20. 依頼の内容に苦労するなら分かるんだけど
アネットさんにお礼を言って立ち上がり、依頼ボードへ向かうことにする。
そして未だに隣で笑うソフィをじろっと見て名前を呼ぶ。
「……ソフィ?」
「コ、コホン。なにはともあれ無事登録できたみたいね。私はこれから野暮用で街を回るけど、リコはどうするの?」
ソフィは咳払いでごまかすと、このあとの予定の話を始めた。
……まぁいいか。
「まだ午前だし、なにか依頼を受けて今日中に達成したいんだけど」
「そう。でも朝も言ったけど、いい依頼はもう残ってないと思うわよ?」
「なにもないってわけじゃないんでしょ? とりあえず見てみるよ。じゃあね、ソフィ」
ソフィに別れを告げ、依頼ボードを見に行こうとすると、なぜかソフィも後ろからついてくる。
「……用があるんじゃなかったの?」
「あるわよ。あるけど、リコがどんな依頼を選ぶのか気になってね」
……楽しそうだなぁ。もう好きにしたらいいよ。
さて依頼ボードだけど、ランクごとに分けて依頼が貼られている。
私が受けられるのはFかEの依頼だね。
~F~
・レオの納入(受注不要)
・薬草の納入(受注不要)
・引越しの手伝い
・下水道の掃除
etc
……レオの素材とか薬草はまだいいにしても、なんか元の世界にもありそうな雑用的な仕事もあるんだけど。引越し手伝いとかアルバイトじゃん。これじゃ本当に何でも屋だな。
ちなみにレオというのは私が倒したキングレオと同じ種類の魔物だが、その中でも一番小さく弱い魔物だ。この辺りには比較的多く出現するらしい。質はよくないが、肉は食用に、爪や牙、皮も加工されて様々な用途で使用されるという話だ。このレオを一対一で倒せてEランクくらいの実力はあると評価されるという。
「この受注不要っていうのは?」
「ああ、それは依頼を受けていなくても、事後報告すれば達成扱いになる依頼よ。素材の納入依頼とかに多いわね」
ふーん、じゃあなにかのついでに持って帰ってくれば多少は稼げるってわけか。サブクエスト的なものだからFランクになってるのかな。
でもFランクの依頼は基本的に命の危険がない依頼が多いみたいだ。
ただ、やっぱりリスクがない分、報酬が少ないのが致命的だね。これじゃせいぜいピリーゼ一泊分にしかならないよ。
そういえば最初にソフィが、戦うことができないと仕事にならないって言ってたね。こういうことか。
次にEランクの依頼を見てみる。
~E~
・レオの群れ討伐
・コボルトの群れ討伐
・ゴブリンの群れの調査
・高級薬草の納入
etc
コボルトにゴブリン? さすがファンタジー。元の世界のファンタジー知識だと、コボルトが人型で犬の顔をした魔物で、ゴブリンも人型で緑色の小鬼だっけ?
これは魔物の種類とか見た目を覚えないと仕事にならなさそうだね。
それになんか群ればっかりなんだけど。いきなり難易度上がってない?
「Eランクでもう群れの討伐なの?」
「パーティで受けることが前提だからね」
ああ、パーティを組んでいることが多いって、これもソフィが言ってたな。
私は……一人でいいかな。
違うよ? 一人の方が自由だし気が楽だからだよ? 友達さえいたことないのにパーティを組むのなんか無理だとか思ってないよ?
ソフィもパーティ組んでないって言ってたし。普通だよ。
……なんでソフィはパーティ組んでないのかな?
ちょっと疑問に思ったけど、聞くのはやめておこう。私だったら聞かれたくないし。
それより受ける依頼だよ。
Fランクは報酬が少なすぎるので論外。
Eランクでもコボルトとかゴブリンは実際どんなのかが分からないから無理。高級薬草? なにそれ?
ということで、この中だと受けられそうなのがレオの群れ討伐くらいなんだけど。レオも見たことないけど、クインレオとかキングレオと同種なら見れば分かりそうだ。
それにEランクの中でもこの依頼は特に報酬が多い。これ一回で十泊分の宿代返せるよ。
「これにする。報酬も悪くないよね?」
「え、それ結構遠いわよ? 討伐自体はリコなら大丈夫でしょうけど、移動が大変よ? だから人気がなくてまだ残ってるのよ。その分、レオの群れ討伐にしては報酬が多いけど」
そういうことか。あらためて依頼書をよく読んでみる。
ビースクという村からの依頼で、村の近くにレオの十数匹の群れがでるようになって困っているとのことだ。
「ビースクってどのくらいかかるの?」
「そうね、歩きだと半日くらいかかるんじゃないかしら。今から出発して、急げばギリギリ夜には着くかしらね」
歩きで半日か。
ソフィには言ってないけど私の体はなぜか魔力でものすごく強化されてる。まだ色々試したわけじゃないけど、走っていけば遅くとも今日の夜には帰ってこられると思う。
「そうなんだ。まぁなんとかなるよ」
「そう? あなたがそう言うならいいけど。一人だと野営は危険だし、村に泊まらせてもらいなさいよ?」
「うん。わかったよ」
泊まりになるつもりはないけど。
私が依頼を選んだところで満足したのか、ソフィはやっと自分の用事に行くことにしたみたいだ。
「じゃあ私は行くわ。リコも気をつけて行ってらっしゃい。帰ってきたら声かけなさいよ?」
「うん。それじゃまた」
ソフィがギルドから出ていくのをなんとなく見送ってから、さっそく依頼書を持ってカウンターに向かう。
本当は誰でもいいんだけど、さっき話したばかりだしアネットさんのところに向かう。
「これ、お願いします」
「リコさん? もう依頼を受けるんですか?」
アネットさんは依頼書を受け取り、内容を確認した。
——そして固まってしまった。
あ、ソフィが本当にいてくれなきゃいけないのは、もしかしてこのタイミングだったかな?
はぁ、めんどくさい。
「あの、アネットさん?」
「——はっ!? ……し、失礼いたしました。あの、依頼書が間違っているようですよ? この依頼はレオの群れの討伐依頼ですので」
そんなの間違う人いないでしょ。
「その依頼を受けたいと思うんですが」
「ええと……。——!! そうでしたか、でもソフィアさんに手伝ってもらっても、リコさんが依頼達成したことにはなりませんよ? ソフィアさんもご存知のはずなんですが……」
今度はソフィと一緒に行くということで納得したようだ。
なにこれ、本当にめんどくさい。
「私が、一人で、受けたいんだけど」
「……無理です! こちらの依頼はEランクのパーティ向けの依頼ですよ!? しかも遠方の依頼ですので泊りがけになりますし、それにレオ一匹ならまだしも群れですよ! リコさんのような小さな女の子には無理です! 死ににいくようなものですよ。どうか考え直してくださいっ」
小さな女の子って。さっき年齢言ったよね?
もー。とことんめんどくさい。
というかアネットさんちょっと涙目になってる。
心配してくれてるのはわかったけど。でもここは私も引くわけにいかない。なにせ早く借金を返済してスタートラインに立たなきゃいけないのだ。
「でも依頼を受けることはできるんだよね? 自分のランクより一つ上のランクの依頼まで受けることができるって。ついさっきアネットさんから聞いたんだけど」
「……それは——」
「それに私が依頼を選んでるとき、ソフィも一緒にいたの見てたでしょ? つまり保護者もこの依頼を受けるってことで了承してるんだよ?」
「……」
「だいたいこの時間に残ってるってことは、今日は他の人が受ける可能性も低いんでしょ? なら私が受けてみてもよくない? 無理だと思ったら、迷惑かけないように早めに報告するから」
「…………」
ダメ、かな?
つい勢いにまかせてソフィのことを保護者にしてしまうくらい頑張ったのに。
これでダメならもうなんか適当な魔法でも使ってみる?
あ、キングレオの死体をだせば早いかも——ってそんなわけにもいかないよね。
というか別に無茶なお願いしてるわけじゃないのに。ルールに則って依頼を受けるだけで、なんでこんな苦労してるの?
身長なの? 全部私が小さいのが悪いの?
依頼の内容じゃなくて、依頼を受けるためにこんな苦労するとは思わなかったよ。
「……わかり、ました」
お?
心の中でこの世の理不尽に涙していると、アネットさんのそんな声が耳に入ってきた。
「では、ギルドカードをお願いします」
やった。ちゃんと受注できるみたいだ。
規則通りのこととはいえ、ギルドに認めてもらわないことには依頼を受けられないからなんとかなってよかった。
私がカードを渡すと、ソフィの報告の時と同じように金属板にカードを乗せた。そして、やっぱり私には何をやっているか分からないけど、なにかを操作したのち返してくれる。
「はい。これで依頼の受注は完了です。ギルドカードに依頼内容が書き込まれました。といっても私たちギルド職員しか確認することはできませんが。依頼を達成したら再度ギルドカードの提出をお願いいたします。また、諦めて依頼を放棄する場合もギルドに報告をお願いいたします。依頼失敗となりますので多少の違約金が発生いたしますが、冒険者にとって一回や二回の失敗なんてあって当然ですので気にしないでくださいね。それよりも命の方が大事なんですから」
まるでもう失敗したかのように慰めてくれる。
いや、もうなんでもいいけどね。依頼の受注ができただけで十分だよ。
「うん。ありがとうございます。行ってきます」
「はい、お気をつけて」
さっさとギルドの外にでて、大きく息をつく。
まだ仕事を始めてもいないのにやたらと疲れたよ。
それにしても——私一人だ。
二日前にソフィと出会ってから初めてこの世界で一人で行動する。
一応宿の自室でも一人だったけど、あれは隣の部屋にソフィがいたし、それにすぐ寝ちゃったし。
今までの私だったら、誰かと四六時中一緒に行動するなんて考えられない。それこそ息がつまって死んでしまうところだ。
だけど、ソフィと一緒にいた時間は全然そんなことなかった。
自分でもそれなりに楽しんでたと思うし、誰かと同じ時を共有するというのも悪くないのかもしれない。それともソフィが特別なのか——。
でもやっぱり一人で行動するのが一番気楽かな!
よし! さっそく依頼の村に行こう!




