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38. あの魔法は忘れない

 

「あれ? まただ」


 思わずつぶやく。これで六体目だ。

 昨日と同じように街道沿いを走ってるんだけど、なぜか魔物の死体が転がっているんだよ。


 最初に見つけたのは今から一時間前くらいかな。ちなみに今はもうお昼過ぎだ。もちろんお昼休憩ははさんだよ。

 お腹もいっぱいになってあくびをしながら走っていたら、街道のすぐわきにそれが放置されているのに気がついた。魔力も感じないから死んでいるのは間違いない。

 近づいてみると、ドスホーンモウという牛に似た魔物だということが分かった。これは魔物図鑑に載ってたから知っていたんだよ。

 首をすっぱり切られているところから、どう見ても自然に死んだわけではないと思うけど……。


 となると、少しおかしいんだよね。


 魔物を倒した場合は、その死体は放置してはいけないのが暗黙のルールとなっている。

 素材として売るために持って帰ってもいいし、それでなければ焼いたり埋めたりして処理することになる。まぁ埋めるのは大変だろうから、基本は焼くことになると思うけど。

 そうしなければ、死体を餌だと思った他の肉食の魔物が寄ってきてしまうからだ。


 でも、このドスホーンモウの死体はそのまま放っておかれてる。しかも街道の真横に。

 明らかに人が倒しているのに不自然だ。街道から離れたところならまだ理解できるけど、こんな場所じゃあ他の通行人が危険にさらされかねないよ。

 それにドスホーンモウの肉は食用になるらしいから、それなりの値段で売れると思う。だからせっかく倒したなら持って帰るのが普通だと思うんだけど。

 ……もしかしたら持ち帰ることも、処理することもできない状況だった? でもそんな状況ってどんな状況?


 疑問は残るけど、見つけてしまった以上そのままにはできないから、『収納箱』にしまっておいた。

 別に私が売るために盗んだわけじゃないよ。持ち主が現れたら返すよ。本当だよ。




 で、同じように倒されたドスホーンモウの六体目を見つけたのが今現在なんだけど。


 んー、本当にいったいなんだろうね。

 謎は深まっていくばかりだけど、とりあえず回収だ。もちろん今までのも全て回収してきた。

 全部同じようにきれいに倒されているところを見ると、倒してるのはそれなりの実力者っぽいし、魔物の処理も知らないわけないと思うんだよね。



 そしてまた走り出すこと——約一分。



 六体目が見つかってから、ほんの少し進んだタイミングで魔力反応に気がついた。

 前方に十数の反応が固まっている。

 今日の午後にすれ違うのはこの組が初めてだ。


 昨日から今に至るまでは、街道沿いに魔力を感じたら、私の姿は見られないように街道を大きく外れて追い越しつつ、どんな集団なのか遠くから眺めていたんだけど。


 でも今回は嫌な予感がする。意味不明な魔物の死体のせいかもしれない。

 目撃されるのを覚悟で、全力でその反応のもとへ向かうことにした。


 すぐにその反応の集まりが目視できる距離まで近づく。



 あれは——竜巻? それに、ドスホーンモウ!?



 今度は生きているドスホーンモウが十体、竜巻を取り囲んでいた。

 そして竜巻の中に五つの反応。でも竜巻のせいで、その中までははっきりと視認できない。

 ——ただ、これは風魔法だ。そして私はこの魔法を見たことがある。



 いつ、どこで、見たのか、誰が使ったのか——



 そこからは数秒の出来事だった。



 それに思い至った瞬間、私の身体は考えるよりも先に勝手に動いていた。



 私は神速でドスホーンモウの群れに接近する。



 竜巻の勢いが弱まる。



 私は一瞬で十の『風の刃』を展開して撃ちだす。



 竜巻が消える——と、同時に人間の雄たけびが聞こえる。


「「うおぉおおおおっ!!!!」」



 十体のドスホーンモウの首が同時に落ちる。



「「おおおおお……お?」」


「——敵を裂け! 『風の……え?」


 竜巻の中から飛び出してきた人間の動きがピッタリ止まる。

 飛び出してきたのは剣士風の男が二人。それと——


 竜巻があった場所の中心には馬車があり、その馬車を守るようにして杖をかざしている白いローブの魔法使いが一人立っていた。



「大丈夫だった? ソフィ」



 ……やっぱり、あの竜巻の魔法は、ソフィが私をクインレオから守るために使ってくれた魔法。私がこの世界に来て、初めて見た魔法だった。忘れるはずがないよ。


 ソフィは大きく息をつくと、杖を下ろして気が抜けたような顔で微笑んでくれた。


「……助かったわ、リコ」


「うん。間に合ってよかったよ」


 ……本当によかった。




「それにしても偶然だね。こんなところで会うなんて」


 まさかソフィを追いかけて来たわけでもないので、偶然を装って改めて話しかけてみる。

 そうだよ、偶然だよ。私は私の依頼で王都に向かってただけだもん。むしろソフィも王都に向かってるなんて知らなかったと言っても過言ではないよ。


 ソフィは杖を『収納箱』にしまうと、呆れ顔になって首をふる。


「……はぁ。なにもかも全然意味が分からないわよ。でもあなたは元気そうね」


「いつも通りだけど」


「私がガザアラスを出るときは元気なさそうだったじゃない」


「……そんなことなかったけど」


「そう? ま、それよりまずはこの場の収拾ね。まだ二人そこで固まってるし。ああ、馬車からのぞいてるのも固まってるわね」


 ふと馬車の方を見ると、ローブを着た男が杖を持ったまま、口を開けてこっちを見ている。

 馬車の中には、その男以外に一つ魔力反応があるみたいだ。


「グレーム、ダル、いつまで剣を振り上げてるのよ。アントンも、もう危険はないから一回降りてきなさい」


 剣士の二人が名前を呼ばれて、ふと気がついたように剣を下ろす。

 けど、なぜかその場からは動かず顔だけこちらに向ける。


「……ソフィア。一体何がどうなった? 説明してくれないか」


 剣士の若い方、優男風のイケメンがようやく声を発した。


「私もよく分かってないわ。でも、とりあえずこの子を紹介したいからこっち来てくれる?」


「あ、ああ」


 剣士の二人が剣を鞘に納めて、こちらにやってくる。


「アントンも。いつまで固まってるわけ? はやく降りてきなさいって」


「……え、ええ」




 これでこの場に私を含めて五人が小さい輪になった。

 男三人が不思議なものでも見るように私に視線を向けている。


 あと、馬車の中の一人で全員かな?

 ソフィのこの感じだと怪我人や死人がでたわけでもなさそうだね。よかった。


「それじゃあ、まずは——って、アントン。どうして杖を構えてるの。しまいなさいよ」


「え、あっ。す、すみません」


 アントンと呼ばれた男は、両手で杖を構えて今にも魔法を使いそうな姿勢だった。

 自身でも気が付いてなかったみたいで慌てて杖をしまう。というか消えた。『収納箱』だね。

 ソフィがそれを見てから再度口を開く。

 どうやらこの場を仕切ってくれるみたいだ。ありがたいね。


「それじゃあ、改めて。詳しい話はこの子も馬車に乗せてゆっくり話したいんだけど、この子を乗せることに納得してもらうためにも、簡単に紹介と状況整理させてもらうわ。まず、この子はリコ。これでも冒険者で、私のしん——コホン、友人よ。私はこの子のことを全面的に信用しているわ」


 また友人って言われた。

 ……もしかして本当に友達なのかも……!?

 いや、でも友人って言う前、なにか言いよどんだ気が……。え、やっぱり無理してるのかな……。


 私が悶々としてる横では、男三人は私が冒険者というところに驚いてるみたいだったけど。


「私もどうしてこの子が今ここにいるのかは知らないけど、そこのドスホーンモウを見ればわかる通り、私たちを助けてくれたわ。リコが来てくれなかったら、私たちは最悪死んでしまってたかもしれないでしょう? 命の恩人ね。ちなみに、こう見えてこの子、私なんか比べ物にならないくらい強いからね」


「「「なっ!?」」」


 ソフィが苦笑しながら告げた言葉に、今度は声が出るのを抑えられなかったみたいだ。

 三人ともぽかんと口が開きっぱなしになってる。


「ふふっ、そうは見えないけどね。さて、とりあえずこんなところね。あとはこの場の処理だけして、自己紹介は馬車の中でにした方がいいと思うけれど、どうかしら?」


「……そうだな。ソフィアのことは俺も信用している。そのソフィアがその子のことを信用していると言うなら問題ないだろう。聞きたいことは山ほどあるが、確かに進みながらでいいしな。俺はそれで構わない」


 イケメン剣士が答えると二人も頷く。

 もう一人の剣士が一番年上に見えるけど、イケメンがリーダーなのかな。


「よかったわ。リコもそれでいい?」


「うん」


 このまま何も説明せず立ち去ることはできないだろうし、私の方もなんでこんな状況になってるのか情報が欲しい。

 それにソフィの言う通りここで座って話すよりは、馬車でちょっとでも進みながら話した方が効率的だね。



ソフィア「私の出番、久しぶりね。リコ、来るのが遅いわよ」

リコ「この物語、テンポ悪いんだもん。つまり作者のせいだよ。私、悪くないよ」

ソフィア「それは……そうね、仕方ないわね……」


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