ろに花楓が現れる。
それに驚いたのか、クアールは振り向くと同時に花楓に斬り掛かった。
花楓はクアールの攻撃を刀で止めて、クアールの腹を蹴り飛ばした。
……? 気のせいか……?
クアール、動きが鈍くなってる……?
クアールは壁に叩きつけられたけど、すぐに起き上がる。
「終わらせる」
クアールが床に掌を向ける。
その瞬間、部屋の中が煙で満たされた。
数センチ先も見えない状況だった。
隣りにいた天菜でさえ見えない。
一世風靡で煙を消すか……?
いや、ここであの技を使ったら建物ごと壊れる。
この階にいた人たちはみんな逃げたけど、他の階にいた人たちはまだ逃げてないかもしれない。
ビルが倒壊したら、何十人も死者が出る。
どうすれば――!
「まずは……一人だ」
誰かが俺の首を掴む。
その力はものすごく強い。
首にエネルギーを流してそこの部位だけ防御力を高めてるけど、エネルギーを流してなかったら握り潰されているかもしれない。
それくらい、その力は強い。
俺を掴んでいる手は、俺を持ち上げた。
そ手の正体がわかったとき、俺は床から数センチ浮いていた。
わかっていたけど、クアールだった。
片手で俺を掴んでいて、もう片手で刀を握っている。
俺の心臓を刺す気だ。
この光景……あのときの同じだ。
理来も……こうやって死んだ。
こんなの……どうすれば……!
「――掴むんなら俺にしろ」
クアールの後ろから声がする。
薄くなっていく視界で見ると、クアールの後ろに迅斗がいた。
迅斗はクアールの首に触れている。
「伝雷」
迅斗の口から聞こえる言葉。
その言葉が何を意味しているか、一瞬で理解できた。
首だけに流していたエネルギーを、咄嗟に全身にも流す。
刹那――クアールに電気が流れた。
もちろん、クアールに触れている俺も電気が流れる。
全身が痺れるような感じがするけど、全身にエネルギーを流していたおかげでそこまでダメージは大きくなかった。
クアールは一瞬だけ喘いで俺を放す。
俺は首を手で押さえて何回も咳をする。
上手く空気が吸えない……!
見ると、迅斗はクアールを殴り飛ばしていた。
クアールは窓を突き破って地面に向かって落ちる。
それと同時に煙が晴れた。
迅斗はクアールが落ちた窓のところまで行って腰から手榴弾を出す。
次の瞬間には、迅斗はそれのピンを抜いて地面に向かって投げてた。
きっと空中にいるクアールに向かって投げたんだ。
「風月! 大丈夫?」
爆発音がするのと同時に花楓が俺の所まで来た。
「あ、ああ……!」
声を出すのがまだつらい。
もしエネルギーを流してなかったらって想像すると、少しだけ震えた。
「風月、急に悪かったな」
地面を見下ろしながら迅斗が言う。
迅斗は俺を解放させるために、クアールに電気を流してくれたんだ。
迅斗がああしてなかったら、きっと俺は死んでた。
「た、助かった……!」
「久しぶりに教官に感謝したぜ。やっぱ技名、大事だな」
本当にそうだと思う。
じゃなかったら俺も迅斗が技を出すなんて気づかないで、あのまま感電死してた。
迅斗はビルから飛び降りる。
クアールを追いかける気だ。
俺も行かなきゃ……!
ふらつく脚でなんとか立ち上がり、迅斗のあとを追った。




