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最後の試練Ⅱ


 ヘラクレスは焦っていた。無我夢中で肉壁を斬り裂き、中枢へと至る縦穴に出たものの、そこはあくまで通過点。本命のエキドナはまだ先に――上にいた。


 こうが終点ゴールではない。上へ辿り着き、エキドナを殺すなり無力化しない限り終わりではない。残り時間も限りある。エキドナの正確な位置もわからない。


 だからこそ彼は焦り、急いでいた。


 急ぎ登りつつ、追撃してくる天魔に対しても願った。


「たたかうの、あとでやるから!」


『――――』


「あ、あと、ぜったい。だめ? だめ? だめ? だめっぽい……」


 天魔はお構いなしだった。むしろ逃げる獲物に対して静かにキレていた。


 長い長い縦穴を登りつつ、巨人と天魔は戦闘を繰り広げた。


 先んじて上方を取っているクレスは縦穴内部に枝のように伸びる骨や縦穴の壁を足場にして駆け上がりつつ、天魔に攻撃を仕掛けた。


「あぁ、もぉ……!」


 焦るあまり一撃一撃が疎かになり、本人もその事に焦燥を煽られ、「おちついて」と自分を律そうとしたが完璧にはいかなかった。


「じゃまする、めっ!」


 あくまで上方へと逃れつつ、苦し紛れの攻撃を仕掛けた。


 焦らず、上方の優位を活かし、下ってでも攻撃を仕掛けるという事は可能な限り避けていた。その逃げの姿勢を天魔は容易く追撃した。


『u/.u』


「あっ」


 すれ違いざま、天魔はクレスの進路先に爆撃を起こした。

 それを顔に受けかけ、手で何とか目を潰されるのは避けたクレスだったが、次の足場に飛び移り損ね、貴重な時間を落下へと費やす事になった。


「ぅ……!」


『6ib@Zbf60lq@』


 クレスが焦りのあまり急ぎ、上に登ろうとしたところ。


 上方の優位を奪った天魔は逆落としを敢行。それは「下に落ちても一向に構わない」という思い切りの良いものであり、身体を爆破してさらに加速していた。


 結果、起きたのは武器破壊と重症。


「ぁ、グ、ァ、ァ……!」


 敵の一撃を受け損ない、クレスは最後の剣を砕かれていた。


 そして、胴体にまともに一撃を受けてさらに落下していた。


「ゥ――――ガッ! アアアアアアアアアアアアアアアッ!!」


 痛みで視界が真白ホワイトアウトになりつつも、少年は足掻いた。


 必死で伸ばした指先で縦穴内の骨を掴み、骨柱そこを中心落ちる勢いを回転に変え、上方へ向かって飛んで再起しようとした。


 読まれていた。


 その反転は、天魔の想定てのひらの上にあった。


「――――」


『――――』


 大量の血飛沫が空間を舞った。


 神の業により、天魔と巨人の戦闘を見ていたバッカス国民の中に悲鳴をあげるものがいるほどの致命傷を負い、巨人の身体は力なく下へ……下へと墜ちていった。


「…………」


 力なく、上方へと差し出された手は何も掴まなかった。


 壁に叩きつけられ、少年の身体にさらなる激痛を与えただけだった。


 天魔はその様子を静かに見下ろし、剣を下方へと下ろした。


 追撃は与えなかった。


 縦穴の壁、骨柱に叩きつけられながらも墜ちていく少年の身体は骨が軋み、肉が腫れ、血も流れる満身創痍。気力は尽きていなかった。だが身体は限界に達した。


「そう、ちょ……」


 微かに出た呼び声に応える声は無かった。


 差し迫る時間の中、少年は敗北した。


 その様子をバッカスの国民が見ていた。


 一人のゴブリンもまた、都市内から投映された光景を見守っていた。


 拳を握り、届かない言葉を投げかけた。


「クレス……!」




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