39. お人好しが増えた気がする……
「じゃあ、出発する前に、この場の処理だけど……。私がやってもいいけど、リコ、どうする?」
ソフィが意味ありげな目で聞いてくる。
ああ、ソフィは気を使ってくれてるんだ。私の『収納箱』で全部回収してもいいけど、他の三人にそれを見せても大丈夫かって。私の『収納箱』はちょっと特殊だからね。
ふむ。ここまで回収してきたドスホーンモウの話もしたいし、隠す必要はないかな。ここですぐ別れるならともかく、それを隠したままこのあと話すのもめんどくさいし。
「私が回収するよ」
「いいの?」
「うん」
私たちの会話の意味が分からなかったようで、三人とも微妙な顔をしている。
口で説明するよりも、やってみせた方がはやいかな。
馬車を囲むように倒れているドスホーンモウを順番に回収していく。
「な、なにっ!?」
二体目を回収したときに早くも驚きの声が聞こえた。
まぁ特に気にしないで、そのまま全部回収をすませる。
「お、おいっ。何をしたんだ!?」
みんなのところに戻ると、年長の剣士の方が詰め寄ってくる。
え、ちょっとこわいんだけど。
私が若干引き気味になっているのを見てか、ソフィが軽く笑いながら間に入ってくれる。
「ふふっ。はいはい、おしゃべりはあとでね。じゃあ馬車に乗るわよ」
「そ、そうだったな。おい、あとで聞かせてくれよ?」
アントンさんと年長の剣士は言われた通り馬車に乗り込んでいく。
けど、イケメン剣士はなにやら難しい顔をしたまま動かない。
「……ソフィア。すまない、今になって気がついたが、俺たちが道中で倒してきたドスホーンモウだが……」
ソフィもそこではっとした表情になる。
「……そうね、まずいわ。処理なんてできる状況じゃなかったから、今頃街道の真ん中にそのままね……。どうしようかしら? 今日の進行分が随分無駄になっちゃうけど……」
「ああ、俺たちも護衛中だが、幸い余裕をもって出発はしているんだろう? 万が一ではあるが、街道を通る人に迷惑をかけるわけにもいかない。引き返すとしよう」
「そうね。イリーネには申し訳ないけど」
えっと、道中倒してきたドスホーンモウが街道の真ん中にそのまま?
って間違いなく私が拾ってきたやつだよね。
というか、引き返すって何!? 今から死体の処理のためだけに引き返すの!?
……この人たち善良すぎない? いや、ソフィのことはそういう人って知ってるけど、このイケメンも同類か!
詳しい状況は知らないけど、ソフィがその時処理しなかったくらいなら、どうやっても無理な状況だったんだろうし、仕方なかったで済ませちゃえばいいと思うんだけど。
だいたい死体を放置したからって、魔物が集まるよりも先に、他の通行人がラッキーと思って回収するか、冒険者でも通れば処理してくれる可能性が高いのに。実際今回は私が回収してるし。
私の考え方が汚いのかな。……そうかも。
ソフィとイケメンの聖人君子ぶりに充てられて膝と両手を地面について落ち込んでいると、イケメンが颯爽と御者台に向かっていくのが見えた。
あ、これ本気でUターンする気だ……!
落ち込んでる場合じゃない。
気力を振り絞って立ち上がって、ソフィに確認する。
「ソ、ソフィ。聞きたいんだけど」
「なに? って、リコ、どうしたの? ひどい顔してるけど」
「ちょっと自分の心の汚さに絶望しててね……。と、そんなことよりっ。ソフィたちが倒してきたドスホーンモウの死体って、魔法か剣かで首を切ったようなやつじゃない?」
「え? ええ、そうね。もしかして来る途中で見かけた?」
「うん。というか全部回収してきたよ。六体で合ってれば。だから戻る必要はないよ」
「えっ。ほ、本当!? ええ、六体で大丈夫よ。ありがとう、リコー。本当に助かったわー」
ソフィが私の頭をぐりぐり撫でてくる。
なんか子ども扱いされてるような。別にいいけど。
「ソフィア! なるべく早く行きたい! 準備がよければ乗ってくれ!」
イケメンが御者台から声をかけてくる。
「あ、グレーム。引き返さなくてよくなったわ。私たちの後始末、全部リコがしてきてくれたって」
「なにっ? 本当か?」
「信用してるって言ったでしょう。心配ないわ」
「……そうか。それなら俺たちも助かるな。じゃあ先に進むぞ。どっちにしても早く乗ってくれ」
「はいはい。操縦よろしくね。リコ、乗りましょう」
「うん」
馬車の中は席が三人掛けの向かい合わせになっていた。
片側に既に年長剣士とアントンさんが座っている。
その反対側には——女の子?
水色の長い髪と、私の目から見ても高価なのが分かる、豪華だけど動きにくそうな洋服が目を引く。
どう見てもこんな冒険者だらけの場所は似合わなそうな女の子が横たわって眠っていた。
馬車の中の魔力反応はこの子だったんだね。眠ってたから出てこなかったのか。
というか誰?
私よりも先に馬車に乗りこんだソフィは、ものすごく自然な感じで女の子の頭をそっと持ち上げてそこに座り、自分の膝に持ち上げた頭を乗せた。
え、じゃあ、こっち側の席は全部埋まったから、私の席は……
無意識にアントンさんの方を向くと、私の席を空けようと思ったのか、年長剣士の方にぐいっと席を詰めた。
いや、そこまでしなくていいよ。私、小さいし。
それか、私から距離を空けたいのかも? 何もしないよ。こわくないよ。
……まぁ気にしない方がいいか。
アントンさんが空けてくれた席にポスンと腰を落とす。
この馬車は、前乗らせてもらったパブロの馬車より豪華だね。いや、豪華なのもそうだけど、馬車の目的の違いか。
行商をやってるだけあって、パブロの馬車は貨物用って感じでだだっ広いだけだったけど、この馬車は人を乗せるためのものだ。座席が用意されていて、柔らかいクッションもついてるから、長時間座ってても疲れにくそう。
私は乗るならこっちの方がいいな。当たり前だけど。
「グレーム、出発していいわよ」
ソフィが御者台のグレームさんに声をかける。
私たちが座っている側の後ろが御者台だ。
完全に仕切られているわけではないので大声を出さずとも声は届く。
「了解した。ダル、監視を頼む」
「ああ」
「いえダル、僕がやりますよ」
年長剣士——ダルさんが返事をしたと思ったら、アントンさんが立候補した。
まさか私から離れるため!? ……じゃないよね?
というか監視ってなんだろ。
「大丈夫だ。俺がやるぜ」
「いえ、僕はさっきも馬車で待機しかしてませんからね。このくらいさせてください」
会話を聞いてたのか、グレームさんの声がとんでくる。
「わかった。じゃあアントン頼む。今日はいつもと違うから、より気をつけてくれ」
「ええ、もちろんです」
アントンさんが立ち上がり、馬車の扉から半身を乗り出して周囲が見渡せる格好になった。
ああ、なるほど、馬車の移動中も周囲警戒とかしないといけないのか。
……それなら私がここに乗ってれば、わざわざ見てなくてもなにか近づいてきたら分かるけど。
まぁ魔力反応で分かるから見張りはいらないです、私に任せて安心して座っててください、なんて言ったところで信じてもらえるわけもないよね。ソフィだけならともかく。
余計な口は出さないで、ここはアントンさんにお任せしよう。
リコ「ソフィ、私の心って汚いのかな……」
ソフィア「へ? リコが汚い? そうね、どちらかというと可愛いんじゃないかしら」
リコ「……はぁ??」




