最後の試練Ⅳ
『聞こえるか? いま、神の糞野郎が垂れ流してる交信波に便乗して、何とかお前に連絡してるとこだ。……まだ生きてるよな? 大丈夫……ではない、よな』
「…………」
『すまん。お前がいま、心無い奴らの……いや、どこにでもいる普通の人間の声を聞いてるのも政府の観測でわかってる。つらいよな、ごめんな』
「…………」
『謝らせてくれ。ただ、確かに……お前に悪意を向ける人もいる。お前が魔物として暴れてたって話だけ切り取られて、神や騒乱者に扇動されてる人もいる。皆が全知全能じゃないんだ……皆、お前の事をそうやって勘違いする事もある』
「…………」
『皆が皆、優しくなれないんだ。……ぼくだってそうだ! ぼくだってよく人を傷つける! お前を泣かせた事も何度もあったよな? 本当に、ごめん……』
「…………」
『でも聞いてくれ』
「…………」
『ぼくは、お前が大好きだ。何があろうともお前の事を信じている』
「…………」
『今日、勝たなくてもお前の事が大好きだ。お前が負けたとしても、それは大人の責任だ。総長の差配がダメダメだっただけだ』
「ちが……」
『だから、戦わなくてもいい』
「…………」
『それでも今、伝えたい事を伝えさせてくれ』
「…………」
『お前の事が好きなのは、ぼくだけじゃないぞ!』
『おう、クレス。カストルだ、生きてるか? こっちは死んで首都で蘇生されたばっかだ。わりい、さっき別れた時に死んだ。詫びに帰ったらお子様ランチ奢る』
『ポルックス参上。聞こえてるかクレスー。俺らも総長と同じくお前のこと、好きだぜ。俺らなんかお前と違って短気だから積極的に騒乱者になって、今まで何度も糞野郎ってなじられてきた。けどな、今じゃ愛しい嫁と子供もいる良い生活だぜ』
『貴方達は自業自得でしょ。……メーデイアよ。まあ、この元騒乱者二人でもなじられながら、そこそこには生活出来てる。貴方ならもっと良い生活出来るわ。可愛いお嫁さん貰って、庭付きの一戸建てに住んで、慎ましくも幸せな生活を……』
『それってメーさんの願望?』
『…………』
『いまなんかメーさんに首なぞられた。魔術かけられた』
『お前3秒後に爆破されそうだぞ』
『やばい』
『クレス、聞こえる? アタランテお姉さんよ。今から私達、もう一回アーセナルに突っ込むわ。間に合わない可能性大だけど気長に待ってて。あ、私もアンタのこと好きよ。私、男の子は精神が無邪気ショタなのがいいの。紳士的だとなお良し』
『私は誰とでもスケベします!!』
『おい、誰かこの人形技師をつまみ出せ』
『アニャッ! このお話できるやつモロタ! だれ? ん? いま魔物とガンバテたたかてる人? しゅごい。勝ったらアリスちゃんを嫁にあげていい』
『!? なんで勝手に決めるんです?? あっ、あっ、あの、わたし、急に結婚とか犯罪的年齢なんで、まずは……ど、どっ、どうすればいいんです……?』
『アリスちゃん、よわい♪』
『むうううううう……! よわない、です!』
『弱ちんアリっちゃんの代わりに、あにゃが結婚したげる♪ これはしゅごい♪』
『おい! テメエ! 人の妹に粉かけてんじゃ痛イッ!! ごめんなさい』
『神様は人類に絶望してるとか言っちゃう痛い人だから気にしないでね。黒いものだけを集めて自分が望む結論をつけたがる面倒臭い存在だから。ね?』
『魔王様の仰る通りでしゅ』
『じゃあアンニャ歌うね? にゃんにゃんにゃん♪』
『これじゃまなのでどかしますね』
『アニャアァァァァァ……!!』
『巨人の坊主、聞こえるか!? そのっ…………えっと……! ああっ! くそぉ! いい言葉が出ねえ……! こーゆー時、なんて言えばいいんだ……?』
『頑張れ、とか、応援してる、だけでもいいんだよ』
『そーそー。声に出す事が大事。無音よりよっぽど良い』
『クレス君、聞こえる? また遊びに行きましょう、この間は途中で邪魔が入っちゃったし、またウチにも来てほしいわ。みんなが待ってるから』
『帰ったら士族の修練所に来てくれ。士族戦士団みんな待ってるからな。ふっふっふっ……俺達は負けず嫌いが多いからよお……』
『もちろんタダじゃないわ! どんぱちやったあとは焼き肉会よ。主賓、貴方でもう予定まで組んでるからよろしくね』
『アンボワーズの方にもぜひ。といってもこちらは訓練とかではなく、服を買いに。育ち盛りでしょうから新しいものも必要でしょう? お代はイアソン様に請求書を送っておきますね』
『お前さんの事が嫌いな奴も確かにいる。だけど、そればっかじゃないぞ』
『世の中、知人以外は無関心か叩く材料があれば何とでも言うわ。……蔑むのって、ありがとうって言うのより楽なの。だからせめて、この勢いで感謝させて。私達の代わりに戦ってくれてありがとう』
『ガキンチョ。新作できたから早く来い』
『おいっ! お前! ……………………練りイチゴ! ありがとな! ……妹のことも、ありがとな……! なあ……また、会えるよな!?』
「ぁ……」
『お前と話したいこと、いっぱいあるんだ!』
国全体を見渡せば、数少ない声。
人類全体を見渡しても、爪の先にすら満たないほど少数派の声。
だがそれでも彼らは少年の事を知っていた。
少年もまた、知っていた。
「チッ……気持ちわりい! なーーーーに仲良しごっこしてんだよ!!」
神は歯をむき出しにしながら苛立った。
自分が止めた天魔に命じ、トドメを刺すように言った。
天魔は従わなかった。
こんな塵屑の言うことを聞くのは、癪だった。
そして何より、それは彼が望む死合では無かった。
『クレス、聞こえるか?』
「ん……」
少年はか細い声で、「そうちょ」と言った。
遠隔蘇生で生き返ったゴブリンは微笑みながら告げた。
『お前はもう、こんなにも受け入れられている。お前を嫌う奴の声なんか気にするな。……お前なら、そういう奴らともいずれ分かりあえるさ』
「ん……」
『お前はそうして、自分の世界を広く切り拓いていける人間だと、ぼくは思う』
少年は頷かなかった。
だが、その顔をほころばせてはいた。
『もう戦わなくていい』
「…………」
『辛かったら、ぼくを呼べ。ぼくらを呼べ』
「…………」
『お前は、ひとりぼっちじゃない』
少年は頷いた。
だが、頷きながらも戦う事を選んだ。
天魔の本体は微かに笑った。
静かに構え、立ち上がり始めた少年が再起するのを待った。
喚く邪神は誰からも無視された。
「たたかう」
『…………』
少年は鱗衣と合一した。
それにより、力を引き出した。
「ぼく、よわい。あなたにかてない、かも」
『…………』
「ひとりじゃかてなぃ」
『qqtZwh;.uouyw@mee』
「だから喚ぶ」
少年は生まれた時から一人ではなかった。
彼には母親がいた。
彼女は高度な転移魔術の素養もあった。
少年にも、同じものがあった。
魔術適正は遺伝する。
「転移召喚・遊星旅団」
少年は詠唱を口ずさんだ。




